安全第一異世界生活

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愚王の崩壊

101話 王の後悔

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私は何を見て来たのか、見ているようで何も見ていなかったのだろう。

王妃に問題があるのは分かっていた。 自分の後ろ盾だったエヴゲニー公爵家の娘に強く出れなかったせいで、側妃のローズは死んだ……それでも王だ。一国の王なのだ。
色々な言い訳を並べ、現実と向き合わなかった自分への罰

壁に映し出された息子の犯罪。暴行。暴言。目の前で聞く罵声……

目の前が真っ暗になる

パーティー前日突如聖女が私室に現れた。城の警護が一番厳重な王の私室になんの混乱もなく突如現れた聖女は、いきなり私に退位を迫った。

「は?聖女…貴様は何を言っているのだ?」

「ですから、退位くださいと、申し上げました。」

ニッコリ笑って、出会った頃より格段に威厳を持った、私に召喚された聖女が言った。後ろには、シスター一人と、黒ずくめの男一人。一国の王の前と言うのに誰も頭を垂れぬ痴れ者が…

「陛下、私の申し出受けていた方が賢明ですわよ。だってあなたが幼子にした事、もう我々は把握しておりますの。あのバカ王子達も民に迷惑ばかりかけているのを放置しているあなたに、この国の手綱など握れないでしょう?さっさと表舞台から退きなさいと言っているのです。」

「バカ王子とそなたが揶揄する者を次代に据える気か?」

「何を言っているの?なにの問題も起こさず、必死に民を救おうと陛下に嘆願書を書く息子が居るでしょう。」

聖女の言葉に思い出す。そういえばルクレチアが何度も孤児の救済や、貧困層の改善を訴える嘆願書が出ていた…だが…

「孤児救済の一件か。あれは反発が多くなるからいつも、棄却しているものだ。」

聖女は大きなため息をつくと、首を何度か横に振り、哀れなものを見る様に言った

「あなたはやはり王の器ではない。反発の根源はどこにあるとお思いですか?民の声ですか?いいえ、貴族からでしょう。貴方の眼中にある民は、消えても構わない存在なのですか?もしそうお考えなら、貴族だけで国を成せばいい!できますか?己の利を最優先とする貴族が、民をないがしろにするような王に、自らの利を減らしてまで従うとでもお思いですか?民を顧みず、その苦しみを知ろうともしない王に、この国を治める資格はありません!それがお分かりにならないのなら、王位を退くべきです!」 

私は何も言えなかった…その通りだ。まるで目の前に父が…前王がいて叱られているようだ…

「それにあなたは、触れてはいけない逆鱗に、すでにふれているのです。命が惜しくば明日の夜会で王太子を決め一年後の退位を宣言しなさい。これは陛下の命を繋げる唯一の策と言っておきましょう。」

「聖女…それは脅迫と言うのだぞ」

私は下を向いていた顔を上げ、聖女を睨み付けようとしたがすでに眼前には黒ずくめの男が居た。男と目が合った瞬間全身から嫌な汗が噴き出した。本能で分かる。逆らってはいけないと…

「俺の家族を奪おうとしたんだ。苦しんで苦しんでその命刈り取ったって良いんだぞ。」

何を言って…ゾワワッっといきなり、全身が震えた。怖い......全身の震えが止まらない。心臓がバクバクする。呼吸がしにくい…ガチガチと歯さえかみ合わない…家族?家族…この男の家族を私が?何の事だ?思考も上手く回らない

「威圧を押さえなさい!クロト!」

男は舌打ちをしたかと思うと、のしかかっていた恐怖が急に和らいだ…今のが威圧…
ハァハァと息が吸えるようになった事で、肩を大きく揺らして

「陛下にとっては些細なことなのかもしれないけれど、このクロトの家族をあなたは、功績欲しさに奪おうとした。そういえばわかるかしら?」

「こ…う…せき…?」

なに?何のことだ?ハァハァと息を整えつつ考える。功績?功績…私は聖女を見る。

「コルドナの少女…奇跡…」

息も切れ切れに私がそうこぼすと、聖女はニッコリ笑い、男に手を向ける

「そう、コルドナの奇跡の少女の家族のクロト。貴方は彼がようやく得た、家族を奪おうとしたの。」

この……恐ろしい男の家族を……私は…………私はなんて恐ろしいことをしようとしていたんだ…この男の怒りを買えば、私の命などちりも同じであろう…下手するとこの街…いやこの国など軽く葬り去るほどの力があるのではないか?それほどまでに恐ろしい存在…

「ふふ。鈍い陛下でも彼の恐ろしさは肌で感じたのね。」

私はコクコクと首を縦に振る。

「良いことを教えてさしあげるわ。私が召喚された理由は魔族の活性化で国に危機が迫ったでしたっけ?それを解決してほしかったのよね。それを解決したのが彼よ。」

私はチラリと彼に視線を向けた。彼は窓から入る月光の光に照らされながらこちらを見ていた。彼の下から彼の影が闇を深く濃く長く私の元迄近づいている…私は恐怖で息をのんだ。

「彼は闇に落ちそうな精神を耐え、試練を超え、闇に飲まれず、この国の人々を人知れず助け、スタンピードを何度も単独で押さえた。人間ではありえない強さを持った彼に、貴方は頭を上げる事は出来ないのよ。ご理解できたかしら?」

私は頷くことしかできなかった。
私の頷きを確認した聖女は、にこりと笑い

「では明日、よろしくお願いいたしますわ。良い夢を陛下」

そう言い残すと、聖女は男とシスターを連れて闇に溶けていった。部屋に残ったのは、威圧の恐ろしさに強張って、床に這いつくばった私一人だけだった。その私のその情けない姿を、月光の光は照らし、大きな影として部屋に映し出したのだった。

翌日の夜会会場では
壁に映し出された第二王子の犯罪によって第二王子は王族から除籍するしかなくなり、S級冒険者の審判による状態となり、第一王子の、選民意識の醜さの露見、女性にふるう暴力、臣下に下す断罪、自分より弱い立場の者に見せる姿は醜く聞いているだけで、この者を王に据えたら国が終わると思える愚行の数々、そして王妃によく似た思考…王妃もよりによって魔族を飼って動いて居たとは、調べだけで使用人が何人も姿を消しているとか…

今の王家で何も罪を犯していないのは…ルクレチア ただ一人だけだった。
しかもこの場を指揮し、皆に勇ましい姿を見せているルクレチア。
自分で後見人に聖女を、後ろ盾に公爵家2家、S級冒険者を師匠に持った護衛騎士。そしてあの黒ずくめの男。あれだけの者たちを、自ら味方につけたルクレチアを、 王太子に押せないはずがない。
今まで王妃の目があり、あまり目にかけてやれなかった、側妃・ローズの息子。立派に育っていたことが感慨深く、彼をここまで育ててくれた臣下に感謝してもしきれない。

今までの私は、国王と言う冠を乗っけただけの、ただ人が偉そうにふんぞり返っていたのだと今ならわかる。私は間違っていた。皆に囲まれ、私をやり込めた少女から求愛を受ける息子の姿にいろいろ教えられるとは…情けない。でもあの子の笑顔を見て、私は満足して今まで入ってた肩の力を抜いて、王位を退くことが出来そうだと確信した。
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