安全第一異世界生活

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イルグリット王国 魔道具編

139話 トーさんの煽りと・兄上と呼ばれた男

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シンはカナメと手を繋いで元居た所に戻ろうと足を進める。その後ろをついて行っていた俺は、ふいに足を止め振り返る。
シンが蹲って泣いていたこの道は、まだ術式撤去が終わっていないので、手つかず状態だ。でも下水道に光るスライムが大分消えたので、街道にはもうあまり影響は無いはずだ。そう思っている…が、臭いな。この通路はどこかにつながっている気がする。どこだろうな…なぁ
俺は誰も居ないはずの通路に向かって語る。

「随分と身を隠したがる性癖だな。お国柄かな?ククク。なぁ、この地を、この国をよく見ておくがいい。いずれ、お前たちを揺るがす者が現れる。次会う時、お前たちの運命は、誰が握っているのか、あぁ楽しみだ」 

そう言い終わると、俺は踵を返しカナメ達を追いかけて行く。
俺が立ち去ったその後、その通路の中にはコソコソと動き出す連中の気配がしたが、少しするとそこから一瞬で気配が消えた。
ふーん、転移系の術式があるのか、能力があるのか…召喚者が勇者以外にもいるのか。まぁそんなGの様な連中は案外どうでもいい。
それよりも、シンの憂いの原因の、職人街の魔道具技師をどう説得するか、職人は気難しいからな…そっちの方が骨が折れる。即解決が難しい案件だろ。

***

【????視点】

下水道の一部の壁に崩れた場所があり、そこは少し陥没した空間が出来ている。その壁の一部から、冷や汗を垂らす男が数人出てきた。

あの男はなんだ?こちらが鑑定をしようとしてすべて弾かれた。どういう事だ…しかも認識が闇だった。すべてが真っ黒にしか見えなかった…あれは人か?人ならざるものか…
凄い覇気を向けてきたが、こちらがかろうじて息ができる程度に抑えられていた…あれは化け物だ。化け物がイルグリット王国側に付いているって事か…何て面倒な。
いやそれよりも、司殿達が捕縛された事を急いでお知らせせねば。一緒に来た5人の配下と共に来た道を戻ることにした。
転移陣を通る時、活動拠点の下水道を見る。この場所はもう奴らに知れている。魔力の流れが見える私の目を持ってしてわかる。 術式も9割近くが壊されている事が…何て事だ、あの芸術的な術式を破壊するなど……我らマルリシオ殿下への冒涜である。くそ、覚えていろよイルグリット王国。そしてあの偉そうな闇の奴もだ。

***

初夏の陽光が降り注ぎ、青々と茂る緑が目に鮮やかな庭園に、三羽の青い小鳥が舞い降りた。庭師が撒いた餌を我先にとついばむ姿が愛らしい。ピピ、チチチと可愛らしいさえずりを響かせている。その可愛らしく和む光景を眺めながら、一人の男性が静かに、茶器を傾けた。温かな茶の香りがふわりと立ち上り、穏やかな時間が庭園を満たしていく。そんな贅沢で優雅な時間は、部下の「緊急のお知らせ」によって終わりを告げた。男は茶器を置くと、軽く息を吐き、

「豊かな香りと深みのある味だった。美味かったと紬木殿に伝えてくれ」

そう従者に伝えて立ち上がり、男はその場を後にする。 男が部下が待つ部屋に入る前に中から困惑した少年の声が聞こえてきた。

「ドルマン?今何と言った?いや待て。我を驚かそうと、虚言を述べたのであろう?おぬしのそう言うおちゃめな所、我は嫌いじゃないぞ」

ドルマンと呼ばれた男は片膝を付き、頭を垂れながら悔し気にその言葉を否定する。

「戯言なればどんなに良かったことか…我らが何年もかけて作り上げたあの芸術的なマルリシオ様の術式が無残な姿にございました…そしてあの美しき至高の魔石の姿が、影も形もございませんでした」

ドルマンと呼ばれた男は、悔し気に肩をゆらし怒りを露わにしていた。マルリシオと呼ばれた少年は立っているのがやっとの様子で、ふらっとよろけたのを後ろからやってきていた男が支えた。マルリシオは顔を上げ、

「兄上…ありがとうございます」

と小さく息を吐いた。その顔はまるで目の前のおやつを取り上げられた悲壮感漂う幼子の様な表情だ。男は嫌悪を抱いている事を隠しもせず、マルリシオの足元で頭を垂れている男に向かって叱責する。

「ドルマン、怒りを鎮めろ。マルリシオにはお前の怒気は強すぎる」

ドルマンはハッとして

「申し訳ありません」

と、さらに床に額がつくのではないかと言うほど頭を下げた。マルリシオは首を横にふりふり兄である男を見上げる。

「我が、耐性の無い我が悪いのです。どうか、ドルマンを叱らないで兄上」

「お前はいつまでもドルマン、ドルマンと。まったく…いいだろう。でもなマルリシオ、これ以上お前の体調の考慮もしないような男を私がいつまでも徴用するとは思わない事だ。ドルマンも努々忘れるな」

「御意。殿下のご配慮感謝致します」 

「兄上ありがとう存じます」

男の支えで立っている弟は嬉しそうに兄に抱き着いてくる。そんな無邪気な弟をみた男は、

「まったくこんな男のどこが良いのか……」

小さな声でそう呟いて部屋を去った。
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