ダンマス(異端者)

AN@RCHY

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第164話 やっと落ち着いた

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 リンドが来てから初めての朝を迎えた。

「ちょっとまてや!!!」

 今日も朝からリンドが叫んでるな。それにしてもキャラがどんどん変わってきてないか? マップ先生を見ると食堂にいるようだ。ってことは今回は朝食を見て驚いてるんだろうな。毎回大変な人だな。

「朝から騒がしいですね。私みたいに優雅にできないのかしら?」

 ちょっと棘のあるセリフをアクアが言っている。

「プププッ! アクアの姉御が優雅だってさ! 可笑しくて笑いが止まらないぜ! ちょっと待った! 姉御、それはやっちゃいけないと思うんだよね。だってこの家ご主人様の大切な家だよ? さすがわかってるね……ってあれ? 何で引きずるのさ! ご主人様助けて~」

 また懲りずにツィード君がアクアに『姉御』という言葉を使ってお仕置きされてる。それに多分優雅って部分を笑ったことにもお仕置きする感じだな。いつもより余計に怖い目の笑っていないきれいな笑顔をしていた。

「シュウ、ここではいつもこんな食事なの? ありえないくらい良い匂いがしてるんですけど、どういうことなの?」

「朝は毎日こんな感じだね。ヴローツマインでも見たと思うけど……スカーレット、みんな連れてきてもらっていい?」

 スカーレットにシルキーたちとブラウニーたちを呼んできてもらった。

「リンド、この娘たちが基本的に食事を作ってくれているんだよ。みんなも手伝っているから料理の腕は確かだけど、やっぱりシルキーにはまだまだおよばないね」

「お願い、もう驚くのに疲れた。心臓に悪いわ」

 リンドがシルキーとブラウニーを見て疲れた表情をしている。顔合わせ位の意味合いしかなかったのでシルキーたちには家事に戻ってもらった。放心状態のまま食事を食べていたリンドが復活したので、町の中を見てもらうことにした。

 オープンカーならぬオープン馬車(ただの荷馬車)を用意して、御者をレイリーにしてもらいニコ、ハク、シュリ、シェリル、イリア、ネルを荷台に乗せて一緒に行くことにした。

 コウとソウもついてきたそうにしていたが、ノーマンに引きずられて修行の続きをするそうだ。馬車の護衛の形でクロとギンが両側を固めている。この町の中で襲われることなんてないけどな。

「シュウ、いくつか質問していい? シュウの家をてっぺんに離れるごとに低くなっているのはなんで? 門にくっついてるあの建物は何かな? 街の西側に見える門の外にも城壁があるみたいだけどどうして?」

「俺の家が一番高い位置にあるのは、水の関係だね。水の上級精霊のアクアが俺の家にいるわけで、一番高いところからアクアの水を流す予定だよ。それだけでまかないきれるわけじゃないから、今作っている水を生み出す魔道具を要所要所に配置してアクアの眷属を住ませるつもりだね。

 次に門にくっついている建物は、兵舎だよ。訓練場は地下に用意してある。地上に作ると結構広い敷地が必要だからね。最後の門の外の城壁は、畑になる場所ですね。あっちは今、ワームに耕させているね」

 俺の答えを聞いたリンドは一人でブツブツ話し始めた。

「確かに水の上級精霊のウンディーネがいるならそこを頂点にするべきよね、下級精霊がウンディーネの上とか心労で絶対に倒れるだろうし……門のあれは兵舎なのか、外から人が来るかわからないけど門番とかを兼ねてるのかな?

 城壁の上にも行けるようになってるみたいだし、そういえば門のところから以外城壁に登れるとこないわね? 街の人たちが勝手に登れないようにかな? こんなに土地があるのに地下に訓練場作ってるんだ、なんか他の目的でもあったのかな?

 それにしても門の外に畑作るのは良くあることだけど……それをさらに城壁で囲うのは予想外よね。それにワームがいるってどういうこと? しかも耕してるって何なの?」

 リンドは混乱した思考を整えるために言葉にしている感じだな。自分の世界に入ってるようだ。考えてもらっている間に、いったん東門の方へ行くか。レイリーに進むようにお願いする。

 一応海水の湖を作ってみたが自分の目ではまだ見てないんだよな。昨日帰ってきてからすぐにメウロにお願いして、大急ぎで海水魚たちの召喚と住みやすい環境を作ってもらったのだ。俺の希望通り海藻やカツオも用意してもらっている。

 かなり広く作った湖とはいえ、海を自由に泳ぎまわるカツオが生きていけるのかは不明だ、それに適応した進化をしてほしいところだ。

「ねえ、シュウ。ワームが畑を耕しているってどういうこと?」

「ご主人様、それは私から答えましょう。ご主人様から三つのダンジョンがあることを聞いていますね? その中の植物ダンジョンにいたワームのリーダーだった、ビックワームを連れてきて働かせています。

 この街を作る際に切り倒した木の枝や葉っぱ、ダンジョンから持ってきた餌になるものを、食事として与えて頑張ってもらっているんです。その管理はドリアードたちが行っていますから、春には栄養豊かな畑になると言っていました」

 ドリアードに任せてはいたが、魔法の力だけじゃなくて魔物の力もがっつりと使っているようだ。

「ドリアード……四大精霊がいるんだから今更よね。でもワームに耕させているのは正解よね。餌で懐くものなのかしら?」

「主様、東門につきました。この先はまだ馬車で通れないので歩きになります」

 レイリーは最近俺を呼ぶ時に、ご主人様ではなく主様と呼ぶようになった。なんか心境の変化だろうか?

 そういえば、東門の外って湖作った以外に、俺なにも手を付けてなかったな。どうなってるんだろ? んん!? 外に出ると、急な坂になっていて坂の下に湖から引っ張ってきている海水がたまる溝があるのはもともとなのだが、東門から湖までひらけた場所がありそこを囲むように城壁が立てられていた。

 城壁の外側には街の周りと同じ溝があり海水が流れている。そういえば、この溝も広くなってる気がするな、幅が五メートルの深さも五メートルくらいかな? フル装備で落ちたらおぼれて死ぬかな。

 街の方が高い位置にあるのに、なんで海水が堀に流れているかと言えば、湖なのに流れがあり湖の水が穴を通って堀に流れ込んでいるのだ。溢れそうになると、湖に繋がっている堀に流れ込み湖に帰るのだ。

「ご主人様はまだご存じではないと思いますが、東門からはダンジョンや樹海に向かう道と湖に向かう道に分かれています。湖のほとりには港のようなものを作っています。少し離れた位置に、製塩所となる敷地を確保してあります」

 東門の外の城壁は、製塩所を守るためと湖からの移動中に襲われないためってところか? 色々考えて街を整えてくれているんだな。

「本当に建物以外のことがほとんど終わってるのね。それにしてもこれほど大変な環境で国の都にもないほど色々が整ってるのはどうなんだろ」

 この街の最終的な設備は恐らく、ライチェル王国の王都の貴族街より明らかにランクが上であろう。というより、比べるのが可哀そうになるの程の設備の差だろう。この辺境というより普通の人からしたら、魔界と呼んでもおかしくない場所に来てもらう予定なのだから、これくらいはしておかないとな。

「決めた! 私、この町に引っ越す!」

「おぃ……リンドはヴローツマインのトップだろ? 簡単に決められないだろ?」

「正確には、あの街のトップではないのだよ。私は確かに最高権力者だけど、街の領主は別にいるんだよ。それにギルドは、そろそろ次の世代に頑張ってもらおうと思ってたし何の問題もない! さすがに二〇〇年もギルド長をやるのは長すぎる、そろそろ自由になっても罰は当たらない!」

「二〇〇年間もギルドの長をやってるのはすごいけど、領主より権力のある人がいるのがびっくりだよ!」

「ん? 何言ってるの? この町だって隣に住んでた人たちが、領主代行みたいなことやるんでしょ? でもこの街の実質トップはあなたじゃない」

 そういわれればそうなるのか? まぁどうでもいっか。

「本当に来てもらえるならありがたいけど、リンドがこの街に来るならしばらくは後任の育成を任せたいと思っているんだが……」

「次の長を育ててほしいってところかな? それなら問題ないけど、私専用の工房を作る許可と、その工房の炉にイフリートの眷属でいいから住まわせてほしい」

「そのくらいなら問題ないと思う。後でガルドに話通しておくわ。工房は好きなところに建てていいから、今度ゆっくり場所考えてくれ」

 こうしてリンドはディストピアに住むことが決まった。自分の弟子も一部強引に引っ張ってくるから、大工や設計に関しては安心していいと言っていた。リンドの気の迷いといわれる最後の一ページが迫って来るのだった。
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