ダンマス(異端者)

AN@RCHY

文字の大きさ
1,022 / 2,518

第1022話 末端の兵士の辛いところ

しおりを挟む
 別に予定していたわけではないが、俺達を待ち伏せしていたと思われる奴らの生き残り3人がいる場所にたどり着いた。魔物達に襲われて逃げた位置より更に移動して、街道までたどり着いていた。

 街道までたどり着いた重傷な3人を村人が見つけた。後ろの馬車から、

「シュウ様! ケガを負った兵士のような人が3人います!」

 と、俺を呼ぶ声がかかった。どうするか悩んだが、村人に言われてしまい、気付かないふりも、こいつたちを知っているふりもできないので、とりあえず対応する事にした。

「こいつら兵士か?」

「一応話を聞こうとしたのですが、傷が深いようで話せないようです」

 村長が俺にそう言ってくる。そりゃ、重傷で2日間も何も食べて無けりゃ喋れんわな。

「キリエ、必要最低限の治療だけしてやってくれ」

「シュウ様? 最低限の治療でいいのですか?」

「敵か味方か分からんのに、本格的な治療はできないよ。敵だった場合、治した瞬間に襲い掛かられることもあるかもしれないだろ?」

「そうですが……」

「こんな話を知っているか?

 戦場で敵味方関係なく治療していた魔法使いの夫婦がいたそうだ。その日も戦場で、怪我をした人たちを敵味方関係なく治療していた。その時に運ばれてきた1人の青年は、もう少しで死に至る重傷だったが、夫婦が協力してその青年は命をつないだ。

 次の日に目が覚めた青年は、大怪我を負った恐怖、今自分がいる場所が敵陣営の中と言う事を理解した瞬間に錯乱したらしい。

 その時に暴れて、近くにいた夫婦とそれ以外の人間を殺めてしまったそうだ」

 俺がなんかの本で読んだ事のある内容を、この世界に適当に合わせて村長に聞かせた。そうすると、何とも言えない表情になっていた。

「村長もいろんな経験をしていると思うけど、戦場に出て殺し合いをした事ある人間に、何者か分からない人間を完全に治療するお人よしなんて、そう多くないぞ」

 そんな話をしている間にキリエは、出血と内臓の負傷を治療して、すぐに死ぬ事は無い状態にまで回復させていた。それでも、2日も何も食べていないし飲んでおらず、血も流しているので虫の息な事には変わりない。

「お~い、聞こえてるか?」

「あんたたちは?」

 3人の内の1人が、俺の声に反応して声をあげた。

「たまたま通りがかった旅人だよ」

「そうですか、助かりました……」

 俺たちの事を見ようとしているが、認識できていないようで目を細めている。あの状態で2日間だからな、さすがに体にガタが来てるのか。

「それで、こんな所で怪我を負って倒れてたんですか? ここら辺は、治安がいいはずですが?」

 すべてを知っているのに、知らないふりをして聞いている・・・俺はしっかりと演技ができているだろうか?

「俺たちは、どこかの村の住人を全員奴隷に落とそうとしていた、闇の奴隷商人を待ってこの近くで待機していたんだ。その時に、魔物の大群に襲われて100人近くいた仲間をほとんど失い、俺たちも重傷を負ってしまったんだ」

 どうやら俺たちは、悪の奴隷商人と言う事らしい。こいつらの上司が俺達の事をどうやってか知って、悪人だという事にしてこいつらに襲わせようとしたって事かな?

「村の住人を奴隷? 私たちの事のように聞こえますが、シュウ様は奴隷商人では無いですし……そこの兵士さん、どの位の人間が奴隷に落とされるという話でしたか?」

「およそ300人程だと聞いている」

「私たちの村の数と同じですね。偶然にしては一致する箇所が多い気がします。あなたたちに指示を出している上司は、なぜこの街道で待ち構えているように言われたのか、理由をご存じですか?」

「不確かな情報だが、ここを通るという話を聞いたらしく、我々を配置する事にしたそうです」

「俺からも1ついいか? 村の人間を全員奴隷に落とすとして、何処の村が襲われるとか、その近くの村の領主に情報を伝えたりはしなかったのか?」

「どこの村が襲われるかまでは、分からなかったそうです」

「じゃぁ、何でこの街道を通る事を知っていたんだ?」

「その奴隷商人は、聖国で奴隷を調達していったん中立地域のミューズに向かって、ゴーストタウンで売りさばくと聞いている。だからこのミューズへの街道を見張っていれば発見できると聞いていた」

「なるほどね。で、多分だけど、その奴隷商って言うのは俺たちの事なんだろうな。実際は違うけど、お前たちの上司は俺たちに何か恨みでもあるんかね?」

「お前たちが、奴隷商……?」

「俺たちが奴隷商に見えるか?」

「見えないな」

「じゃぁ、仲間が全員いたとして、俺たちと話した事ない状態で、集団で動いてたら奴隷商と勘違いしたんじゃないか?」

「無いと言いたいが、話もしていない状況でこれだけの馬車が移動していれば、勘違いしただろうな」

「まぁ、お前さんの上司たちが何を考えて、俺たちを狙ったんだろうな? あ、ちなみに俺たちは、教皇と知り合いだぞ。色々事情はあるけど、これが証拠な」

 そう言って通行書を見せてみる。辺境の兵士が知っているかは分からないが、一応証明になるから見せておこう。

「最後に1つ聞いていいか? お前たちは、俺たちを捕まえるか?」

「いや。そもそも、100人の仲間がいてもそれは出来なかっただろう。あなたと敵対したくない。それに、現状では何もできないですしね」

「そっか、それならキリエ、完全に治してやって。だれか、食事を持ってきてやってくれ」

 こいつらの仲間を俺が殺してるんだけどな。なんか悪い気がするが、文句は上司共に言ってくれ。

 完全に治してもらった3人は、現状を把握して騎士団長に騙されていた事を理解したようだ。

 話を聞いてみたら、末端の兵士はそもそも神殿騎士団の試験を受けられないらしい。どんなに強い人間でも、ある程度実戦経験を積んで、領主や騎士団長の推薦を受けないと試験を受けられないとの事。

 じゃぁ騎士団長は? と思ったら、場所にもよるが、騎士団長は神殿騎士団を退団してからなる事が多いとの事だ。

 でも、そうじゃない所もあり、その筆頭がこの3人の街の騎士団長らしい。

 今までの話を総合すると、領主も騎士団長も、聖国の理念には沿わないかもな。後で教皇に手紙を出しておこう。しっかりとこいつらの街の名前を聞いたから、しっかりと確認してくれるかな?

 3人の兵士は、もう動けるまで回復したので、街へ戻るそうだ。助言として、俺たちの事は話さない方がいいと言って送り出した。
しおりを挟む
感想 316

あなたにおすすめの小説

現実世界にダンジョンが出現したのでフライングして最強に!

おとうふ
ファンタジー
2026年、突如として世界中にダンジョンが出現した。 ダンジョン内は無尽蔵にモンスターが湧き出し、それを倒すことでレベルが上がり、ステータスが上昇するという不思議空間だった。 過去の些細な事件のトラウマを克服できないまま、不登校の引きこもりになっていた中学2年生の橘冬夜は、好奇心から自宅近くに出現したダンジョンに真っ先に足を踏み入れた。 ダンジョンとは何なのか。なぜ出現したのか。その先に何があるのか。 世界が大混乱に陥る中、何もわからないままに、冬夜はこっそりとダンジョン探索にのめり込んでいく。 やがて来る厄災の日、そんな冬夜の好奇心が多くの人の命を救うことになるのだが、それはまだ誰も知らぬことだった。 至らぬところも多いと思いますが、よろしくお願いします!

人の才能が見えるようになりました。~いい才能は幸運な俺が育てる~

犬型大
ファンタジー
突如として変わった世界。 塔やゲートが現れて強いものが偉くてお金も稼げる世の中になった。 弱いことは才能がないことであるとみなされて、弱いことは役立たずであるとののしられる。 けれども違ったのだ。 この世の中、強い奴ほど才能がなかった。 これからの時代は本当に才能があるやつが強くなる。 見抜いて、育てる。 育てて、恩を売って、いい暮らしをする。 誰もが知らない才能を見抜け。 そしてこの世界を生き残れ。 なろう、カクヨムその他サイトでも掲載。 更新不定期

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

どうしてこうなった道中記-サブスキルで面倒ごとだらけ-

すずめさん
ファンタジー
ある日、友達に誘われ始めたMMORPG…[アルバスクロニクルオンライン] 何の変哲も無くゲームを始めたつもりがしかし!?… たった一つのスキルのせい?…で起きる波乱万丈な冒険物語。 ※本作品はPCで編集・改行がされて居る為、スマホ・タブレットにおける 縦読みでの読書は読み難い点が出て来ると思います…それでも良いと言う方は…… ゆっくりしていってね!!! ※ 現在書き直し慣行中!!!

ダンジョン作成から始まる最強クラン

山椒
ファンタジー
ダンジョンが出現して数十年が経ち、ダンジョンがあることが日常となっていた。 そんな世界で五年前に起きた大規模魔物侵攻により心に傷を受けた青年がいた。 極力誰とも関わりを持たずにいた彼の住んでいる部屋に寝ている間にダンジョンが出現し、彼はそこに落ちた。 そのダンジョンは他に確認されていない自作するダンジョンであった。 ダンジョンとモンスターにトラウマを抱えつつもダンジョン作成を始めていく。 ただそのダンジョンは特別性であった。 ダンジョンが彼を、彼の大事な人を強くするダンジョンであった。

ダンジョン学園サブカル同好会の日常

くずもち
ファンタジー
ダンジョンを攻略する人材を育成する学校、竜桜学園に入学した主人公綿貫 鐘太郎(ワタヌキ カネタロウ)はサブカル同好会に所属し、気の合う仲間達とまったりと平和な日常を過ごしていた。しかしそんな心地のいい時間は長くは続かなかった。 まったく貢献度のない同好会が部室を持っているのはどうなのか?と生徒会から同好会解散を打診されたのだ。 しかしそれは困るワタヌキ達は部室と同好会を守るため、ある条件を持ちかけた。 一週間以内に学園のため、学園に貢献できる成果を提出することになったワタヌキは秘策として同好会のメンバーに彼の秘密を打ちあけることにした。

処理中です...