君のための最期を

藍色綿菓子

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カエルの魔法

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「カエル」
「おお、ちまいの。来たな、望みは……どうした? やけに小汚いな」
 カエルは前に見た時と寸分違わない様子で切り株の上に落ち着いていた。
 僕は再びカエルを訪ねた。川に飛び込んでから、また日が何度か出たり消えたりした気がする。
 よく戻って来られた。見た目よりも流れの速い川だった。頭に血が昇っていたらしい、よく確認もしなかったけど、底も深くて随分流された。転がるように水底のコケを削ぎ、浮いていた藻やゴミを纏って、気分は最悪。
 こうなったのも全て、あの女の人のせいである。あの人が僕を覚えていたならば、きっと飛び込んだりはしなかったのだ。
「まあワケは聞かんよ。興味もないしな。さあ望みを言え、はよ」
 こんなカエルに情をかけられても薄気味悪いだけだ。
 僕は何を考えているんだろう。自分のことなのに、さっぱりわからない。こんなふうになるのは生まれて初めてだ。
 原因はどう考えてもあの人。
 でも、僕はなぜだか不思議と嫌な気分ではない。
 僕は食らいつくように叫んだ。
「言語を、よこせ!」
「無理じゃ」
 カエルはあろうことか、即答してきた。思わず、え? と無い声帯が震えるかと思った。
「何で……」
「考えてもみろ! 声帯もないスライム風情が、言語だと? 不可能なことではないさ。思考の内容をそのまま伝える、そういう魔法もある。今の私がそうしているように、読み取っているように……そう、本来の私なら簡単なことだった、が」
 重い声が更に重くなって、カエルの言葉は途切れた。
「まさか、無理?」
「そう言ってるじゃろが! 低脳ドチビはこれだからっ」
 お前一人喋れるようにするのに、私が人間に戻る魔力量の約二割程度が必要なんだぞ、と理解しにくい説教をされてしまった。口の悪いカエルだ。
「待って、一言二言伝えるのにもそんなに大変?」
「一言二言だと? なんだ、そこまで何か言いたい相手でもいるのか」
 僕が言いよどんでいる間に、カエルは勝手に納得でもしたようだった。
「相手が決まっているのなら、種族に沿った言語を一言くらいなら可能だが?」
「本当? 多分、人間。エルフかもしれないけど……最近この森で見たんだ」
「この森で? なら、多分そいつは人間じゃな。なんだ女か」
「えっ……何でわかったの」
「会ったからな……」
 カエルはびょんと跳ねて切り株から降りた。べしんと重いものが地面に落ちた音がした
 カエルがのっしのっしと接近してきて、僕は思わず後ずさった。
 間近で見る巨大なカエルは、深い沼のような濃い緑色で、あまり他の生物を見ていない僕でもこれは醜いと思った。
 脳に直接響くような声が、動くなよと僕に伝えた。
 カエルは何かをしている様子ではなかったが、眠そうに半分閉じられた目がじっと僕に向けられていた。僕もその目を見返していた。しばらく待った。風の音もなく、おかしなほどに静かだった。
 そして、カエルは目を開く。
「終わった」
 カエルがそれだけ言って、切り株の上に戻る。定位置らしい。
「案外呆気ないんだね」
「ああ、一言だけだから、後悔せんよう……」
 眠そうなカエルが完全に目を閉じた。
「疲れた……」
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