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計画
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足があるので徒歩で訪ねた。電話が通じるとも限らないので、これがベストな選択だと思う。道中、もうほとんど肉塊の姿を見ることは無かった。清潔で穏やかな町並みに見える。丸々と変異してほとんど球体の鳥が滑空していた。
友人の家はオートロックのマンションだ。だけど私の家からは少し遠い。そこまで歩くのは辛い。もう少し近くに、彼女が親から経営を任された会社のビルがある。彼女は家よりも多くの時間を会社で過ごしていて、ほとんど会社に住んでいる。社員が激減した今でも、その会社を訪ねれば彼女はいる。
受付に立つ人型の機械に、友人の名前を告げて名乗ると、直ぐ様目当ての友人その人が現れた。彼女の声色はこころなしか嬉しそうに聞こえる。表情は受付の機械とよく似ている。
「や、久しぶりだね! 変わりないようで安心した。結構、定期的に会っているな。嬉しいよ」
「そう……。久しぶり。変わりなく見えるんだ? 実は頭が着実に悪くなっているんだ」
「見た目じゃわからない。脳は大事だね、替わりが利かないから。虫は元気?」
私は驚いた。この友人は今、どんな気持ちでその言葉を言ったのか。ずるずる、頭の中で、音が聞こえる。虫は元気だと彼女に答えた。彼女は興味なさそうにしている。
「そんなことより、いいタイミングで来てくれた。見せたい物があるんだ。お前は驚くかもしれないし、戸惑うだろうけど、画期的な思いつきを形にしたところだったんだ」
今日の友人は上機嫌らしい。返事も待たずに私の腕を引き、颯爽と彼女は歩き出す。揺れる、と虫が文句を言うと、彼女は歩く速さをゆるめた。話をしながら彼女について行く。進路から、彼女の私有研究所に向かっているらしいと予想する。
「メニュー……あの、あれ見た? メニューみたいなやつ」
問いかければ、友人は聞き返してくる。
「何のメニュー?」
その言葉を聞いて、言いたかった単語を思い出した。ニュースだ。単語のみを伝えると、友人は納得したような声をあげた。いくつもの扉を解錠して進む。
「あぁ……怖いね、脳の劣化って。防げないから、私もいずれは、いや、変異治療薬があったな。早く入手すれば良いだけの話だ。まさにそのニュースのことなんだよ、見てくれ、この光景を」
最後の扉が開かれた。そこには、薄く緑がかって発光する液体が、数十個の大きな容器に満ちている。その一つ一つに、容器とは不釣り合いなほど小さな、人間の胎児が浸かっている。未形成の、腕のような歪な突起に、無数の管が繋がり、時折身じろぎしているのが見て取れる。おぞましい光景だった。白い部屋の壁や床にむき出しの配線が這う。雑然としているようで、潔癖に配置されたその様が異様すぎて、気持ち悪い。友人は高らかに、言う。
「一つの変異治療薬を作り出すのに、複数の肉塊が必要なんだろう? それじゃあ奪い合いになるのは目に見えてる。行き渡らないんだから当然だ。私だってそこに加わるだろうよ。でも、確実に全員がそれを手に入れる方法が一つある。クローンに汚染物質を投与して、最終段階に達した肉塊を多く作ればいい」
それは、どうなんだろう……。血の気が引くような気がした。虫は狂ったように甲高い声で喜びを表す。それは素晴らしい考えだ、その考えに至り実行するお前も偉大な人間だ、と友人のことを褒めそやした。
「必要な犠牲だ」
虫はそう言った。人が生まれて死ぬように、家畜が生きて食われるように。あの小さな、自我もない胎児達の犠牲が、人間の未来を作るのだと。全ての命は、真の意味で平等になる時が来たのかもしれない、と彼は。私はまだ、どう受け止めれば良いのか考えている。
「あの子の弟君と、効くかどうかはわからないがあの子にも、変異治療薬を試してみよう。まずは信じる会に連絡しなくては」
あの子、私達の友達は、連れて行かれたのだとは言い出せなかった。
友人の家はオートロックのマンションだ。だけど私の家からは少し遠い。そこまで歩くのは辛い。もう少し近くに、彼女が親から経営を任された会社のビルがある。彼女は家よりも多くの時間を会社で過ごしていて、ほとんど会社に住んでいる。社員が激減した今でも、その会社を訪ねれば彼女はいる。
受付に立つ人型の機械に、友人の名前を告げて名乗ると、直ぐ様目当ての友人その人が現れた。彼女の声色はこころなしか嬉しそうに聞こえる。表情は受付の機械とよく似ている。
「や、久しぶりだね! 変わりないようで安心した。結構、定期的に会っているな。嬉しいよ」
「そう……。久しぶり。変わりなく見えるんだ? 実は頭が着実に悪くなっているんだ」
「見た目じゃわからない。脳は大事だね、替わりが利かないから。虫は元気?」
私は驚いた。この友人は今、どんな気持ちでその言葉を言ったのか。ずるずる、頭の中で、音が聞こえる。虫は元気だと彼女に答えた。彼女は興味なさそうにしている。
「そんなことより、いいタイミングで来てくれた。見せたい物があるんだ。お前は驚くかもしれないし、戸惑うだろうけど、画期的な思いつきを形にしたところだったんだ」
今日の友人は上機嫌らしい。返事も待たずに私の腕を引き、颯爽と彼女は歩き出す。揺れる、と虫が文句を言うと、彼女は歩く速さをゆるめた。話をしながら彼女について行く。進路から、彼女の私有研究所に向かっているらしいと予想する。
「メニュー……あの、あれ見た? メニューみたいなやつ」
問いかければ、友人は聞き返してくる。
「何のメニュー?」
その言葉を聞いて、言いたかった単語を思い出した。ニュースだ。単語のみを伝えると、友人は納得したような声をあげた。いくつもの扉を解錠して進む。
「あぁ……怖いね、脳の劣化って。防げないから、私もいずれは、いや、変異治療薬があったな。早く入手すれば良いだけの話だ。まさにそのニュースのことなんだよ、見てくれ、この光景を」
最後の扉が開かれた。そこには、薄く緑がかって発光する液体が、数十個の大きな容器に満ちている。その一つ一つに、容器とは不釣り合いなほど小さな、人間の胎児が浸かっている。未形成の、腕のような歪な突起に、無数の管が繋がり、時折身じろぎしているのが見て取れる。おぞましい光景だった。白い部屋の壁や床にむき出しの配線が這う。雑然としているようで、潔癖に配置されたその様が異様すぎて、気持ち悪い。友人は高らかに、言う。
「一つの変異治療薬を作り出すのに、複数の肉塊が必要なんだろう? それじゃあ奪い合いになるのは目に見えてる。行き渡らないんだから当然だ。私だってそこに加わるだろうよ。でも、確実に全員がそれを手に入れる方法が一つある。クローンに汚染物質を投与して、最終段階に達した肉塊を多く作ればいい」
それは、どうなんだろう……。血の気が引くような気がした。虫は狂ったように甲高い声で喜びを表す。それは素晴らしい考えだ、その考えに至り実行するお前も偉大な人間だ、と友人のことを褒めそやした。
「必要な犠牲だ」
虫はそう言った。人が生まれて死ぬように、家畜が生きて食われるように。あの小さな、自我もない胎児達の犠牲が、人間の未来を作るのだと。全ての命は、真の意味で平等になる時が来たのかもしれない、と彼は。私はまだ、どう受け止めれば良いのか考えている。
「あの子の弟君と、効くかどうかはわからないがあの子にも、変異治療薬を試してみよう。まずは信じる会に連絡しなくては」
あの子、私達の友達は、連れて行かれたのだとは言い出せなかった。
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