14 / 16
再会
しおりを挟む
ゴミが落ちている。おそらく粗大ゴミだ。遠目に見た感じでは、椅子だろうか? こんな所に珍しい。道の端の、整備不良で大穴が空いたままの側溝に、布のような生地の物が落ちていた。私は、少しでも興味が湧いた物には、積極的に近付くことにしているのだ。
布には部分的に毛が生えていたようだが、毛は汚れた水分に浸って嫌な光沢を持っている。斬新なデザインだった。服のような布が、人間の子供くらいのサイズ分あって、その端にはまりもや頭部のように毛が生えており、もう片方の端には足が生えている。足? いや、これは人間の足だ。かかともくるぶしもある、毛のない皮膚に五本の指。つまりこれは人間だ! 肉塊には見えなかった。
抱え上げて顔を見たら、あれから行方知れずになっていた、友達の弟だった。顔に付着した泥を落とすと、土のような色をした肌が覗く。酷く衰弱しているようだった。呼吸はか細い。当然ながらちぎれたままの腕の断面に、何か動く物が見えた気がした。血が滴っているのかと思い、止血しようと腕を掴むと、不自然に柔らかく沈み、ぞっと鳥肌が立った。ぐずぐずになった肉が動いている。断面から、うぞうぞと、丸く太った大きな蛆達が這い出してきていた。
「姉ちゃん……?」
弟が目を開けた。弟が私を認識した時、その顔にどんな表情が浮かぶのか、その変化を私は危惧して身構えたが、彼の表情が変わることはない。焦点の合わない目で、私を姉と呼び続ける。
「頑張ったよ俺……良かった、元気になって……ねぇ俺、よくやったと思うでしょ。サッカーだって上手いしさ……いてくれればいいよ……」
意識が朦朧としているようだった。もう長くはないような気がする。今にも消えそうなか細い声が、頼るように姉を呼ぶ。私は無言で間違えさせていた。しばらくそうしていると、突然、耳障りな声が私の頭の位置から聞こえる。
「おい、バカタレ、そいつは俺のだぞ」
弟は人でなしが来るよ、とうめく。焦る私を不思議そうに見て、徐々に表情が引きつっていく。息が止まる瞬間を見た。鬼の形相をしていた。
控えめに彼の名を呼ぶ。揺さぶっても、もう動かない。力の抜けた体が人形のように動くだけだった。
「なんてことを」
なぜ、こんな惨いことをしたのか? 怒りを込めて虫に問う。心が無いのか?
「あの研究所を見て何も言わなかったくせに、今更心の有無を問うのか」
いてもたってもいられず、遠くへ行こうと走り出すが、虫は頭の中にいる。
「ごめんっって、おい、どこまで行くんだよ? そろそろ帰ろうぜ、なあ、何考えてんの? もう許した?」
走っていたら誰かにぶつかった。相手は派手に転び、上手く立ち上がれないようだったので、手を貸した。
布には部分的に毛が生えていたようだが、毛は汚れた水分に浸って嫌な光沢を持っている。斬新なデザインだった。服のような布が、人間の子供くらいのサイズ分あって、その端にはまりもや頭部のように毛が生えており、もう片方の端には足が生えている。足? いや、これは人間の足だ。かかともくるぶしもある、毛のない皮膚に五本の指。つまりこれは人間だ! 肉塊には見えなかった。
抱え上げて顔を見たら、あれから行方知れずになっていた、友達の弟だった。顔に付着した泥を落とすと、土のような色をした肌が覗く。酷く衰弱しているようだった。呼吸はか細い。当然ながらちぎれたままの腕の断面に、何か動く物が見えた気がした。血が滴っているのかと思い、止血しようと腕を掴むと、不自然に柔らかく沈み、ぞっと鳥肌が立った。ぐずぐずになった肉が動いている。断面から、うぞうぞと、丸く太った大きな蛆達が這い出してきていた。
「姉ちゃん……?」
弟が目を開けた。弟が私を認識した時、その顔にどんな表情が浮かぶのか、その変化を私は危惧して身構えたが、彼の表情が変わることはない。焦点の合わない目で、私を姉と呼び続ける。
「頑張ったよ俺……良かった、元気になって……ねぇ俺、よくやったと思うでしょ。サッカーだって上手いしさ……いてくれればいいよ……」
意識が朦朧としているようだった。もう長くはないような気がする。今にも消えそうなか細い声が、頼るように姉を呼ぶ。私は無言で間違えさせていた。しばらくそうしていると、突然、耳障りな声が私の頭の位置から聞こえる。
「おい、バカタレ、そいつは俺のだぞ」
弟は人でなしが来るよ、とうめく。焦る私を不思議そうに見て、徐々に表情が引きつっていく。息が止まる瞬間を見た。鬼の形相をしていた。
控えめに彼の名を呼ぶ。揺さぶっても、もう動かない。力の抜けた体が人形のように動くだけだった。
「なんてことを」
なぜ、こんな惨いことをしたのか? 怒りを込めて虫に問う。心が無いのか?
「あの研究所を見て何も言わなかったくせに、今更心の有無を問うのか」
いてもたってもいられず、遠くへ行こうと走り出すが、虫は頭の中にいる。
「ごめんっって、おい、どこまで行くんだよ? そろそろ帰ろうぜ、なあ、何考えてんの? もう許した?」
走っていたら誰かにぶつかった。相手は派手に転び、上手く立ち上がれないようだったので、手を貸した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる