チルアカ

藍色綿菓子

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知らない世界

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 酷い頭痛がする。割れるように頭が痛む。それに加えて、世界がぐるぐると回っている。私は吐き気さえ起こしていた。ここはどこだろう? 何をしていたのだったか……。何も思い出せない。思い出そうとすると、ことさらにズキンと頭が痛む。
「…………」
 不自然に緊張した、複数人の吐息が聞こえる。空気がやけに重い。
 顔をしかめながらなんとか目を開ける。赤い敷き布が見えた。顔を上げてみると、突き出された鉛色の……何、これは、槍? ギラギラと光る武器のような物がいっせいに私を狙っている。どうして。こんなもの日本にはないよ! 何なのこれは。頭の中はゾウでも踊り出しそうな具合。
「良い、下ろせ」
 その声があまりに冷たいので、背中に冷や水でも落とされたかと思った。声を発したのは、少し遠くにいる。人なのか。ハロウィンか。角が生えているように見える。遠くにいるというのに、嫌悪や忌避の念が強く起こり、逃げなければ、と直感する。だけど体は固まったように動けない。
 武器? を下ろされた私は多少冷静に辺りを見渡した。高そうな花瓶や絵画が飾られている。広く、何もないスペースが多い。数段、階段のような段差があって、高くなった所にこれまた気品ある装飾の椅子があり、そこに偉そうに足を組んで座っている人がいる。その人は億劫そうに腰を上げ、ゆったりとこちらに歩み寄ってきた。逃げたい。逃げてはいけない。
「客人か」
 その人は、まるで血の通っていないように見える白い肌を持ち、垂れ目の瞳には愉悦の色が浮かんでいる。華美に飾られた長髪は女性的にも見えるが、体格は明らかに男のそれだ。不思議な色気と威圧感に満ちていた。歪んで生えた二本の角が禍々しい。
「わたしは」
 意図せず声が震えた。無意識に、怯えている? こんな人に会ったことはない。
「怯えてるじゃないか。囲むのはやめてやれ。どうせ何もできないよ、異世界人だろう」
「異世界……?」
 彼は台本を読むような抑揚のない調子で言った。取り囲んでいた面々が、彼の言葉を聞いてすぐ距離をとる。マネキンのように何の言葉も発さず、薄気味悪い。静かな中に、彼の嘲笑じみた言葉だけが響く。
「いらっしゃい。たまに来るんだ、君みたいな子が。話を聞かせてくれないか?」
 彼は美しく笑った。何の曇りもないはずなのに、なんだろう、嫌な気配のまとわりついた人だ。人形のように言葉を吐く。
 私は、はくはくと金魚のように口を動かして声にならない戸惑いを表す。彼はすぐ目の前まで来て、尻餅をつく私と目線を合わせた。慌てて顔をそらす。首根っこを掴まれて目を見る。深い夜の色。どこまでも落ちていく、暗い夜の海。
「名前は」
「ナ、ナツミ」
 やっとの思いで答えた。彼の目が細まる。猫みたいだ。楽しそうに首をかしげる。
「ナナツミ?」
「ナツミです!」
「そう」
 彼は私に手を差し出す。反射的にその手を取ると、ぐっと引き上げられて立ち上がる形になった。
「私はアルバート。歓迎するよ、無力な客人。衣食住を与える代わりに、あなたの知識や経験を教えて貰おう。なに、興味本位でね」
 ひんやりと冷たい皮膚の感触。直感するのは、この人は人間じゃないということ。どうやらここは私の知っている世界じゃないらしい。
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