チルアカ

藍色綿菓子

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記憶

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「すみません、こんな格好ですので、明日以降ではいけないでしょうか」
 アルバートは大げさに肩をすくめた。
「昼間には仕事があるというのに、仕事場に付き合ってくれるつもりなのか?」
 強引に彼が押し入ってくると、後からティーカップを運ぶ使用人がついてきた。手際よくお茶スペースにお茶セットが設置される。入眠作用のあるお茶だから、眠れなくなる心配も無い。アルバートがそう言って逃げ道を塞ぐ。いたしかたなく席に着いた。彼は嬉しそうに笑う。物事が上手くいって嬉しそうな大人の顔だ。
 さっそく、と前置きがある。
「覚えていることはあるか?」
 頭痛がした。思い出せなくて戸惑う。ごまかしの言葉を吐く。
「何から話せばいいか……」
「何でもいい、聞かせてくれ」
「……月は黄色いんです」
 窓から見える赤い月を見て、思いついた。アルバートは二度ほど頷く。
 どこかカウンセリングのような雰囲気だった。アルバートは私から記憶を引き出してくる。思い出された記憶はアルバートの頷きになる。私の言葉がぽつりぽつりと落ちていく。
「食卓に並んでた食品はどれも見たことがなくて、カレーとか、肉じゃがとかが私は好物で、カレーっていうのは香辛料を多数使った料理でニンジン、ジャガイモ、あとは……」
 あとは。肉とか。肉、何肉だっけ。どんな動物だっけ。ずきん、ずきん、と波を打つように頭が痛む。
「すみません。思い出そうとすると頭が痛いんです」
 静かに聞いていたアルバートは、穏やかに眉尻を下げて微笑んだ。
「無理しなくていい。いずれ落ち着くだろう」
 頭痛が治るまで、逆にこの世界の話を聞かせてくれませんか、と頼むと、彼はゆったりと語り出した。魔法が存在して、人とは違う魔族がいて、彼はその魔族の一部をとりまとめている地主のようなものだと自称していた。月の色は、この辺りに漂う濃い魔力が赤く歪めて見せているのであって、魔力の薄い人間の国から見る月は黄色いらしい。家の外には人を食う魔物やらがいるから出てはいけないと強く言われた。話している内に調子づいてきたのか、庭の風景をきっと気に入るから今から行こうか、と急展開が待ち受けていた。その頃には頭痛は治まり、お茶も少なくなって、入眠効果が発揮されて眠くなっていた。落ちそうな瞼をなんとか持ち上げて「寝かせてください」と言うと、アルバートは少し残念そうにしながらも席を立った。
「……添い寝してもいいか?」
「あなたも寝ぼけてます?」
「いや……おやすみ」
 アルバートは少し切なそうな顔で部屋を出て行った。衝撃的発言にも関わらず慣れた応答がすぐに飛び出したのはなぜだろう。
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