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マリア
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赤い月が怪しく光る。夜風が冷たい。庭に出た。黒い翼の天使……まるで神の使いのような、大きな翼を背負ったマリアがいる。空を睨んでいるようだった。
「マリア! 来たよ」
声をあげて彼女を呼ぶと、慌てたようにシーと口封じされてしまった。なんだかこそこそしている。
「ナツミ。私が飛ぶから、しっかり捕まってて」
「え? どういうこと? えっちょっと待って!」
マリアは私の腰辺りをがっと掴んで、持ち上げる。こんなに力持ちだとは知らなかった。私は米俵のように担ぎ上げられる。翼の羽ばたく音が聞こえて、不安定に揺れる。マリアにしがみつく。マリアの背中しか見えない。今どんな顔をしているだろう。
「どこ行くの?」
「遠いところ!」
緊迫感のある声色でマリアは言った。ぐらりと傾きかけて目をつぶる。
強い風が吹くのを感じて目を開けると、地面が遠くにある。大きく羽ばたく翼は、生命力そのもののように力強かった。
すごい……。思わず声に出そうになったが、不安定すぎる体勢に怯えて声が出なかった。飛んでる。どこかへ運ばれようとしているらしい。
「ねぇ、マリア」
ぐんぐんと高度は上がる。屋敷の塀を越えそうになって、不意に目の前の翼が羽ばたくのをやめた。
ゆっくり逆さまに降下していく。どんなアトラクションだ! 持ち上げた責任できちんと下ろしてくれ……と思い、体をひねってマリアの頭部を確認しようとした。赤い液が重力に従って私の頬に落ちる。首から上がない。
心のどこかで、開いてはいけないと思っていた、扉が開いていく感覚がする。
私達は落下する。背中にバキバキと木々の折れる音と痛い衝撃を感じる。木に引っかかって、地面に落ちることはなかった。不安定に木に留まる。私の上に首のないマリアがもたれかかり、断面からこぼれ落ちる血が私を濡らす。生臭い鉄の匂いがした。さらさらの血がぼとぼと落ちてきて、私の血の気が引く。無い。首が無い。あんなに綺麗に笑う子だったのに。
「大丈夫か。ナツミ」
強い風の音がした。木が傾く。私の上からマリアを取り除いて、ゴミのように地面に放り投げた男がいる。重い物が地面にぶつかる音がした。私はぼろぼろ泣きながら後退る。次々記憶が蘇って流れていく。怖い。前にもあった。前にもあった!
コウモリのように黒光りする翼を広げて、私に手をさしのべる、アルバート。あの手が、私の友人達を殺したその手だ。私は彼から逃れようと不安定な木の枝から移動する。マリアのように真っ逆さまに落下した。急に落下の速度がゆるみ、アルバートが私を空中で抱き留める。
「嫌だぁ!」
拒否する。落ちて死んでもいい。なのにアルバートは、ことさら優しく、しっかりと強く、抱きしめてくる。
「思い出したの! もう嫌だ、もう嫌だぁ!」
「ごめんね」
彼の顔は見えない。私は情けなく彼の胸で泣いた。そうする以外の術を何も持たなかった。
「マリア! 来たよ」
声をあげて彼女を呼ぶと、慌てたようにシーと口封じされてしまった。なんだかこそこそしている。
「ナツミ。私が飛ぶから、しっかり捕まってて」
「え? どういうこと? えっちょっと待って!」
マリアは私の腰辺りをがっと掴んで、持ち上げる。こんなに力持ちだとは知らなかった。私は米俵のように担ぎ上げられる。翼の羽ばたく音が聞こえて、不安定に揺れる。マリアにしがみつく。マリアの背中しか見えない。今どんな顔をしているだろう。
「どこ行くの?」
「遠いところ!」
緊迫感のある声色でマリアは言った。ぐらりと傾きかけて目をつぶる。
強い風が吹くのを感じて目を開けると、地面が遠くにある。大きく羽ばたく翼は、生命力そのもののように力強かった。
すごい……。思わず声に出そうになったが、不安定すぎる体勢に怯えて声が出なかった。飛んでる。どこかへ運ばれようとしているらしい。
「ねぇ、マリア」
ぐんぐんと高度は上がる。屋敷の塀を越えそうになって、不意に目の前の翼が羽ばたくのをやめた。
ゆっくり逆さまに降下していく。どんなアトラクションだ! 持ち上げた責任できちんと下ろしてくれ……と思い、体をひねってマリアの頭部を確認しようとした。赤い液が重力に従って私の頬に落ちる。首から上がない。
心のどこかで、開いてはいけないと思っていた、扉が開いていく感覚がする。
私達は落下する。背中にバキバキと木々の折れる音と痛い衝撃を感じる。木に引っかかって、地面に落ちることはなかった。不安定に木に留まる。私の上に首のないマリアがもたれかかり、断面からこぼれ落ちる血が私を濡らす。生臭い鉄の匂いがした。さらさらの血がぼとぼと落ちてきて、私の血の気が引く。無い。首が無い。あんなに綺麗に笑う子だったのに。
「大丈夫か。ナツミ」
強い風の音がした。木が傾く。私の上からマリアを取り除いて、ゴミのように地面に放り投げた男がいる。重い物が地面にぶつかる音がした。私はぼろぼろ泣きながら後退る。次々記憶が蘇って流れていく。怖い。前にもあった。前にもあった!
コウモリのように黒光りする翼を広げて、私に手をさしのべる、アルバート。あの手が、私の友人達を殺したその手だ。私は彼から逃れようと不安定な木の枝から移動する。マリアのように真っ逆さまに落下した。急に落下の速度がゆるみ、アルバートが私を空中で抱き留める。
「嫌だぁ!」
拒否する。落ちて死んでもいい。なのにアルバートは、ことさら優しく、しっかりと強く、抱きしめてくる。
「思い出したの! もう嫌だ、もう嫌だぁ!」
「ごめんね」
彼の顔は見えない。私は情けなく彼の胸で泣いた。そうする以外の術を何も持たなかった。
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