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第6章 漆黒の召喚士

第174話 暗闇の中で手探り

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「にーに。おそと、まっくらー!」
「あぁ。時間はないから、早く行こう。ユーリヤ、エリーのお母さんは、ここからだと、どっちに居る?」
「んーと、あっちー」

 フォレスト・タウンへ移動し、早速エリーのお母さんの位置を聞くと、おんぶされて俺の背中に乗っているユーリヤが小さな指で東を示す。
 良かった。ここから更に南西だと言われたらお手上げだったが、方角的にブライタニア王国かエァル公国内らしい。
 フォレスト・タウンの東門へ進み、そのまま街の外へ。
 ユーリヤの示す方角に従い、北東へと伸びる街道を無視して、真っ直ぐ森の中へ入って行く。
 街には街灯があり、街道も月明かりで辛うじて先が見えたが、その僅かな明かりすら届かない森の中は、暗過ぎて自分足元さえよく見えない。

「エリー、大丈夫か?」
「だ、大丈夫。エリー、頑張る……けど、ハー君はどこに居るのー?」
「全然、ダメじゃないか。エリー、こっちだ」

 後ろに居るエリーに手を伸ばし、柔らかい手を握ると、

「ひゃうっ! へ、ヘンリー! イロナちゃんは、夜のサービスは未経験なんだよっ!?」
「あ、あれ? イロナだったのか。悪い。実は俺も見えてなくて……こっちか?」
「貴方っ! そ、そこは……というか、こういう事は家の中でする方が嬉しいかな」

 イロナとアタランテがそれぞれ、うわずった声を上げる。
 残念ながら、どちらも握った感じが手では無かったのだが、俺は何を触ってしまったのだろうか。

「あっれれー? アタランテさんは、どうして自分からお兄さんの手に近づいて行ったのかなー? もしかして、痴女なのかなー?」
「ち、違うわよっ! そもそも、貴方だって微妙な場所に移動したじゃない」
「違うもん。イロナちゃんは、最初からここに居たんだもん」

 いや、真っ暗な森の中で夜目が効く二人がケンカしないでくれよ。
 その上、エリーは未だに迷子みたいだし。

『ヘンリーさんが魔法で明るくすれば良いじゃないですか』
(……あ、そうだな)

 アオイのツッコミでようやく気付き、明かりを生み出す魔法を使うと、

「ふぇぇ……ハー君っ! 怖かったーっ!」

 半泣きのエリーが駆け寄り、俺の胸に飛び込んできた。
 真っ暗な夜の森の中で迷子……相当怖い思いをさせてしまったなと、反省しながら背中を撫でていると、

「くっ……これが天然ものの威力なのねっ」
「悔しいけど、これは……仕方が無いわね」

 イロナとアタランテの二人が良く分からない事を呟いている。
 一先ずユーリヤをおんぶしたまま、エリーと手を繋いで歩いていると、

「ねぇ、ヘンリー。このまま森の中を歩いて移動するのー?」
「あぁ。流石に、この状態で走って移動するのは厳しいし」
「そうじゃなくてー、森の中を移動するのなら、もっと楽に移動出来るんだよー」

 イロナが不意に何かの魔法を詠唱し始めた。

『フォレスト・アドヴァンス』

 聞いた事の無いイロナの魔法が発動すると、前方にある森の木々が左右に分かれ、道を作る。
 その上、足を動かしていないのに、俺たち全員がかなりの速度で前に進んで行く。

「凄いな! これも精霊魔法なのか?」
「そうだよー。森の中でしか使えないけどねー。でも、便利でしょー?」
「あぁ。凄く助かるよ」

 暗く深い森の中で、魔物に遭遇する事もなく、ユーリヤの指し示す方向へ高速移動していると、分かれた木々の先に、小さな家が現れた。

「にーに! あそこー」
「分かった。イロナ、少し速度を落としてくれ。あと、皆十分に警戒してくれよ」

 近づいてみて分かったが、家というより大きな木箱と表現した方が正しいように思える程、雑な作りの家だ。
 一応ドアらしき物があるが、窓一つなく、中の様子は伺えない。
 だが中から人の気配があるし、ユーリヤはエリーのお母さんの魔力だけを感じると言う。
 魔族は近くに居ないと判断し、家の中へと突入すると、俺が灯している光に、女性の姿が映る。

「お母さんっ!」

 エリーが飛び出して声を掛けるが、その女性は全く反応しない。
 何も聞こえて居ないかのように、ただただ何かの動作を繰り返している。

『あれは……錬金魔法で用いる素材ですね。おそらくホムンクルスの製造に使用するのでしょう。ですが……』
(あぁ、言いたい事は分かる。明らかに様子がおかしいな。エリーの呼び掛けが届いていない。魔族の魔法か何かか?)
『わかりません。そうなのかもしれませんし、違うかもしれません。いずれにせよ、私には判断出来ない状態ですね』

 娘の呼び掛けにも応じず、一心不乱に特定の作業だけを行う。
 操られているとか、洗脳とかって状態だろうか。
 だとしたら、これでいけるのでは?

「ディスペル」

 今まで数々の魔法を打ち破って来た解除魔法を使ってみたが、何の反応もない。
 魔法ではないのか、それとも魔族が使った特殊な魔法なのか。
 神聖魔法を得意とするマーガレットが居れば、また違う解決手段があったのかもしれないが。

「仕方が無い。一先ず、瞬間移動でエリーの家に連れ帰ろう」

 エリーのお母さんの前で、ワープ・ドアの魔法を使おうとした所で、イロナから待ったが掛かる。

「ヘンリー、待ってー。この人、毒を盛られてるよー。このまま、この作業を止めさせたら、幻覚で大変な事になるよー」
「毒で幻覚を見せられているのか!?」
「うん。どんな幻覚を見ているかまでは分からないけどー、おそらくこの作業を止めると、大事な人が死ぬとか、そういう幻覚を見せられていてー、止めると狂ったように暴れると思うー」

 軽い口調でメチャクチャ重い事を言ってきたのだが、

「大丈夫ー。この毒なら、イロナちゃんが治せるからー!」
「マジで!? 頼む!」
「うん、任せてー!」

 同じくらい軽い口調で、頼もしい事を言ってくれた。
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