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第8章 ヴァロン王国遠征

第259話 幼女ラウラとの子供

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「ちょっと待ってくれ。今、何て言った!?」
「む? 試練を始めると言ったのだが」
「その、少し前だ。何の為の試練だって?」
「お主たち家族をドワーフの一族として受け入れ、我が娘ラウラと結婚するために、大地の神の試練に挑むのであろう」

 ……ラウラと結婚するために。
 非常に残念だが、どうやら俺の聞き間違いではなかったらしい。
 ドワーフの一族に受け入れるというのは、鍛冶の依頼をするためではなく、そのままの意味で血縁関係となるためか。

「……って、待ってくれ。これは、俺が壊した炉の謝罪と、部外者からの鍛冶依頼の為の試練じゃないのか!?」
「お主は何を言っておるのだ? 火の精霊力は高まったものの、ワシらドワーフが作った炉が、そう簡単に壊れる訳がなかろう。それに、鍛冶の依頼とこの試練は関係無いぞ?」
「な、何だって!? ……だが、そもそも、どうしてこんな話になったんだ!?」
「どうして……と言われても、お主たちが手紙に書き残した事であろう」

 手紙とは何の事だと思っていると、ライマーが懐から見覚えのある――昨日俺が使った便箋を取り出した。
 慌ててその中身に目を通すと、俺がクレアの事について記した後に、

――パパへ。
  言葉には表せないけど、この人はとっても凄いの。
  初めての経験を沢山させてもらって、もうこの人無しでは生きられない身体になっちゃった。
  だから、これからこの人に一生ついて行く事にしたの。
  今まで育ててくれて、ありがとう。
  ラウラ――

 幼い字でふざけた事が書かれていた。
 キョロキョロと周囲を見渡し、この文章を書いた犯人がどこへ行ったのか探していると、

「……ヘンリー殿。本来、大地の神に仕える司祭であるワシは、こんな事を言ってはならんのだが……どうか無事に試練を突破し、娘を六番目の妻として、大切にしてやって欲しい。娘を……娘を頼んだぞぉぉぉっ!」

 突然ライマーさんが男泣きを始め、周囲のドワーフさんたちが囲み始める。

「ライマー様! 仕方がありません。娘を持つ親であれば、遅かれ早かれ必ず通る道なのです」
「ライマー様っ! 大事な一人娘を人間に……くぅっ! 心中お察しいたしますぞっ!」
「ラウラちゃん……僕が交際を申し込んだ時には、面倒臭いって言ったのに、こんな人間のどこが良いんだっ!」

 ライマーさんはラウラの父親として普通に振る舞っているが、周囲のドワーフたちが怖い。
 一部のドワーフからは完全に殺気が向けられているし、この状況でただの間違いだったと言ったらどうなるだろうか。
 おそらく、ドワーフの中でも偉い立場に居るライマーさんに恥をかかせ、結果的に友好関係が悪くなって、聖銀の鍛冶を断られるかもしれない。
 既に試練を開始と言われてしまっているし、ここは試練に失敗した事にして、ラウラを返したいのだが、

「あー、仮の話だが。もしも、俺たちが試練をクリア出来なかったら、もしくは棄権したらどうなるんだ?」
「馬鹿野郎っ! お前はラウラちゃんと結婚するんだろっ! そんなもん気合で、死んでも突破しろ! 万が一失敗すれば、かけおちという形になり、お前もラウラちゃんも二度とドワーフの国に入れなくなるんだっ!」
「失敗したら、ライマー様はラウラちゃんだけでなく、お孫さんにも会えなくなるんだぞっ!? ライマー様をそんな辛い目にあわせてみろ! 絶対に許さんぞっ!」

 いや、孫って。
 ムリだろ。どう頑張って見ても、ラウラは基礎学校生に通う幼女にしか見えないし。
 ルミよりも若干幼く見えるから、一切そういう目で見る事が出来ないんだが。
 とはいえ、ドワーフの国に足を踏み入れられなくなって、聖銀の加工を依頼出来なくなるのは困る。
 くっ……不本意だが、やるしかないのか。
 ……あとでラウラには、おしおきだな。

「とりあえず、その試練とやらの内容を教えてくれ」
「うぅ……そうじゃな。大地の神の試練、先ずは第一の内容を伝えよう」
「ライマー様……おぉ、ご自身の娘に試練を出さなければならないとは」

 近くのドワーフにこっそり聞いてみると、大地の神の司祭であるライマーは、ドワーフの国では王族の次くらいに偉い人らしい。
 ……これ、失敗したら絶対にマズい奴じゃないか。

「では一つ目の試練は、最高の酒を用意する事だ」
「酒? 酒なら、家に葡萄酒が山の様にあるんだが。それを運んでくれば良いのか?」
「葡萄酒? 何を言っておる。酒といえば、火酒に決まっておる。ここに居るドワーフが全員上手いと言う酒を持ってくること。これが、第一の試練となる」

 火酒? 火酒って何だ? 俺が酒に興味が無いし、飲まないから全く分からないんだが。
 周囲を見渡してみるが、ヴィクトリーヌも知らないらしい。ヴァロン王国の酒ではないのか?

「では行け! 我が娘ラウラと、その婿殿よ。大地の神の試練を見事突破し、ドワーフの祝福を得るのじゃっ! ……そして、そして可愛い孫を頼むぅぅぅ」

 毅然とした態度を取ろうとしながらも、男泣きしているライマーに見送られ、その場を去る事になった。
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