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第2章 辺境の地で快適に暮らす土の聖女
挿話22 ダークエルフの新族長エレン
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「エレンさん。では、今回の取引はこの内容で」
「承知した。では、また来月に」
「あぁ、頼むよ」
父親による、聖女襲撃事件から早数日。
聖女様が我々ダークエルフのミソとソイソースの旨さと、適した調理方法を広めてくれたおかげで、鬼人族たちとも取引が始まった。
おかげで、ミソの作り手たちもやる気を取り戻し、伝統を守りながらも、新しい商品の開発に向けて頑張ってくれている。
「あ、エレンさん……じゃなくて、族長。取引はどうでした?」
「エレンで良いよ。まだ族長だなんて呼ばれ慣れないし。あと、取引は上々だったよ」
「それは良かったです。村の雰囲気も良くなった気がしますし、やっぱり聖女様の影響は凄いですね」
「あぁ、そうだな。とりあえず私としては、他の村はもちろんだが、特に聖女たちとは絶対に争わないようにしようと思っている」
「そ、そうですね。あのグリフォンによる、前族長への攻撃を皆が目の当たりにしているので、誰も異を唱えないでしょうし」
あの後も、グリフォンと猫が父親に対して怒っていたが、聖女のおかげで丸く収まったし、賠償なども不要だと言ってくれたしな。
うむ。聖女という呼称は正直どうなんだと思っていたが、セシリア様なら、その名にふさわしい気がする。
「しかし、エレンさん。なんだかんだ言って、聖女様もやっぱり怒っていたんですね」
「え? どういう事だ? グリフォンたちはともかく、聖女様は全てを許してくれただろ?」
「ですが、あの聖女様が我々ダークエルフに出された依頼……あれはどう考えても普通ではないと思うのです。絶対に我々へ罰を与えようとされているのではないかと」
「しかし、あれは我々ダークエルフがダイズの扱いに長けていると知った上で、新たな食材の開発依頼だったはず。食べ物を作るのに、罰なんて事があるだろうか」
「……では、エレンさん。実際にご覧下さい」
そう言って、先に歩き出したので、私もついて行く事に。
とはいえ、場所は分かっている。
村の端に作った、聖女様食品研究室だ。
ダークエルフの中でも、最もダイズの知識が豊富な父が、聖女様から依頼された食品を作る事になったのだが……
「くっ! こ、これはっ!? この匂いは一体何なのだっ!?」
「おそらく、前族長が食品の開発に失敗し、ダイズを腐らせてしまったのではないかと」
「早く捨てさせねば……父上っ! 父上っ!」
研究室の扉を開くと、中から更に強い匂いが放たれる。
ぐっ……これはキツい!
「ん? おぉ、エレンではないか。様子を見に来てくれたのか?」
「ち、父上。これは一体……」
「いや、あの聖女様は本当に凄いぞ。一見、この腐っているようにしか見えないダイズだが、聖女様の故郷にあったナットーという食べ物で、一度食べると癖になる旨さなんだ」
「ち、父上……そのダイズ。糸を引いていますが」
「うむ。ワラで包んで発酵させると良い感じになるようだ。これにマスタードとソイソース、ネギを混ぜると、物凄く旨い……」
「うぐっ! 退避っ! 退避ーっ!」
あまりの匂いと、父親の様子に逃げるようにして部屋を出たのだが、父親がナットーを持って出てきた。
「エレンも食べてみろ。物凄く旨いぞ」
「やめろっ! 来るなっ! くっ……聖女は父親をモンスターに変えてしまったのか! やめてくれぇぇぇっ!」
「いや、だから普通に旨いんだよぉぉぉっ!」
父上が匂いのキツいダイズをと共に追いかけて……やめてっ!
糸を引いてるっ! ネバネバしてるっ! 腐ってるぅぅぅっ!
聖女様、ナットーは許してぇぇぇっ!
了
「承知した。では、また来月に」
「あぁ、頼むよ」
父親による、聖女襲撃事件から早数日。
聖女様が我々ダークエルフのミソとソイソースの旨さと、適した調理方法を広めてくれたおかげで、鬼人族たちとも取引が始まった。
おかげで、ミソの作り手たちもやる気を取り戻し、伝統を守りながらも、新しい商品の開発に向けて頑張ってくれている。
「あ、エレンさん……じゃなくて、族長。取引はどうでした?」
「エレンで良いよ。まだ族長だなんて呼ばれ慣れないし。あと、取引は上々だったよ」
「それは良かったです。村の雰囲気も良くなった気がしますし、やっぱり聖女様の影響は凄いですね」
「あぁ、そうだな。とりあえず私としては、他の村はもちろんだが、特に聖女たちとは絶対に争わないようにしようと思っている」
「そ、そうですね。あのグリフォンによる、前族長への攻撃を皆が目の当たりにしているので、誰も異を唱えないでしょうし」
あの後も、グリフォンと猫が父親に対して怒っていたが、聖女のおかげで丸く収まったし、賠償なども不要だと言ってくれたしな。
うむ。聖女という呼称は正直どうなんだと思っていたが、セシリア様なら、その名にふさわしい気がする。
「しかし、エレンさん。なんだかんだ言って、聖女様もやっぱり怒っていたんですね」
「え? どういう事だ? グリフォンたちはともかく、聖女様は全てを許してくれただろ?」
「ですが、あの聖女様が我々ダークエルフに出された依頼……あれはどう考えても普通ではないと思うのです。絶対に我々へ罰を与えようとされているのではないかと」
「しかし、あれは我々ダークエルフがダイズの扱いに長けていると知った上で、新たな食材の開発依頼だったはず。食べ物を作るのに、罰なんて事があるだろうか」
「……では、エレンさん。実際にご覧下さい」
そう言って、先に歩き出したので、私もついて行く事に。
とはいえ、場所は分かっている。
村の端に作った、聖女様食品研究室だ。
ダークエルフの中でも、最もダイズの知識が豊富な父が、聖女様から依頼された食品を作る事になったのだが……
「くっ! こ、これはっ!? この匂いは一体何なのだっ!?」
「おそらく、前族長が食品の開発に失敗し、ダイズを腐らせてしまったのではないかと」
「早く捨てさせねば……父上っ! 父上っ!」
研究室の扉を開くと、中から更に強い匂いが放たれる。
ぐっ……これはキツい!
「ん? おぉ、エレンではないか。様子を見に来てくれたのか?」
「ち、父上。これは一体……」
「いや、あの聖女様は本当に凄いぞ。一見、この腐っているようにしか見えないダイズだが、聖女様の故郷にあったナットーという食べ物で、一度食べると癖になる旨さなんだ」
「ち、父上……そのダイズ。糸を引いていますが」
「うむ。ワラで包んで発酵させると良い感じになるようだ。これにマスタードとソイソース、ネギを混ぜると、物凄く旨い……」
「うぐっ! 退避っ! 退避ーっ!」
あまりの匂いと、父親の様子に逃げるようにして部屋を出たのだが、父親がナットーを持って出てきた。
「エレンも食べてみろ。物凄く旨いぞ」
「やめろっ! 来るなっ! くっ……聖女は父親をモンスターに変えてしまったのか! やめてくれぇぇぇっ!」
「いや、だから普通に旨いんだよぉぉぉっ!」
父上が匂いのキツいダイズをと共に追いかけて……やめてっ!
糸を引いてるっ! ネバネバしてるっ! 腐ってるぅぅぅっ!
聖女様、ナットーは許してぇぇぇっ!
了
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黄美さん
ご感想ありがとうございます。
お読みいただき、ありがとうございます。
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