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第6話 陽キャは個人的に人類の敵だと思う件について
しおりを挟む「いやー! オタク君のおかげで助かったわー!」
いや、オタク君って。仮にも食料を分けているわけだし、その言い方はなくない?
ビルの中に入った後、まず警戒を解く為に食料を分け与えた。言動から判る様に隠キャである僕を完全に見下しているようで、彼らは貴重であるはずの食料を一切遠慮せず食い散らかしたというね。念の為、入る直前にリュックに移して置いて良かった。こいつら、僕が大量の食料を取り出せるとか知ったら際限なく要求してくるだろうからな。
「あんな奴、クラスにいたっけ?」
「あーアイツじゃね? なんかすぐ不登校になった奴いたじゃん」
「あーそういやいたな、そんな奴。しかしあの隠キャ使えるぜ、食料とか持ってきてくれるし」
「ちょっ、お前もう少し声小さめにしろよ…オタク君に聞こえんだろ?」
いや全部聞こえてるんですけど。まぁオタクなのは本当なんだけど、なんかこうイラってくるな。ムンクもうお家帰りたい。
勝手に談笑している隙に逃走を画策していると、一人が近づいてきた。とても嫌な予感がする件について。
「オタク君、もっと食料持ってたりしないの?」
ほらぁ。
露骨に紅一点のビッチさんが食料目当てで話しかけてきたぁ。
しかもなんかこのビッチさん、露出度高いしやたらと体を近づけてくるし。まじビッチ。
「え、い、いや、流石にもうないでしゅ……」
「アハハ! オタク君キョドリすぎ!!!」
「あ、うん。へへへ……」
こんなの相手でも思いっきりきょどってしまう自分の女性耐性の無さが恨めしい。いやだって仕方ないじゃん。この痴女、スカートはギリギリまで短くしてパンツ見えそうだし、上着のシャツはほぼはだけててブラが丸見えだもん。全身痴女かよ。クソが、こんなクソビッチにきょどるなんて、なんたる屈辱。
「でもそっかー。あ、でもあれだけの食料を持ってたってことは、ある場所は知ってそうだよね」
「あ、あはは、どうかなぁー」
うざ。
なんか無駄に体を擦り寄せてくるしうぜえええええええええ!!!!!
もうね、お前はどうでもいいけど食料が欲しいっていう下心とか丸見えなのがドン引きなんですわ。女性との関わりが皆無な僕ですらトキメかねぇよ。
これ以上ここにいても僕のストレス値が急上昇しまくるだけだ。さっさと目的の情報収集を果たして帰ろう。
◆
「アタシが知っているのはこんなところかなー」
体を擦り寄せてくるビッチさんにキレそうになりながらも何とか堪え情報を引き出した。
ともかく聞きたいことは聞けた。やはりネットで得た情報は大方合っているようで、この世界は本当にゾンビで溢れるような世界になってしまったらしい。そして、やはり僕のような能力を持っているという話は出てこなかった。この能力は一体全体何なのやら。
それ以外はこれといって大した情報は持っていなかった。しいて言うならとある町にゾンビが無駄に溢れている事ぐらいか。この程度なら食料なんてわけなくても良かったなぁ。
「さてと、僕はこれで失礼するよ」
「は?」
いや、そんな威圧されましても。
寛いでいた面々は立ち上がりゾロゾロと距離を詰めて来た。もうこれじゃあ陽キャというよりは不良ヤンキーだな。まぁ、そもそも上位カーストの隠キャに対する態度って不良のそれと何も変わらないか。
「あのさオタク君、俺ら困ってんわけ。こういう時って助け合いをすべきと思わねーの?」
彼らは言外に『隠キャのクラス最底辺カーストの癖に空気読めよ』と言っている。
何が助け合いじゃボケ。一方的だし、実質お前らのパシリになっれって事じゃねーか。死んでもゴメンだね。
「え……? あーソウネ、タスケアイッテダイジヨネ」
なんて断ろうか。選択肢を間違えると面倒だな絡まれ方をされそうだよね。ここは穏便に行かないと。
「な? だからオタク君には同じクラスのよしみとして色々と助けて欲しいんだよね」
「うん、嫌。超嫌」
あ、やべ。本音言っちゃった。
穏便に済ますつもりが、誠意溢れる懇切丁寧かつ明確な返答になってしまった。もういいや、お前らのことなんて知るかばか。
彼らはそんな返答を予想していなかった様で一瞬だけポカーンとして、すぐに顔を真っ赤にして怒鳴り散らした。
「へー、オタク君そんな態度とっちゃうんだぁ」
「あれかな? オタク君、立場分かってない?」
「こっちが下手に出ていれば調子乗りやがって、このクソ隠キャが!! 痛い目見せてやる!! お前ら、死なない程度に痛めつけてやれ!!」
彼らはそこら辺に転がっていたバットを拾い、ニヤニヤと意地悪そうに笑みを浮かべている。
こいつら馬鹿かな?
もしかしてというか、確実に外にいたゾンビを僕がどうにかしたとか思っていなさそう。頭悪そうだし、いつの間にかいなくなっていて運が良いぐらいにしか思っていないんだろうな。
「オタクくーん。調子に乗っちゃったねー?」
「隠キャの癖に何様のつもりだよ。キモいんだよ」
「オタク君の分際で調子乗りやがって!! 誰に楯突いているか思い出させてやんよぉ!!!」
何の躊躇もなく振り下ろされるバット。僕が言うのもアレだけど倫理観やばくない?
しかし、何の感慨も無く鈍い音が虚しく響き渡るだけだ。痛みも無く、スマホでステータスを確認するとHPが一だけ減っていた。
「はっ!? こいつ体に鉄でも仕込んでやがるのか!? てか、何余裕こいてスマホ見ていやがる!?」
バットで殴られたところで何のその。レベルアップにより上昇した身体能力の前ではかすり傷にすらならない。
「なるほどねー、随分と僕も人間離れしたもんだ。で、まだやる?」
この台詞一度言ってみたかったのは内緒。
「て、てめぇ!! この隠キャ如きが舐めやっがって!! みんなでやっちまえ!!!」
バットが効かない時点で諦めればいいものを。一度下に見た人間に見下されるのは彼らのプライド的に許せないのだろう。アホくせぇ。
「ものそっっっっっい手加減した普通のパンチ!!」
「「「「は?」」」」
グシャと拳が顔に食い込む不快音。我慢できず手を出してしまった。ま、いっか。
我慢できなかったとはいえ、一応手加減はしたつもりだ。普通に殴ったら死んでしまうので蚊が止まるレベルの速度で繰り出したパンチ。しかし、ただそれだけでも思いっ切り吹き飛んだし、前歯も数本折れていた。
「お、おい!? う、嘘だろ……!? 巫山戯てないで早く立ち上がれよ!!」
反応は皆無。そりゃ気絶しているからね。
しかし、かなり手加減したのに前歯が折れちゃうか。しかもよくよく見たらピクピクと痙攣してるし。あっちゃーこれやりすぎたっぽい。
明らかにオーバーキルです、本当にありがとうございました。
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