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第11話 この世界に今、警察がろくに機能していなくて本当に良かったと思った件について

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 目の前には物心ついた時から知っているというか、恐らくホクロの数すら把握している幼馴染がいた。
 え、こんなに早く見つかっても良いものなの? とご都合展開すぎて疑問に思わなくもないが目の前にいるのだから致し方ない。

 ナチュラルボブに切り揃えられてうっすらと桃色が混ざる髪や精巧に作られた人形のように白い肌。クリクリとしたまあるい瞳に、これでもかと存在を主張する涙袋。その全てが彼女が僕の幼馴染だと確信させる。


「陽乃!! 良かった……無事で本当に良かったよ」


 我に帰ると僕は恥も外聞もなく、無意識的に抱きついていた。

 思春期的で複雑な事情が絡み疎遠になっていた幼馴染だったが、こうして目の前にするとそんな些細な事は跡形もなく消し飛んでしまった。ただただ彼女が生きてくれていて嬉しかったのだ。……なので何の恥じらいもなく勢いよく抱きついてしまったが、思春期特有の下心は無いとここに表明しておく。ほんとだよ?


「わぁお!」 
「お前!? まさか彼氏とかいたのかよ!?」 
「ゆーちゃん凄ーい!!」

 あ。我に帰って冷静に考えるととんでもないことに気づく。
 やべーよ、感極まって抱きついちゃったけど他に人がいたわ。

「ね、ねぇ陽……」
「い、いやあああああーーー!!!」
「え?」

 唐突に叫ばれたと思ったら、思いっきり引き剥がされ、そして思いっきりビンタされた。

 無駄に強化されたステータスのおかげで痛くは無いけど、状況に思考が追いつかない。幼馴染の陽乃とは確かに疎遠となっていたが、この程度のスキンシップで叫ばれるような関係ではなかったはずだ。

「き、急に何するんですか!! ひ、人違いです!!」
「え、何言ってるのさ。しばらく会っていないから分からないかもしれないけど僕だよ陽乃、幼馴染の北原ムンクだよ!」

 人違い?

 何言っているんだ。どこからどう見ても幼馴染の陽乃じゃないか。ほんと何言っているんだよ。

「だから私は陽乃じゃなくて! 冬雪ふゆです! 愛贄あいさい冬雪ふゆです!! 人違いですよ!!! 」

 ………………え?

「まじで……?」

 自分でも気持ち悪いと思うほどオロオロしながら首を忙しなく回す。
 目の前にいる彼女はキッと僕を睨みつけ、他の面々は気不味そうにコクリと小さく頷いた。

 え、まさかの人違い……?

 どこからどう見ても幼馴染なのだが、そっくりさんらしい。ドッペルゲンガー顔負けって感じだし、そっくりなんてレベルじゃねーぞ! 何たるハニトラだ。

 しかも、感極まって抱きついちゃったよ。これやばない?

 状況を理解すると自分の顔からみるみる血の気が引いていくのが分かる。

「すいませんっしたーーーーーーーー!!!!!」

 とりあえず、なり振り構わず光速で渾身の土下座をぶちかました。これで許してもらえるとは思わないがとにかく土下座する以外の選択肢が存在しない。こっそりと心の中で本音を言えば今、この世界で警察が機能していなくて命拾いをしたと思ったね。



 ◆


「まぁまぁ、ゆーちゃん人違いだったんだから許してあげなよ~」
「知りませんっ! 先輩だって知らない人にいきなり抱きつかれたらそんな事言えませんよ!!」

 目の前でそっくりさんはプチプリと怒りマークを額に浮かべていた。あの後、土下座を一○分以上続けて事なきを得たが今だに彼女の僕に対する視線は厳しい。
 まぁ、勘違いした僕が全面的に悪いんだけど何というかフワッフワッした感じになってどうしていいか分からないね。

「はい、お水」
「え、あ、はい」

 中でもおっとりとした少女がニッコリと笑みを向けてきた。
 当然、隠キャの中の隠キャである僕は、隠キャオタク特有のキモいきょどり方をしてしまうことになる。この前のオタクに優しいギャルさんならいざ知れず、目の前の純正美少女の前ではこうなるのも致し方ない。やめろそんな柔らかい笑みを向けるな。オタクはちょろいからすぐ惚れちゃうんだぞ。

「ともかくご飯でも如何かしら。外から来たのだからお腹空いているでしょう?」
「へへ、お前幸運だな。アリアさんのカレーは絶品だぞー!」
「フフフ、沢山食べていいわよ」

 そんな僕の心境などお構いなしで彼女は柔らかい笑みを浮かべる。その上この状況でご飯まで恵んでくれるとか天使かよ。
 しかし言われてみればもう夕方を過ぎているし、お腹は空いていた。人に言われると急にお腹が空くこの現象は何なんでしょうね。
 僕にはインベントリがあるので正直に言えば食料に困ってはいないのだが、ここは好意に甘えることにした。

 ちなみに献立は野菜中心のカレーライスで大変美味でした。


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