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5│チェシア・ペンドラ

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 ピンク色の瞳を楽しそうに歪ませたチェシアは俺のベッドの上に寝転んでいる。

「……いや、いい。自分で考えるから。それよりも、いつの間にか俺の部屋にいるし……」
「殿下の部屋に座標指定してるから何時でも来れる」

 チェシアは魔導士でもある。だが、小説内ではチェシアはデリアの為だけに動く男だったはずだ。そんな男が俺に構う理由が分からない。 

(まさか、俺の事を気に入っているとか?…まさか…それは無いな)
 
 チェシアは目的のためなら死も厭わない。彼の行動原理はただ一つ、自分が幸せになるためだけにある。俺を気に入るはずがない。

「ねぇ、殿下。僕はさ、あなたに興味があるんだよね。例えば…どうして僕と目を合わせてくれないんだろう?何が好きで何が嫌いなんだろう?とか。殿下を見る度思うんだ」
「お前と目を合わせた瞬間に、とんでもない事に巻き込まれそうな気がするから」

 ふふっ、とチェシアは声を出して笑う。この姿は年相応の青年と言ったところだろうか。いつもの淫魔のような魅惑的な笑みは薄れている。

「……心外だなぁ。ちょっと僕のこと信用しなさすぎじゃない?」
「今までの自分の行動を振り返ってみろ」

「あははっ!確かにそうだね。殿下の言う通りだ。じゃあさ、ひとつゲームをしよう。負けた方が勝った方のいうことを何でも聞くっていうのはどうかな?」
「……俺、今人生最大のピンチを迎えてるんだけど」

「だから面白いんじゃん。あ、もちろん殺し合いとかそういうのは無しだから安心してよ。それに、この国の皇子様が負けるわけ無いでしょ?」
「……それは、どういう意味だ?」

「第三皇子は異能が皆無だって聞いてるけど?」
「……まあ、その通りだけど。それが何か?」
「いや、何も?」

 ニヤリと口角を上げたチェシアはゆっくりと起き上がると、俺の胸ぐらを掴んでベットへ引き寄せる。
 俺はバランスを崩して、チェシアに覆い被さるような形で倒れ込んでしまった。

「ちょ、お前なにす──」
「ねぇ、ユディル」
 
 俺は至近距離でチェシアと見つめ合う。彼のピンクサファイア色の瞳が妖しく光った。

「今ここで僕が騒げば、人が沢山集まってくるだろうね」
 
 チェシアは男女問わず人気者だ。そんな彼が悲鳴を上げれば、人はこぞってここに集まるだろう。

(……こいつは何を考えている?)

「このままじゃ、第三皇子は男色家でチェシア・ペンドラを襲った、なんて噂が流れるかも」
「お前……俺にどうしろと」
「僕の遊び相手になってよ。大丈夫、悪いようにはしないから」

 彼の顔の真横につかれた俺の手にチェシアは触れると目を細めて微笑む。
 俺は諦めた。チェシアには何を言っても無駄だ。
 俺はチェシアの手を振り払うと、身体を起こしてため息をつく。

「分かったよ。付き合えばいいんだろ」

 俺の言葉を聞いたチェシアは満面の笑みを浮かべた。

「さすが殿下。話がわかる~」

 それから、チェシアと俺は一緒に行動することが多くなった。
 俺はチェシアと共にいることが多い。というのも、チェシアは俺とゼロの隠れ蓑となってくれることを自ら出てくれたのだ。
 チェシアの方から皇室にゼロは護衛ではなく、チェシアが本物の俺の護衛で、チェシアはペンドラ家の後継者の為事実で契約することが出来ないという出任せな理由を作った。

「なんで、あいつの肩を持つの?殿下には僕が居るのに」
「いや、別に肩を持ってるつもりはないけど」
「殿下、あの男、絶対に殿下のこと狙っているよ。危険すぎる」
「……ゼロは俺にそんな感情を抱いていないと思うけど?」
そういうとチェシアは頬をぷくっと膨らませる。
「僕には分かるもん」
「分かるものか。お前の直感は当てにならない」

 ゼロからの視線が熱を帯びていることには気づいていたが、まさかそれが恋慕だと誰が思うだろうか。
 ゼロは未だに俺に対して敬語を使うし、専属騎士としては申し分ない働きをしているとは思う。
 しかし、それだけだ。ゼロは俺に対する好意を一切見せないし、俺もそんなゼロに対しては特別な思いを抱くことはない。

「絶対にそんなはずは無い……」
「まだ言ってるの?」

 今日も今日とてチェシアは俺の部屋に入り浸り、俺の隣で文句を言う。ちなみに今は午後の授業終わりの放課後である。

「僕は認めない。あんな奴。大体あいつは顔が良くても、性格は最悪だよ」
「俺にとってはいい騎士だ」
「どこが良いのさ!僕の方が良い騎士になれるし、僕の方が殿下の事をちゃんと考えているよ」
「そうだな。でも、俺は彼じゃないとダメなんだ」

 チェシアは眉間にシワを寄せて、不機嫌そうな表情を隠そうともせず俺に詰め寄る。

「どうして?僕じゃなくてアイツを選ぶの?僕は公爵家なのに!こんなに殿下の事を考えてるのに!どうして僕を選んでくれないの?僕なら殿下に寂しい思いをさせない。僕は殿下と一緒に居たいんだ。ねぇ、どうして僕じゃダメなの?僕を見て?僕を愛玩動物のように扱って良いんだよ?僕なら殿下を幸せにしてあげられる」

 チェシアの本音がドロドロと吐き出される。
 俺は彼の手を掴むと、真剣な眼差しを向ける。

「……どうしてお前は俺に執着するんだ?」

 チェシアは不意を突かれたように、目をまん丸にして俺を見た。

「どうして?……どうして……僕は……分からない。分からないんだ。僕はどうして殿下に惹かれているんだろう。僕にもそれが分からない。けれど、殿下の側にいたいし、殿下に触れて欲しいし、殿下の声が聞きたい。殿下が笑うのを側で見ていたい。殿下が、他の人と話しているのを見ると、胸の奥がチクチクするし、殿下の事が知りたくなって……殿下の全部を知りたくなっちゃう。おかしいよね」
 
 そう言ったチェシアの瞳は切なげに揺れていた。彼は自分の胸元をぎゅっと握りしめている。

(なんで……)

 俺の心臓がバクバクと音を立てる。
 いつもは人を喰ったような笑みを浮かべているチェシアが俺の前でだけ違う一面を見せる。

 チェシアの気持ちを、言葉を、表情を目の当たりにした俺は──。
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