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「デートがしたい。」
夕食中、ふいにディアスがそんなことを言い出した。
「いいね。僕も行きたいな。どこに行く?」
「学生街に行かないか?」

学生街とはこの学園のそばに広がる街のことだ。この学園の生徒は自立を強制されるので、寮に行商を呼んだりすることはできない。代わりに学生たちは学生街で買い物を済ませたりするのだ。学生街には古本屋から流行りのスイーツの店まで若者が好みそうなものは全て並んでいる。しかし、シルヴィンは行ったことはなかった。授業に加えて王妃教育もあり忙しかったのもあるし、物欲があまりないというのも関係していた。しかし、何よりも家で人目を気にせずディアスといちゃつきたいという思いが大きかった。大抵は実家から持ってきたもので済ませてしまう。

「いいね、行ったことないから行ってみたい!でも珍しいね、ディーが賑やかな所に行きたいなんて。人の多いところはあんまり好きじゃないでしょ?」
「そうなんだが…、デレクが言ってたんだ。美味しいスイーツの店があると。シルは甘いものには目がないだろ?だから一緒に食べたいと思って。」
「美味しいスイーツの店?すっごく楽しみ!早く行きたいな」
シルヴィンは目を輝かせる。
週末が待ち遠しい。


一応お忍びデートということでシルヴィンもディアスも地味目の服装をしている。白いブラウスに茶色いベスト、焦茶のパンツ。しかし、ディアスから漂う気品が只者でないことを示している。スラリと伸びた体躯はなんでもよく着こなしてしまう。一方のシルヴィンは地味な見た目も相まって人混みに簡単に紛れられそうだ。

「その格好も可愛いな。」
しかしディアスにとってはシルヴィンがどんな格好だろうと好意的に映ってしまうようだ。


パステルカラーで彩られた可愛らしいパティスリーに入る。
店員にディアスが何やら話しかけると、シルヴィンたちは2階の誰もいない部屋へと通された。

「とりあえずマカロンと、フィナンシェと、ガトーショコラにしようかな!」
「そんなに食べて大丈夫か?」
「甘いものは別腹って言うでしょ。」
「別腹どころの騒ぎじゃない気がするんだが…。俺はアップルパイとカプチーノにしよう。シルも一緒に食べよう。」
「いいの?嬉しい!」

シルヴィンは甘いものには目がない。食べ物のこととなるとテンションが上がってしまう。
口いっぱいに頬張る姿はリスを連想させた。

ディアスは一口に切ったアップルケーキをシルヴィンの口元に寄せる。
「あーん」
「美味しい!もう一口ちょうだい」
「口元にクリームがついてるぞ。」
ディアスはシルヴィンの口元にキスをする。
「えへへ。ありがとう」

その上がったテンションに乗じてちゃっかりイチャつくディアスだった。


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