職業魔王ーー只今、封印され中

神尾優

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第1章 貧弱だよ乳児編

第4話 言葉、ライト

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   俺の名はセリウス・ファルマー。ただ今、打ちしだかれている者。生後、三百二十日程だ。
   猫との死闘すら満足に出来ない自分に、最近ちょっと落ち込んでいる。
   まあ、弱いことは知っていたが、まさか猫すらも撃退出来ないとは……
   ということで、そんな惨めな思いを二度としない為に、今日もめげずに訓練に励むことにする。
   今、訓練しているのは、足腰の強化の為のあんよと、喋ることだ。特に、魔法名すら言えんこの口は早く何とかしなければ。

「あー、うー……だうー……」
「あらー、セー君、今日も元気でちゅねー」

   俺が喋る訓練をしていると、母が部屋に入って来て俺を抱き上げた。
   むう、喋る訓練に集中したいのだが邪魔が入ったか……いや、待てよ。言葉を喋るよりも、名前を言う方が難易度が低いのではないだろうか。うむ、きっとそうだろう。ならば、母と呼んでみるか。

「は、は……は、は……」
「ん?   どうしたのセー君。もしかして、ママを呼んでるのかな?   だったらセー君、は、じゃなくてママよママ」

   うーむ、母は母という呼び方は気に入らないらしい。仕方がない……

「ま……ま……マーマ」
「セー君!   ママを呼んでくれたのね。偉いわー」

   母は喜んで俺に頬ずりしてくる。
   うん、意思の疎通が出来るくらいの発音は何とか手に入れたようだ。後はこれを発展させていき、何とか魔法名くらいは……
   母に頬ずりされながら、俺は新たな野望に燃えるのだった。



   ーーーーーーーー


   俺の名はセリウス・ファルマー。自身の成長に喜びを感じている者。生後、三百二十五日程だ。
   五日前に他者との会話ができる程の語学力を得た俺は、それからも喋る訓練は欠かしていない。昼はママと連呼し、夜はパパと連呼し続けた。
   その結果、父と母からは「偉いぞー」「セー君は天才でちゅねー」などと必要以上に構われ、一人の時間が殆ど無くなってしまった。
   はっきり言って訓練がやり辛い。が、お昼寝の時間は流石に違う。
   語学力を高めた俺は、一人になるこの時を待っていたのだ。

「くーうるー、ひゃーうー……」

   期待を込めながらゆっくりと慎重に口を開いてみたが、俺の口から出たのは、意味不明な言葉。
   暗きこの場に光を!   何故こんな簡単な呪文が出てこない!
   くう~、文章を口にするのは、今の俺でも無理だというのか!   だったら……

「ら……らりゅー……ら……らい……らいちゅっ……ら……らい……らいと……」

   い……言えた。かなりの集中力を必要とするが何とか、短い単語なら口にできる。
   ならば、覚悟を決めるしかあるまい。かつては尻込みして実行しなかった、スキルの取得を!
   【詠唱破棄】というスキルがある。呪文なしで魔法名だけで魔法を発動出来るというスキルだが、その代わり、魔法の発動には呪文を唱えた時の二倍の魔力を必要とする。
   魔法名すら言う必要のない、転生の秘術を使った時に用いた【無詠唱】というスキルもあるのだが、それは必要魔力が五倍にもなってしまうので魔力ゴミのこの身体で取得するには、あまりにも恐ろしすぎる。
   必要魔力二倍の【詠唱破棄】もちょっと躊躇してしまうが、なーに、ライトを発動させて魔力の底上げに使うだけだ。多分大丈夫だろう。
   意を決し、俺は目を瞑り魂で繋がった元の身体を意識する。
   むっ、これか……
   俺の瞑った目の前には、暗闇の中に煌めく無数の光が見えた。この夜空の綺羅星が如き光の一つ一つが、俺が持っていたスキルである。
   うーん、数が多いな、いくつ持ってたっけスキル。百から先は数えてなかったからな。
   えーと、【詠唱破棄】はっと……これだな。
   数々のスキルの中から、【詠唱破棄】を見つけ出しこちらの身体へと引っ張り込む。
   ん、何とかスキルが馴染んだな。ではとーー

「ら、いと」

   舌ったらずな言葉で何とか魔法を発動。すると、前にかざしていた俺の手のひらの先に、光の玉が現れる。昼間のせいで光は見え辛い。夜の方が効果が分かりやすい魔法ではあるが、夜は父と母に挟まれて寝る為、バレる可能性があるのでやるわけにはいかない。
   夜な夜な魔法を使う乳児なんて、怖いだろ。その辺の社交性は踏まえているつもりだ……と、何だ?   頭がクラクラする。これは……もしかして魔力欠乏か?   
   嘘だろ、【詠唱破棄】を使用してるから必要魔力は二倍になってるとは言え、ライトだぞライト!   こんな魔法二回分なんかで、俺の魔力は空になるのか?   ありえねぇ……
   魔力欠乏の脱力感に負けて、座っていた俺の身体はベッドの上に倒れこむ。
   そしてそのまま、俺は失神するのだった。 
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