理不尽な異世界への最弱勇者のチートな抵抗

神尾優

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第4章 超越者の門出編

第89話 洗脳薬……本当に血繋がってます?

   
   
   
   
「では、お伺いしますが、戦争を回避する事は出来ないのですか?」

   俺の質問に、レクリス卿は渋面を更に深める。

「宰相は大分前から貴族達に根回ししておってのお。今じゃ、賛成派が大部分を占めております。それに、三日後には増強した竜騎士隊のお披露目も決まっおりまして、それが終われば開戦ムードは一気に高まる事でしょう」
「竜騎士隊のお披露目……それは例の薬を使ったワイバーン達のお披露目ですか?」

   俺がそう聞くと、レリクス卿の目が怪しく光る。

「くっくっくっ、流石は博貴殿。薬の情報まで知っていましたか」

   まるで悪の親玉の様に悪い顔で笑うレリクス卿。
   いやいや、その顔で笑われたら怖いって……

「博貴殿の言う通り、宰相はワイバーンの成長を早める薬と洗脳する薬を使い、二十騎だった竜騎士隊を五十騎まで増やしております」

   あっ、ワイバーンに使った薬って二種類だったんだ、かなねぇの言い方だと一種類だと思ってたんだけど。だとすると、レリクス卿が手に入れたのは……聞いた方が早いか。

「で?   レリクス卿はどちらの薬を入手なさったんで?」
「ふふふっ、はっはっはっ、いやはや、そこまで分かっておりましましたか」

   俺の問い掛けに爆笑するレリクス卿。どうでも良いけどこの爺さん、笑うと凶悪さが増すからやめて欲しい。

「博貴殿の言う通り、儂は洗脳薬を五本入手しましたのじゃ」
「ほう、洗脳薬の方を……」
「この薬が人にも効くのか気になりましてのぉ。罪人で試したところ、原液で投与した者は薬が強かったのか発狂死。薄めて投与しても、自我崩壊で廃人という結果でして」

   ……薬の成分を調べる前に人体実験したのか、この爺さん。確かに成分を調べたからといって効果が解るわけじゃないから、手っ取り早いといえば手っ取り早いけど……罪人を準備した時点で宰相に気付かれるよな?   もしかして、開戦を止めようとして焦ったか?

「すると、残りの薬は三本ですか」
「うむ。今、その成分を調べておるのですが、なかなか作業がはかどらなくて……」
「申し訳ないですが、一本いただいてもいいですか?」

   俺の申し出に、レリクス卿は目を見開いてこちらをガン見する。

「博貴殿は薬剤師のスキルもお持ちで?」
「さぁ?   持っているのは知り合いかも知れませんよ」

   俺がとぼけて見せると、レリクス卿は愉快そうに凶悪な笑みを浮かべる。

「くっくっくっ、成る程、その辺の詮索は止めておきましょうかのお」
「そうしてもらうと助かります。で?   お譲りいただけるので?」
「いいでしょう。では、一本お譲りしましょう」

   レリクス卿はそう言うと、机の上に置いてあった手の平サイズの通信球を手に取り、何やら話し始める。

「今、地下の研究室から持って来させますのじゃ」

   通信を終えそう言うレリクス卿に、俺は薬が来るまでの時間繋ぎにと話を振る。

「ところで、戦争相手はやはり『水の国』ですか?」
「うむ、宰相は公言こそしとりませんが、そうなるでしょうな」
「それはやっぱり勇者の力量差を見抜いての事ですか?」
「くっくっくっ、博貴殿は本当に情報が豊富じゃのう。情報源はギルド……いや、その詮索も止めておこうかの」
「そうして下さい」
「歳を取るとどうしても詮索癖がついていかん。それで、勇者の力量差でしたかな……確かに、宰相は影で『水の国』の勇者は低レベルだと話ておりました。それが確かな情報なのか、それとも推測なのかは分かりませんがのお」

   ふむ、やっぱり宰相は『水の国』の勇者が弱いと踏んでるのか……

   ーーコンコン

   宰相の狙っている国の確認が取れたところで、ドアがノックされた。

「誰じゃ?」
「ニクステスです」

   レリクス卿の短い問い掛けに、ドアの向こうから男の声が返ってくる。俺がレリクス卿の方を見ると、卿は『息子ですじゃ』とドアの向こうにいる人物の説明をし、ニクステスさんに入るように言葉をかける。

「失礼します」

   涼やかな声でそう断りを入れて入ってきたのは、物腰が柔らかく優しそうな四十代半ばのおじさん。
   えっ……この人がレリクス卿の息子?   この無害そうなおじさんが、外見悪党丸出しのレリクス卿の息子!?

「婿養子ですか?」

   思わず口をついて出た疑問に、レリクス卿はキョトンとし、ニクステスさんはクスクスと声を殺して笑っていた。

「いや、実の息子じゃが、何故そのような事を?」
「いやー、あまり似てなかったものでつい……」
「似てないですかのお……儂の若い頃にそっくりなんじゃが」
「「えっ!」」

   レリクス卿の発言に俺は勿論、初耳だったのかニクステスさんもビックリして声を上げる。そして、思わず互いに見合ってしまった。

「あっ、挨拶がまだでしたね。お客様がお見えになっていたとは知らなかったもので。私はニクステス・レリクスです」
「俺は博貴です。肩書きは……冒険者でしょうかね」

   ニクステスさんがにこやかに挨拶をしながら右手を差し出してきたので、俺は挨拶を交わしながら右手を握ったのだが、ニクステスさんは俺の自己紹介を聞いて驚いた表情を浮かべる。

「冒険者ですか?   まさか父上の知り合いに冒険者がいたとは……いや、それよりも父上が冒険者に丁寧な言葉遣いを使っているのにビックリしました」

   本当に驚いた様子のニクステスさん。
   確かにそうだよね。よく考えたら、国の重鎮が冒険者に敬語を使うなんて本来あり得る訳が無い。

「ふん。博貴殿は儂の恩人じゃからいいんじゃよ。それよりも例の物は持ってきたか?」
「あ、はい。これです」

   ニクステスさんはそう言って十五センチ程の焼き物の小瓶を出してくる。
   レリクス卿はニクステスさんの出した小瓶を受け取ると、俺に差し出した。

「博貴殿がこれをどの様に活用するのかは分かりませんが、どうにかするつもりならお早めに……でなければ取り返しのつかぬ事態になるかもしれませんぞ」
「分かってます。出来ればお披露目までにはどうにかするつもりなんで」

   薬を受け取り、俺はレリクス卿に向かってニヤリと笑って見せる。

「くっくっくっ、それは楽しみですな」

   レリクス卿も俺が何かするつもりなのだと気付き、極悪な笑みを浮かべた。

「では、失礼します」

   時間はあまり無い。俺は少しでも時間を短縮しようと、レリクス卿に頭を下げ、部屋を出てドアを閉めた瞬間に時空間転移を使用する。行き先は昨夜ポインターを設置しておいた、ギルド内の俺の部屋。
   さて、忙しくなりそうだ。
   
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