メモリーピース ~最強チート彼と探し旅~

飛燕 つばさ

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9話 予感

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 私は、この地に足を踏み入れた理由を胸の奥に秘めていた。

 それは…失われた、大切な人を見つけ出すため。

 旅を始めた当初から、仲間など必要ないと心に決めていた。

 孤独の方が効率的で、自分の目的に寄与する者などいないと信じていたからだ。だが、この考えが覆される瞬間が訪れた。
 
 この地で出会った一人の女性、シルファ──。彼女は私にとって、最初の「仲間」となった。

 それは偶然の出会いだった。
 
 荒野の中、彼女は20名以上の盗賊に囲まれていた。助ける理由などないと思いながらも、身体が反射的に動いていた。あの瞬間、思考を越えた何かが私を突き動かしていた。
  
 盗賊たちを軽くあしらい、彼女を解放した後、私は立ち去ろうとした。深く関われば厄介事を抱え込む──そう確信していたからだ。

 しかし、彼女のステータスに目をやった瞬間、言葉を失った。

 確かに、彼女は弱かった。盗賊相手に太刀打ちできないのも、至極当然のことだ。

 だが、その背後に潜む「加護」の力が、どうしても目を引いた。

 それでも、この人物が、であるはずがない。

 何故なら、彼女にはだと断定する決定的な情報が欠けていたからだ。

 それでもなお、胸の奥底で不思議な感覚が芽生えていた。それは、否定しようにも拭い去ることができない、かすかな予感だった。
  
 何故だろう。この人を見捨てることができない──そう感じたのだ。彼女が自分の過去と繋がりのある人物なのか、それとも…。

 私は彼女の申し出を受け入れ、同行を許すことにした。  自分でも、実に珍しい選択だった。

 旅を続ける中で、彼女は成長を遂げていった。頼まれた特訓を通じて、彼女は眠れる素養を目覚めさせたのだ。

 それまで自身の力を正しく理解していなかったため、才能を活かせていなかったのだが、適正のある方向へ導いたことで見違えるような進歩を見せた。

 これからも、彼女の可能性は更に広がっていくだろう。とても興味深い。

 ミッドワンの街では収穫はなく、次の街、ルーニェへと足を運んだ。
   
   * * *
 
「あの人」を見つけ出す──それが私の旅の唯一の目的だ。

 人探しには、シルファ君に助力を求めるつもりはない。情報収集は効率を重視して行うべきだし、私一人でこそ成し遂げられることもある。

 それに──彼女を私の個人的な目的に巻き込むことなど、到底忍びないと思うからだ。

 ルーニェの街は、多種族が交わる繁華な地だった。市場に溢れる香辛料の香り、通りを行き交う様々なの装いの者たち──その一つ一つがこの地の混沌とした活気を象徴している。

 だが、その賑わいの裏側に漂う影も見逃してはならない。私はこの街の片隅で、情報を求め歩いた。

「んー。そんな人は知らんな。」
「聞いたことないわよ。」
「じーさんが昔、似たような話をしてた気がするが…。うーん、やっぱり違うかもな。」
「もっと南のバーシュタインって都市に行けば分かるかもしれないぞ。」
「関係ないかも知れんが、暗殺者ギルドの連中を見かけたぞ。命が惜しければ、奴らには関わるなよ。」

 途切れ途切れの噂や無責任な推測──そういった情報を掻き集める日々が続いた。それでも、確かな手がかりは見つからなかった。

 二日間で得た収穫は微々たるもの。もう少し調査したら移動しようか。話で聞いた都市、バーシュタインに向かうのもいいだろう。旅人とはそういうものだ。

 その時だった。近くを歩く獣人たちが声をひそめた。

「おい、喧嘩だってよ。」
「おう、見に行こうぜ。」

 その会話に耳を傾けながら、私は立ち止まった。喧嘩か──私には関係ないことだ。

 そう自分に言い聞かせ、踵を返そうとしたその瞬間、胸の奥で不意に小さな違和感がよぎる。

「まさか…。」

 まるで未知の力に背中を押されるように、私は獣人たちの後を追い始めた。

   * * *
 
 裏通りに足を踏み入れると、大通りの喧騒が遠ざかり、荒廃した景観が現れた。

 空気は重く、路地の奥にはかつて繁栄していたであろう街並みが寂しく佇んでいる。その中で──私は知った顔を見つけた。

 シルファ君だ。

 彼女の周囲には数人の男女が倒れていた。

 見覚えのある顔だ。シルファ君の元仲間、アカシアの連中だ。恐らく彼女に何らかの言いがかりをつけ、襲いかかったのだろう。だが、その結果は彼らの無様な姿が物語っている。

 彼女の力は、訓練の成果を見事に示していた。奴ら程度を相手にするのに、苦労はないだろう。

 しかし、彼女を取り巻く場には、さらに見知らぬ者たちが立っていた。猫人の女性と、筋骨隆々たる男性──どちらも一筋縄ではいかなそうだ。

「ふーん。そういうことか。」

 彼らの情報を鑑定すると同時に、シルファ君を取り巻く状況が次第に明瞭になった。

 再び未知の者たちと交錯する予感に、私の中の緊張が静かに高まっていく──。
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