メモリーピース ~最強チート彼と探し旅~

飛燕 つばさ

文字の大きさ
8 / 53

8話 受難

しおりを挟む
「…あなたたち、なんでここに?」

 ルーニェの裏通り。猫人の女性に声をかけられ、導かれるまま足を踏み入れた先──そこには、かつて私を見捨てたアカシアのパーティ、全員が揃っていた。

「やっぱり鈍いわねぇ。」
 
 ケイラが薄笑いを浮かべる。

「あんたをここに引きずり出すために、わざわざ仕組んだのよ。」

 その瞳は氷のように冷たく、見下ろすような視線が痛い。口元には、あざけるような笑み。

「何の用かしら?あなたたちとは、ギルドでの話し合いで解決したはずよ!」

「それは盗賊依頼の話だろうが!俺たちは、そっから先の話をしてんだよ。」

 ドクスンが唸るように言い、すぐさまミケラとホリーが畳みかける。

「あんたとあの眼鏡野郎のせいで、私たちは全部失ったのよ!」
「お前がいなきゃ、今頃Cランク昇格も夢じゃなかったってのに、足引っ張りやがって!」

 三人の怒気に満ちた視線が突き刺さる。空気が重くなっていく。息をするのも忘れるほどの緊迫感。

 けれど私は、もう黙ってやられるつもりはなかった。

「それは自業自得よ。自分たちがしたことに責任を持つべきだわ!」

 吐き出すように声を張る。

 でも、それはさらに油を注ぐだけだった。

「ふーん?ちょっとは口が達者になったじゃない。でもね──」
 
 ケイラの目が鋭く細まる。

「あんたみたいな小物がどれだけ粋がったところで、その程度の弱さじゃ話にならねぇんだよ!」

 彼女の怒声に屈せず、私は一歩踏み出す。胸の奥から、熱が湧き上がった。

「確かに、私は弱かった。だからこそ、あんたたちはその弱みにつけこんで私に酷い仕打ちをした。でも、あの頃の私とはもう違う!」

 声に力を込める。過去の私が、今の私を見上げるように。

 ──レオさんと出会って、私は自分の未知なる力を知った。
 
 彼の鍛錬が、私に生きる覚悟と自信をくれた。

 逃げない。もう、あの頃の私じゃない。

「生意気な口を叩くじゃない。じゃあ、その成長ぶりを見せてみなさいよ!」

 ミケラが、風を切る鋭い音と共に剣を抜いた。

 刃が空気を裂いた瞬間、裏通りの空気が一変する。他の仲間たちも次々と武器を構え、一帯は静かな戦場と化した。

「シルファ、今さら許しを請っても許さないわよ!地獄を見せてあげるわ!」

 ケイラの杖に集まる魔力が、眩い閃光となって弾ける。ピリついた緊張が肌を刺し、影が踊る。

「はぁ…やだやだ。」

 私は嘆息しながらナイフを構える。逃げ場はない。選択肢はただ一つ──戦うのみ。

 ケイラの杖が唸り、火球が生成される。真紅のエネルギーは一直線に私へと飛来した。

「遅いわ!」

 足に神経を集中し、私は一気に横へ飛び退いた。

 火球は空を裂き、地面へ激突。爆炎が路地を焦がす。

「避けた!?シルファのくせに…舐めんなッ!」

 ミケラが叫び、間髪入れずに突撃してくる。剣を高く掲げ、上段からの渾身の一撃。

 だが、その動きは直線的。私は体をひねって剣をかわし、彼女の勢いを利用して逆に回り込む。

「まだよ!」

 ミケラは即座に横斬りを放つ。反応は速い──だが。

「甘い!」

 私はしゃがみ込み、刃の軌道を見極めながらナイフの柄を剣の腹へ叩きつけた。

 金属が鳴り、ミケラの剣が軌道を外れる。バランスを崩した彼女に、私は拳を握って突き出す。

「やぁぁぁ!!」

『ズドン!』

「うぐぅぅぅ!」

 拳がミケラの脇腹に沈み、呻き声とともに彼女の意識は暗転し、地面に崩れ落ちた。

「ミケラァ!! てめぇ、シルファァ!」

 ドクスンが剣を振り上げ、怒りに任せて振り下ろす。

 だがその一撃は大振り。軌道は単純すぎた。

「そんな大振りじゃあ、当たらないわよ?」

「うるせぇ!このアマァ!」

 怒気に顔を赤らめたドクスンが再び突進。だが、その背後──

「背中がら空きだぞ。もらった!」

 シーフのホリーが背後から迫ってきた。ナイフが閃き、私の背を狙う。

「…それ、前にもあったわね。思い出したわ。あなたたちに裏切られて盗賊にやられた時だったわ。」

 私の目が細まり、冷たく笑う。

 気配を察知していた私は、刃をギリギリで受け流す。

「な、なんで!?雑魚のくせに…いつの間に。」

 ホリーは予想外な出来事に目を丸くして固まった。

「『気配察知』よ。レオのお陰で能力が目覚めたの。ついでに、こちらも見せてあげるわ。」

 私はすっと気配を消す──『隠蔽』のスキルを発動した。ホリーの視線が虚空を泳ぎだす。

「…っ、どこに消えた!?クソがぁぁぁ!!」

「後ろよ。」

 私の声が耳元で囁かれた時にはもう遅い。ホリーの首筋へ、手刀が一閃。

 ホリーは言葉もなく崩れ落ちた。

「嘘だろ…ホリーまで…お前、本当にあのシルファか?」

 ドクスンが一歩、また一歩と後ずさる。

「どうしたの?逃げ腰じゃない?ドクスン。今度はあなたの番よ。」

「うるせぇぇぇ!!」

 怒鳴りながら突撃してくる。だが冷静さを失った攻撃は、もはや脅威ではない。

 私は剣をかわし、彼の前屈みになった体勢へ──

「これで終わりッ!」

 飛び膝蹴りを顎に炸裂させた。

 ドクスンは白目を剥きながら地面に沈んだ。

「ドクスンまで…シルファァァァッ!!殺すッ!!絶対殺す!!ファイアアロー×5ッ!!」

 怒り狂ったケイラが、五本の炎の矢を同時に放つ。通常の火球とは違い、貫通力と速度が段違い。

 その殺気、本気だ──!

「仕方ない!見せてあげる『影結界シャドウシールド!』」

 私は手をかざし、黒い盾を具現化する。闇魔法が炎の矢を受け止め、静かに消し去った。

「な、なに!?私のファイアアローが…それは闇魔法!?なんであんたがそんなの使えるのよ!」

「言ったはずよ。“目覚めた”って。」

「ま、待って──!」

 もはやケイラの声に耳を傾けるつもりはない。

影拘束シャドウバインド!』

 私の影が波打ち、彼女の影と融合していく。次の瞬間、彼女の四肢が暗黒の枷に囚われた。

「くっ……な、なんで動けないのよ!放せっ!」

 もがいても、影の力は離さない。

 私は一歩、また一歩とケイラへ歩み寄る。

「や、やめて…!降参よ、謝るから!だから助けて!!」

 彼女の叫びは、過去の私の叫びと重なる。

「あんた達に裏切られて、盗賊たちに放り込まれた時、私がどんな思いをしたか…わかる?」

「だから、悪かったって…きゃぁぁぁ!!」
 
 そして、私はナイフを振り上げ──彼女の首元、ギリギリで止めた。

 ナイフがわずかに肌を裂き、血が一滴、こぼれ落ちる。

「殺しはしないわ。でも、これで帳消しってわけじゃないから…。」

 ケイラはその場に崩れ落ち、気絶と同時に──失禁していた。

 私は彼らを見下ろし、一瞬だけ立ち止まり、背を向けた。

 だが、そこで──新たな気配。

「にゃはっ、ネーサン、やるじゃん!」 
「ったく、依頼主が雑魚すぎんだろ。冒険者名乗ってんじゃねーよ。」

 路地の向こうに現れたのは、さっき見かけた猫耳の女と、筋骨隆々の大男。

 新たな強敵の登場に、私は再びナイフを握り直した──
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「元」面倒くさがりの異世界無双

空里
ファンタジー
死んでもっと努力すればと後悔していた俺は妖精みたいなやつに転生させられた。話しているうちに名前を忘れてしまったことに気付き、その妖精みたいなやつに名付けられた。 「カイ=マールス」と。 よく分からないまま取りあえず強くなれとのことで訓練を始めるのだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

最強チート承りました。では、我慢はいたしません!

しののめ あき
ファンタジー
神託が下りまして、今日から神の愛し子です!〜最強チート承りました!では、我慢はいたしません!〜 と、いうタイトルで12月8日にアルファポリス様より書籍発売されます! 3万字程の加筆と修正をさせて頂いております。 ぜひ、読んで頂ければ嬉しいです! ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ 非常に申し訳ない… と、言ったのは、立派な白髭の仙人みたいな人だろうか? 色々手違いがあって… と、目を逸らしたのは、そちらのピンク色の髪の女の人だっけ? 代わりにといってはなんだけど… と、眉を下げながら申し訳なさそうな顔をしたのは、手前の黒髪イケメン? 私の周りをぐるっと8人に囲まれて、謝罪を受けている事は分かった。 なんの謝罪だっけ? そして、最後に言われた言葉 どうか、幸せになって(くれ) んん? 弩級最強チート公爵令嬢が爆誕致します。 ※同タイトルの掲載不可との事で、1.2.番外編をまとめる作業をします 完了後、更新開始致しますのでよろしくお願いします

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...