メモリーピース ~最強チート彼と探し旅~

飛燕 つばさ

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29話 王恩

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「まさしく、君たちは我が国の英雄だ。深甚しんじんなる感謝を。」

 重苦しい陰謀の霧が晴れ、光が差し込むように、王宮は久方ぶりの静寂を取り戻した。

 反王政派のクーデターは未然に阻止し、教皇に乗り移っていた邪悪なる悪魔サミュエルも、激闘の末、討伐した。この悪夢のような日々が終焉を迎えたのだ。

 反乱の首謀者である貴族たちは、爵位を剥奪され国外追放となった。

 その命が処刑を免れたのは、レオさんの熱心な弁護によるものだ。この決断は、貴族社会に嵐のような議論を巻き起こすだろう。

 そして今、私とレオさんは王の前に跪き、その功績を称えられている。

 黄金の王座から放たれる声は威厳に満ち、背後には重厚なステンドグラスがその存在をさらに際立たせていた。

「レオ・キサラギ、そしてシルファ。そなたらがこの国を救った英雄として、この称号を授ける。そして、約束通り“メモリーピース記憶の欠片”を授与しよう。」

 王の手に握られているのは、宝石箱にも似た精緻せいちな箱。蓋がゆっくりと開かれると、眩い光が部屋中に広がり、思わず息を飲んだ。

「これは、なんという輝きだ…。」
「まあ!美しい…。」

 その品、“メモリーピース”は、球体を四つに分割したような形状で、琥珀色の輝きを放っていた。

 まるで時の流れを映し出すような透明感があり、その表面には異国の文字がびっしりと刻まれている。

 不思議な魅力を湛えたそれは、異国の遺物とも失われた時代の書物とも異なる、神秘の象徴であった。

「その真の用途は王家ですら解き明かしていない。ただ、古き言い伝えによれば、この存在を知る英雄が国を救った時、これを授けよ、と記されている。」

 王の言葉に、私は胸の内にざわめくものを覚えた。まるで、運命の歯車が見えぬ手によって導かれたかのようだった。

「そなたらは世界を旅し、探し人を見つけることが目的なのだろう?これを携えていくがよい。」

 差し出されたのは王の姿を彫り込んだ白金貨のコインであった。

「これは王国の王家が後ろ盾になるという証だ。何か困難に直面すれば、それを示すがよい。必ず手助けを得られるだろう。」

「深甚なるご配慮に感謝申し上げます。」

 レオさんは王に向かい、礼儀正しく深く頭を垂れた。

 その後、宰相や騎士団長に見送られながら、城を後にする。

 背後に広がる王宮の壮麗さを眺めつつ、胸には新たな旅の鼓動が宿るのを感じた。
 

── 王都ネラン 宿屋サガン ──

 城を後にした私たちは、朗らかな陽気に包まれる王都の街をのんびりと歩き、目的の宿屋へとたどり着いた。

 その宿屋の名は「サガン」。旅人たちの間で美味なる料理が評判となっている場所だ。

 だが空き部屋は一部屋のみとのことで、久方ぶりにレオさんと相部屋をすることになった。

「乾杯!」  
「乾杯!」  

 木製のジョッキが小気味よい音を響かせる。

 久しぶりのエールは喉を滑るように流れ、そのひとときに心の中まで潤った。

「シルファ君、その飲みっぷりは見事だな。」  
「はい! 久々の一杯もそうですが、レオさんとのお酒の席は、特に楽しいですから。」  

 思い返せばここ最近、戦闘や任務続きで杯を交わす機会がなかった。物知りな彼は、いつもお酒の場で興味深い話をしてくれ、それが何よりの楽しみだった。

「レオさん、私はちゃんと成長していますか?」  

 酔った勢いに任せ、気になっていたことを切り出した。  

「ああ…。君の成長ぶりにはいつも目を見張らされるよ。特に覚えの早さと身体能力の向上には驚くばかりだ。」  

 自分でも以前より強くなってきたという実感はあった。それでも、信頼するレオさんから直接評価を聞きたかったのだ。  

「ありがとうございます。これもすべて、レオさんの指導のお陰ですよ。」  

 テーブルに並んだ料理はどれも絶品で、店の評判が偽りないことを実感した。  

「さて、今後については、部屋に戻ったら話そう。」  

 食事を楽しみ尽くした私たちは、夜風を感じながら部屋へ戻る。

   * * *

「さて、本題に入ろうか。」  
「レオさん、その前にお願いがあります。あの、メモリーピースをもう一度見せていただけませんか? 今回の努力の証として、どうしてももう一度見たいんです。」  

「そうだな、分かった。少し待っていてくれ。」  

 レオさんは異空庫から、精緻な彫刻が施された小箱を取り出した。その中からメモリーピースを慎重に取り出し、そっと掌の上に置く。  

「…やっぱり、とても美しいですね!」  

「触ってみるかね?」  

「ぜひ!」  

 彼の手から私の手へと、メモリーピースが渡された。その瞬間──。

「あっ…。」

 突如として脳裏に黒髪の少女の姿が映し出された気がした。だが、自分の記憶を遡る限り、その人物に心当たりはなかった。  

「あれ…何だか…」

 同時に、鋭い眩暈が私を襲った。

 足元から全てが崩れるような感覚に耐えきれず、倒れ込んでしまう。

「おい!シルファ君!どうした?しっかりしろ!」 

 彼の声が微かに響いた刹那、私は深い闇へと静かに引きずり込まれていった。

 いったい、私の身に何が起こったのだろうか…?
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