メモリーピース ~最強チート彼と探し旅~

飛燕 つばさ

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47話 飛船

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── 獣王国 港町フリーゼ ──

 ──ところで、飛空船はどうしたのだろう?

「レオさん? 飛空船はどうなったんですか? ここ、フリーゼにいるってことは…船で亜人の大陸に向かうつもりなんですか?」

 私たちは次の目的地として「亜人の大陸」を目指し、獣都ガンザシードを後にした。

 だが、レオさんが進めていたはずの飛空船計画は、その後一向に話題に上がらず、私たちはバイクで王国の最果て、港町フリーゼに辿り着いていた。

 果たして、空を飛ぶ夢は立ち消えになったのだろうか?

「待たせてすまない。飛空船なら、ちゃんと完成している。神眼で精査したが、欠陥もない。しかし…安全を期すため、海上で試験飛行をすることにしたのだよ。」

 なるほど。万一、墜落しても海なら被害が少ない。レオさんらしい用心深さだ。

「それは楽しみだねぇ!早いとこ試運転して、さっさと出発しちゃおうよ!」

 グレイさんも期待を隠せない様子で拳を握る。だが、レオさんは、眼鏡を押し上げながら静かに言葉を続けた。

「焦るな。飛空船の航行には、位置の把握、風の流れ、気圧の変動…様々なことへの細心の注意が要る。そこで、私は新たに船員を募集することにした。彼らと一緒に試運転を済ませた後、君たちを乗せるつもりだ。」

 聞けば聞くほど、飛空船の操縦は簡単なものではなさそうだ。

「それで、その船員って、もう決まってるんですか?」

「いや、まだだ。しかし、心当たりならある。──おい、こちらに来たまえ!」

 レオさんの声に応じ、見覚えのある影が現れる。

「あっ、ニャメルネさん!バルドーさん!」

 かつて暗殺ギルドに身を置き、今は輸送業を営む二人。懐かしい顔ぶれだ。

「ニーサン!ネーサン!久しぶりニャア!」 「よう!アニキに嬢ちゃん、商売はあんたらのおかげで絶好調だ!」

 あの頃と変わらない、軽快な口調に思わず笑みが漏れる。

「で、アニキよぉ。まさかとは思うが、用件はなんだ?」

 バルドーが訝しげに訊ねるのも無理はない。レオさんは、過去に彼らへ数々の無茶を押し付けてきた前科があるのだ。

「実は──飛空船の操縦士と船員を募集中でね。君たちに白羽の矢を立てた。これから試運転に付き合ってもらうよ。」

 レオさんは眼鏡の奥で微笑む。だがその表情は、まるで逃げ場のない檻を用意した猛獣のようだった。

「ちょ、ちょっと待つニャア!引き受けた覚えはないニャア!第一、飛空船なんて聞いたこともないニャア!」

 ニャメルネの耳がピクピクと震える。不信感丸出しだ。だが、レオさんは動じない。

「飛空船とは、空を飛ぶ船のことだ。君たちを雇おう。──誇りに思いたまえ。」

「断る!」 「お断りニャア!」

 二人は声を揃えて即答する。

 しかし──レオさんが、静かだが冷ややかな視線を向けた、その瞬間だった。

「ひゃあぁぁ!」 「ひ、ひぃぃぃ!」

 まるで凍りついたように震えあがるニャメルネとバルドー。

(…やっぱりレオさんは、反則理不尽眼鏡だ。ニャメルネさんたち、心から同情するよ…。)

「というわけで、私は二人と試運転に行ってくる。シルファ君とグレイ君は、しばし待機していてくれたまえ。」

(…二人とも、すでに運命が決まっている…。)

「んで、アニキ、その飛空船ってやつ、どこにあんだ?」

 バルドーが観念したように尋ねると、レオさんは涼しい顔で港を指差す。

「ああ、あそこだ。」

 その瞬間──。

 漁港の一角、ニャメルネたちの船の隣に、まるで幻のように、不思議な乗り物が姿を現した。

 白く光る船の下には、なぜか何本もの銀色の棒──いや、筒みたいなものが突き出していて、海の上を押し分けるようにぷかぷか浮かんでいる。

 普通の船なら、もっと木の板で作られているものだけど、これは金属でできているらしい。
 
 甲板の上には…まるで小さな家がいくつも建っているみたいな居住区が作られていて、白と青に塗られた屋根が、陽の光をきらきらと跳ね返していた。

 屋根の形も不思議で、ただの三角や四角じゃなく、丸みを帯びたなめらかな曲線になっている。
 
 さらに、両脇の太い柱──たぶんマストと呼ばれるものだろう──には、普通なら帆が張られているはずなのに、代わりに無数の羽根車みたいな板がくるくると回っている。あれで風を掴むのだろうか?
 
 後ろには巨大な舵みたいなものが据えられ、さらにその先に、上に向かって突き出した翼のようなものまで付いていた。
 
 全体を見渡すと──それはまるで、空を泳ぐために創られた神秘の獣のようだった。
 
 (これが…本当に、空を飛ぶというの…?)

 信じがたい思いを胸に、私は声を呑む。けれど、それは私だけではなかった。

「わ、わぁ…すごいニャア…!」

「信じられねぇ…このバカでかい船が、空を飛ぶだと…!?」

 ニャメルネとバルドーもまた、興奮と困惑を隠せずにいた。彼らの視線は、まるで魔法でも見たかのように、船に釘付けになっている。

 そんな彼らに、レオさんは満足そうに頷くと、言葉を重ねた。

「ああ、間違いない。機能も、性能も、すでに確認済みだ。──バルドー君、君が操縦士だ。船を操る腕は見込んでいる。ニャメルネ君、君は航行補助と整備を任せる。訓練はこれからだ。覚悟しておけ。」

「お、おう…!」「え、ええっ、いきなりニャア!?お手柔らかにお願いするニャア…!」

 二人は戸惑いながらも、レオさんに続いて飛空船へと乗り込んでいった。

 やがて、船内からは独特な唸り音が聞こえ始める。無数のプロペラが回転し、空気を切り裂く不思議な振動が波間を渡った。

 ──次の瞬間。

 船体が、ふわりと浮かび上がったのだ。
 
 重力を裏切るように、海面から離れ、まるで夢でも見ているかのように、空へと舞い上がっていく。

「うわっ…ほんとに飛んだ!!」「すごい…レオさん、やっぱりとんでもない人だわ…!」

 私とグレイさんは目を見開きながら、飛空船が青空へと滑り上がっていく様を見守った。

   * * *

 どれほどの時間が経っただろう。
 
 遠くから、風を切る軽やかな音が聞こえてくる。見上げれば、蒼天を背に、飛空船が悠々と帰還する姿があった。

「おーい!ただいまニャア!」 「戻ったぞー!」

 甲板から手を振るニャメルネとバルドー。

 その表情には、恐れも不安もなく、晴れやかな笑顔だけが浮かんでいた。

「おかえりなさい!」「おかえり!」

 私とグレイさんも、両手を大きく振って彼らを出迎える。

 ──飛空船は無事、空を征した。
 
 新たな旅の幕が、いま、上がったのだ。

 この空の向こうに、どんな出会いと冒険が待っているのだろう。
 
 胸の高鳴りを抑えきれず、私は小さく拳を握り締めていた…。
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