最弱の僕が気づいたら最強に祭り上げられてたけど、頑張って現実にしてみせる

小暮悠斗

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理想郷編

みんなで旅行③

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 精も根も尽き果てた三人を、児島先生と協力して飛行機から降ろす。
 空港を出る前に身体検査を行う。ゲート式のやつだ。
 精根尽き果てた三人は無事にゲートをくぐる。
 もちろん危険物など持っていない。
 だが、見事にゲートのセンサーが反応。ついでに児島先生も。

 ゲート横の小部屋に連れていかれる。
 生気の抜けた三人を残して行くのは、不安しかなかったが致し方ない。

 連れていかれた小部屋は殺風景で、白い壁に囲まれた正方形。
 長机とパイプ椅子がニ脚。それと予備のパイプ椅子が壁に何脚か立て掛けてあるだけだった。

 机を挟み空港職員と見合った。
 しばらく互いに見つめ合う。
 不安から目を背けたくなるものの、それはそれでやましい事がある、などと変に勘繰られてしまうかもしれない、そんな思いから職員の目を見つめ返した。

「そんなに緊張しなくていいよ」

 笑いながら職員は続ける。

「念のために調べるだけだよ。幾つか質問するから答えてくれる?」

 そう言って職員は、考えることなく次々に質問をする。マニュアルがあるのだろう。

 名前。
 生年月日。
 出身地。
 家族構成。
 学生か否か。
 在籍している学校名。
 渡航歴。
 ……などなど。

 5分程度の質問。

 それが終わると、

「はい、オーケー。もう行ってもらって大丈夫だよ」
「いいんですか?」
「なに? まだここにいたいの?」
「いや、そういう訳じゃ……」
「ハハハハ。冗談だよ。それに目を見ればだいたい分かるからね」

 だったら質問の数々は何だったのだ。
 まあ、それがお仕事なのだろうけど。

 よい夏休みを、とかけられた声に一礼して部屋を出た。


 小部屋を出るとロビーにいるはずの三人の姿を探した。
 三人はすぐに見つかった。
 三人は他の旅行客(ガラの悪い)に絡まれていた。

「めちゃくちゃ可愛いじゃん!?」
「俺めっちゃタイプ!!」
「三人ともかわいいね~」

 下心ありありな男三人組。
 他の旅行客は見て見ぬ振りだ。

 男たちの呼び掛けを三人はスルー。
 答える気力もないのだろう。

 初めのうちは楽しげに話しかけていた男たちも、無視されつづければ腹が立つ。
 反応のない会話ほどつまらないものはない。

「なんだ、おい! 無視すんなや!?」
「すかしてんじゃねぇよッ!!」
「仏の顔も三度までだよ~」

 次第に声に怒気がこもる。

 ドクロや煙草を吸う女性の顔がプリントされたTシャツ。
 金色のネックレスにブレスレット。
 腰履きしたダボダボのジーンズ。そこから伸びるチェーン。
 おまけに頭も色とりどり。
 見た目からしてやんちゃな人たち。

 これまでの冬夜であれば目を背けていただろう。
 しかし、今の冬夜は違う――違った。
 妖怪たちに囲まれ、生死をかけた戦いを経験した今の冬夜にとって、やんちゃな人間など恐怖の対象にはなり得ない。

 でも、ちょっとは怖いかな。
 それでも冬夜は男たちに、

「すみません。連れが何かしましたか?」

「あん? なんだテメェ?」
「なになに? 君このコたちのお友達? 今日だけ俺らにこのコたち譲ってくれない?」
「ま、明日になっても帰ってくる保証はできないけどね」

 アハハハと周りを気にせず大声で笑う。

「なに見てんだ!! 文句あんのか!!」

 ついに周囲の人たちにまで被害が出始めた。
 警備員が来るのも時間の問題だ。

「めんどくせぇ!」

 興奮した男の一人が殴り掛かってきた。

 回避。回避回避。回避回避回避回避。

 まぁまぁ、と宥めてみるものの一向に興奮は治まらない。
 むしろ興奮は高まっているようだ。
 いかにもケンカなどしたことのなさそうな奴に、攻撃をかわされ続ければフラストレーションも溜まるだろう。
 だからといって殴られてやる気もないが。

 さすがに何とかしないとな……

 次の瞬間。

「ギャアギャア煩い……」

 腹立たしそうな声。
 振り向くと、真白が男たちを睨みつけていた。

 普段とは目つきが違う。
 鋭い眼光は、狂暴な野獣のようだ。

 いつもの真白ではない。
 もう一人の――覚醒したときの真白。
 瞳や髪の色は変わっていない。
 だが、放っているプレッシャーは本物だ。

 まずい……

「他人の迷惑を顧みない不届き者ども。私は今、機嫌が悪い……覚悟しろ、脆弱者が!!」

 真白が半身の構えを取り、ゆっくり深く息を吐く。
 集中力を高めている。

「真白さん!? 待って――」

 真白と男たちの間に飛び込む。

 しなる脚が風を切る。

 あっ……死んだ……

 死を覚悟する。

 ものすごい勢いで吹っ飛んだ。
 周囲の悲鳴を聞きながら壁に激突。
 当たり前だが、めちゃくちゃ痛い。

「ま、真白さん……ここ……人間界。力使っちゃ……まずいって……」

 フンと鼻を鳴らす真白。反省の色はない。
 目の前の光景に男たちの腰は抜け、ガタガタと歯を鳴らしている。

「おい、悪ガキども。痛い目合う前にとっとと消え失せな」

 聴取終わりの児島先生が言う。
 男たちは尻尾を巻いて逃げ去る。

 先生……もう少し早く来て……

 文句の一つも言う前に、冬夜は力尽きた。
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