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理想郷編

真夏のビーチとケモノっ娘①

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 知らない天井。
 それもそのはず、そこはホテルの一室だった。
 空港での騒動ののち、冬夜は宿泊予定のホテルに運び込まれた。
 そのままベッドに放り投げられた、らしい。
 そして今に至る。

「表に出ろ」

 あれ? ケンカ売られてる?
 ……――冗談はほどほどにして。
 児島先生が外に出ろと誘ってくれている。

「なかなかの絶景だぞ」

 冬夜は首を傾げた。

 …………
 ……
 …

「絶景かなぁ~!!」

 おどけた調子で児島先生が言う。

 雲一つない青空に、降り注ぐ太陽。
 じりじりと肌を焦がす太陽の陽射しすら今は心地好く感じる。
 永遠に続く白い砂浜に、飛び交う黄色い声。
 はしゃぐ声が幾重にも重なる。
 そこいらのオーケストラ以上に心地好い音色。
 幸せ――至福の一時。

 肌色の面積が! 面積がッ!!
 ナツダ島の売りの一つ。ビーチ。
 早速女性陣は水着に着替えて、波打ち際でキャッキャウフフと遊んでいる。
 眼福です。
 思わず拝みそうになる。

「冬夜~!!」

 手を振る希望は黒のビキニ姿だ。
 胸がいやでも強調され――すっごい揺れる。
 お尻なんかもキュッキュッと左右に――さらに、引き締まった腰がなんとも……、もはや全身凶器だ。

 彼女はただ歩いているだけだというのに、悩殺寸前だ。
 自身の劣情にブレーキ。

 少し恥ずかしそうに、真白が尋ねる。

「冬夜くん……どうかな?」

 普段もスタイルいいな、なんて事思ったりもしていたが、今、視線の先に素のままのプロポーションが存在していた。そうそうお目にかかれるものじゃない。

 透き通るような白い肌に白いビキニ。まるで彼女の清廉さを現しているようだ。
 そしてあえて下半身をパレオで隠すことで、彼女の恥じらいまでもが加味されて、けしからんです(意味不明)。

「……やっぱり変かな?」
「むしろ最高です!」

 もはや答えになっていない。
 真白も首を傾げている。

 希望の背中に隠れていた登丸先輩が顔を出す。
 普段は全身長いローブで隠しているから分からなかったが、モデル並のスタイルだ。そんじょそこらのモデルより、よっぽど均整が取れている。
 しかし、水着姿はお預け。
 恥ずかしいのだろう。Tシャツを上から着ているのだ。
 だがむしろ水に濡れて透けた水着のチラリズムが……、

(平凡設定なのを忘れて興奮してしまった。いや、平凡だからこそ興奮するのか? なんだか一周回って落ち着いてきたかもしれないぞ)

「ねぇ冬夜、誰の水着が一番似合ってる?」

 胸を強調したポーズで希望が尋ねる。
 言いよどんでいると、

「冬夜くんはどんなのが好みなの?」
「………………どうなの?」

 登丸先輩まで!?
 これはきちんと答えなくてはいけないパターンだ。
 三人の視線がイタい。

「おいおい、皆月が困ってるだろ。みんな仲良く遊べよ」

 児島先生に、三人は「はーい」と元気に返す。

「さ、行こう」

 希望が積極的に手を取り引っ張る。
 もう片方の手を真白が握る。
 そして後ろから登丸先輩が身体全体で押すように――当たってる!? なにとは言わないが、とにかく当たってる!!?

 児島先生の遊ぶ発言が、イケナイ妄想に流れて行きそうになる。
 大変な苦労をして意識を保った。
 心臓に悪いことこのうえない。
 しかし、これは一生の宝物だ。
 脳内ハードディスクにしっかりと記録した。

 とは言え目のやり場に困る。
 さすがに慣れてはきたものの、少しでも意識してしまうとどうにもならない。

 それを分かってか、希望は扇情的な動き――もはやポーズをする。
 きっと、顔が朱くなるのを楽しんでいるのだろう。
 その証拠に希望はエスカレート。

「あはん……うふん」

 と声までつけだす始末。
 だが所々古いのはなんだか笑える。

「ぼ、僕飲み物買ってくるよ」

 これ以上は耐えられないと、その場――戦線を離脱する。
 俺の分も、と児島先生が言った気がしたが、気のせいということにしておこう。

 思いの外買い物に手間取った。
 観光地での買い物はいやでも列に並ぶことを余儀なくされる。

「結構時間かかっちゃったな」

 みんなのいる場所に戻ると、そこには楽園そのものの光景が広がっていた。
 波打ち際で美少女&美少女が戯れている。
 目に映る素敵なもろもろを、享受することに努めよう。

「そーれ!」

 真白が明るい声で、ビーチボールを手で軽く打つ。
 ボールは弧を描いて登丸先輩へと飛んでいく。

「あっ、えっ? わ、私ですか!? は、はいっ! 行きます!!」

 わたわたしながらも、きちんと打ち返す。
 狙ったのか、それとも偶然の産物か、ボールは綺麗な山を描いて――希望の方へと飛んでいく。

「今度は私の番ねッ!!」

 大きく振りかぶって打ち込む――アタック。

「きゃっ――!!?」

 真白は身を屈めて希望のアタックを回避。
 その後ろにいた冬夜は反応が遅れた。
 顔面に直撃。
 いくらビーチボールでも、痛いものは痛い。
 仰向けに倒れてしまう。
 買ってきたばかりの飲み物の容器が転がる。

 フタがついてるの買ってきてよかった。
 大惨事にならずにすんだことに安堵する。
 みんなが心配そうに駆け寄ってくれる。

「のぞきちゃん! 強く打ちすぎだよ」

 なだめるように言う

「それは真白が避けるからでしょ!?」
「あんなの誰でも避けるよ!?」
「二人ともその辺で……」

 口論しているものの、どこか楽しげである。

「スイカ割りするぞお前ら」

 まったく冬夜を労る素振りも見せず、児島先生はスイカを抱えたまま言う。

「「「スイカ割り!?」」」

 女子三人の興味は、スイカ割りに移行。
 鼻の頭を赤くしている冬夜は放置――置いてけ堀。

 ……まあ、いいか。みんな楽しそうだし。
 砂を払いながら立ち上がり、スイカを囲む輪の中に加わった。
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