最弱の僕が気づいたら最強に祭り上げられてたけど、頑張って現実にしてみせる

小暮悠斗

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理想郷編

真夏のビーチとケモノっ娘③

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 あの日。
 冬夜が九天に殺害された日。
 とっさの思いつきで、自分の血液を与えることで蘇生させた。
 間違っていたとは思わない。でも、間違いなく冬夜の人生の歯車を大きく狂わせた。
 ただの人間を、一時とはいえヴァンパイアにしてしまったのだから。

 冬夜の身体にどんな変化が現れるのか分からない。
 何も起きないかもしれないし、起きるかもしれない。
 そんな状況を作ってしまった事が申し訳なかった。
 きちんと話さなければと思いつつ、冬夜があの日の事について、尋ねてこないのをいいことにだんまりを決め込んでいた。

 冬夜だって不安に違いないのに。
 死にかけたのだ――一時は死んでいたのだ。
 気にならないはずないではないか。

「話すのが辛いなら私が話すよ?」
「ありがとうございます、登丸先輩。でも、自分で話さないと」
「そんなことで悩んでるの? さっさと話してみんなで遊ぼうよ」

 呑気な希望の言葉は、真白を気遣かってのものだろう。もしかしたら天然発言かもしれない。

「そうだよね。ちゃんと話した方がいいよね」

 ちょっと行ってくるね、と冬夜の下へと走った。

 …………
 ……
 …

 真白を見送った後。

「敵に塩送るって、こういうことを言うんですかね? 先輩」
「そうかもしれないわね」
「先輩も冬夜のこと好きなんですか?」
「うーん、多分。誰かを好きになったこと無いから分からないけど……尊敬以上の感情があるのは確か」

 そう言った登丸先輩の瞳は、完全に恋する乙女だった。

 私の好きな人には想い人がいる。
 それが友達でさえなければ、強引に奪ってやるのに。

 仕方ないよね。
 どっちも大切な人なんだから。
 恨みっこなし。今回は特別に冬夜を譲ってあげる。
 でもそのかわり、明日はなんとしてでも二人きりの時間を作って(悩殺――虜にして)やるんだから。

 でもやっぱり気になる。
 こっそりついていこうか。

「ダメですよ」

 登丸先輩に首根っこ掴まれて身動き取れない。

 やっぱり気になる~~ッ!!
 青い空に向かって思い切り叫んだ。

 …………
 ……
 …

「冬夜くん!」

 ようやく見つけた背中を呼び止める。
 振り返った彼の顔はどこか寂しそうだった。

「ごめんね。なんか隠し事してるみたいになっちゃって。あの日のこと、ちゃんと話すから――」

 それから事の顛末を話した。
 途中何度も冬夜は険しい表情を見せた。けれども最後まで話を聞いてくれた。

 血液を与えたこと。
 ヴァンパイア化したこと。
 そして、九天を倒したのは冬夜だということ。

「僕は……人間なの?」
「え?」
「僕はまだ人間なの? 真白さん?」

 答えを持ち合わせてはいなかった。
 答えられるはずがない。
 何せ前例がないのだから。
 人間のヴァンパイア化。その変化が冬夜に何をもたらすのか、真白には分からない。

「もしかしたら……人ではなくなるかもしれない」
「それじゃあ、僕はヴァンパイアになるの?」
「それも分からない。人のままでいられるのか、ヴァンパイアになってしまうのか……それとも……」

 それとも? とオウム返しに尋ねてくる。
 言えるはずがない――言いたくない。
 死んでしまうかもしれないなんて。

 人間同士でも誤った輸血は命を奪う。
 他人の血液との接種は危険を伴う。
 それが人とあやかしであれば尚更だ。

 でも、言わなければ……

「もしかしたら……」

 意を決して――言うよりも前に、かさかさと草むらが揺れた。

 !?

 明らかに人目を憚る動き。

「誰!?」

「……………………」

 観念したのか、ひょいと灌木かんぼくの茂みからくだんの人物が顔を出した。


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