こういうのでいいんだよおじさん、伝説になる ~元パーティーメンバーが俺を殺しに来るんだけど、実はこれ求婚だったってマ?~

めでめで汰

文字の大きさ
11 / 45
おじさん、巻き込まれるの巻

第11話 おじさん、草笛を吹く

しおりを挟む
 スラム一歩手前の貧民街。
 そこにセオリアの育った孤児院はあった。

「こんにちわ~」

 つるの這った門を通り抜け、中に入る。
 小さな庭には小さな畑や枯れかけの花壇があるようだ。

「セオリアは今でもここに来てるのか?」

「お金は送ってたんだけど……来るのは十年ぶり」

「変わりないか?」

「う~ん……昔はもっと綺麗だった気がするんだけど……」

 俺たちに気付いた女の子がこちらに駆け寄ってくる。
 くすんだ金髪ボブの女の子。
 ダボダボのあずき色のワンピースを着ている。
 そして、俺たちはその子に見覚えがあった。

「あっ……」
「ここの子だったのか!」

 カイザルの近くで狼に襲われてるところを助けてあげた子だ。
 なんでも薬草を採りに行く途中だったらしい。
 セオリアは「まるで薬草採取のクエストをやってた昔の私たちみたい」って言ってたが……まさか同じ孤児院の子だったとは。

「おじちゃん、お姉ちゃん! 来てくれたんだ!」

 少女は嬉しそうに顔を輝かせる。

「ああ、ちょっと用があってね」

「そうなんだ! あっ、これ吹いてるよ!」

 少女は俺の教えた「草笛」をピーと鳴らす。

「ふふっ、上手くなったな。将来は音楽家になれるんじゃないか?」

「えへへ~、みんなにも教えてあげてるんだ!」

「そうか、おねえさんなんだな。そういえば、こっちのお姉さんもここの出身なんだぞ?」

「私はセオリア。前はちゃんと名乗ってなかったね。一応、キミのお姉さんってことになるかな」

「私はエミリー! セオリアお姉ちゃん、カッコいい!」

 エミリーと名乗った少女はキラキラと目を輝かせる。

「ふふふ、これでも私はプラミチア女騎士団の団長なんだ」

「え!? だんちょうさま!? すごい!」

 口をあんぐりと開けるエミリー。

「あぁ、孤児院出身でも団長になれるんだ。エミリーだってなんでもなりたいものになれるんだぞ?」

「そうかなぁ? 私、いつもどんくさいって言われて……」

「でもエミリーは優しいじゃないか。友達の病気を治すために危険な街の外まで薬草を探しに行ってたんだろ? 人を思いやることが出来る。そして勇気もある。エミリーはきっと立派な人間になる、私が保証する」

「ほんと!? うん、私もお姉ちゃんみたいになれるように頑張るね!」

「ああ、楽しみにしてる。ではエミリー、まずマムを呼んできてもらえるかな? これは騎士団長からエミリーへの勅命だぞ? ふふっ」

「うん! エミリー、ちょくめいがんばる! まってて!」

 鼻息を荒くしてエミリーは孤児院の中へと消えていった。

「驚いた。セオリアは子供をあやすのが得意なんだな」

「ずっとやってたからな。私は孤児院の中ではずっとお姉ちゃん的な立場だったんだ。自然と身についたよ」

 セオリアが柔らかく笑う。

 セオリア。
 いつも気を張っていて。
 そのくせ生真面目すぎて。
 それで、しょっちゅうバタバタしている彼女。
 そんな彼女の意外な一面を見て。

 ちゃぷんっ──。

 ずっと静かだった俺の心に。
 なにか小さな波紋が広がったような気がした。

(? なんだ、この気持ち……?)

 そんな俺の疑問は、扉の奥から背の高い老婆が現れたことで掻き消えた。

「あら、セオリア!? ほんとにセオリアじゃないか!?」

「マム! お久しぶりです! ご無沙汰してすみません!」

「あらまぁ……手紙とお金は送ってもらってたけど、ほんとにこんなに立派になってるなんて……!」

 目の端に涙を浮かべるマムと呼ばれる女性。
 その後ろから数人の子どもたちが興味津々な様子で覗いてきてる。

「わぁ! ほんとに騎士様だ!」
「ばか! だんちょ~さまだぞ! ただの騎士じゃねぇんだぞ!」
「だんちょ~ってすごいの?」
「騎士様で一番えらいんだって」
「そんなすごい人が私たちのお姉ちゃん?」

「ああそうだぞ。私がセオリア・スパーク。プラミチア女騎士団の団長で……この孤児院出身の、キミたちのお姉ちゃんだ!」

「「「わぁ~!」」」

 途端に駆け寄ってきた子どもたちに囲まれるセオリア。

 ふふっ……。
 いいんだよ、こういうので。

「で、セオリア。そちらの男性は旦那さんかい?」

「ブっーーー!」

「ちょちょちょ……マム!? なに言って……」

「わ~! 旦那さん!? おじさん、セオリアお姉ちゃんの旦那さんなの!?」

「ち、ちが……! 俺は……!」

 勘違いを即訂正。
 なぜか不機嫌になるセオリア。
 それから自己紹介し、今後冒険者ギルドから俺の金がここに寄付されることを告げる。

「あぁ……ケント様、ありがとうございます!」

「おじちゃん寄付してくれるの!? ありがとう!」

 子どもたちに取り囲まれる。

「おじちゃんじゃない! ケント様だ!」

「はぁ~い、ケント様ぁ~!」

「いや、セオリア?『様』はおかしいから……」

 んっ?
 そういえば子どもたち、みんな草笛を持ってるな。

「これ、みんな吹いてるのか?」

「うん! エミリーがみんなに教えてる!」

「そうか、ちょっと貸してもらっても?」

「いいよ!」

 俺は子供から受け取った草笛を口に当てると、拭き慣れたメロディーを演奏する。

 ♪~

(ふふ……これ草笛は森で暮らしてた俺の数少ない文化的娯楽のひとつだったからな~。しかもこれ、吹いてるとリスや鳥が寄ってきて狩りにも役立つんだよ)

 ほわぁぁぁという顔で俺を見上げる子どもたち。

「すごい! おじさんすごいよ!」

「おじさんじゃない、ケント様だ」

「ケント様~! ケント様すごい~!」
「ケント様、ケント様~!」
「ケント様、今の教えて~!」

 うおっと……!
 興奮した子どもたちにもみくちゃにされてるんだが……。
 リスや鳥なら狩れるんだが、まさか子供を狩るわけにもいかんし……。
 これ、一体どうしたら……。

「まったく、ケントはすごいな。どれほど多才なんだ一体……」

 いや、別にすごくないからね?
 趣味と実益を兼ねてやってただけだし。
 なんて思ってると──。


「おうおう! 今日はずいぶんと賑やかじゃねぇか!?」


 やけにガラの悪い男たちが現れた。

「マム、彼らは?」

「……たちのわるい地上げ屋だよ。最近ずっと毎日のように嫌がらせしてくるんだ」

 ほぅ……?

 それは。

「よくない……よくないなぁ……」

 男たちの前に立ちはだかる。

「あ? なんだおっさん? 関係ねぇやつは引っ込んでろ、怪我するぞ?」

 シュッ──。

 男が棍棒の一撃を放つ。
 俺はそれをするりとかわし──。
 懐に入ると。

 ドゥ──!

 腹に一撃。

「ぐっ……!」

 膝をつく男。

「やんのか、てめぇ!」

 男たちが殺気立つ。

「おいおい、先に手を出してきたのはそっちだろ?」

「関係ねぇ! たたむぞ、お前ら!」

 男たちが襲いかかってくる。

「はぁ……どうやら草笛に釣られてやってきたこっちの連中はみたいだな」

 ──潜るダイブ

 俺に向かってくるのは六人。
 それを倒すが視える。
 それから……離れた場所にもう一人いるな。
 ……あれは少し厄介そうだ。
 けど、そいつはすぐに襲ってくる気配はない。
 姿勢、重心、重心、表情から察するに、その厄介そうな奴は『けん』。
 俺のことを観察しようとしているようだ。
 それに……なんだ? 少し体がこわばってる? 驚いてる?
 もしかして俺のことを知ってる?
 ……まぁ、いい。
 まずは、目の前の──こいつらからだ!

 スッ──トントントトトトン!

 ドダダダダダッ──!

 ドゥ……。

 崩れ落ちる男たち六人。

 ふぅ。
 これならまだゴブリンの方が手強いかな。
 ま、ゴブリンと違って殺しちゃいけないぶん手加減が大変だが。

「なんだこいつ……馬鹿つえぇ……!」

「フハハ! 地上げ屋ごときがケントに敵うわけがないだろう!」

 なぜか得意げなセオリア。
 えっと……セオリアさん?
 あんまり刺激するようなこと言うのやめてね?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました

髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」 気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。 しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。 「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。 だが……一人きりになったとき、俺は気づく。 唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。 出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。 雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。 これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。 裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか―― 運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。 毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります! 期間限定で10時と17時と21時も投稿予定 ※表紙のイラストはAIによるイメージです

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

処理中です...