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おじさん、懲らしめるの巻
第19話 おじさん、押し倒す
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「殺す!!!!!!!!!!!」
そう叫んだオレンジ髪ボブカットの女。
ただでさえ気の強そうな瞳ににメラメラと怒りの炎を浮かばせている。
女の印象を一言で言えば、ふくよか。
背も高い。
ダボッとした武道服のようなものを着ている。
そして、その下にはダボダボの服でも隠しきれないくらいの豊満な肉体。
(おっと……)
俺は一瞬あさっての方向に散りかけた集中をすぐさま取り戻す。
そしてすぐに気づいた。
脂肪の下に秘められた──豪厚筋肉の存在に。
(これはなかなかやりそうだ)
しかも女の手足には無骨な鉄の甲が着けられている。
あれを填めてあれだけ動けるってことは相当な使い手か。
もしくは。
──スキル持ち。
スキル持ちの相手は面倒だ。
外見からでは誰がどんなスキルを持っているのかわからないからだ。
俺の『超感覚』がそうなように。
(先手を取られないようにしなくては)
「潜……」
「死ねっ!!!」
俺が集中を高めようとした、その刹那。
バ──ゥ──ンッ……!
(!?)
一瞬。
一瞬で俺の眼の前に女がカッ飛んできた。
(え……?)
女は鉄手甲を填めた両手で俺の顔をワシリと掴む。
(がっ……! すごい力だ……!)
さらに女は俺の髪をかき上げると──。
「うひひ、やっぱりだぁ。やっぱり本当にケントだぁ……。ほらぁ? 髪の毛を上げると昔のまんまぁ」
なにかに憑かれたかのようにうっとりと呟いてから。
べろんっ……!
と、俺の頬を舐め上げた。
ぞわわわ~~~っ!
はっ!?
な、なんだコイツ!?
えっ!?
なんで舐めた!?
はっ!? なに!?
こわっ、こわ怖こわっ!
ガッガッ──!
木刀で女の両肘を突き、頭を締め付ける手が緩んだ隙に素早く抜け出す。
「……ったく、どんな馬鹿力なんだ!」
とにかく距離の離れた今のうちに潜るんだ。
「潜る──!」
心に広がっていく水面。
その中で激しく燃える炎。
憎悪、怒り、悔しさ、屈辱、恥ずかしさ。
女の感情だ。
それに……。
この魔力……いや、これは……。
「神力か」
「さすがはケント。一度で見抜くとはね……。でも、今のは挨拶だ。今度は……殺すッッッ!」
女の鉄足甲に神力が集まり──。
バ──ゥ──ンッ……!
再びカッ飛んでくる。
タッ──。
俺は立てた木剣の上に乗るとヒョイと跳んで梁の上へと避難する。
グシャッ。
残された木剣が、飴細工のように砕け散る。
(うぉぉ……ボルトから買った木剣がもうオシャカ……。安くしてもらっといてよかったぁ~)
にしても、あの女。
どうやら足から神力を「噴射」して加速るらしい。
なんちゅ~馬鹿げた……。
いや、恐ろしいのはその神力を圧縮する能力。
それを封じるには。
タッ──!
(圧縮する時間を与えないっ!)
梁から下りた俺は女に向かって突っ込む。
右手に木刀を持ち、空いた左手で拾った布を宙に投げる。
そして視界を塞いだ陰から──素早く投石!
ガキンッ──!
も、女の鉄手甲によってあっさりと弾かれる。
「んほっ! ケントがぁ! ケントが私に向かってきてるぅ~!」
目をハートにし、頬を緩ませる女。
(おいおい……ずいぶん余裕ぶっこいてくれてんじゃねぇか。こっちは揺動で手一杯だっていうの……に?)
あっ。
瞬間。
不意に蘇る記憶。
オレンジ髪。
ボブカット。
勝ち気で粗野。
時に暴力的。
俺が構ってやると頬を緩ませる。
そして──神力を使う。
もしかして。
もしかして──。
「お前──ハンナか?」
「正正正正解♡」
俺は駆けた勢いそのままに女──ハンナの懐に入る。
互いの顔が鼻先スレスレまで迫る。
ハンナだ。
やっぱハンナだよ、これ。
成長してるけど間違いなくハンナだ。
でも──。
なんでハンナが盗賊ギルドのボスを?
(まぁいい……。ハンナ、すまんがここは一旦落とさせてもらうぞ!)
俺はハンナの首を取って失神させようとする。
も、ハンナは俺の鼻の頭をチロリと舐めてから。
ドンッ──! っと。
後ろに跳んだ。
むろん追う。
隙はあたえん。
が。
ダゥ──ン──ッ!
(──!?)
距離を詰めようとした俺の目の前に、ハンナが戻ってきた。
(……手から神力を噴射したのか!)
ガッ──ダンッ!
俺はハンナの両足の間に顔を挟まれ、地面に組み伏される。
「ぐっ……!」
怪力。
抜け出せない。
重たい鉄足甲で両腕を押さえつけられた。
首はハンナの股ぐらに押さえつけられている。
自由に動かせるのは足のみ。
(足……?)
俺の頭にピコンとひとつのアイデアが浮かんだ。
ふむふむ……。
よし、じゃあまずは舌戦からだ。
言葉でハンナの気を逸らしてから、今思いついた作戦を実行するとしよう。
「ハハッ……勝った……? 私……ケントに勝ったんだ。ケントに勝ったんだよぉぉぉ! この私がぁぁぁぁ……」
恍惚の表情で叫ぶハンナ。
喋るたびにぐりぐりと腰を首に押し付けてくる。
え、大丈夫か、これ?
ちゃんと言葉通じる?
「おいおい、ハンナ? 久しぶりの再会だってのにどういう体勢だこれ?」
とりあえず喋りかけてみる。
「……」
無の目で俺を見下ろすハンナ。
……え?
なんだよ、その急変っぷりは……。
情緒不安定かよ、お前……。
さらに続ける。
「お前、なんで盗賊ギルドのボスなんかやってる? なんの目的で冒険者ギルドや孤児院に……」
「うるさいッ!!!!」
えぇ~……?
ハンナさん……情緒ヤバすぎない?
「うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい! 私は頑張ってきたんだ! 頑張ってきた! 頑張ってきたんだよぉ……! 失敗ばっかだったけど、教会の修行から逃げ出してきたけど、それでも私は私にできることをやろうとして……!」
「それで、ここのボスに?」
顔を手で覆ってこくりと頷くハンナ。
「そうか……なんとなく察しがついてきたが、もしかしてこれって俺が関係あったりするか……?」
ハンナがここまで情緒不安定な理由。
「う、うん……」
それは、やはり──。
俺への復讐のためか。
「じゃあ、冒険者ギルドに嫌がらせしてたのも……」
「うん……」
やはり。
セオリアと同じだ。
俺への復讐のため。
そのために盗賊ギルドのボスなんかになっちまうし。
こんなに情緒不安定にもなっちまった。
すべて……俺のせい、なんだよなぁ。
とはいえ。
このまま負けるわけにもいかない。
俺は次々と言葉を重ねて畳み掛けていく。
「じゃあ孤児院は? あれは俺は関係ないだろ?」
「うん、孤児院はケント関係ない……」
「関係ないならなんでだ?」
「うぅ……それは……」
「マムたち、すごく迷惑してたぞ?」
ちょっと怒る。
こんな娘ほどの年の女の子の股の間に顔を挟まれてる俺だけど、これでも大人だからな。
ダメなものはきちんとダメって言ってやらないと。
そしてハンナの動揺を引き出して──逆転の目を引き出す。
「う~……! だからあいつらには『穏便にやれ』って言ってたのにぃ……」
「穏便? 全然そんな様子じゃなかったぞ? 大体孤児院を潰してなにを建てようとしてるんだ?」
「それは……! 孤児院を……新しく建て替えてあげようと思って……」
「なんでそれを素直に言わない?」
「ほら……だってこっちは腐っても盗賊ギルドだからさ……。そんな表立っての善行ってのはやりづらいんだよ……。だから一回更地にして、それからドサクサでしれっと新しい孤児院を建てようと思ってたんだ……」
めちゃくちゃだ。
論理が破綻してる。
でも。
「えらいっ! えらいぞ、ハンナっ!」
「え……?」
「孤児院の人たちを想っての行動だったわけだな!?」
褒めてやる!
色々間違ってるけど、一旦褒める!
「う、うん! そう……そうなんだ!」
目に涙をにじませ、嬉しそうに笑うハンナ。
「盗賊ギルドのボスになったってのも、冒険者ギルドに嫌がらせしてたのも、ぜんぶ俺への(復讐の)ためってことなんだよな!?」
「そ、そうなんだよ! 私、全部ケント(ともう一度一緒に冒険する)のためにやったんだ!」
「そうか! 一人でよく頑張ったな! えらいぞ、ハンナっ!」
褒めて褒めて決着の瞬間へと誘導する。
が、その反面。
俺は本当に感心もしていた。
たとえ理由が俺への復讐の一念だったとしても──。
ここまでのし上がったのは本当にす~ごい!
え、すごくない!?
だって盗賊ギルドのボスだぞ?
おいそれとなれるようなものじゃない。
世間様に胸張って言えるような立場でもない。
そんなもんになろうだなんて普通は思わない。
でも。
ハンナはなったんだ。
すごいじゃないか!
頑張ったんだんだろうなぁ……。
しかもこんな若い女の子一人で。
大変なこともいっぱいあったに違いない。
だから!
俺だけは、その頑張りを正面から受け止めてやりたい!
どういう経緯があったとしても。
それが俺への復讐が理由だったとしても。
褒めてやりたいじゃねぇか。
だって。
これまでのハンナの頑張りは──。
間違いなく本物なんだから。
「うっ……ケントぉ~……! そうなんだよぅ…… 私、ずっと一人ぼっちで頑張ってきてたんだよぉ……!」
ハンナの顔がくしゃくしゃになる。
「そしてこの神力の使い方もすごい! 加速と打撃、どちらもハンナにしか出来ない一級品だ! この鉄の手甲と足甲もいい出来だ! よくここまで成長したな、ハンナ!」
「う……うん……! 頑張った……私がんばったんだぁ……! 誰も褒めてくれなかったけど、一人で一生懸命……! 教会からは逃げてきたけど、私は自分にできることを精一杯……! うぅ~……!」
ポロポロとハンナの瞳から溢れた涙が頬を伝い、俺の顔に落ちてくる。
「ああ、偉い! 偉いぞ、ハンナ! 教会がなんだ! お前はお前にしか出来ない戦闘スタイルを自分で見つけ出して、自分にしか出来ない冒険者復興を頑張ってやってきたんだ! 傷つきながら、迷いながらな! いいんだ! そういうのでいいんだ! 世界中の誰が非難したって俺だけは認めてやる! お前のこれまでやってきた頑張りを!」
「うぅ……ケント……ほんと……グズっ……にぃ……?」
「あぁ、ほんとだ! そういうのでいい、お前はそういうのでいいんだよ!」
お前の頑張りに関してはな。
セオリアやベルドを傷つけたことはちゃんと後から謝ってもらうからな?
それとこれとは、話が別なんでな。
「……! ゲンドぉ……!」
ハンナが嗚咽をあげる。
(よし、ここらで仕上げだな……)
俺がハンナへの言葉攻めの裏で思い出していたこと。
それは、セオリアと一緒にミサンガを買った露天のおばちゃんのことだ。
自然体で相手の懐へと入り込んでから。
相手が気を許したところで──。
(ほい、今)
一 刀 両 断 。
俺はこっそりと伸ばしていた両足でハンナの首を挟み込むと──。
ぐいっ。
と後ろに引っ張り。
「ひゃっ……!?」
ごろん。
体勢を入れ替えた。
ハンナは俺に首と両手を極められた状態。
形勢逆転。
ハンナはひっくり返ったカエルのような体勢で、宙に浮いた足をバタバタとばたつかせてる。
「ちょ……ケントぉ……!? やだぁ……! この格好……恥ずかしいよぉ……!」
涙でぐちゃぐちゃになった顔を赤らめるハンナ。
俺はその首元にトン──と木刀を優しく突きつける。
「はい、俺の勝ち」
……ん?
っていうか、これ。
勝ったはいいけど……。
一体どう始末をつければいいんだ……?
途方にくれる俺の体の下で、真っ赤な顔をしたハンナがもぞもぞと足をくねらせていた。
そう叫んだオレンジ髪ボブカットの女。
ただでさえ気の強そうな瞳ににメラメラと怒りの炎を浮かばせている。
女の印象を一言で言えば、ふくよか。
背も高い。
ダボッとした武道服のようなものを着ている。
そして、その下にはダボダボの服でも隠しきれないくらいの豊満な肉体。
(おっと……)
俺は一瞬あさっての方向に散りかけた集中をすぐさま取り戻す。
そしてすぐに気づいた。
脂肪の下に秘められた──豪厚筋肉の存在に。
(これはなかなかやりそうだ)
しかも女の手足には無骨な鉄の甲が着けられている。
あれを填めてあれだけ動けるってことは相当な使い手か。
もしくは。
──スキル持ち。
スキル持ちの相手は面倒だ。
外見からでは誰がどんなスキルを持っているのかわからないからだ。
俺の『超感覚』がそうなように。
(先手を取られないようにしなくては)
「潜……」
「死ねっ!!!」
俺が集中を高めようとした、その刹那。
バ──ゥ──ンッ……!
(!?)
一瞬。
一瞬で俺の眼の前に女がカッ飛んできた。
(え……?)
女は鉄手甲を填めた両手で俺の顔をワシリと掴む。
(がっ……! すごい力だ……!)
さらに女は俺の髪をかき上げると──。
「うひひ、やっぱりだぁ。やっぱり本当にケントだぁ……。ほらぁ? 髪の毛を上げると昔のまんまぁ」
なにかに憑かれたかのようにうっとりと呟いてから。
べろんっ……!
と、俺の頬を舐め上げた。
ぞわわわ~~~っ!
はっ!?
な、なんだコイツ!?
えっ!?
なんで舐めた!?
はっ!? なに!?
こわっ、こわ怖こわっ!
ガッガッ──!
木刀で女の両肘を突き、頭を締め付ける手が緩んだ隙に素早く抜け出す。
「……ったく、どんな馬鹿力なんだ!」
とにかく距離の離れた今のうちに潜るんだ。
「潜る──!」
心に広がっていく水面。
その中で激しく燃える炎。
憎悪、怒り、悔しさ、屈辱、恥ずかしさ。
女の感情だ。
それに……。
この魔力……いや、これは……。
「神力か」
「さすがはケント。一度で見抜くとはね……。でも、今のは挨拶だ。今度は……殺すッッッ!」
女の鉄足甲に神力が集まり──。
バ──ゥ──ンッ……!
再びカッ飛んでくる。
タッ──。
俺は立てた木剣の上に乗るとヒョイと跳んで梁の上へと避難する。
グシャッ。
残された木剣が、飴細工のように砕け散る。
(うぉぉ……ボルトから買った木剣がもうオシャカ……。安くしてもらっといてよかったぁ~)
にしても、あの女。
どうやら足から神力を「噴射」して加速るらしい。
なんちゅ~馬鹿げた……。
いや、恐ろしいのはその神力を圧縮する能力。
それを封じるには。
タッ──!
(圧縮する時間を与えないっ!)
梁から下りた俺は女に向かって突っ込む。
右手に木刀を持ち、空いた左手で拾った布を宙に投げる。
そして視界を塞いだ陰から──素早く投石!
ガキンッ──!
も、女の鉄手甲によってあっさりと弾かれる。
「んほっ! ケントがぁ! ケントが私に向かってきてるぅ~!」
目をハートにし、頬を緩ませる女。
(おいおい……ずいぶん余裕ぶっこいてくれてんじゃねぇか。こっちは揺動で手一杯だっていうの……に?)
あっ。
瞬間。
不意に蘇る記憶。
オレンジ髪。
ボブカット。
勝ち気で粗野。
時に暴力的。
俺が構ってやると頬を緩ませる。
そして──神力を使う。
もしかして。
もしかして──。
「お前──ハンナか?」
「正正正正解♡」
俺は駆けた勢いそのままに女──ハンナの懐に入る。
互いの顔が鼻先スレスレまで迫る。
ハンナだ。
やっぱハンナだよ、これ。
成長してるけど間違いなくハンナだ。
でも──。
なんでハンナが盗賊ギルドのボスを?
(まぁいい……。ハンナ、すまんがここは一旦落とさせてもらうぞ!)
俺はハンナの首を取って失神させようとする。
も、ハンナは俺の鼻の頭をチロリと舐めてから。
ドンッ──! っと。
後ろに跳んだ。
むろん追う。
隙はあたえん。
が。
ダゥ──ン──ッ!
(──!?)
距離を詰めようとした俺の目の前に、ハンナが戻ってきた。
(……手から神力を噴射したのか!)
ガッ──ダンッ!
俺はハンナの両足の間に顔を挟まれ、地面に組み伏される。
「ぐっ……!」
怪力。
抜け出せない。
重たい鉄足甲で両腕を押さえつけられた。
首はハンナの股ぐらに押さえつけられている。
自由に動かせるのは足のみ。
(足……?)
俺の頭にピコンとひとつのアイデアが浮かんだ。
ふむふむ……。
よし、じゃあまずは舌戦からだ。
言葉でハンナの気を逸らしてから、今思いついた作戦を実行するとしよう。
「ハハッ……勝った……? 私……ケントに勝ったんだ。ケントに勝ったんだよぉぉぉ! この私がぁぁぁぁ……」
恍惚の表情で叫ぶハンナ。
喋るたびにぐりぐりと腰を首に押し付けてくる。
え、大丈夫か、これ?
ちゃんと言葉通じる?
「おいおい、ハンナ? 久しぶりの再会だってのにどういう体勢だこれ?」
とりあえず喋りかけてみる。
「……」
無の目で俺を見下ろすハンナ。
……え?
なんだよ、その急変っぷりは……。
情緒不安定かよ、お前……。
さらに続ける。
「お前、なんで盗賊ギルドのボスなんかやってる? なんの目的で冒険者ギルドや孤児院に……」
「うるさいッ!!!!」
えぇ~……?
ハンナさん……情緒ヤバすぎない?
「うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい! 私は頑張ってきたんだ! 頑張ってきた! 頑張ってきたんだよぉ……! 失敗ばっかだったけど、教会の修行から逃げ出してきたけど、それでも私は私にできることをやろうとして……!」
「それで、ここのボスに?」
顔を手で覆ってこくりと頷くハンナ。
「そうか……なんとなく察しがついてきたが、もしかしてこれって俺が関係あったりするか……?」
ハンナがここまで情緒不安定な理由。
「う、うん……」
それは、やはり──。
俺への復讐のためか。
「じゃあ、冒険者ギルドに嫌がらせしてたのも……」
「うん……」
やはり。
セオリアと同じだ。
俺への復讐のため。
そのために盗賊ギルドのボスなんかになっちまうし。
こんなに情緒不安定にもなっちまった。
すべて……俺のせい、なんだよなぁ。
とはいえ。
このまま負けるわけにもいかない。
俺は次々と言葉を重ねて畳み掛けていく。
「じゃあ孤児院は? あれは俺は関係ないだろ?」
「うん、孤児院はケント関係ない……」
「関係ないならなんでだ?」
「うぅ……それは……」
「マムたち、すごく迷惑してたぞ?」
ちょっと怒る。
こんな娘ほどの年の女の子の股の間に顔を挟まれてる俺だけど、これでも大人だからな。
ダメなものはきちんとダメって言ってやらないと。
そしてハンナの動揺を引き出して──逆転の目を引き出す。
「う~……! だからあいつらには『穏便にやれ』って言ってたのにぃ……」
「穏便? 全然そんな様子じゃなかったぞ? 大体孤児院を潰してなにを建てようとしてるんだ?」
「それは……! 孤児院を……新しく建て替えてあげようと思って……」
「なんでそれを素直に言わない?」
「ほら……だってこっちは腐っても盗賊ギルドだからさ……。そんな表立っての善行ってのはやりづらいんだよ……。だから一回更地にして、それからドサクサでしれっと新しい孤児院を建てようと思ってたんだ……」
めちゃくちゃだ。
論理が破綻してる。
でも。
「えらいっ! えらいぞ、ハンナっ!」
「え……?」
「孤児院の人たちを想っての行動だったわけだな!?」
褒めてやる!
色々間違ってるけど、一旦褒める!
「う、うん! そう……そうなんだ!」
目に涙をにじませ、嬉しそうに笑うハンナ。
「盗賊ギルドのボスになったってのも、冒険者ギルドに嫌がらせしてたのも、ぜんぶ俺への(復讐の)ためってことなんだよな!?」
「そ、そうなんだよ! 私、全部ケント(ともう一度一緒に冒険する)のためにやったんだ!」
「そうか! 一人でよく頑張ったな! えらいぞ、ハンナっ!」
褒めて褒めて決着の瞬間へと誘導する。
が、その反面。
俺は本当に感心もしていた。
たとえ理由が俺への復讐の一念だったとしても──。
ここまでのし上がったのは本当にす~ごい!
え、すごくない!?
だって盗賊ギルドのボスだぞ?
おいそれとなれるようなものじゃない。
世間様に胸張って言えるような立場でもない。
そんなもんになろうだなんて普通は思わない。
でも。
ハンナはなったんだ。
すごいじゃないか!
頑張ったんだんだろうなぁ……。
しかもこんな若い女の子一人で。
大変なこともいっぱいあったに違いない。
だから!
俺だけは、その頑張りを正面から受け止めてやりたい!
どういう経緯があったとしても。
それが俺への復讐が理由だったとしても。
褒めてやりたいじゃねぇか。
だって。
これまでのハンナの頑張りは──。
間違いなく本物なんだから。
「うっ……ケントぉ~……! そうなんだよぅ…… 私、ずっと一人ぼっちで頑張ってきてたんだよぉ……!」
ハンナの顔がくしゃくしゃになる。
「そしてこの神力の使い方もすごい! 加速と打撃、どちらもハンナにしか出来ない一級品だ! この鉄の手甲と足甲もいい出来だ! よくここまで成長したな、ハンナ!」
「う……うん……! 頑張った……私がんばったんだぁ……! 誰も褒めてくれなかったけど、一人で一生懸命……! 教会からは逃げてきたけど、私は自分にできることを精一杯……! うぅ~……!」
ポロポロとハンナの瞳から溢れた涙が頬を伝い、俺の顔に落ちてくる。
「ああ、偉い! 偉いぞ、ハンナ! 教会がなんだ! お前はお前にしか出来ない戦闘スタイルを自分で見つけ出して、自分にしか出来ない冒険者復興を頑張ってやってきたんだ! 傷つきながら、迷いながらな! いいんだ! そういうのでいいんだ! 世界中の誰が非難したって俺だけは認めてやる! お前のこれまでやってきた頑張りを!」
「うぅ……ケント……ほんと……グズっ……にぃ……?」
「あぁ、ほんとだ! そういうのでいい、お前はそういうのでいいんだよ!」
お前の頑張りに関してはな。
セオリアやベルドを傷つけたことはちゃんと後から謝ってもらうからな?
それとこれとは、話が別なんでな。
「……! ゲンドぉ……!」
ハンナが嗚咽をあげる。
(よし、ここらで仕上げだな……)
俺がハンナへの言葉攻めの裏で思い出していたこと。
それは、セオリアと一緒にミサンガを買った露天のおばちゃんのことだ。
自然体で相手の懐へと入り込んでから。
相手が気を許したところで──。
(ほい、今)
一 刀 両 断 。
俺はこっそりと伸ばしていた両足でハンナの首を挟み込むと──。
ぐいっ。
と後ろに引っ張り。
「ひゃっ……!?」
ごろん。
体勢を入れ替えた。
ハンナは俺に首と両手を極められた状態。
形勢逆転。
ハンナはひっくり返ったカエルのような体勢で、宙に浮いた足をバタバタとばたつかせてる。
「ちょ……ケントぉ……!? やだぁ……! この格好……恥ずかしいよぉ……!」
涙でぐちゃぐちゃになった顔を赤らめるハンナ。
俺はその首元にトン──と木刀を優しく突きつける。
「はい、俺の勝ち」
……ん?
っていうか、これ。
勝ったはいいけど……。
一体どう始末をつければいいんだ……?
途方にくれる俺の体の下で、真っ赤な顔をしたハンナがもぞもぞと足をくねらせていた。
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といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活
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スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜
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勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。
ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。
「おい雑魚、これを持っていけ」
ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。
ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。
怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。
いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。
だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。
ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。
勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。
自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。
今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。
だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。
その時だった。
目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。
その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。
ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。
そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。
これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。
※小説家になろうにて掲載中
最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)
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