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おじさん、懲らしめるの巻
第18話 おじさん、再会する
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「貴様、何者だ──」
二十代半ばくらいか。
南方の雰囲気を漂わせた盗賊らしからぬ美青年が、これまた盗賊らしからぬセリフを吐いた。
「通りがかりのおっさん──と言えば信じてくれるか?」
「笑止! こんな悪魔のような通りがかりがいてたまるか! もしいたとしたら──本物の悪夢だ」
スキル『超感覚』が嗅ぎ取る。
イヤ~な死の匂い。
(いつぶりだ? こんな感覚)
森の掘っ立て小屋に住み始めた時以来か。
あの頃は、一日中姿の見えない獣や魔物たちの影に怯えてたなぁ。
よし、ちょっと小洒落たセリフでも返してみるとするか。
「悪夢ってのはなぁ、寝てる時に見るもんじゃねぇ。起きてる時に見るんだ」
ほら、考えてる考えてる。
「こいつ何言ってんだ?」って顔してる。
あたかも何か気の利いた返しをしようと頭を巡らせちゃってる。
こういうのは一瞬でも相手の思考を乱した方の勝ちなわけ。
んでさ、俺はその隙に。
「潜る──」
心に水面が広がっていく。
周囲の状況を冷静に掌握することが出来る。
青年は「待ち」の構え。
正しい。
構えこそロングソードのものだが、彼がいま持っているのはナイフ。
その得物の長さで自分から斬りかかるのは愚かだ。
剣の勝負において「リーチ差をくつがえせる」なんてことはほとんどない。
俺の攻撃をいなし、懐に入り急所に一撃。
短刀側に可能性があるとすればそれだけ。
青年はそれをよく理解ってる。
戦いに長けた者の構えだ。
青年の奥にいる巨躯の男はいつでも飛び出せるように足を引きバネを溜めている。
青年がやられたら二の矢として突進してくるだろう。
梁の上の痩せた男は落ち着きがない。
体の開き具合から想像するに、本来は狩人か?
持ち慣れた武器がないというのは土壇場で生存の可能性を大きく差を下げる。
隙を見てなんらかの遠距離攻撃を一撃。
それがやつの精一杯だろう。
そして最奥に位置するボス──ローブの人物。
動揺? 畏れ? 少しの歓喜?
体温と心拍数が高い。
なんらかのルーチンの途中かも。
体が温まった状態の敵というのは厄介だ。
心拍数も上がれば上がるほどに無茶が利く。
やつの準備が終るまでに三人を叩かないと──。
「テンは裏切ったぞ──」
「……! なんだと!? テンはそんな奴じゃないッ!」
青年の集中が一瞬乱れる。
もちろん虚言。
(ごめんね、おじさんズルいからこういう駆け引きもしちゃうのよ)
でも。
これでお前らがテンの仲間──特に信頼し合ってたであろう仲間だってことはわかった。
あいつは元冒険者だ。
ってことは、お前らも元冒険者でほぼ確定。
剣士、戦士、狩人、そしてテンの盗賊の四人パーティーだったか?
見た感じそこそこやる奴らじゃねぇか。
テンだって卑怯で卑劣だったが、ダンジョン内ではあの性格も有能だろう。
なんでそんな奴らが盗賊なんてやってる?
なんで地上げや、冒険者ギルドへの嫌がらせなんてしょっぱいことをやってる?
なんで、盗賊のくせに今さら俺を殺して名を揚げようだなんてした?
そして。
なんで──。
セオリアを、傷つけようとした!?
「エル! 気を逸らすな! 来るぞ!」
梁の上の男が叫ぶ。
だが……遅いっ。
ガッ──!
俺の投げた木刀。
青年はそれをナイフで弾く。
そして青年は、返す刀で俺の斬りかった木剣を受けて──というセオリー通りの動きを見せるが……。
(甘い)
シュッ──!
「──!?」
俺は二刀目も投げる。
「ぐっ……!」
正中線。
剣はそこを攻められたら弱い。
なぜなら、通常なら剣を構えてるから攻められないはずの場所だからだ。
しかも一投目は頭、二投目は腹とくればなおさら。
剣は左右と前方の攻撃に強く。
正面と上下の攻撃に弱い。
そして、一度下げた剣で向かってくる敵を倒そうとしたら──。
突くしかない。
ザッ──!
俺は軽々と青年の突きをかわして懐へと入る。
「知ってた」
だって俺がそう動くように誘導したんだから。
「くっ──!」
青年の腕を取ると、俺は首に一撃。
トンッ──。
「……!」
青年は、悔しそうな表情のまま膝から崩れ落ちる。
(ふぅ、リーチが短くて助かった。もし持ってたのがロングソードだったらこうは簡単にはいかなっただろうな)
「うぉぉぉぉ! 兄ちゃァァァァァん!」
叫び声を上げて青年の背後にいた巨漢の男が宙を舞う。
(あのデカさで跳べるのか……)
青年を「兄ちゃん」と呼んだその宙に浮かぶ男は、腰の位置にナイフを構えている。
(よし、これなら……)
俺は少し位置を調整するとナイフを持った男の腕を掴み、そのまま背中から地面に叩きつける。
ドスン──!
「う……うぅ……」
あの体重に落下のエネルギーが加わって背中から落ちたんだ。
しばらくは起き上がれないだろう。
(もし、こいつがナイフじゃなくて盾を構えて飛んできてたら俺はなすすべなく押しつぶされてただろうな)
ドゥ──!
梁の上の男が魔法を放つ。
衝撃の魔法。
テンの使ってたものと同じ。
(うん、それは……)
ガッ──!
(想定の──範囲内!)
バンッ!
俺は拾い上げた木刀を跳ね上げ衝撃を弾き飛ばす。
魔法を使えたテンのパーティーメンバーだ。
しかも同じ遠距離担当。
こいつも魔法を使うことは予測できた。
それも初歩の衝撃魔法。
術者の気の弱さが透けて見える、腰の引けた魔法だ。
(本来ならこれを揺動にして弓との二段構えってことだったんだろうが……)
ヒュッ──カンッ!
俺の投げた木刀が男の立っている梁に当たる。
梁はグラグラと揺れ──。
「わ、わわっ──!」
男はバランスを崩して転げ落ちると。
「うぎゅう……」
と、情けない声を上げて気を失った。
よし、これで団員は全員倒した。
残るは──。
「さぁてと、盗賊ギルドのボスさん。ご挨拶からした方が?」
「挨拶……だと?」
震えてる。
怒り?
……煽りすぎたか?
「私はお前のことを知っているぞ、ケント・リバぁぁぁぁぁー!」
バッ!
ボスはそう言ってローブを剥ぎ取った。
(……へ?)
現れたのは、太陽のようなオレンジ髪の……。
(お、女の子……?)
しかも俺のことを知ってる?
ん~……?
こんな可愛い女の子の知り合いなんかいたっけ……?
「えっと……どちら様、でしたっけ?」
ブチッ──。
スキル『超感覚』でなくともわかる。
あっ、この女の子──。
ブチギレちゃった……。
「殺す!!!!!!!!!!!」
二十代半ばくらいか。
南方の雰囲気を漂わせた盗賊らしからぬ美青年が、これまた盗賊らしからぬセリフを吐いた。
「通りがかりのおっさん──と言えば信じてくれるか?」
「笑止! こんな悪魔のような通りがかりがいてたまるか! もしいたとしたら──本物の悪夢だ」
スキル『超感覚』が嗅ぎ取る。
イヤ~な死の匂い。
(いつぶりだ? こんな感覚)
森の掘っ立て小屋に住み始めた時以来か。
あの頃は、一日中姿の見えない獣や魔物たちの影に怯えてたなぁ。
よし、ちょっと小洒落たセリフでも返してみるとするか。
「悪夢ってのはなぁ、寝てる時に見るもんじゃねぇ。起きてる時に見るんだ」
ほら、考えてる考えてる。
「こいつ何言ってんだ?」って顔してる。
あたかも何か気の利いた返しをしようと頭を巡らせちゃってる。
こういうのは一瞬でも相手の思考を乱した方の勝ちなわけ。
んでさ、俺はその隙に。
「潜る──」
心に水面が広がっていく。
周囲の状況を冷静に掌握することが出来る。
青年は「待ち」の構え。
正しい。
構えこそロングソードのものだが、彼がいま持っているのはナイフ。
その得物の長さで自分から斬りかかるのは愚かだ。
剣の勝負において「リーチ差をくつがえせる」なんてことはほとんどない。
俺の攻撃をいなし、懐に入り急所に一撃。
短刀側に可能性があるとすればそれだけ。
青年はそれをよく理解ってる。
戦いに長けた者の構えだ。
青年の奥にいる巨躯の男はいつでも飛び出せるように足を引きバネを溜めている。
青年がやられたら二の矢として突進してくるだろう。
梁の上の痩せた男は落ち着きがない。
体の開き具合から想像するに、本来は狩人か?
持ち慣れた武器がないというのは土壇場で生存の可能性を大きく差を下げる。
隙を見てなんらかの遠距離攻撃を一撃。
それがやつの精一杯だろう。
そして最奥に位置するボス──ローブの人物。
動揺? 畏れ? 少しの歓喜?
体温と心拍数が高い。
なんらかのルーチンの途中かも。
体が温まった状態の敵というのは厄介だ。
心拍数も上がれば上がるほどに無茶が利く。
やつの準備が終るまでに三人を叩かないと──。
「テンは裏切ったぞ──」
「……! なんだと!? テンはそんな奴じゃないッ!」
青年の集中が一瞬乱れる。
もちろん虚言。
(ごめんね、おじさんズルいからこういう駆け引きもしちゃうのよ)
でも。
これでお前らがテンの仲間──特に信頼し合ってたであろう仲間だってことはわかった。
あいつは元冒険者だ。
ってことは、お前らも元冒険者でほぼ確定。
剣士、戦士、狩人、そしてテンの盗賊の四人パーティーだったか?
見た感じそこそこやる奴らじゃねぇか。
テンだって卑怯で卑劣だったが、ダンジョン内ではあの性格も有能だろう。
なんでそんな奴らが盗賊なんてやってる?
なんで地上げや、冒険者ギルドへの嫌がらせなんてしょっぱいことをやってる?
なんで、盗賊のくせに今さら俺を殺して名を揚げようだなんてした?
そして。
なんで──。
セオリアを、傷つけようとした!?
「エル! 気を逸らすな! 来るぞ!」
梁の上の男が叫ぶ。
だが……遅いっ。
ガッ──!
俺の投げた木刀。
青年はそれをナイフで弾く。
そして青年は、返す刀で俺の斬りかった木剣を受けて──というセオリー通りの動きを見せるが……。
(甘い)
シュッ──!
「──!?」
俺は二刀目も投げる。
「ぐっ……!」
正中線。
剣はそこを攻められたら弱い。
なぜなら、通常なら剣を構えてるから攻められないはずの場所だからだ。
しかも一投目は頭、二投目は腹とくればなおさら。
剣は左右と前方の攻撃に強く。
正面と上下の攻撃に弱い。
そして、一度下げた剣で向かってくる敵を倒そうとしたら──。
突くしかない。
ザッ──!
俺は軽々と青年の突きをかわして懐へと入る。
「知ってた」
だって俺がそう動くように誘導したんだから。
「くっ──!」
青年の腕を取ると、俺は首に一撃。
トンッ──。
「……!」
青年は、悔しそうな表情のまま膝から崩れ落ちる。
(ふぅ、リーチが短くて助かった。もし持ってたのがロングソードだったらこうは簡単にはいかなっただろうな)
「うぉぉぉぉ! 兄ちゃァァァァァん!」
叫び声を上げて青年の背後にいた巨漢の男が宙を舞う。
(あのデカさで跳べるのか……)
青年を「兄ちゃん」と呼んだその宙に浮かぶ男は、腰の位置にナイフを構えている。
(よし、これなら……)
俺は少し位置を調整するとナイフを持った男の腕を掴み、そのまま背中から地面に叩きつける。
ドスン──!
「う……うぅ……」
あの体重に落下のエネルギーが加わって背中から落ちたんだ。
しばらくは起き上がれないだろう。
(もし、こいつがナイフじゃなくて盾を構えて飛んできてたら俺はなすすべなく押しつぶされてただろうな)
ドゥ──!
梁の上の男が魔法を放つ。
衝撃の魔法。
テンの使ってたものと同じ。
(うん、それは……)
ガッ──!
(想定の──範囲内!)
バンッ!
俺は拾い上げた木刀を跳ね上げ衝撃を弾き飛ばす。
魔法を使えたテンのパーティーメンバーだ。
しかも同じ遠距離担当。
こいつも魔法を使うことは予測できた。
それも初歩の衝撃魔法。
術者の気の弱さが透けて見える、腰の引けた魔法だ。
(本来ならこれを揺動にして弓との二段構えってことだったんだろうが……)
ヒュッ──カンッ!
俺の投げた木刀が男の立っている梁に当たる。
梁はグラグラと揺れ──。
「わ、わわっ──!」
男はバランスを崩して転げ落ちると。
「うぎゅう……」
と、情けない声を上げて気を失った。
よし、これで団員は全員倒した。
残るは──。
「さぁてと、盗賊ギルドのボスさん。ご挨拶からした方が?」
「挨拶……だと?」
震えてる。
怒り?
……煽りすぎたか?
「私はお前のことを知っているぞ、ケント・リバぁぁぁぁぁー!」
バッ!
ボスはそう言ってローブを剥ぎ取った。
(……へ?)
現れたのは、太陽のようなオレンジ髪の……。
(お、女の子……?)
しかも俺のことを知ってる?
ん~……?
こんな可愛い女の子の知り合いなんかいたっけ……?
「えっと……どちら様、でしたっけ?」
ブチッ──。
スキル『超感覚』でなくともわかる。
あっ、この女の子──。
ブチギレちゃった……。
「殺す!!!!!!!!!!!」
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