65 / 174
生き残れ「地下迷宮」編
第64話 完全なる休息【後編】
しおりを挟む
完全なる休息を取るというオレに課されたミッション。
それを妨げる最大の敵が目の前に現れていた。
「スターグロウの葉ですね。湯に浸すと心身を回復する効能があるんですが、こんなにたくさん……」
しゃがんで湯船に浮いた五角形の葉を拾い上げるアルネ。
小柄で華奢なイメージだったんだけど、おお……これはこれは……。
っと、いかん。
そんな見入ってたら、本当に姿を消して出歯亀してるみたいになっちゃうじゃないか。
なるべく見ないようにして、ここから気づかれないように脱出する方法を考えるべきだ。
湯気で、あんまりハッキリと見えないのが不幸中の幸いと言ったところか。
「珍しいものなんですか?」
「うん、地上にはあんまりないと思う。こんなに贅沢に使うなんて……魔力の濃い場所にしか群生しないはずなのに」
「じゃあ、ここが魔力の濃い土地なんじゃねぇの?」
「そうですわねぇ、噴水の水からも質の高い魔力が感じられましたし」
ふむ……結構重要そうな話をしてるな。
つまりローパーの王国が地中の中でもわざわざここに作られているのは、魔力の濃度や質が関係してる……?
そんなことを考えながらアゴに手をやると「チャプ」と微かに水音が立った。
「ん? 誰かいるのか?」
カミラは、そう言うと「とぷん」と湯船の中に入ってきた。
ヤバ……。
蛇って耳いいのか?
あ~、そういえば蛇って地面とか水面とかの細かい振動を感知できるんだっけ?
もしかしたら半人半蛇になっても、そういう特性が残ってるのかもしれない。
なんて思ってる間に、カミラは下半身の尻尾をくねくねとうねらせながら泳ぎ、ぐんぐんと近づいてくる。
あ、ヤバ、出ないと……いや、動くと危険だ。
少しも物音を立てず、じっとしてたほうがまだ助かる可能性がある。
うう……たのむたのむ、どうか気づかないでくれ~~~……!
祈るような気持ちでスイスイと湯船の中を泳いでくるカミラを見つける。
デカい。Dいや、Fか──! 別に自分の中になんの比較基準もないのに、ついつい適当に鑑定してしまう。もちろんスキルじゃなく、オレの妄想の鑑定だ。ちょっと自分でも何を言ってるのかよくわからない。それくらいオレは今、混乱して焦りまくってる。思わず妄想に逃げてしまうくらいに。妄想。だが、オレの目に映る二つのど派手な高丘の存在感は、それが決して妄想の範囲内で収まらないことを高らかに物語っていた。
二十メートル先にいたカミラが、一瞬のうちにすぐそこまで来る。
そういや蛇って泳ぐの早いんだったっけ……!
ヤバい……終わる──!
あと五メートル……。
三メートル……。
い、一メートル……!
スキル狡猾の選んだ選択は、カミラに「魅了」をかけて洗脳すること。
出来るだけ仲間に洗脳行為は仕掛けたくなかったが、背に腹は代えられない。
見つかって変態覗き野郎と言われるようになってしまっては、ダンジョン脱出の成否にも関わってしまう。
仮に脱出できたとしても、そこから先に待ってるのは地獄の日々だ。
悪いがカミラ、使わせてもらうぞ、このスキルを。
オレは、手を伸ばせば触れることの出来る位置にいるカミラの目を、カッと見つめる。
【魅……】
「ぷはぁ~~~!」
目の前、まさに鼻の先でザバァと湯から上がるラミア。
そう、彼女、蛇は──変温動物……。
オレへと辿り着く前に、のぼせてしまったのだった。
【ラミア リタイア】
【茹で上がるまでのタイムリミット 五十七分】
【現在の入浴人数 七人】
残された六人の女子が、男子の品評会を行ったり(その中にはもちろんオレも含まれていたので複雑な気持ちで聞いてた)、男子の悪口を言ったり(「ワイバーンはお高く留まりすぎててキモかった」や「ケンタウロスとタロスはチェリー臭い」など)、その他スキンケアや女子力的な話で盛り上がる中、オレはただただお湯の中でじっと耐えていた。
ただ耐えているだけだと意識が飛んでしまいそうなので、意味のないアルファベットをつけてみる。
リサ A
ルゥ C
セレアナ E
アルネ D
ケプ ?
カミラ F
パル A
特に意味のないアルファベットだ。
意味はない。ないったらないんだ。
ああ、なにを言ってるんだろう、オレは。
あ、なんか……だんだんと……意識が朦朧と……して……き…………。
……ハッ!
あっぶね~! いま一瞬、意識が飛んでた!
って、あれ……なんか人数減ってるな……。
すでに、セレアナ、アルネ、ケプは湯船から上がっているようだった。
植物系や水棲の魔物たちにとって長時間の入浴はキツイのかもしれない。
【セレアナ、アルネ、ケプ 退出】
【茹で上がるまでのタイムリミット 三十二分】
【現在の入浴人数 四人】
ふぅ……どうにか終りが見えてきた。
あとはリサ、ルゥ、パルが出てくれるまで待っていれば、オレも明日からまた何の問題もなくダンジョン脱出に向けてみんなと挑んでいける。
そう、なにもなかった。
オレはサッと風呂を浴びて、彼女たちが来る前に部屋に戻った。
そういう正しい正史が待っているのだ、うん。
「私達……あと二日でダンジョンの本物の出口を見つけなかったら死ぬのよね……」
「ええ、悪魔の契約って言ってましたからね。授業で習ったとおりだったら、契約を履行しない限りなにをどうしても死ぬ……はずです」
「そう……。ルゥは、どうなの? 死んでもいいと思ってる?」
「私は……昨日までが、ずっと死んでたようなものでしたから……。だから、あと二日で死ぬと言うよりも、あと二日生きられるって感じですね」
「生きられる、か……」
「リサさんは……やっぱり死ぬたくない、ですよね……。不死のバンパイアさん、ですもんね」
「…………」
リサは、膝を抱えて黙り込む。
長い金髪を上でまとめ、タオルでくくっているリサ。
白い首筋、肩が、ほんのりと桜色に染まり、その細さを一層に際立たせている。
リサ……普段は気の強い感じだけど、きっと今、初めて実感する死の恐怖に怯えているんだろうな……。
オレも戦いとか鑑定とかで忙しくて、全然リサ達と話出来てなかったよ。
だから気づいてやれなかったな、そんな気持ちにも。
そういえば、オレは二人に、一緒に人間になってくれたお礼すらまだちゃんと言えてなかったような気がする。
でも、よくよく考えたらすごいよな……不死の命を捨ててまで、人間になるって……。
きっと生半可な覚悟じゃ出来なかっただろうし、その覚悟を無駄にしないためにも、オレが彼女たちをしっかり守って、安全に暮らせる場所まで連れて行ってあげないとな、うん!
目をつぶって考え込んでると、不意に鼻の中にお湯が入ってきた。
「ブフォッ!」
やっば! うっかり眠りかけてた!
「なに!?」
「え、なんか音しましたよね?」
やっべぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!
二人がこっちに向かってきてんじゃん!
あぁぁぁぁぁ! オレの人生終わる!
明日からオレは変態覗き男と呼ばれて生きていかなければいけないんだ……(涙)!
終わった……オレ、終わったよ……父さん、母さん、モモ……。
ああ……スレンダーなリサの肢体、ルゥのおそらく一般的なのではないかと思われる年頃の肉体、二人の裸体がどんどんハッキリと見えるようになってきて……。
とぷんっ。
思わずお湯の中に潜ってしまった。
ぶく……ぶくぶくぶく……。
口から泡が漏れる。
「あれ、この泡……?」
二人が近づいてくる。
潜ってるオレの目の前に二人のミミック……いや、宝箱……いや、お宝……いや、秘めたる部分……ああ、もうなんでもいい、とにかくそのようなものがオレの顔のど真ん前に鎮座ましましましましましまして……ああ、ヤバい……潜ってるのもあって、マジで意識がぶっ飛びそう……。
と、意識が途切れそうになったその時。
「ぶごぉっ!?」
いつの間にか潜水してたパルと目が合った。
ドバッシャァァァァン!
「キャァ!」
水しぶきを上げて浮上したパルは、二人が目を閉じてる間に触手でオレを掴んで後ろにゴロゴロゴロ! と放り投げた。
「なにぃ~? パルだったのぉ~?」
「も~、びっくりさせないでくださいよ~!」
ぷるぷるぷるぷる。
パルは二人の肩を掴むと、そのまま入り口の方に消えていった。
バ、バレてたのか……パルには……。
でも、パルだけでよかった……。
喋れないからね、パルは……。
っていうか、透明化してるオレに気づくとは……ローパー……本当に謎が多い……。
がくしっ。
オレは透明なまま、更衣室へ向かうパルに向かって親指を立て、大の字に横たわる。
ぐっ。
薄れゆく意識の中、触手を一本立てて「ぐっ!」みたいに返してきたパルが視界に入った。
(パル……ほんと、お前ってやつは……)
【リサ、ルゥ、パル 退出】
【茹で上がるまでのタイムリミット 一分】
【現在の入浴人数 一人】
【ミッションコンプリート!】
そのまましばらく横になって休んだ後、ふらつく足で必死に部屋に戻って水差しの水を一気に呷りベッドに横になると、一瞬のうちに眠りに落ちた。
なんかローパーの女王様やパルが部屋に来てたような気もするが、きっと気のせいだろう。
目が覚める。
サイドテーブルにサンドイッチと新しい着替え──オレの昨日着てたタキシードが置いてあった。
血で薄汚れていたそれは、綺麗な渋い深みのある赤に染め上げてあり、ワイシャツは黒に、そして黒と赤のストライプのベストまでついてる。
用意してくれたってことなのかな?
わざわざ色まで揃えて?
すごいな。
タキシードの方も、汚れをきれいに落として、色ムラもなく自然に染め上げてくれてる。
ワイシャツもだ。
え……ローパー王国の染色、縫製技術? すごすぎない……?
【タキシード(海獣レヴィアサンの骨、紅晶の花)】
【ワイシャツ(影花)】
【ベスト(フェニックスの赤羽根、夜明けの黒糸)】
しかも鑑定してみたら、なんかすごそうなんだけど……。
タキシードとワイシャツも、なんか染料っぽいのが素材に増えてるし……。
腕を通してみる。
一日前には自虐気味に着ていたタキシード。
それが今は、まるで自分のためにあるかのようにピシッと体に馴染んでくる。
染料の影響か、以前よりも丈夫になっているような感じがする。
ベストもサイズぴったしだ。
ぐっぐっと腕を横に回してみる。
うん、いいね。
ぐっすり寝たおかげか、体力も万全に回復している。
頭もすっきり冴えてる。
オレは確信する。
よし、オレに課された『完全なる休息を取るというミッション』、完璧にクリアだ!
天井に向かってノリノリで拳を突き上げてると、ソソソ……と女中ローパーが部屋の前に現れた。
【タイムリミット 一日十六時間四十二分】
【現在の生存人数 三十三人】
それを妨げる最大の敵が目の前に現れていた。
「スターグロウの葉ですね。湯に浸すと心身を回復する効能があるんですが、こんなにたくさん……」
しゃがんで湯船に浮いた五角形の葉を拾い上げるアルネ。
小柄で華奢なイメージだったんだけど、おお……これはこれは……。
っと、いかん。
そんな見入ってたら、本当に姿を消して出歯亀してるみたいになっちゃうじゃないか。
なるべく見ないようにして、ここから気づかれないように脱出する方法を考えるべきだ。
湯気で、あんまりハッキリと見えないのが不幸中の幸いと言ったところか。
「珍しいものなんですか?」
「うん、地上にはあんまりないと思う。こんなに贅沢に使うなんて……魔力の濃い場所にしか群生しないはずなのに」
「じゃあ、ここが魔力の濃い土地なんじゃねぇの?」
「そうですわねぇ、噴水の水からも質の高い魔力が感じられましたし」
ふむ……結構重要そうな話をしてるな。
つまりローパーの王国が地中の中でもわざわざここに作られているのは、魔力の濃度や質が関係してる……?
そんなことを考えながらアゴに手をやると「チャプ」と微かに水音が立った。
「ん? 誰かいるのか?」
カミラは、そう言うと「とぷん」と湯船の中に入ってきた。
ヤバ……。
蛇って耳いいのか?
あ~、そういえば蛇って地面とか水面とかの細かい振動を感知できるんだっけ?
もしかしたら半人半蛇になっても、そういう特性が残ってるのかもしれない。
なんて思ってる間に、カミラは下半身の尻尾をくねくねとうねらせながら泳ぎ、ぐんぐんと近づいてくる。
あ、ヤバ、出ないと……いや、動くと危険だ。
少しも物音を立てず、じっとしてたほうがまだ助かる可能性がある。
うう……たのむたのむ、どうか気づかないでくれ~~~……!
祈るような気持ちでスイスイと湯船の中を泳いでくるカミラを見つける。
デカい。Dいや、Fか──! 別に自分の中になんの比較基準もないのに、ついつい適当に鑑定してしまう。もちろんスキルじゃなく、オレの妄想の鑑定だ。ちょっと自分でも何を言ってるのかよくわからない。それくらいオレは今、混乱して焦りまくってる。思わず妄想に逃げてしまうくらいに。妄想。だが、オレの目に映る二つのど派手な高丘の存在感は、それが決して妄想の範囲内で収まらないことを高らかに物語っていた。
二十メートル先にいたカミラが、一瞬のうちにすぐそこまで来る。
そういや蛇って泳ぐの早いんだったっけ……!
ヤバい……終わる──!
あと五メートル……。
三メートル……。
い、一メートル……!
スキル狡猾の選んだ選択は、カミラに「魅了」をかけて洗脳すること。
出来るだけ仲間に洗脳行為は仕掛けたくなかったが、背に腹は代えられない。
見つかって変態覗き野郎と言われるようになってしまっては、ダンジョン脱出の成否にも関わってしまう。
仮に脱出できたとしても、そこから先に待ってるのは地獄の日々だ。
悪いがカミラ、使わせてもらうぞ、このスキルを。
オレは、手を伸ばせば触れることの出来る位置にいるカミラの目を、カッと見つめる。
【魅……】
「ぷはぁ~~~!」
目の前、まさに鼻の先でザバァと湯から上がるラミア。
そう、彼女、蛇は──変温動物……。
オレへと辿り着く前に、のぼせてしまったのだった。
【ラミア リタイア】
【茹で上がるまでのタイムリミット 五十七分】
【現在の入浴人数 七人】
残された六人の女子が、男子の品評会を行ったり(その中にはもちろんオレも含まれていたので複雑な気持ちで聞いてた)、男子の悪口を言ったり(「ワイバーンはお高く留まりすぎててキモかった」や「ケンタウロスとタロスはチェリー臭い」など)、その他スキンケアや女子力的な話で盛り上がる中、オレはただただお湯の中でじっと耐えていた。
ただ耐えているだけだと意識が飛んでしまいそうなので、意味のないアルファベットをつけてみる。
リサ A
ルゥ C
セレアナ E
アルネ D
ケプ ?
カミラ F
パル A
特に意味のないアルファベットだ。
意味はない。ないったらないんだ。
ああ、なにを言ってるんだろう、オレは。
あ、なんか……だんだんと……意識が朦朧と……して……き…………。
……ハッ!
あっぶね~! いま一瞬、意識が飛んでた!
って、あれ……なんか人数減ってるな……。
すでに、セレアナ、アルネ、ケプは湯船から上がっているようだった。
植物系や水棲の魔物たちにとって長時間の入浴はキツイのかもしれない。
【セレアナ、アルネ、ケプ 退出】
【茹で上がるまでのタイムリミット 三十二分】
【現在の入浴人数 四人】
ふぅ……どうにか終りが見えてきた。
あとはリサ、ルゥ、パルが出てくれるまで待っていれば、オレも明日からまた何の問題もなくダンジョン脱出に向けてみんなと挑んでいける。
そう、なにもなかった。
オレはサッと風呂を浴びて、彼女たちが来る前に部屋に戻った。
そういう正しい正史が待っているのだ、うん。
「私達……あと二日でダンジョンの本物の出口を見つけなかったら死ぬのよね……」
「ええ、悪魔の契約って言ってましたからね。授業で習ったとおりだったら、契約を履行しない限りなにをどうしても死ぬ……はずです」
「そう……。ルゥは、どうなの? 死んでもいいと思ってる?」
「私は……昨日までが、ずっと死んでたようなものでしたから……。だから、あと二日で死ぬと言うよりも、あと二日生きられるって感じですね」
「生きられる、か……」
「リサさんは……やっぱり死ぬたくない、ですよね……。不死のバンパイアさん、ですもんね」
「…………」
リサは、膝を抱えて黙り込む。
長い金髪を上でまとめ、タオルでくくっているリサ。
白い首筋、肩が、ほんのりと桜色に染まり、その細さを一層に際立たせている。
リサ……普段は気の強い感じだけど、きっと今、初めて実感する死の恐怖に怯えているんだろうな……。
オレも戦いとか鑑定とかで忙しくて、全然リサ達と話出来てなかったよ。
だから気づいてやれなかったな、そんな気持ちにも。
そういえば、オレは二人に、一緒に人間になってくれたお礼すらまだちゃんと言えてなかったような気がする。
でも、よくよく考えたらすごいよな……不死の命を捨ててまで、人間になるって……。
きっと生半可な覚悟じゃ出来なかっただろうし、その覚悟を無駄にしないためにも、オレが彼女たちをしっかり守って、安全に暮らせる場所まで連れて行ってあげないとな、うん!
目をつぶって考え込んでると、不意に鼻の中にお湯が入ってきた。
「ブフォッ!」
やっば! うっかり眠りかけてた!
「なに!?」
「え、なんか音しましたよね?」
やっべぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!
二人がこっちに向かってきてんじゃん!
あぁぁぁぁぁ! オレの人生終わる!
明日からオレは変態覗き男と呼ばれて生きていかなければいけないんだ……(涙)!
終わった……オレ、終わったよ……父さん、母さん、モモ……。
ああ……スレンダーなリサの肢体、ルゥのおそらく一般的なのではないかと思われる年頃の肉体、二人の裸体がどんどんハッキリと見えるようになってきて……。
とぷんっ。
思わずお湯の中に潜ってしまった。
ぶく……ぶくぶくぶく……。
口から泡が漏れる。
「あれ、この泡……?」
二人が近づいてくる。
潜ってるオレの目の前に二人のミミック……いや、宝箱……いや、お宝……いや、秘めたる部分……ああ、もうなんでもいい、とにかくそのようなものがオレの顔のど真ん前に鎮座ましましましましましまして……ああ、ヤバい……潜ってるのもあって、マジで意識がぶっ飛びそう……。
と、意識が途切れそうになったその時。
「ぶごぉっ!?」
いつの間にか潜水してたパルと目が合った。
ドバッシャァァァァン!
「キャァ!」
水しぶきを上げて浮上したパルは、二人が目を閉じてる間に触手でオレを掴んで後ろにゴロゴロゴロ! と放り投げた。
「なにぃ~? パルだったのぉ~?」
「も~、びっくりさせないでくださいよ~!」
ぷるぷるぷるぷる。
パルは二人の肩を掴むと、そのまま入り口の方に消えていった。
バ、バレてたのか……パルには……。
でも、パルだけでよかった……。
喋れないからね、パルは……。
っていうか、透明化してるオレに気づくとは……ローパー……本当に謎が多い……。
がくしっ。
オレは透明なまま、更衣室へ向かうパルに向かって親指を立て、大の字に横たわる。
ぐっ。
薄れゆく意識の中、触手を一本立てて「ぐっ!」みたいに返してきたパルが視界に入った。
(パル……ほんと、お前ってやつは……)
【リサ、ルゥ、パル 退出】
【茹で上がるまでのタイムリミット 一分】
【現在の入浴人数 一人】
【ミッションコンプリート!】
そのまましばらく横になって休んだ後、ふらつく足で必死に部屋に戻って水差しの水を一気に呷りベッドに横になると、一瞬のうちに眠りに落ちた。
なんかローパーの女王様やパルが部屋に来てたような気もするが、きっと気のせいだろう。
目が覚める。
サイドテーブルにサンドイッチと新しい着替え──オレの昨日着てたタキシードが置いてあった。
血で薄汚れていたそれは、綺麗な渋い深みのある赤に染め上げてあり、ワイシャツは黒に、そして黒と赤のストライプのベストまでついてる。
用意してくれたってことなのかな?
わざわざ色まで揃えて?
すごいな。
タキシードの方も、汚れをきれいに落として、色ムラもなく自然に染め上げてくれてる。
ワイシャツもだ。
え……ローパー王国の染色、縫製技術? すごすぎない……?
【タキシード(海獣レヴィアサンの骨、紅晶の花)】
【ワイシャツ(影花)】
【ベスト(フェニックスの赤羽根、夜明けの黒糸)】
しかも鑑定してみたら、なんかすごそうなんだけど……。
タキシードとワイシャツも、なんか染料っぽいのが素材に増えてるし……。
腕を通してみる。
一日前には自虐気味に着ていたタキシード。
それが今は、まるで自分のためにあるかのようにピシッと体に馴染んでくる。
染料の影響か、以前よりも丈夫になっているような感じがする。
ベストもサイズぴったしだ。
ぐっぐっと腕を横に回してみる。
うん、いいね。
ぐっすり寝たおかげか、体力も万全に回復している。
頭もすっきり冴えてる。
オレは確信する。
よし、オレに課された『完全なる休息を取るというミッション』、完璧にクリアだ!
天井に向かってノリノリで拳を突き上げてると、ソソソ……と女中ローパーが部屋の前に現れた。
【タイムリミット 一日十六時間四十二分】
【現在の生存人数 三十三人】
22
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
Sランクパーティーを追放された鑑定士の俺、実は『神の眼』を持ってました〜最神神獣と最強になったので、今さら戻ってこいと言われてももう遅い〜
夏見ナイ
ファンタジー
Sランクパーティーで地味な【鑑定】スキルを使い、仲間を支えてきたカイン。しかしある日、リーダーの勇者から「お前はもういらない」と理不尽に追放されてしまう。
絶望の淵で流れ着いた辺境の街。そこで偶然発見した古代ダンジョンが、彼の運命を変える。絶体絶命の危機に陥ったその時、彼のスキルは万物を見通す【神の眼】へと覚醒。さらに、ダンジョンの奥で伝説のもふもふ神獣「フェン」と出会い、最強の相棒を得る。
一方、カインを失った元パーティーは鑑定ミスを連発し、崩壊の一途を辿っていた。「今さら戻ってこい」と懇願されても、もう遅い。
無能と蔑まれた鑑定士の、痛快な成り上がり冒険譚が今、始まる!
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした
夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。
しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。
彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。
一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!
S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました
白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。
そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。
王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。
しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。
突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。
スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。
王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。
そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。
Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。
スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが――
なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。
スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。
スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。
この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります
無能認定され王宮から追放された俺、実は竜の言葉が話せたのでSSS級最凶竜種に懐かれ、気がついたら【竜人王】になってました。
霞杏檎
ファンタジー
田舎の村から上京して王宮兵士となって1年半……
まだまだ新人だったレイクは自身がスキルもろくに発動できない『無能力者』だと周りから虐げられる日々を送っていた。
そんなある日、『スキルが発動しない無能はこの王宮から出て行け』と自身が働いていたイブニクル王国の王宮から解雇・追放されてしまった。
そして挙げ句の果てには、道中の森でゴブリンに襲われる程の不遇様。
だが、レイクの不運はまだ続く……なんと世界を破壊する力を持つ最強の竜種"破滅古竜"と出会ってしまったのである!!
しかし、絶体絶命の状況下で不意に出た言葉がレイクの運命を大きく変えた。
ーーそれは《竜族語》
レイクが竜族語を話せると知った破滅古竜はレイクと友達になりたいと諭され、友達の印としてレイクに自身の持つ魔力とスキルを与える代わりにレイクの心臓を奪ってしまう。
こうしてレイクは"ヴィルヘリア"と名乗り美少女の姿へと変えた破滅古竜の眷属となったが、与えられた膨大なスキルの量に力を使いこなせずにいた。
それを見たヴィルヘリアは格好がつかないと自身が師匠代わりとなり、旅をしながらレイクを鍛え上げること決める。
一方で、破滅古竜の悪知恵に引っかかったイブニクル王国では国存続の危機が迫り始めていた……
これは"無能"と虐げられた主人公レイクと最強竜種ヴィルヘリアの師弟コンビによる竜種を統べ、レイクが『竜人王』になるまでを描いた物語である。
※30話程で完結します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる