へなちょこ鑑定士くん、脱獄する ~魔物学園で飼育された少年は1日1個スキルを奪い、魔王も悪魔も神をも従えて世界最強へと至る~

めでめで汰

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向かえ「王都イシュタム」編

第136話 悪魔とバッティング

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「どういうことですか!?」

 ザガの町。
 その宿屋の主人に神官ラルクくんが詰め寄る。

「さっき二部屋用意できるって言ってたじゃないですか! 僕、予約しましたよね!?」

「はぁ、そうなんですが……」

 要領を得ない宿屋の主人に短気なリサが食いつく。

「ちょ~っと! もごもごしてないではっきり言ったらどうなの? あなたの勘違いで実は二部屋空いてなかったのか、それとも──」

 別の客に貸したのか。

 ガチャ──ガチャン──。

 その言葉を口に出す前に漂ってきた鉄の匂い。
 宿屋の奥から真っ黒な全身鎧に身を包んだ男が出てきた。
 そいつはチラッと僕らを一瞥したあと「少し出てくる」と言って横を通り過ぎていく。

「なにあれ? こんな田舎に物騒な格好で。竜退治にでも行くのかしら」

「騎士様なんじゃないですか? あんな全身を覆うような立派な鎧、一般市民じゃ手に入りませんよ」

「あれが騎士様……。初めて見たんですけど、あんなに禍々しい鎧を着けるものなんですね」

 そのあまりの異様な風体に、リサたちは口々に感想を述べる。

「お客さん達には悪いんだけどねぇ。今のがイシュタム三騎士の一人、黒騎士ブランディア・ノクワール様でさぁ。そっちの神官様が出ていった後に入れ替わりで来てねぇ。うちのような田舎宿場なんて国に目をつけられちゃひとたまりもないからさぁ……」

「で、私達との約束を破って権力におもねったってことね」

「いやいや、勘弁してくださいって……。うちら商売人なんて国に生かしてもらってるようなもんですよ? だから、ねぇ?」

「ふぅ~ん? つまり『私たちよりもお偉いさんを優先した』それだけのことでしょう? そうならそうと、奥歯に物が挟まったような言い方せずに胸を張ったらどうなのかしらぁ?」

 セレアナが独自の哲学を披露し宿屋の主人を戸惑わせる。
 その裏で、僕の中に避難してる魔神サタン (今は「ベルゼブブ」とかいうハエの形をしてる)が僕に「ありゃ悪魔だぜ」と告げる。

 サタンと呼応するかのようにゼノスも「ケッ、胸糞悪いのぅ。こんなとこまで害虫が紛れ込んどるのかよ」と嫌悪感を露わにする。

 一方、大きく括れば悪魔と同族のはずのテスや元魔物のリサ、ルゥ。現魔物のセレアナは特に黒騎士の正体に気づいたりはしてないっぽい。
 それだけあの黒騎士が巧妙に正体を隠してるってことなのだろうか。

 神官のラルクくんは「ダメですよ、人を害虫なんて言ったら! どれだけ思い上がってるんですかゼノスさん!」と自身の信仰する頂上神を叱っている。
 いつものシュールな光景。
 ラルクくん、いつか真実を知ったらびっくりして死んじゃいそう。

 さて。
 人間界、特にイシュタムに魔族がいることはすでに織り込み済み。
 だって魔王がいるのはイシュタムだってパルの母、ローパー女王ポラリスから受け継いだ能力スキル一日一全智アムニシャンス・ア・デイ』が教えてくれてたから。
 そもそも人間界に魔物がいるからこそ、僕たち「冒険者」ってものが成り立ってるわけで。
 まぁさすがに三騎士までもが悪魔だとは思ってなかったけど……。

 チラッと一瞬「悪魔って倒したほうがいいのかな?」って考えが頭をよぎったけど、僕たちはいま同行してるゼノスに正体を気取られずにイシュタムまでの旅路を乗り切る必要があるわけで。

 だからここで今、下手にことを構えるわけにはいかない。
 だって、もし僕らが悪魔を倒せるような魔物や魔神や悪魔だってバレたら、さすがに頂上神に消し炭にされそうだしね。
 フィードと一体化して元のスキルやステータスを取り戻すまで、絶対にゼウスから正体を隠し通さなきゃだ。

 ってことで。

「わかりました!」

 ここは事を荒立てないことに決定。

「ルード、でも……!」
「いいから、リサ」

 不満げなリサをなだめ、宿屋の主人に尋ねる。

「泊まってるのは黒騎士の人だけですか?」

「ええ。どうしても広い方の部屋が必要だってことで。ま、あの重装備を脱ぐのに狭い部屋じゃ難儀なんでしょうな……」

「じゃあ二部屋空いてたうちの一個は空いてたりします?」

「ええ、一部屋なら用意できます。ただちょっと狭いですから、みなさん全員ってのは……」

 ふむ。
 別に僕は相手を出し抜きたいわけじゃない。
 そして「生き死に」がかかってるわけでもない。
 だからスキル『狡猾モア・カニング』も使わない。
 これくらいのやり取りなら冒険者時代からやってきてた。
 宿屋の予約、調整、素材の売買なんかが昔の僕の主な仕事だった。
 懐かしいなぁ。
 みんな今、どうしてるだろ。
 ……っと、それよりも宿屋だな。

「二人ならいけます?」

「ええ、元々二人部屋ですから」

「よし、じゃあそこにラルクくんとゼノスで泊まって」

「ええっ!? そんな、ダメですよ僕たちだけだなんて……」

「そうじゃそうじゃ! ワシはみんなと大部屋で過ごして青春したいんじゃ! 添い寝! 混浴! 夜風に当たりに来たところばったり出くわしていい感じ! とかやりたいんじゃ!」

 やけに具体的な願望だなぁ。
 僕は述べるゼノスを無視して続ける。

「他に宿屋ってあります?」

「小さい町ですからねぇ。ここだけです」

「この辺に泊まれそうなとこは?」

「昔は町外れの広場で野営をしてた人もいたんですが、最近めっきり魔物が活発になってきてねぇ。誰も使ってませんよ」

「魔物ってどんな?」

「主にゴブリンですな。あいつら駆除しても駆除してもキリがないですから」

「よし、じゃあそこでいいかな」

「いやいや、お嬢さんがた。ゴブリンをナメチャいけません。あいつらは実に凶悪で狡猾、どれだけの熟練冒険者でもちょっとした弾みで命を落とすっていう最悪な……」

「大丈夫、僕ら魔物には慣れてるんで」

「いや、よくそう言われる方はいるんですけどね……」

「野営地かぁ」
「屋根があるだけでありがたいですよね~」
「交代での見張りの番、懐かしい」
「ゴブリンの一万や二万、この世界の歌姫セレアナ・グラデンの前では無力に等しいですわ~!」

 元バンパイア。
 元ゴーゴン。
 現大悪魔 (+魔神の魔力の残滓)。
 現セイレーン。
 の四人が口々に賛意を示す。

「はぁ……。もう、ほんとにどうなっても知りませんからね……」

 悪いけど知らないのはそっちの方。
『黒騎士になりすましてる悪魔』なんていう得体の知れないものとひとつ屋根の下で過ごす方が御免こうむるんだよなぁ。
 あの大悪魔ダンジョンに飲み込まれて暗闇の中過ごした日々と比べれば野営地 (ゴブリン付き)なんて天国のようなもの。

「久しぶりに五人で過ごせるのね!」
「うふふ、楽しみですね~」
「ふむ、これがウキウキという感情」
「夜は焚き火でリサイタルですわ~!」

 そして、 これは女の子の体だから感じる本能なのか。
 ゼノスやラルクくんといった男性陣と別々に泊まれることにホッとしてる。
 ほら、やっぱ寝込みを襲われる恐怖みたいなのがあるわけで。
 ほんのちょっととはいえ、0.0000000000001%とかでもさぁ。
 相手はゼウスだし、何が起きるかわからないし。
 そう思うと離れて泊まれるのは嬉しい。
 それに死地を共にくぐり抜けてきた信頼できる仲間たちと水入らずで過ごせるのも正直楽しみ。
 ディーからもらったお金もあるし食料の不安もないし。
 お金だけじゃなくて装備品 (マジックアイテム)も貰ってるし。
 う~ん、完璧かも。

「きゃ~! 今夜は女子会ね! 久しぶりだわ~!」
「うふふ、教室の時みたいですね」
「吾輩も女子……?」
「テスちゃんはどこからどう見ても女子ですわ~!」

『俺もゼウスから離れて過ごせたほうが安心だわな』

 僕の中の魔神サタンも同調する。

「マスター……」

 テスの中からニョッと生えてきかけた偽モモをグググと体の中に押し返す。

「あはは! ってことで野営地、いってきま~す!」

「そんなぁ~! セレアナさ……じゃなくてみなさぁ~ん!」

「ルードちゅわ~ん!(泣)」

 こうして悲しげな声を上げるラルクくんとゼノスを宿屋に残し、僕らは町外れにあるという野営地へと向かった。
 まぁ実際ゴブリンが出るって言っても大丈夫でしょ。
 だってほら、あの地下ダンジョンのデビル・アントなんかと比べたら……ね?
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