へなちょこ鑑定士くん、脱獄する ~魔物学園で飼育された少年は1日1個スキルを奪い、魔王も悪魔も神をも従えて世界最強へと至る~

めでめで汰

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向かえ「王都イシュタム」編

第139話 司法書士ゴブリン

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 朝、異臭で目を覚まして外に出ると。

「うわっ、どうなってんだこれ!?」

 僕らの天蓋をぐるりと囲んだ──いや、押しつぶさんがばかりに取り囲んだゴブリン、ゴブリン、ゴブリン。

「どうしたのフィード……? って、きゃぁぁぁぁぁぁ! ムリムリムリっ! なにこれっ!? ここ人間界よねっ!? なんでこんなにゴブリンがいるわけっ!? 今すぐ殺して! 即死スキルで全員殺してフィード!」

 目をこすりながら起き上がったリサが叫び声を上げる。
 おまけに僕アベルことルードを「フィード」呼び。
 ここにゼノスがいなくてよかった、ホッ。

「むにゃむにゃ……ルード、どうした?」
「ふわぁ~、下級魔物の匂いがしますわぁ~」
「ルードちゃん、おはようございます。これ、どうされたんですか? 私が見張り番をしたときにはいませんでいたが」

 テス、セレアナ、ルゥも目を覚ます。

「あっ……うん、なんだろうね……」

 言えない。
 寝ずの番をルゥから受け継いだ僕がすぐに寝落ちしてただなんて。
 いやいや……でも、寝落ちしながらもなんとな~くなにかスキル使ってたような気が……。

「吾輩の見張りの番はこなかったぞ、ルード」

 そう、見張りの番は。

 リサ
 ↓
 セレアナ
 ↓
 ルゥ
 ↓
 僕
 ↓
 テス

 のはずだった。
 そして、ルゥとテスの証言によってバレる。
 僕が寝落ちしてしまっていたことに。

「ルードさん?」
「ルード?」
「ふわぁ、英雄ルードもうっかり寝ちゃうことがありますのねぇ~」
「おかげでゆっくり寝られた。感謝」

 う~ん、これはもう認めるしかない。

「ごめ……」

 謝ろうとした時、魔神サタンが『謝る必要ねぇぞ』と話しかけてくる。

(え、なんで?)

『お前は寝ぼけながらこいつらを追い払ったんだよ』

(追い払った? 増えてるけど)

『そりゃお前が追い払ったのは最初の十体くらいだけだからな』

(てことは?)

『お前はこいつらに朝までこの場を守るように命令したんだよ。虚勢ブラフのスキルでな』

虚勢ブラフ……。マジかぁ~。じゃあこれは……?)

『最初の奴らが仲間を呼んだんだろうな』

(命令を守って僕たちを守るために?)

『イエス』


「ということらしいんだ」

 今のやり取りをリサたちに説明。

「はぁ……。ほんっとあんたって……」

 リサが呆れ顔で僕を見つめる。

「まぁまぁ、こうして無事に朝まで過ごせたわけですし」

「でもこのままじゃ騒ぎになるわよぉ~? 神官ラルクたちも来るでしょうし」

「村人に見つかるのも時間の問題」

 た、たしかに……。
 ここでトラブったら居合わせてる実は悪魔らしい黒騎士ともややこしくなりそうだなぁ。

「だから全員殺したらいいのよ。フィー…じゃなくてルードならできるでしょ?」

「う~ん、出来ないことはないだろうけど……。一応僕たちを一晩守ってくれたゴブリンだよ? いきなり皆殺しってヒドくない?」

「だが、人間に危害を与えてきたそうだぞ?」

 テスが口調は幼児だけど視点的には大人の意見をくれる。

「でも僕は今『魔神 (仮)』だからなぁ。昔人間に危害をもたらしたからって、今のゴブリンを全部殺すとか出来ないよ」

「だからってこのまま放っとくのもムリですわ」

「それなんだよねぇ……」

 どうしよう。
 っていうかどれくらいの数いるんだろう。
 こんな大群を相手にスキルをかけたこともないし。
 いざやってみてスキルポイント枯渇しましたとかってなっても困る。

「聞いてみればいいじゃない」

「誰に?」

「パルのお母さんに」

 正確にはパルのお母さんから譲り受けたスキル、なんだけど。
 リサ的にはパルのお母さんが色々教えてくれるスキルみたいに思ってるみたい。
 知りたいことをなんでも知れるスキル『一日一全智アムニシャンス・ア・デイ』。
 ──っていってもここ数日大したことに使えてない。
 一日一回使用制限のこのスキル、ゼノスを躱すのに使っちゃっててさぁ……。
 まぁいいや。
 今使うのはゼノスより有用でしょ。
 っていうかほんとに急がないと騒ぎになるし!
 ってことで~。


一日一全智アムニシャンス・ア・デイ


(え~っと、このゴブリンの大群、どうやったら一番穏便に済ませられるかな?)

『これより訪れし者と話せ』

 え、それだけ?
 このスキルさぁ、スパッと答えを教えてくれる時もあれば、こうやって遠回しに答える時もあるんだよね。
 もっとポラリス女王に詳しく使い方を聞いときたかったなぁ……。

 僕の脳内に蘇る。
 ララリウムの夜、パルとポラリス女王が僕の枕元に現れたこと。
 ずっと幻覚だと思ってた。
 けど時が経つにつれ、ありありと実感を伴って思い出されてくる。
 そんな僕の雑念だか心配だか不安をかき消すように天幕の入口から声がした。


「あ~、ここ? 一応話すように言われて来たんだけど……って、なんで魔物と人間がごっちゃでいるんだよ!」

 声の方を見ると、メガネをかけた変なゴブリンがいた。
 どう「変」か。
 まず着てる服が変。
 他のゴブリンたちは基本裸で、たまに人から奪ったサイズの合ってない服を着ている。
 主に戦闘のためや、戦利品を見せびらかす意味での衣類だろう。
 でもこのヒョロヒョロのゴブリンが着てるのは、木の板や色んな布をパッチワークしたワンピースみたいなの。

 シンプルに違和感。
 この丸メガネもどことなくシス・メザリア時代の大悪魔を彷彿とさせてなんともいえない気持ちになる。
 まぁあの神経質なまでにピカピカに磨かれたメガネと違って、こっちは手作り感満載の今にもポキっと折れそうなメガネだけど。

「ふむ、貴様ゴブリンのくせに物怖じせぬ奴じゃな。ものを知らぬうつけか、それとも傑物か」

「あ!? 俺が物怖じしたらなんか得あんのかよ!? てかなんでガキにそこまで偉そうな口叩かれなきゃいけないんだ!?」

 テスに対してガキって言ってもさ、実はキミより相当歳上なんだけど……。
 ま、こういうクセの強そうな相手には、まず──。


 【鑑定眼アプレイザル・アイズ


 名前:ヤリヤ
 種族:エルフゴブリン
 職業:司法書士
 レベル:11
 体力:12
 魔力:538
 職業特性:秩序遵守
 スキル:【ミスラ神絶対契約】


 ヤリヤ。
 種族……エルフゴブリン?
 そんなのあるんだ、あとでテスに聞いてみよ。
 で、職業「司法書士」ってなんだ……?
 レベルと体力のわりに魔力がめちゃくちゃ高い。
 話せない個体も多い中、これだけ饒舌に喋れるってことは知能がかなり高いんだろう。
 職業特性も職業と同様完全に意味不明。
 スキルに至っては「なにこれ?」状態。
 ミスラ神? 聞いたことないけどそんな神。
 っていうか神とかもうゼノスだけでお腹いっぱいなんだよね……。

 とりあえず時間もないし、今得た情報を元に交渉してみるか。

「エルフゴブリンのヤリヤ。キミはこのゴブリンたちをここから立ち退かせることができるかい?」

「て、てめぇ……!? どうして俺の名前を! それに王以外誰も知らない俺の種族名まで……!」

 今気づいた。
 ヤリヤの指がずっと震えていたことに。
 虚勢を張ってたのか。
 さて、魔神や大悪魔を相手に啖呵を切ったその気概は立派なものだけど、僕の半身を取り戻すため、そしてゼノスを残りの三日か四日くらい引き止めておくため、ここから一気にゴブリンたちを引かさせてもらうよ。
 職業「司法書士」のキミに、ね。
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