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第三章
第三十七話・フォートランド城での日常・(思いがけない訪問者)②
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ボイルに会えない寂びしさを感じつつ、相変わらずスパルタな毎日だ、ほんとバルトは容赦ない。
僕は有り難くない青痣を日々、量産している。
そんなある日、リュゲルにやる為に角砂糖を貰って来いと突然言い付けられた僕とジョエルは訝しく思いながら、お城の調理場の裏手口に向かった。
いつもなら、搬入でごった返しているのに扉は閉められて誰もおらず閑散としていたが、よく見ると積み上げられたたくさんの木箱の影に誰かが座り込んでいる。
座り込んでいた人影は近付いて行く僕達に気が付くと立ち上がって振り向いた、ボイルだ!!
そう分かった途端、僕は走り出した。後ろでジョエルが叫んでいるが構うもんか。
後少し、という所でジョエルに捉まり、不用意に近付いては駄目だときつく注意を受けた。
「君の名前は?どうしてここにいるの?」ジョエル、顔も、声も怖いよ。
おまけに剣まで抜き放ち、剣先をボイルに向けているので彼は吃驚して固まっている。
「どうして剣を抜く必要があるの?ジョエル、ボイルは僕の友達だよ。」
「アレンは黙ってて。さあ、君の名前は、答えて。」しかし、剣先は変わらずボイルに向けられたままで、彼はそれから目を離せずにいたので、僕は二人の間に割り込んで腰に挿していたタガーの鞘で払った。
「危ないだろう、アレン。それに彼に背中を晒してはいけない。その子とほんとうに話しがしたいならこっちに戻るんだ。でなければ話すのを許す訳にいかない。本気だからな。」
「・・・分かったよ、ジョエル。」僕はジョエルの本気を感じ取り、不本意だがボイルの側を離れて彼の後ろに回った。
「ご免よ、君。だけどアレンを守るのが俺の仕事なんだ。さあ、君の名前を教えてくれるね。それと、なぜ、ここに居るのかも話してくれ。」
ボイルの唾を飲み込む音が聞こえ、彼はゆっくりとジョエルに向かって頷くとやっと話し始めた。
ボイルの話を要約すると、結局お城の門衛の知り合いからは”ボイルの事は知らない、人違いだ”と言伝を聞いたそうだが彼自身はどうしても諦め切れなかった。そんな時にお城での搬入に子供の手伝いが要ると聞き、搬入業者と一緒に此処までやって来たらしい。
「それで、荷物を降ろしたら此処で角砂糖を取りに人が来るから、その人に渡せって。」そう言うと、ボイルは手に持っていた角砂糖入りの袋を差し出した。
僕とジョエルは顔を見合わせた、「これはバルトがボイルと会えるように取り計らってくれたことだよね?」
「やれやれ、そのようだな。」ジョエルが漸く剣を鞘に納める。
「ここで話すのも何だから、裏の湖の方でゆっくり話したら?俺は厩舎にいるよ。暫く経ったらリュゲルを連れて迎えに行くからさ。」
「ありがとう、ジョエル。バルトにも有難うって伝えてて。行こう、ボイル。」
僕達はジョエルと別れて、城の北にある湖の方へゆっくり歩いて向ったが、突然過ぎて何から話したらいいか分からず暫く無言で歩く。
「これって、どう言う事かな?」ボイルが漸く口を開いた。
「ごめんね、ボイル。人違いだって言って、一旦断った方がいいと判断されたんだ。」
「じゃあ、やっぱりアレンが後継ぎのアレリス様で、守護魔獣を手に入れたのかい?」
「うん、そうなんだ。」
「今は貴族って事?」
「うん、まだ慣れないけどね。」
「・・・・・。」
「・・・・・。」
「ふ~。なんか、世界が違うって言うか。さっきの人、ほんとうに怖かったよ。刺されるかと思った。」
「ごめん、ジョエルは僕を守る付き人の衛士なんだ。だから僕に近付く者は全部、疑うのが仕事なんだよ。」
「そうか・・・・・俺、アレンに謝りたかったんだ。」
「なにを?」
「おばさんが病気になった後さ、俺もエリス熱に罹っちゃって、その後、母ちゃん、弟達と交代で移って
アレンの所に行けたのが追い出されて一月も経った後だったんだ、だからごめん。なんにも力になれなくて。」
「そんな、謝る事なんて一つもないよ、病気だったんだし、ボイルには母さまのお見舞いや差し入れをくれたり、凄く励まされた。ほんとに感謝してたんだ、ありがとう。」
そう言うと、アレンはにっこり笑い掛けた。
「よかった。そう言うとこ、ちっとも変ってなくて。それより、おばさんは?病気は治ったの?」
「うん・・。それが、ベルファウストの森で死んだんだ。」
「ごめん。俺・・・。」
「もう、大丈夫。立ち直ったよ。今はお爺様もいるし、皆よくしてくれる。」
「そうか、良かった。でも、やっぱりベルファウストの森に置き去りにされたんだね。聞いた時は信じられなかったね。あいつとはその場で絶交してやった。」
「ハデスと?」
「うん、でもあれから何処にいたんだ?父ちゃんやメリンダさんに頼んで南の森を探したんだよ。」
「そうだったんだ、ありがとうボイル。僕は母さまが死んだ後、フランクと言う猟師に助けられて東の森で三年間一緒に暮らしてたんだよ。」
「へ~、じゃあ、その後でお城に来たのかい?」
「うん、さっきのジョエルと騎士のバルトが迎えに来てくれたんだ。」
「ふ~ん、ほんとにお城の子になったんだね。もう、街には戻らないの?」
「うん、僕は守護魔獣を手に入れたから、皆を守る責任ができたんだ。ここで頑張るよ、それがよくしてくれた人達への恩返しになると思ってる。」
「・・・・アレンはやっぱり、偉いな、そんな事考えてるなんて。でも、そんなとこも全然変わってないよ。ほっとした。」
二人は向い合って笑った。
「でも、よかった。ボイルも全然変わってない、あ、背は高くなったね、いいな。僕はあんまり伸びてないんだ。」
「はは、ほんとだ。でも、少しは高くなってるよ、そのうち伸びるさ。あのさ、アレンの守護魔獣ってどんなの?俺はイルビス様の葬儀の時、少しは見かけたんだけど遠過ぎてよく見えなかったんだ。」ボイルはやっぱり子供で、好奇心には勝てなかった。
「う~ん、ほんとはあんまり話しちゃ駄目なんだけど、ここでの事や二人で話たことを秘密にしてくれる?ボイルになら話すよ。」
「うん、絶対言わない。アレンがアレリス様だってのも内緒なんだろ。」
「うん、秘密って言う訳じゃないけど、ボイルに会わせて貰えたのは特別な事だと思う。だから、黙っててくれたら助かるよ。」
「うん、父ちゃんにも言わない、約束する。」
「僕の守護魔獣はトゥルール、綺麗な鳥だよ。でも、まだ幼鳥で無理させてばかりだから今は休んでる。だから見せてあげられないんだ。」
「そうか、トゥルールか、可愛い名前だね。残念だけど、あれだけ頑張って飛んだんだもんね。アレンが乗れるくらい大きくなったんだろ?」
「そうなんだ、僕も吃驚したよ。ほんとうはこれくらいの雛なんだよ。」アレンは人抱えするくらいに掌を広げてみせた。
「へ~!やっぱり、魔獣だね。そんなに大きい鳥の雛を見た事も、聞いた事もないよ、凄いや。」
アレンはボイルから街の様子や知り合いの話を聞きながらゆっくり湖の散歩道を歩き、丁度半週したところだった。
散歩道の向こう側はお城の北側で峰続きの裏山に繋がり、林から森へと広がっている。
その森の奥には岩兎や山やぎ、山鹿、山豚等の岩場でも暮らせる動物達が多数生息して狩猟場にもなっていた。
その時、アレンは首の後ろに寒気を覚え、咄嗟にボイルを突き飛ばして草叢に伏せた。
直ぐ近くの木に立て続けに矢が当たった、一本は刺さり、もう一本は木に弾かれてアレン達の近くに落ちた。
「なに?アレン、どうしたの?」
「しっ!まだ伏せてて、何かの動物に間違えられたかも知れない。」そう言いながらもそれが違う事に気が付いていた、湖側の林では狩りをしてはいけない事をアレンは知っていた。
(もしかして狙われた?どうしようボイルを巻き込んじゃう。)
ガサガサと下生えを掻き分ける音が林の奥から聞こえ、馬の嘶きも聞こえて来た。こちらに近付いて来る。
ボイルを促して木の反対側へと這って回り込む。
「あれ~?当たったと思ったのにな。お~い、出てこい、子ブタども。」ブルース達だ、やっぱりわざとだったんだ。
アレンはボイルに絶対に立ち上がらない様に話し、自分自身は立ち上がって身体を晒した。
「おや、これはこれは、アレリス様、ご健勝そうで何よりです。」にやにや笑いながら、馬から降りずに話し掛けて来た。
手にはまだ番えた矢を持っている。
「湖の林側では狩りは禁止の筈です。」アレンはブルースを睨みつけて言った。
「へえ~、それは知らなかったな。お前達、知ってたか?」後ろの取り巻き連中に話掛けた、全部で四人いてそれぞれが弓と鉄砲を持っている。
普通、狩りの時には余り鉄砲は使わない、肉が傷むからだ。彼等は狩りと言うよりは遊びで動物を狩っているようだ。
取り巻き達はそれを聞いてげらげら笑った。
「危ないから、矢を外して貰えませんか。」アレンは彼らには取り合わずに、ブルースだけを見つめて重ねて言った。
「危ないって?この矢の事かい?」彼は言うなり、矢をアレンに向けて放した。
アレンは咄嗟にタガーを抜いて矢を払ったがその反動でタガーは遠くへ飛んで行ってしまった。
「おやおや、これはこれは。バルトに鍛えられた成果かな?」
(彼らは本気で僕を殺そうとしてる。)
「それ以上、こちらに近付かないで、今なら許します。さっさとこの場から離れてください。」アレンは必死で怒りを押えた。
何かが胸の中で暴れているような感覚がして、これを解き放すととんでもない事が起こりそうだ。
「許すだと、偉そうに、何さまのつもりだ!!」ブルースが笑うのを止めて怒りの牙を向けて来た。
「やめろ!!おまえら、そ、それは反逆じゃないかっ!!」ボイルは先ほどからのやり取りを聞き、わざと又、アレンに向けて矢を放った事に黙ってられなくなり立ち上がって叫んだ。
「ほー、子ブタが又、一匹増えたぞ。生意気な口を利く子ブタだ、お仕置きが必要だな。」
ブルースはそう言うなり、矢を番え今度はボイルに狙いを付けた。
「やめて!!」アレンが怒りに身を震わせて叫ぶと、その身体から青い炎が揺らめき全身を覆った。
「その矢を直ぐに降ろせ!!」アレンが再び矢に指を向けて叫ぶと、呼応するように指から炎が揺らめき、その炎がブルースの番えている矢に燃え移った。
「うわあ!」慌ててブルースは矢から手を離したが今度は弓にも、燃え広がった。
彼らの持っている弓矢や、鉄砲までもが次々と発火し忽ち、彼らはパニックに陥った。
馬は棹立ちになり、彼等を振り落とし走り去って行く。
「化け物め!!」ブルースは腰のレイピアを抜いて振り翳したが次の瞬間に取り落とす、見るとブルースの手にナイフが刺さっている。
「やめるんだ!!」ジョエルが馬を飛ばして駆けて来る、馬の背からナイフを投げたようだ。
その時、アレン達の横を黒い影が凄い速さで通り過ぎると、ブルース達に襲い掛った、リュゲルだ。
怒れるリュゲルは、正に軍神のように次々とブルース達を蹴り飛ばし、腕に咬み付き、その蹄で彼らの足や腕の骨を砕いて回る。
「アレン!!大丈夫か。」ジョエルが漸くアレンの側で馬を降りると走り寄って来た。
「ジョエル、リュゲルを止めて、」そう言うと、アレンはジョエルの腕の中に倒れ込み意識を失った。
僕は有り難くない青痣を日々、量産している。
そんなある日、リュゲルにやる為に角砂糖を貰って来いと突然言い付けられた僕とジョエルは訝しく思いながら、お城の調理場の裏手口に向かった。
いつもなら、搬入でごった返しているのに扉は閉められて誰もおらず閑散としていたが、よく見ると積み上げられたたくさんの木箱の影に誰かが座り込んでいる。
座り込んでいた人影は近付いて行く僕達に気が付くと立ち上がって振り向いた、ボイルだ!!
そう分かった途端、僕は走り出した。後ろでジョエルが叫んでいるが構うもんか。
後少し、という所でジョエルに捉まり、不用意に近付いては駄目だときつく注意を受けた。
「君の名前は?どうしてここにいるの?」ジョエル、顔も、声も怖いよ。
おまけに剣まで抜き放ち、剣先をボイルに向けているので彼は吃驚して固まっている。
「どうして剣を抜く必要があるの?ジョエル、ボイルは僕の友達だよ。」
「アレンは黙ってて。さあ、君の名前は、答えて。」しかし、剣先は変わらずボイルに向けられたままで、彼はそれから目を離せずにいたので、僕は二人の間に割り込んで腰に挿していたタガーの鞘で払った。
「危ないだろう、アレン。それに彼に背中を晒してはいけない。その子とほんとうに話しがしたいならこっちに戻るんだ。でなければ話すのを許す訳にいかない。本気だからな。」
「・・・分かったよ、ジョエル。」僕はジョエルの本気を感じ取り、不本意だがボイルの側を離れて彼の後ろに回った。
「ご免よ、君。だけどアレンを守るのが俺の仕事なんだ。さあ、君の名前を教えてくれるね。それと、なぜ、ここに居るのかも話してくれ。」
ボイルの唾を飲み込む音が聞こえ、彼はゆっくりとジョエルに向かって頷くとやっと話し始めた。
ボイルの話を要約すると、結局お城の門衛の知り合いからは”ボイルの事は知らない、人違いだ”と言伝を聞いたそうだが彼自身はどうしても諦め切れなかった。そんな時にお城での搬入に子供の手伝いが要ると聞き、搬入業者と一緒に此処までやって来たらしい。
「それで、荷物を降ろしたら此処で角砂糖を取りに人が来るから、その人に渡せって。」そう言うと、ボイルは手に持っていた角砂糖入りの袋を差し出した。
僕とジョエルは顔を見合わせた、「これはバルトがボイルと会えるように取り計らってくれたことだよね?」
「やれやれ、そのようだな。」ジョエルが漸く剣を鞘に納める。
「ここで話すのも何だから、裏の湖の方でゆっくり話したら?俺は厩舎にいるよ。暫く経ったらリュゲルを連れて迎えに行くからさ。」
「ありがとう、ジョエル。バルトにも有難うって伝えてて。行こう、ボイル。」
僕達はジョエルと別れて、城の北にある湖の方へゆっくり歩いて向ったが、突然過ぎて何から話したらいいか分からず暫く無言で歩く。
「これって、どう言う事かな?」ボイルが漸く口を開いた。
「ごめんね、ボイル。人違いだって言って、一旦断った方がいいと判断されたんだ。」
「じゃあ、やっぱりアレンが後継ぎのアレリス様で、守護魔獣を手に入れたのかい?」
「うん、そうなんだ。」
「今は貴族って事?」
「うん、まだ慣れないけどね。」
「・・・・・。」
「・・・・・。」
「ふ~。なんか、世界が違うって言うか。さっきの人、ほんとうに怖かったよ。刺されるかと思った。」
「ごめん、ジョエルは僕を守る付き人の衛士なんだ。だから僕に近付く者は全部、疑うのが仕事なんだよ。」
「そうか・・・・・俺、アレンに謝りたかったんだ。」
「なにを?」
「おばさんが病気になった後さ、俺もエリス熱に罹っちゃって、その後、母ちゃん、弟達と交代で移って
アレンの所に行けたのが追い出されて一月も経った後だったんだ、だからごめん。なんにも力になれなくて。」
「そんな、謝る事なんて一つもないよ、病気だったんだし、ボイルには母さまのお見舞いや差し入れをくれたり、凄く励まされた。ほんとに感謝してたんだ、ありがとう。」
そう言うと、アレンはにっこり笑い掛けた。
「よかった。そう言うとこ、ちっとも変ってなくて。それより、おばさんは?病気は治ったの?」
「うん・・。それが、ベルファウストの森で死んだんだ。」
「ごめん。俺・・・。」
「もう、大丈夫。立ち直ったよ。今はお爺様もいるし、皆よくしてくれる。」
「そうか、良かった。でも、やっぱりベルファウストの森に置き去りにされたんだね。聞いた時は信じられなかったね。あいつとはその場で絶交してやった。」
「ハデスと?」
「うん、でもあれから何処にいたんだ?父ちゃんやメリンダさんに頼んで南の森を探したんだよ。」
「そうだったんだ、ありがとうボイル。僕は母さまが死んだ後、フランクと言う猟師に助けられて東の森で三年間一緒に暮らしてたんだよ。」
「へ~、じゃあ、その後でお城に来たのかい?」
「うん、さっきのジョエルと騎士のバルトが迎えに来てくれたんだ。」
「ふ~ん、ほんとにお城の子になったんだね。もう、街には戻らないの?」
「うん、僕は守護魔獣を手に入れたから、皆を守る責任ができたんだ。ここで頑張るよ、それがよくしてくれた人達への恩返しになると思ってる。」
「・・・・アレンはやっぱり、偉いな、そんな事考えてるなんて。でも、そんなとこも全然変わってないよ。ほっとした。」
二人は向い合って笑った。
「でも、よかった。ボイルも全然変わってない、あ、背は高くなったね、いいな。僕はあんまり伸びてないんだ。」
「はは、ほんとだ。でも、少しは高くなってるよ、そのうち伸びるさ。あのさ、アレンの守護魔獣ってどんなの?俺はイルビス様の葬儀の時、少しは見かけたんだけど遠過ぎてよく見えなかったんだ。」ボイルはやっぱり子供で、好奇心には勝てなかった。
「う~ん、ほんとはあんまり話しちゃ駄目なんだけど、ここでの事や二人で話たことを秘密にしてくれる?ボイルになら話すよ。」
「うん、絶対言わない。アレンがアレリス様だってのも内緒なんだろ。」
「うん、秘密って言う訳じゃないけど、ボイルに会わせて貰えたのは特別な事だと思う。だから、黙っててくれたら助かるよ。」
「うん、父ちゃんにも言わない、約束する。」
「僕の守護魔獣はトゥルール、綺麗な鳥だよ。でも、まだ幼鳥で無理させてばかりだから今は休んでる。だから見せてあげられないんだ。」
「そうか、トゥルールか、可愛い名前だね。残念だけど、あれだけ頑張って飛んだんだもんね。アレンが乗れるくらい大きくなったんだろ?」
「そうなんだ、僕も吃驚したよ。ほんとうはこれくらいの雛なんだよ。」アレンは人抱えするくらいに掌を広げてみせた。
「へ~!やっぱり、魔獣だね。そんなに大きい鳥の雛を見た事も、聞いた事もないよ、凄いや。」
アレンはボイルから街の様子や知り合いの話を聞きながらゆっくり湖の散歩道を歩き、丁度半週したところだった。
散歩道の向こう側はお城の北側で峰続きの裏山に繋がり、林から森へと広がっている。
その森の奥には岩兎や山やぎ、山鹿、山豚等の岩場でも暮らせる動物達が多数生息して狩猟場にもなっていた。
その時、アレンは首の後ろに寒気を覚え、咄嗟にボイルを突き飛ばして草叢に伏せた。
直ぐ近くの木に立て続けに矢が当たった、一本は刺さり、もう一本は木に弾かれてアレン達の近くに落ちた。
「なに?アレン、どうしたの?」
「しっ!まだ伏せてて、何かの動物に間違えられたかも知れない。」そう言いながらもそれが違う事に気が付いていた、湖側の林では狩りをしてはいけない事をアレンは知っていた。
(もしかして狙われた?どうしようボイルを巻き込んじゃう。)
ガサガサと下生えを掻き分ける音が林の奥から聞こえ、馬の嘶きも聞こえて来た。こちらに近付いて来る。
ボイルを促して木の反対側へと這って回り込む。
「あれ~?当たったと思ったのにな。お~い、出てこい、子ブタども。」ブルース達だ、やっぱりわざとだったんだ。
アレンはボイルに絶対に立ち上がらない様に話し、自分自身は立ち上がって身体を晒した。
「おや、これはこれは、アレリス様、ご健勝そうで何よりです。」にやにや笑いながら、馬から降りずに話し掛けて来た。
手にはまだ番えた矢を持っている。
「湖の林側では狩りは禁止の筈です。」アレンはブルースを睨みつけて言った。
「へえ~、それは知らなかったな。お前達、知ってたか?」後ろの取り巻き連中に話掛けた、全部で四人いてそれぞれが弓と鉄砲を持っている。
普通、狩りの時には余り鉄砲は使わない、肉が傷むからだ。彼等は狩りと言うよりは遊びで動物を狩っているようだ。
取り巻き達はそれを聞いてげらげら笑った。
「危ないから、矢を外して貰えませんか。」アレンは彼らには取り合わずに、ブルースだけを見つめて重ねて言った。
「危ないって?この矢の事かい?」彼は言うなり、矢をアレンに向けて放した。
アレンは咄嗟にタガーを抜いて矢を払ったがその反動でタガーは遠くへ飛んで行ってしまった。
「おやおや、これはこれは。バルトに鍛えられた成果かな?」
(彼らは本気で僕を殺そうとしてる。)
「それ以上、こちらに近付かないで、今なら許します。さっさとこの場から離れてください。」アレンは必死で怒りを押えた。
何かが胸の中で暴れているような感覚がして、これを解き放すととんでもない事が起こりそうだ。
「許すだと、偉そうに、何さまのつもりだ!!」ブルースが笑うのを止めて怒りの牙を向けて来た。
「やめろ!!おまえら、そ、それは反逆じゃないかっ!!」ボイルは先ほどからのやり取りを聞き、わざと又、アレンに向けて矢を放った事に黙ってられなくなり立ち上がって叫んだ。
「ほー、子ブタが又、一匹増えたぞ。生意気な口を利く子ブタだ、お仕置きが必要だな。」
ブルースはそう言うなり、矢を番え今度はボイルに狙いを付けた。
「やめて!!」アレンが怒りに身を震わせて叫ぶと、その身体から青い炎が揺らめき全身を覆った。
「その矢を直ぐに降ろせ!!」アレンが再び矢に指を向けて叫ぶと、呼応するように指から炎が揺らめき、その炎がブルースの番えている矢に燃え移った。
「うわあ!」慌ててブルースは矢から手を離したが今度は弓にも、燃え広がった。
彼らの持っている弓矢や、鉄砲までもが次々と発火し忽ち、彼らはパニックに陥った。
馬は棹立ちになり、彼等を振り落とし走り去って行く。
「化け物め!!」ブルースは腰のレイピアを抜いて振り翳したが次の瞬間に取り落とす、見るとブルースの手にナイフが刺さっている。
「やめるんだ!!」ジョエルが馬を飛ばして駆けて来る、馬の背からナイフを投げたようだ。
その時、アレン達の横を黒い影が凄い速さで通り過ぎると、ブルース達に襲い掛った、リュゲルだ。
怒れるリュゲルは、正に軍神のように次々とブルース達を蹴り飛ばし、腕に咬み付き、その蹄で彼らの足や腕の骨を砕いて回る。
「アレン!!大丈夫か。」ジョエルが漸くアレンの側で馬を降りると走り寄って来た。
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