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第三章
第三十九話・フォートランド城の日常・発火①嵐の前の静けさ
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昨日から剣の練習にもう一人、仲間が増えた。
ウィルの息子で十歳になる、ゲイルだ。一つ違いと言っても、身長がボイルぐらいある。
おまけに横幅もありがっしりしているので、威圧感が半端無い。
剣も四歳から練習しているらしく、ショートソードを軽々扱うし、楯の扱いも上手だ。
うう、落ち込んじゃう。
「お前は妙に受けるのが(タガーで)上手いな。」褒められてるのか、貶されているのかバルトの微妙な物言いだ。
「打たれると痛いし、突かれると(レイピアの場合)痛いから必死に受けるんだよ。とてもじゃないけど攻撃まで手が回らないよ。」
おまけに身長差が皆と有り過ぎて只々打ち込まれる毎日だ。
そんな僕を見兼ねてか、ウィルがゲイルを連れて来てくれたんだと思うが身長差は縮まらない。
でも、そこは子供で、剣の威力や打ち込む速度が違うので僕としてはゲイルとやり合う方がまだ右手の攻撃を遣えた。
直ぐに楯で塞がれるけどね。
最初はゲイルのことを無口な子供だなと思ったけど、父親のウィルから僕や騎士バルトに粗相が有ってはならんときつく言い含められていたようで緊張していたらしい。
でも、バルトはざっくばらんだし、僕も普通に接していたので三、四日もすれば彼も普通に話掛けて来るようになった。
彼の母親も又、お城の調理場で働いているらしく、家族でお城右側の母親の居室で一緒に暮らしている。
なるほど、それで時々、子供の姿を見かける訳かと遅まきながら気が付いた。
(でも、子供の数は凄く少ないらしい。)
お城のこと一つをとってもまだまだ知らない事がいかに多いかと考えると勉強不足だとわかる。
ゲイルが練習に入って九日目のことだ、初めてゲイルに勝つ事ができた、それは僕の初勝利でもあった訳だ。
バルトやジョエルの剣の速さからすれば彼の軌道を目で追う事は可能で、防ぐには何度も練習する中でくせのというか、バリエーションがやはり圧倒的に少なく、覚えてしまえば力にさえ負けなければ勝てることが分かった。
相手の剣の力も上手くいなせるコツが少し分かった気がする。
そうなると俄然、勝つ気力が湧いて来る。
今までは余りの力量差に腰が引け勝つ気力さえ湧いて来なかった、いや、勝てる訳ないと思っていたので自分の身体が重く感じられ、上手く動けなかったのだが、身体の縛りも解けて右手の攻撃も少しだが繰り出せるようになってきて初めて剣のバランスが大事なのかも分かってきた。
バルトが僕の剣はバランスが悪いと言っていた意味が漸く分かった。
暫くすると、ゲイルとはほぼ対等に打ち合えるようになり、ウィルの剣の軌道も読めるようになってきてダガーで防げる回数も格段に増えた。
だが、反対にバルトはバリエーションが豊富でその軌道も速くて(それでも、僕の為に速度を押えてくれているらしい。)付いて行くのは至難の業だった。
「どうしたら、バルトの軌道が読めるかな?」休憩中のある日に聞いてみた。
「百年早い。」と、直ぐさま一刀両断された。
「じゃあ、どうやっても勝てないってこと?」
「いや、手はある。」
「どんな方法?」
「一撃必殺。」
「一撃必殺?バルト相手に、ますます僕には無理そうじゃない?」
「いや、自分の命を捨てる覚悟で相手の懐に飛び込んで一撃を加えるんだ。」
「でも、バルト相手だと懐に飛び込んだ時点で瞬殺されそう・・・。」
「俺相手ならな。他の奴なら分からんぞ、まず手元に飛び込んで来るとは相手は思っていないから一瞬の隙が生まれる。右手で胴を掠めるように切り上げて相手の手元を切り飛ばすか、落ちて来る楯かダガーを防ぎつつ、左のダガーで相手の右を防ぐ。右手は深く切り付けると胴から剣が抜けなくなるから気を付けろ。周りに相手の加勢居る時は特に気を付けるんだ、剣を失った時点でお前自身の命も失う事になる。」
「そんなに上手くいくかな?それに僕には相手を切ることができそうにないよ。」
練習の時には、僕は真剣でバルト達は刃の無いブレードやフルーレを使用して、ゲイルの時はお互いに練習用の刃の無いフルーレを使っている。
最初は真剣を持つのが怖かったが、バルト達に当たる訳がないと分かってからは練習用と変わらずに扱えるようになっていた。
そう、バルトの思惑通りに、いつの間にか真剣を扱うのに慣れてしまった自分がいる。
「そこがお前の甘いところだな、命のやり取りが始まったら腹をくくれ。殺るか殺られるか、だ。」
「・・・・。」
「とにかく、相手に一撃を与えたら素早く後ろに跳びす去れ。近くに加勢がいなけりゃ転がって剣撃から逃げてもいい、分かったな。素早さが大事だ。」
(なんだか普通に怖い話をしてくる、誰かを守る為には仕方ないのかな。でも、できるだけ他の方法を考えよう。)
「でも、アレン。お前には剣の才能がある、目もいいし、冷静な上、判断力にも優れてる。瞬発力もあるが如何せん、身体が小さ過ぎるので上手くそれ等を生かし切れていないのが残念だ。だが、背が伸びてくれば俄然有利なってくる。体力の方は魔力が補ってるみたいだな、前より、相手の打ち込みの剣の重さを感じていまい。打ち合った後、そんなに疲れが残っていないように見える。」
「うん、それは感じる。だから、受ける方ばかりが先行しちゃう。」
「まあ、どっちにしろ、剣の練習を始めたばかりにしては上出来だ。後は気長に練習あるのみだ。」
その日の練習終わりに、父親に背中を押されたゲイルが恥ずかしそうに近寄って来た。
「あの、アレン。今日は僕の誕生日でお祝いの会をするから、よかったら部屋に遊びに来てくれない。母さんがロールケーキを焼いてくれるんだ。」
「わあ、今日誕生日なんだ、おめでとうゲイル。でも、家族でもないのに僕なんかが行っていいの?」
「うん、大歓迎だよ。お城の中ではあんまり子供がいないから、こんなこと言ったら伯爵様に怒られるかもしれないけど、アレンが年の近い初めての友達なんだ。」
「うん、僕もそんな風に思って貰えて嬉しいよ。僕達、友達だよ。」
「ありがとう、アレン。じゃあ待ってるからね、必ず来てね。」そう言うと、ゲイルは父親と一緒に練習場を去って行った。
「行っていいよね?バルト。」僕は振り返って確かめた。
「ああ、事前にウィルから話は聞いてる。ジョエルに連れて行って貰うといい。」
「アレンは誕生日のお祝い会に行った事あるの?皆なにかしらの贈り物を持って行くよ。」ジョエルが横から教えてくれた。
「僕、行った事ない。だから贈り物も知らない、何を持っていったらいいの?」
「なんでもいいんだよ、ドングリとか、変わった石ころとか。」
「ジョエル、それは一体幾つの子のお祝い会だよ。ゲイルは十一歳になるんだろ、もうちょっとましな物を考えないと。」ネルが、さも聞いてられないとばかりに口を挟んで来た。
「え~、そんなに幼稚かな?俺達はそんなもんだったぞ、あと、鴉の羽とか。あっ、鷲とか、鷹の羽だったら大喜びしてたな~。」
「う~ん、ますます、思い付かないや。」僕が困っていると、今度はバルトが教えてくれた。
「別に、その子向けで無くてもいいと思うぞ。例えば家族で使えるせっけんとか、食べれる物とか。マリーに何か見繕って貰え。」
「そうなんだ、じゃあマリーさんに聞いてみるよ。でも、できればゲイルのために何か見つけたいな。」
皆で贈り物について話しながら練習場を後にした。
ジョエルと二人で部屋に戻ると、暫くしてネルが言付けを持って急いでやって来た。ジョエルの父親が子供を庇って倒れた馬車の下敷きになり大怪我をしたらしく意識も無いらしい。
ジョエルはそのまま、ネルに僕の事を頼むとバルトを探しに出て行った。
僕は勉強する気になれず、今日はお休みにして貰った。イール先生は最初は渋っていたが、ネルがジョエルの父親の事とゲイルのお祝い会のことを話すと了承して帰って行った。
イール先生は僕に勉強を教えるために街からお城にわざわざ通って来てくれている。
申し訳ないけど、じっと座ってられない気分だ。
暫くしてバルトが部屋にやって来た、ジョエルは取り合えず実家に帰ったらしい。
一月くらいは休む事になるかも知れないと言う事で、僕に謝っていた事とネルとウィルにくれぐれもアレンから目を離さないで欲しいとの伝言だった。
(こんな時にまで、僕の心配をするんだから・・・。どうか、お父さんが助かりますように。ジョエル、頑張って。)
バルトはもう一人、臨時でベルグと言う若い衛士を連れて来ていた。茶色の髪で雀斑が散る小柄な人物で、愛嬌のある笑顔でにっこり笑い掛けてくれた。
バルトが出て行ってから、ネルがジョエルにお父さんの事は任せて置いて、お祝い会にはでた方がジョエルは喜ぶと助言をしてくれたのでそのまま出席する事にする。
早速、ベルグが良い事を教えてくれた、湖の奥の林にライナットの実が一杯生っている所を知っていると。
ネルは林の奥と言う事で渋っていたが、僕がリュゲルを用心棒代わりに連れて行ったらどうかと提案するとやっと了承してくれた。
僕達三人は馬に乗って林の奥のベルグの秘密の場所に行き甘いライナットの実を一杯取ることができた、もちろん、馬達も大好物で喜んでその実を食べていて引き剥がすのが大変だった。
ライナットの実は群生していて、白い色の時は酸っぱくて赤い色になると凄く甘くなりそのまま食べるのは勿論の事、パンに挟んでもおいしいく、ジャムにすれば日持ちもする優れ物だ。
お祝い会にライナットの実とマリーさん特製のクッキーを持って行くと、ゲイルや弟のミルも大喜びしてくれ、マリーさんに見繕って貰ったせっけんと薬草の匂い袋はゲイルのお母さんに喜んで貰えたし、ワインと腸詰のソーセージにはウィルが大喜びだった。
早速、三人で(ウィル、ネル、ベルグ)酒盛りを初めて大いに盛り上がっていた。
(道理で、マリーさんにワインをもう一、二本増やした方がいいと粘っていた筈だ。)
僕達はお祝いのロールケーキに潰したライナットの汁を掛けて食べ、その甘さを堪能して大満足の夜だった。
その日の真夜中に天気が急変して、遠方の街や村は大変な被害を被った事などぐっすりと眠り込んだ僕には知る由も無かった。
直ぐ近くまで嵐がやって来ていることにも・・・。
++++++
第四十話・フォートランド城の日常・発火②一撃必殺
ウィルの息子で十歳になる、ゲイルだ。一つ違いと言っても、身長がボイルぐらいある。
おまけに横幅もありがっしりしているので、威圧感が半端無い。
剣も四歳から練習しているらしく、ショートソードを軽々扱うし、楯の扱いも上手だ。
うう、落ち込んじゃう。
「お前は妙に受けるのが(タガーで)上手いな。」褒められてるのか、貶されているのかバルトの微妙な物言いだ。
「打たれると痛いし、突かれると(レイピアの場合)痛いから必死に受けるんだよ。とてもじゃないけど攻撃まで手が回らないよ。」
おまけに身長差が皆と有り過ぎて只々打ち込まれる毎日だ。
そんな僕を見兼ねてか、ウィルがゲイルを連れて来てくれたんだと思うが身長差は縮まらない。
でも、そこは子供で、剣の威力や打ち込む速度が違うので僕としてはゲイルとやり合う方がまだ右手の攻撃を遣えた。
直ぐに楯で塞がれるけどね。
最初はゲイルのことを無口な子供だなと思ったけど、父親のウィルから僕や騎士バルトに粗相が有ってはならんときつく言い含められていたようで緊張していたらしい。
でも、バルトはざっくばらんだし、僕も普通に接していたので三、四日もすれば彼も普通に話掛けて来るようになった。
彼の母親も又、お城の調理場で働いているらしく、家族でお城右側の母親の居室で一緒に暮らしている。
なるほど、それで時々、子供の姿を見かける訳かと遅まきながら気が付いた。
(でも、子供の数は凄く少ないらしい。)
お城のこと一つをとってもまだまだ知らない事がいかに多いかと考えると勉強不足だとわかる。
ゲイルが練習に入って九日目のことだ、初めてゲイルに勝つ事ができた、それは僕の初勝利でもあった訳だ。
バルトやジョエルの剣の速さからすれば彼の軌道を目で追う事は可能で、防ぐには何度も練習する中でくせのというか、バリエーションがやはり圧倒的に少なく、覚えてしまえば力にさえ負けなければ勝てることが分かった。
相手の剣の力も上手くいなせるコツが少し分かった気がする。
そうなると俄然、勝つ気力が湧いて来る。
今までは余りの力量差に腰が引け勝つ気力さえ湧いて来なかった、いや、勝てる訳ないと思っていたので自分の身体が重く感じられ、上手く動けなかったのだが、身体の縛りも解けて右手の攻撃も少しだが繰り出せるようになってきて初めて剣のバランスが大事なのかも分かってきた。
バルトが僕の剣はバランスが悪いと言っていた意味が漸く分かった。
暫くすると、ゲイルとはほぼ対等に打ち合えるようになり、ウィルの剣の軌道も読めるようになってきてダガーで防げる回数も格段に増えた。
だが、反対にバルトはバリエーションが豊富でその軌道も速くて(それでも、僕の為に速度を押えてくれているらしい。)付いて行くのは至難の業だった。
「どうしたら、バルトの軌道が読めるかな?」休憩中のある日に聞いてみた。
「百年早い。」と、直ぐさま一刀両断された。
「じゃあ、どうやっても勝てないってこと?」
「いや、手はある。」
「どんな方法?」
「一撃必殺。」
「一撃必殺?バルト相手に、ますます僕には無理そうじゃない?」
「いや、自分の命を捨てる覚悟で相手の懐に飛び込んで一撃を加えるんだ。」
「でも、バルト相手だと懐に飛び込んだ時点で瞬殺されそう・・・。」
「俺相手ならな。他の奴なら分からんぞ、まず手元に飛び込んで来るとは相手は思っていないから一瞬の隙が生まれる。右手で胴を掠めるように切り上げて相手の手元を切り飛ばすか、落ちて来る楯かダガーを防ぎつつ、左のダガーで相手の右を防ぐ。右手は深く切り付けると胴から剣が抜けなくなるから気を付けろ。周りに相手の加勢居る時は特に気を付けるんだ、剣を失った時点でお前自身の命も失う事になる。」
「そんなに上手くいくかな?それに僕には相手を切ることができそうにないよ。」
練習の時には、僕は真剣でバルト達は刃の無いブレードやフルーレを使用して、ゲイルの時はお互いに練習用の刃の無いフルーレを使っている。
最初は真剣を持つのが怖かったが、バルト達に当たる訳がないと分かってからは練習用と変わらずに扱えるようになっていた。
そう、バルトの思惑通りに、いつの間にか真剣を扱うのに慣れてしまった自分がいる。
「そこがお前の甘いところだな、命のやり取りが始まったら腹をくくれ。殺るか殺られるか、だ。」
「・・・・。」
「とにかく、相手に一撃を与えたら素早く後ろに跳びす去れ。近くに加勢がいなけりゃ転がって剣撃から逃げてもいい、分かったな。素早さが大事だ。」
(なんだか普通に怖い話をしてくる、誰かを守る為には仕方ないのかな。でも、できるだけ他の方法を考えよう。)
「でも、アレン。お前には剣の才能がある、目もいいし、冷静な上、判断力にも優れてる。瞬発力もあるが如何せん、身体が小さ過ぎるので上手くそれ等を生かし切れていないのが残念だ。だが、背が伸びてくれば俄然有利なってくる。体力の方は魔力が補ってるみたいだな、前より、相手の打ち込みの剣の重さを感じていまい。打ち合った後、そんなに疲れが残っていないように見える。」
「うん、それは感じる。だから、受ける方ばかりが先行しちゃう。」
「まあ、どっちにしろ、剣の練習を始めたばかりにしては上出来だ。後は気長に練習あるのみだ。」
その日の練習終わりに、父親に背中を押されたゲイルが恥ずかしそうに近寄って来た。
「あの、アレン。今日は僕の誕生日でお祝いの会をするから、よかったら部屋に遊びに来てくれない。母さんがロールケーキを焼いてくれるんだ。」
「わあ、今日誕生日なんだ、おめでとうゲイル。でも、家族でもないのに僕なんかが行っていいの?」
「うん、大歓迎だよ。お城の中ではあんまり子供がいないから、こんなこと言ったら伯爵様に怒られるかもしれないけど、アレンが年の近い初めての友達なんだ。」
「うん、僕もそんな風に思って貰えて嬉しいよ。僕達、友達だよ。」
「ありがとう、アレン。じゃあ待ってるからね、必ず来てね。」そう言うと、ゲイルは父親と一緒に練習場を去って行った。
「行っていいよね?バルト。」僕は振り返って確かめた。
「ああ、事前にウィルから話は聞いてる。ジョエルに連れて行って貰うといい。」
「アレンは誕生日のお祝い会に行った事あるの?皆なにかしらの贈り物を持って行くよ。」ジョエルが横から教えてくれた。
「僕、行った事ない。だから贈り物も知らない、何を持っていったらいいの?」
「なんでもいいんだよ、ドングリとか、変わった石ころとか。」
「ジョエル、それは一体幾つの子のお祝い会だよ。ゲイルは十一歳になるんだろ、もうちょっとましな物を考えないと。」ネルが、さも聞いてられないとばかりに口を挟んで来た。
「え~、そんなに幼稚かな?俺達はそんなもんだったぞ、あと、鴉の羽とか。あっ、鷲とか、鷹の羽だったら大喜びしてたな~。」
「う~ん、ますます、思い付かないや。」僕が困っていると、今度はバルトが教えてくれた。
「別に、その子向けで無くてもいいと思うぞ。例えば家族で使えるせっけんとか、食べれる物とか。マリーに何か見繕って貰え。」
「そうなんだ、じゃあマリーさんに聞いてみるよ。でも、できればゲイルのために何か見つけたいな。」
皆で贈り物について話しながら練習場を後にした。
ジョエルと二人で部屋に戻ると、暫くしてネルが言付けを持って急いでやって来た。ジョエルの父親が子供を庇って倒れた馬車の下敷きになり大怪我をしたらしく意識も無いらしい。
ジョエルはそのまま、ネルに僕の事を頼むとバルトを探しに出て行った。
僕は勉強する気になれず、今日はお休みにして貰った。イール先生は最初は渋っていたが、ネルがジョエルの父親の事とゲイルのお祝い会のことを話すと了承して帰って行った。
イール先生は僕に勉強を教えるために街からお城にわざわざ通って来てくれている。
申し訳ないけど、じっと座ってられない気分だ。
暫くしてバルトが部屋にやって来た、ジョエルは取り合えず実家に帰ったらしい。
一月くらいは休む事になるかも知れないと言う事で、僕に謝っていた事とネルとウィルにくれぐれもアレンから目を離さないで欲しいとの伝言だった。
(こんな時にまで、僕の心配をするんだから・・・。どうか、お父さんが助かりますように。ジョエル、頑張って。)
バルトはもう一人、臨時でベルグと言う若い衛士を連れて来ていた。茶色の髪で雀斑が散る小柄な人物で、愛嬌のある笑顔でにっこり笑い掛けてくれた。
バルトが出て行ってから、ネルがジョエルにお父さんの事は任せて置いて、お祝い会にはでた方がジョエルは喜ぶと助言をしてくれたのでそのまま出席する事にする。
早速、ベルグが良い事を教えてくれた、湖の奥の林にライナットの実が一杯生っている所を知っていると。
ネルは林の奥と言う事で渋っていたが、僕がリュゲルを用心棒代わりに連れて行ったらどうかと提案するとやっと了承してくれた。
僕達三人は馬に乗って林の奥のベルグの秘密の場所に行き甘いライナットの実を一杯取ることができた、もちろん、馬達も大好物で喜んでその実を食べていて引き剥がすのが大変だった。
ライナットの実は群生していて、白い色の時は酸っぱくて赤い色になると凄く甘くなりそのまま食べるのは勿論の事、パンに挟んでもおいしいく、ジャムにすれば日持ちもする優れ物だ。
お祝い会にライナットの実とマリーさん特製のクッキーを持って行くと、ゲイルや弟のミルも大喜びしてくれ、マリーさんに見繕って貰ったせっけんと薬草の匂い袋はゲイルのお母さんに喜んで貰えたし、ワインと腸詰のソーセージにはウィルが大喜びだった。
早速、三人で(ウィル、ネル、ベルグ)酒盛りを初めて大いに盛り上がっていた。
(道理で、マリーさんにワインをもう一、二本増やした方がいいと粘っていた筈だ。)
僕達はお祝いのロールケーキに潰したライナットの汁を掛けて食べ、その甘さを堪能して大満足の夜だった。
その日の真夜中に天気が急変して、遠方の街や村は大変な被害を被った事などぐっすりと眠り込んだ僕には知る由も無かった。
直ぐ近くまで嵐がやって来ていることにも・・・。
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