異世界グランハイルド・アレンと召喚獣-守護魔獣グランハイルド大陸物語ー

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第六章

第七十三話・リュウジールへの旅

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 アレンとバルトは王宮を出て屋敷に戻って来た。馬車に乗っている間、バルトは独りごとをブツブツ呟き、時折、自分の頭をぐしゃぐしゃにして、アレンを居た堪れない無い気持ちにした。
 バルトは屋敷に着くと、有無を言わさずアレンの襟首を引っ掴み、ジョエルに目で合図すると話す暇も惜しいと言う様子で、伯爵の待つ部屋にに押し入った。

 「何と言う事だ!・・・・」話しの顛末を聞いた伯爵は一言発すると、その後、絶句して椅子に凭れかかるように座りこんだ。
 ジョエルも話しを聞いて、目を見開いた。
 (あの時かーーー!!)宿屋で、ほんの少し目を放した隙にそんな事になっていたとは思いもよらなかった。
 
 アレンは皆の様子に自分の引き受けた事がそんなに悪い事だったのかと首を捻る。
 (親善交流って、なんじゃないの?)

 呆然と皆の様子を眺めているアレン(座るように勧められなかったので立たされたままだった)に目を止めたバルトは、溜め息を吐いた。
 「アレン、お前の考えを言ってみろ」
 「・・・だって、親善交流っていい事だよね。別に、リュウジール国と仲が悪い訳でもないし、あそこら辺の地域に争い事が有る訳でもないよね?」
 「リュウジール国って、聞いた事あるか?」
 「うん、だって・・・あっ!」アレンは先を続けようとして、ハタと気付く。
 「分かったか?」バルトの問い掛けにアレンは頷いた。
 
 「・・・リュウジールはある地域を指してそう呼ばれているけど、国じゃない」
 「そうだ。”リュウジール国”なんて物はどこにも無いんだ」
 「だったらなんで、国王陛下は親善交流団何て言ったの?」
 「亜人達は何かの目的があって、国王に面会を申し込んだんだろう。だが、彼の方は体よく断わる積りでいた所に、お前がしゃしゃり出た、と言う訳だ」
 「酷いよ、バルト。ただ、”ウサギ耳の彼を知ってる”って言っただけだよ」アレンは心外だと言う風に頬を膨らます。

 「バルト。国王陛下の方が、我々より一枚も二枚も上手だ。十歳のアレンが敵う筈も無い」伯爵がアレンを庇った。
 (やはり、宮廷に連れて来たのは時期尚早だった。素直すぎるアレンには宮廷での駆け引きは難し過ぎる)
 「取り敢えず、情報を集めてくれないか。そうだ、アライエンス伯を通じてスローデン侯爵に繋ぎを取って貰おう」
 「畏まりました」バルトが頭を下げて部屋を出て行った。


 
 アライエンス伯は情報を駆けずり回って集めてくれたが、どうやら話は国王と宰相だけに留められていて、周囲の者には何も知らされていないようだった。只、分かった事が一つある。
 それはエイランド衛士団が、何度か練兵だと称して戦支度をして王都を何度か出入りしていた事だった。一体、何と戦っていたかはして知るべしだ。

 そうして、情報収集も空しく八日間はあっと言う間に経ったが、グリーク男爵の情報は手に入り対策を立てる事ができた。

 八日目の朝、東城外門の広場で待ち合わせていたが、アレン達が到着すると、一番最後だった。
 亜人達は幌馬車二台で、グリーク男爵は情報の通り男爵用の馬車一台と武装した兵士三十名を連れて来ていた。
 アレン達はダンドリュウス家の家紋の入った馬車と幌馬車を一台ずつ広場に乗り入れた。
 
 「遅いぞ、親善大使。待ちくたびれたわ!」アレンが馬車から降りるのを見て、大声でなじったが、続いて出て来た、アライエンス伯爵とスローデン侯爵夫人を見て顔色を変え、側に飛んで来た。
 
 「まあ、怖い」スローデン侯爵夫人は大袈裟に驚いて見せる。
 「申し訳ありません、スローデン侯爵夫人。侯爵夫人が御一緒だとは存じ上げませんでした、お許しください」
 「まあ、良かった。可愛いアレリスと別れ難くて時間を取ってしまったの。この子は私の同然なんですもの」にこやかに恫喝どうかつする所は、アライエンス伯爵とそっくりだった。
 「そ、そうでしたか。・・いや、このグリーグめに、お任せあれ!ダンドリュウス伯嫡子を命に懸けてお守りいたします」そう言うと、大袈裟に一礼をした。
 侯爵夫人は扇の影で、素早くアライエンス伯爵と満足そうに目を交わす。

 そこに、騎乗した旅装の一団が到着した。全部で六名余り、別に馬を二頭連れている。先頭の大男がバルトに近付いて、お互いに手と腕を打ち合わせた。
 バルトは伯爵を守ってフォートランドに帰らねばならず、昔、王都に居る時に一緒に仕事をした傭兵を雇ったのである。多少気が荒いが、身元がはっきりしている腕の確かな少数精鋭の傭兵達だ。

 亜人達は遠巻きに見ていたが、華やかな一団が近付いて来たので、慌てて御者台からべゼルは飛び降りて仲間に知らせた。
 「ケルト、おはよう」アレンはケルトを見かけると、駆け寄った。後から、ダンドリュウス伯や、スローデン侯爵夫人に腕を貸したアライエンス伯が続く。

 ケルトは、一行の花々しさにドキドキした。アレンは旅に向けての軽装だが、ダンドリュウス伯やアライエンス伯の金刺繍の入った豪華な上着に昨日の宮廷での貴族達の立たず舞いを思いだし、改めて、アレンが雲の上の貴族である事を思い知らされた。
 マナナやデナは、美しい豪奢ごうしゃなドレスを着た侯爵夫人に目が釘付けだ。

 バルトは傭兵を連れて、素早く伯爵の横に並ぶと、声を掛けた。
 「この一団の責任者は誰だ」
 「私だ」ナグは進み出た。
 「こちらにおられるのが、ご嫡子の御祖父にあたられるダンドリュウス伯爵様だ。それと、同盟領主のアライエンス伯爵様、その叔母にあたられるスローデン侯爵夫人だ」
 
 ナグは、心の中の驚きを押し隠して挨拶する。
 「初めまして、リュウジール国代表団、狼族のナグと申します。この度は親善大使として我等と御一緒して頂けるとお聞きし、有り難く思っております」
 (わざわざ、向こうから挨拶に来るとは、余程に跡取りが大事か・・・)

 「うむ。我が孫はまだ、十歳と幼く、迷惑を掛けるかも知れぬがよろしく頼む」そこには、孫を思う真摯な姿があった。
 (・・・子を思う、孫を案ずる気持は人間も同じかも知れん)ナグは少し、思い直した。
 
 「騎士殿、これを・・・」スローデン侯爵夫人の側控えから、バルトは籠を受け取るとナグに差し出した。
 「これは、ほんの気持ちですわ。アレリスをどうか守ってやってくださいな」籠を受け取るのを躊躇したナグに声を掛けた。侯爵夫人の目も真摯にナグを見つめていた、横にいるもう一人の伯爵もだ。
 マナナが進み出て、籠を受け取った。
 「お心使い有難う御座います、侯爵夫人様。私達はご嫡子様と、又、エイランド王国と親交を結びたいと願っております」そう言うと、膝を少し折って挨拶した。
 「まあ、なんてお可愛らしい耳かしら。あなたは白ウサギ族?」侯爵夫人が近寄ろうとすると、グリーク男爵が間に入って来た。

 「いけません、スローデン侯爵夫人。もし、何かの病気がうつったら何とします」グリーク男爵の物言いに、亜人達の雰囲気が険悪になった。
 バルトが止めに入ろうとするのを大男が留めて、グリーク男爵にズイッと近寄ったので、男爵はのけ反る。
 「だったら、俺達にも近寄らない方がいいぜ男爵様。なにせ、”喧嘩がしたい病”に罹ってんだ」大男の物言いに、仲間の傭兵達はゲラゲラ笑った。彼等は威張り腐った貴族が大嫌いだった。
 
 大男は亜人達を振りかると先程の男爵の大げさな挨拶を真似て、腰を屈める。
 「よろしくな。俺は、伯爵家に雇われた傭兵だ。名前はロンデル」そう言うと、ナグの方に大きな手を差し出した。
 「・・・よろしく、ナグだ」ロンデルは差し出したナグの手を躊躇うこと無く大きな音を立てて握り込んだ。
 (こんな人間もいるんだ・・・)ナグには驚きの連続だった。

 ロンデルは他の亜人達にも、手を振った。
 「よろしくな!」吠えるように言うと、二カリと笑って、皆の度肝を抜いた。ボルダーと大きさはいい勝負だったが、彼の方が大きく見えた。

 ロンデルはアレンに近付くと、さっと肩に抱き上げた。そして、伯爵達一行に頭だけぺこりと下げる。
 「お任せください。必ず、嫡子殿を無事に連れ帰ります」と言って、幌馬車の方にのしのし歩いて行った。

 アッと言う間に、皆を煙に巻くロンデルを頼もしそうにバルトは見やった。

 彼なら、男爵を適当にあしらいながら、亜人達とも上手くやって行くだろう。


















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