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第六章
第七十四話・リュウジールへの旅②水の呼び声
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伯爵は傭兵のロンデル達にも、くれぐれも孫をよろしく頼むと丁寧に挨拶した。その上、侯爵夫人からも一人ひとりに心付けを貰い、傭兵達もいたく感激したようだった。
「さすがは、お前が仕えている貴族なだけあるな。バルト」ロンデルはこそっと、バルトに耳打ちする。
「ああ、伯爵様は気取った所の無い、いいご領主だ。風来坊の俺を心から信頼してくださっている」
「どおりで、お前が長続きする訳だ。いつ、王都に戻って来るかと皆で賭けをしていたんだがな」
「それは酷い言いようだな。・・だが、ご嫡子の事をほんとうに頼む。あいつは、ちょっと目を放した隙にいつもとんでもない事に巻き込まれている」バルトは、珍しく頭を下げてロンデルに頼んだ。
「おい、よせよ。らしくねえ。伯爵様や、あの貴族達もそうだが、本とにあの子の事がかわいいんだな」
「ああ、大切な主だ。人としても気に入っている。だからこそ、お前に頼んだのだロンデル」バルトは真剣な目を向けた。
「・・・分かってる。必ず、連れて戻る。俺の剣に懸けて誓うよ」ロンデルは自分のブレードに触れて誓った。彼は今でこそ傭兵をしているが、元近衛精鋭団のメンバーだった。
そうして、二人は又、腕と手を順番に合わせて別れの挨拶に代える。
いつまでも、アレンから離れようとしない伯爵や侯爵夫人に見切りを付けロンデルは出発の号令を出した。亜人達も、グリーグ男爵の一団もそれに従って馬車や馬に乗り込む。文句は出なかった。
彼は短時間の内にちゃっかり、この一団の指揮系統を掌握してしまったのだ。さすが、俺の見込んだ通りだと、バルトは一人にんまりする。
ロンデルは二メートルを超える大男で、赤毛と髭をくしゃくしゃに肩の所まで伸ばして一見山賊のように見える。そして、二メートル近くある広幅の大剣を背中に斜めに差し、腰にはもう一本肉厚の剣を携えている双剣遣いで、その見てくれや、大剣で周りの者を圧倒するのだ。
傭兵の間でも、双剣遣いの赤のロンデルとして有名だ。赤毛の赤に、周りを赤い血祭りに上げる所から来ている。
ロンデルは先頭で剣を差し上げ、自分の馬を歩ませ傭兵達が二人続いた。次は、アレンの乗った幌馬車だ。家紋の入った四人乗りの馬車は今回の旅には不向きなので置いて行く。横に、騎乗したジョエルやダンテが付く。メイグはアレンと一緒に幌馬車に乗り込んだ、その後ろを二人の傭兵が守る。
次に、男爵の馬車が亜人達の前に割り込んだ。”獣人に前を走らせるとはとんでもない”事だそうだ。前後を武装兵士に守られている。
亜人達の幌馬車が二台続き、最後尾を傭兵の一人が付いた。
お日様が中天高く上がる頃に、昼食を食べる為に宿屋にに寄ることになった。旅はここまでは順調だ。
宿場通りのようで、何軒も並んでいるので別々に入る事になったが、亜人達は屋台で購入し少し街道から離れた林の方で食事を取る事にしたようだった。
アレン達は傭兵と一緒に宿屋に入り、馬も預ける。因みにアレンはスカーフで頭を隠している。
「疲れたろ、坊主」ロンデルがアレン達を振りむいて声を掛けて来た。
「大丈夫です、ロンデルさん。ちょっとお尻が痛いけど」
「”さん”付けは止めてくれ、こそばくてたまらねえ。まあ、貴族馬車よりは乗り心地はわるいわな」
「・・ロンデル?」
「ああ、それでいい。俺も坊主と呼ばして貰うよ」
「はい」アレンは二コリと返事した。
王都から伸びているそれぞれの街道は道幅も広く、よく整備され点在する街や村も大きな規模で宿屋や店に困ることなく、それぞれが適度な距離を保って旅を続けることができた。
アレンや側仕えのジョエル達は傭兵達といつも一緒で、早い内からてらいの無い彼等と直ぐに親しくなったが、アレン達の後ろはグリーク男爵の武装集団がいたので、亜人達との距離は開いたままであったが、大人達の集団の中で、アレンはケルトと仲良くなりたいと思っていた。
王都出発して十二日あまり、やっと王領を抜けた。ちょうど陽が暮れて来たが、次の宿場町までは遠く、街道から少し入った森の中で今日はアレン達と亜人達は野宿をする事になった。
男爵達は昼前に車輪が二度ほど外れて直したが結局、車軸が折れてしまったのだ。その為、側仕えの一人が先に折れた車軸を持って馬を飛ばし修理しに行く事になり、彼等はそれが終わるまで馬車の側から離れずに後から追って来る事になった。その騒ぎの所為で時間が取られ野宿することになったのだ。
ロンデルが亜人達に一緒にどうだと声を掛けたが素気無く断わられたようだ。
それぞれが野営の準備や、薪拾い、食事の用意を始めると、薪の用意をしていたジョエルがアレンを振りむいて呼び掛けた。
「アレンーー!近くに、川はあるかいーー?」その声に、傭兵達や亜人達までもが手を止めた。
実は少し前にそれぞれが探しに行ったが見つけることができなかったので、手持ちの水で我慢する事にしたのだ。
アレンは木切れを拾う手を止めて身体を起こし、少しきょろきょろ辺りを見回して返事する。
「うん、あるみたいーー」
「どっちだい?」
「あっちの方、ちょっと遠いよーー」アレンは指を指す。ジョエルは立ち上がってアレンの方に近付いた。
「どれくらい遠い?」
「う~ん。行って見ないと分からないよ」アレンは緩く首を振る。
「坊主、お前川のある場所が分かるのか?」いつの間にか側に来たロンデルが問う。
「うん。川の場所と言うか、水のある所が分かるんだ」
「へ~、そいつは便利だな。鼻がいいんだな」
「別に、臭う訳じゃないよ」
「だったら、なんで分かるんだ?」
「え~と、呼んでる?みたいな?」アレンは首を傾げて答える。
「なんじゃそりゃ」
それを聞いていた亜人達は囁きあった。
「なんだありゃ、真剣に聞いて損したぞ」べゼルが呟く。
「ふん。まるで、水の呼び声が聞こえるみたいな言い方ね」デナが珍しく口を挟む。
実は彼等の巫女姫は”水のある箇所”が分かり、そこを掘れば井戸ができるのだ。それができるのは、巫女姫のみで、彼女はそれを『水の呼び声』と称している。
「俺達の鼻でも見つけられなかったんだから、人間には到底無理さ」犬族のバルグが言うと、セグ(犬族)も頷いた。
「それに、森の方じゃなく、街道の方を指してたぞ。あっちには荒れ地が広がってただけだなのにな」フーリーも馬鹿にしたように言う。
それを聞いていたケルトは、アレンが嘘吐きのように言われるのが何だか悔しかった。
「時間の無駄だ。今日の所はなるべく水を使わずに済まそう」
ナグの言葉を聞いたケルトは思わず人間達の方へ駆けだした。
「ケルト!」マナナが呼び掛けたがケルトは立ち止まらずにアレン達の方へ行く。
「ほっとけよ、マナナ。ケルトはあの子を神聖視し過ぎてるんだ。可哀想だが、いつかは大人にならないと」
べゼルの言葉にマナナはキッと振り向いたが、何も言葉が出て来なかった。
マナナにもアレンに水の場所が分かる筈が無いと思っていたからだ。
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第七十五話・消えたアレン(仮)
「さすがは、お前が仕えている貴族なだけあるな。バルト」ロンデルはこそっと、バルトに耳打ちする。
「ああ、伯爵様は気取った所の無い、いいご領主だ。風来坊の俺を心から信頼してくださっている」
「どおりで、お前が長続きする訳だ。いつ、王都に戻って来るかと皆で賭けをしていたんだがな」
「それは酷い言いようだな。・・だが、ご嫡子の事をほんとうに頼む。あいつは、ちょっと目を放した隙にいつもとんでもない事に巻き込まれている」バルトは、珍しく頭を下げてロンデルに頼んだ。
「おい、よせよ。らしくねえ。伯爵様や、あの貴族達もそうだが、本とにあの子の事がかわいいんだな」
「ああ、大切な主だ。人としても気に入っている。だからこそ、お前に頼んだのだロンデル」バルトは真剣な目を向けた。
「・・・分かってる。必ず、連れて戻る。俺の剣に懸けて誓うよ」ロンデルは自分のブレードに触れて誓った。彼は今でこそ傭兵をしているが、元近衛精鋭団のメンバーだった。
そうして、二人は又、腕と手を順番に合わせて別れの挨拶に代える。
いつまでも、アレンから離れようとしない伯爵や侯爵夫人に見切りを付けロンデルは出発の号令を出した。亜人達も、グリーグ男爵の一団もそれに従って馬車や馬に乗り込む。文句は出なかった。
彼は短時間の内にちゃっかり、この一団の指揮系統を掌握してしまったのだ。さすが、俺の見込んだ通りだと、バルトは一人にんまりする。
ロンデルは二メートルを超える大男で、赤毛と髭をくしゃくしゃに肩の所まで伸ばして一見山賊のように見える。そして、二メートル近くある広幅の大剣を背中に斜めに差し、腰にはもう一本肉厚の剣を携えている双剣遣いで、その見てくれや、大剣で周りの者を圧倒するのだ。
傭兵の間でも、双剣遣いの赤のロンデルとして有名だ。赤毛の赤に、周りを赤い血祭りに上げる所から来ている。
ロンデルは先頭で剣を差し上げ、自分の馬を歩ませ傭兵達が二人続いた。次は、アレンの乗った幌馬車だ。家紋の入った四人乗りの馬車は今回の旅には不向きなので置いて行く。横に、騎乗したジョエルやダンテが付く。メイグはアレンと一緒に幌馬車に乗り込んだ、その後ろを二人の傭兵が守る。
次に、男爵の馬車が亜人達の前に割り込んだ。”獣人に前を走らせるとはとんでもない”事だそうだ。前後を武装兵士に守られている。
亜人達の幌馬車が二台続き、最後尾を傭兵の一人が付いた。
お日様が中天高く上がる頃に、昼食を食べる為に宿屋にに寄ることになった。旅はここまでは順調だ。
宿場通りのようで、何軒も並んでいるので別々に入る事になったが、亜人達は屋台で購入し少し街道から離れた林の方で食事を取る事にしたようだった。
アレン達は傭兵と一緒に宿屋に入り、馬も預ける。因みにアレンはスカーフで頭を隠している。
「疲れたろ、坊主」ロンデルがアレン達を振りむいて声を掛けて来た。
「大丈夫です、ロンデルさん。ちょっとお尻が痛いけど」
「”さん”付けは止めてくれ、こそばくてたまらねえ。まあ、貴族馬車よりは乗り心地はわるいわな」
「・・ロンデル?」
「ああ、それでいい。俺も坊主と呼ばして貰うよ」
「はい」アレンは二コリと返事した。
王都から伸びているそれぞれの街道は道幅も広く、よく整備され点在する街や村も大きな規模で宿屋や店に困ることなく、それぞれが適度な距離を保って旅を続けることができた。
アレンや側仕えのジョエル達は傭兵達といつも一緒で、早い内からてらいの無い彼等と直ぐに親しくなったが、アレン達の後ろはグリーク男爵の武装集団がいたので、亜人達との距離は開いたままであったが、大人達の集団の中で、アレンはケルトと仲良くなりたいと思っていた。
王都出発して十二日あまり、やっと王領を抜けた。ちょうど陽が暮れて来たが、次の宿場町までは遠く、街道から少し入った森の中で今日はアレン達と亜人達は野宿をする事になった。
男爵達は昼前に車輪が二度ほど外れて直したが結局、車軸が折れてしまったのだ。その為、側仕えの一人が先に折れた車軸を持って馬を飛ばし修理しに行く事になり、彼等はそれが終わるまで馬車の側から離れずに後から追って来る事になった。その騒ぎの所為で時間が取られ野宿することになったのだ。
ロンデルが亜人達に一緒にどうだと声を掛けたが素気無く断わられたようだ。
それぞれが野営の準備や、薪拾い、食事の用意を始めると、薪の用意をしていたジョエルがアレンを振りむいて呼び掛けた。
「アレンーー!近くに、川はあるかいーー?」その声に、傭兵達や亜人達までもが手を止めた。
実は少し前にそれぞれが探しに行ったが見つけることができなかったので、手持ちの水で我慢する事にしたのだ。
アレンは木切れを拾う手を止めて身体を起こし、少しきょろきょろ辺りを見回して返事する。
「うん、あるみたいーー」
「どっちだい?」
「あっちの方、ちょっと遠いよーー」アレンは指を指す。ジョエルは立ち上がってアレンの方に近付いた。
「どれくらい遠い?」
「う~ん。行って見ないと分からないよ」アレンは緩く首を振る。
「坊主、お前川のある場所が分かるのか?」いつの間にか側に来たロンデルが問う。
「うん。川の場所と言うか、水のある所が分かるんだ」
「へ~、そいつは便利だな。鼻がいいんだな」
「別に、臭う訳じゃないよ」
「だったら、なんで分かるんだ?」
「え~と、呼んでる?みたいな?」アレンは首を傾げて答える。
「なんじゃそりゃ」
それを聞いていた亜人達は囁きあった。
「なんだありゃ、真剣に聞いて損したぞ」べゼルが呟く。
「ふん。まるで、水の呼び声が聞こえるみたいな言い方ね」デナが珍しく口を挟む。
実は彼等の巫女姫は”水のある箇所”が分かり、そこを掘れば井戸ができるのだ。それができるのは、巫女姫のみで、彼女はそれを『水の呼び声』と称している。
「俺達の鼻でも見つけられなかったんだから、人間には到底無理さ」犬族のバルグが言うと、セグ(犬族)も頷いた。
「それに、森の方じゃなく、街道の方を指してたぞ。あっちには荒れ地が広がってただけだなのにな」フーリーも馬鹿にしたように言う。
それを聞いていたケルトは、アレンが嘘吐きのように言われるのが何だか悔しかった。
「時間の無駄だ。今日の所はなるべく水を使わずに済まそう」
ナグの言葉を聞いたケルトは思わず人間達の方へ駆けだした。
「ケルト!」マナナが呼び掛けたがケルトは立ち止まらずにアレン達の方へ行く。
「ほっとけよ、マナナ。ケルトはあの子を神聖視し過ぎてるんだ。可哀想だが、いつかは大人にならないと」
べゼルの言葉にマナナはキッと振り向いたが、何も言葉が出て来なかった。
マナナにもアレンに水の場所が分かる筈が無いと思っていたからだ。
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第七十五話・消えたアレン(仮)
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