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08.M②.忍び寄る残酷な運命の渦
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「緑ー」
誰かの声が聞こえてきた。
振り向かなくても、加藤緑には誰の声かわかっている。
だから、振り向かないのではない。
自分の気持ちを整理する時間が欲しいのだ。
息せき切って走ってきた羽賀太陽が、緑の目前に倒れ込む。悲鳴のような息遣いをしながら。
反射的に、緑が太陽の体を受け止めた。
どんなに呼吸が苦しくても、太陽は訊かずにいられないのだろう。
「み、緑、この島を出るって、どういうこと?」
「叔父さんの所に行くことになったの」
いつもの笑顔ができていることを確認したあと、緑は自問自答する。
無理してる?
それとも、太陽と話ができるだけでも嬉しい?
答えは、両方。
だから、気持ちが重い。
「緑におじさんがいたなんて、初めて聞いたよ」
「あたしも昨日聞いたばかりなのよ。ママのお兄さんなんだって。ほら、昨日、病院にいた……」
太陽は思い出すのに苦労しているようだった。
視線が大きく逸れる。
それも当然だ、と緑も思う。
昨夜、太陽が駆けつけてくれたあと、直ぐに緑と叔父は別室に移動させられた。
医師と警察官の話を聞くためだ。
その後も、叔父はなにもできない姪に代わり、忙しく動いてくれた。
だから、太陽と接する時間はほとんどなかったはずだ。
それでも、と太陽が話し始める。
「 ぼくたち、ずっと一緒だって、約束したじゃないか」
「パパとママが叔父さんに頼んでいたんだって。自分たちに何かあったら、あたしのことをよろしくって。あたしは一人でも大丈夫って言ったんだけど、叔父さんから、せめて義務教育が終わるまでは妹の遺言を守らせてくれって言われたの。パパとママの優しさにも報いたいし、叔父さんの立場もわかるでしょ。仕方ないのよ。あたしたち、まだ子どもだから……」
「でもでもでも……」
「ほら、子どもでしょ」
緑は微笑んでみせた。運命は運命と認め、それでも明日を信じる。そんな強い意思表示が太陽にも伝わってほしいと願いながら。
「 さっき、電話で聞いたばかりだよ。急すぎるよ」
「両親の葬式をママの故郷ですることになってね、だから時間がないの。それに、さよならは言えない。だって、来年はこの島の高校に戻ってくるんだもん」
「本当?」
「高校は義務教育じゃないでしょ」
「それはそうだけど……」
「今度こそ約束」
緑は太陽の頬にキスをした。
突然の出来事に、太陽の顔が一気に赤らんでいく。
そんな中学生二人に焦れたのか、運転席から降りてきた叔父が太陽の前に歩みでた。
「羽賀太陽君だね。わたしは緑の叔父です。緑がお世話になったそうで、お礼を言うよ。ありがとう」
叔父が右手を差し出した。
わけがわからない太陽は少し躊躇っていたが、応じないわけにもいかないだろう。
握手した太陽は不思議そうな眼差しで、背の高い叔父を見上げた。
叔父は緑に、
「時間だぞ」
と告げ、太陽に
「じゃ」
と微笑んで、再び車の運転席に乗り込んだ。
一方、緑も別れのときと決断し、太陽に微笑む。
「太陽、おじさんとおばさんに心配かけちゃだめよ」
痛いところを突かれた太陽は、何も言えなくなったようだ。 モジモジしている。
「ほら、笑って。いつも明るく元気な太陽でしょ。あたしはそんな太陽が大好きなんだから」
「せめて、港まで」
「ダメ!」
緑はわかっている。見送られたら、もっと辛くなると。
「じゃ、半年後にね」
微笑みを残したまま、緑は車の助手席に乗り込んだ。
頭の中をうまく整理できない太陽は、どうしていいか、わからないのだろう。
立ち尽くしたままだ。
それでも、バンが走り出すと、太陽は反射的に追いかけてきた。
「緑-っ、緑-っ」
と呼び続けながら。
緑は車の助手席の窓から顔を出した。
追ってくる太陽に向かって、精一杯手を振るために。
緑の頬を流れる涙が、風に飛ばされた。
まるで、追ってくる太陽に届きますように、と。
「今の太陽のままでいてね-。あたしも変わらないから-。約束よ-」
無情にも、緑を乗せた車はスピードを上げ、追ってくる太陽の姿を振り切ってしまった。
誰かの声が聞こえてきた。
振り向かなくても、加藤緑には誰の声かわかっている。
だから、振り向かないのではない。
自分の気持ちを整理する時間が欲しいのだ。
息せき切って走ってきた羽賀太陽が、緑の目前に倒れ込む。悲鳴のような息遣いをしながら。
反射的に、緑が太陽の体を受け止めた。
どんなに呼吸が苦しくても、太陽は訊かずにいられないのだろう。
「み、緑、この島を出るって、どういうこと?」
「叔父さんの所に行くことになったの」
いつもの笑顔ができていることを確認したあと、緑は自問自答する。
無理してる?
それとも、太陽と話ができるだけでも嬉しい?
答えは、両方。
だから、気持ちが重い。
「緑におじさんがいたなんて、初めて聞いたよ」
「あたしも昨日聞いたばかりなのよ。ママのお兄さんなんだって。ほら、昨日、病院にいた……」
太陽は思い出すのに苦労しているようだった。
視線が大きく逸れる。
それも当然だ、と緑も思う。
昨夜、太陽が駆けつけてくれたあと、直ぐに緑と叔父は別室に移動させられた。
医師と警察官の話を聞くためだ。
その後も、叔父はなにもできない姪に代わり、忙しく動いてくれた。
だから、太陽と接する時間はほとんどなかったはずだ。
それでも、と太陽が話し始める。
「 ぼくたち、ずっと一緒だって、約束したじゃないか」
「パパとママが叔父さんに頼んでいたんだって。自分たちに何かあったら、あたしのことをよろしくって。あたしは一人でも大丈夫って言ったんだけど、叔父さんから、せめて義務教育が終わるまでは妹の遺言を守らせてくれって言われたの。パパとママの優しさにも報いたいし、叔父さんの立場もわかるでしょ。仕方ないのよ。あたしたち、まだ子どもだから……」
「でもでもでも……」
「ほら、子どもでしょ」
緑は微笑んでみせた。運命は運命と認め、それでも明日を信じる。そんな強い意思表示が太陽にも伝わってほしいと願いながら。
「 さっき、電話で聞いたばかりだよ。急すぎるよ」
「両親の葬式をママの故郷ですることになってね、だから時間がないの。それに、さよならは言えない。だって、来年はこの島の高校に戻ってくるんだもん」
「本当?」
「高校は義務教育じゃないでしょ」
「それはそうだけど……」
「今度こそ約束」
緑は太陽の頬にキスをした。
突然の出来事に、太陽の顔が一気に赤らんでいく。
そんな中学生二人に焦れたのか、運転席から降りてきた叔父が太陽の前に歩みでた。
「羽賀太陽君だね。わたしは緑の叔父です。緑がお世話になったそうで、お礼を言うよ。ありがとう」
叔父が右手を差し出した。
わけがわからない太陽は少し躊躇っていたが、応じないわけにもいかないだろう。
握手した太陽は不思議そうな眼差しで、背の高い叔父を見上げた。
叔父は緑に、
「時間だぞ」
と告げ、太陽に
「じゃ」
と微笑んで、再び車の運転席に乗り込んだ。
一方、緑も別れのときと決断し、太陽に微笑む。
「太陽、おじさんとおばさんに心配かけちゃだめよ」
痛いところを突かれた太陽は、何も言えなくなったようだ。 モジモジしている。
「ほら、笑って。いつも明るく元気な太陽でしょ。あたしはそんな太陽が大好きなんだから」
「せめて、港まで」
「ダメ!」
緑はわかっている。見送られたら、もっと辛くなると。
「じゃ、半年後にね」
微笑みを残したまま、緑は車の助手席に乗り込んだ。
頭の中をうまく整理できない太陽は、どうしていいか、わからないのだろう。
立ち尽くしたままだ。
それでも、バンが走り出すと、太陽は反射的に追いかけてきた。
「緑-っ、緑-っ」
と呼び続けながら。
緑は車の助手席の窓から顔を出した。
追ってくる太陽に向かって、精一杯手を振るために。
緑の頬を流れる涙が、風に飛ばされた。
まるで、追ってくる太陽に届きますように、と。
「今の太陽のままでいてね-。あたしも変わらないから-。約束よ-」
無情にも、緑を乗せた車はスピードを上げ、追ってくる太陽の姿を振り切ってしまった。
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