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09.H②.緑の叔父のイニシャルはTS
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《2035年8月2日 pm3:00》
MCハンマーは、昨日開催された『☆TSgame-Co.創立20周年記念中学生ゲーム大会の報告書を作成中である。
昨日の朝から今までの記憶を辿ると、丸一日半とは思えない疲労が襲ってくる。
それでも、報告書を書くためには思い出さない訳にはいかない。
中学生ゲーム大会中に、プレーヤーがスタジアムを飛び出すという前代未聞のアクシデントには驚かされた。
しかも、それが優勝候補ナンバーワンの羽賀太陽となれば放っておけない。
キャラクターのサンを心配する羽賀太陽はかなり辛そうだったが、大丈夫なのか?
追いかけていった加藤緑と南部大地は、太陽を探しだせたのか?
どうしても気になって仕方がないハンマーは、慌ただしく画面の映像を切り替え、幼馴染み三人組を探した。
もちろん、特別会員にはメイン画面で中学生ゲーム大会の映像を送りながら、サブ画面で太陽たちを追った。
あ、いた、とハンマーが太陽を見つけたのは、砂浜だった。
画面の中で、泣き叫びながら走る羽賀太陽と、追う加藤緑、南部大地の姿を観て、よし、と決めた。
泣いている太陽には申し訳ないが、この映像をメイン画面として特別会員に送ることにしよう、と。
どんな大きなセレモニーより、子どもたちの友情による感動物語の方が、この島の宣伝には大きな効果があると踏んだわけだ。
こんな絶好のチャンスを見逃すわけにはいかない。
そういうわけで、ハンマーの画面は幼馴染三人組を追い続けた。
そして、最後、砂浜を後にする幼馴染み三人組の姿を見送った後、調子づいたハンマーはナレーションまで入れた。
「誰もいなくなった砂浜には、三人の足跡がくっきりと残っていた。まるで、『思い出』という名のアルバムに貼られた1枚の写真のように」
幼馴染み三人組の余韻に浸ったハンマーはしみじみ思った。
「ホント、三つ子だよなぁ」
と。
リーダーシップはあるが、太陽にちょっかいを出す長男の大地、しっかり者で面倒見のいい長女の緑、少し甘えん坊だが、お人好しで憎めない、その名のとおり太陽のような末っ子。
いつまでもこのままでいてほしいと思うのは、俺だけだろうか。
ところが、最悪の事件が起こった。加藤正樹と加藤恵美の訃報だ。
加藤正樹はハンマーにとって、同年代の同僚である。
互いに忙しすぎて会うことは減ったものの、連絡は頻繁に取っているつもりだ。
なのに、死んだ?
この平和なゲームライド内で?
ありえない。
ハンマーは違和感を覚えたが、もっと大事なことに気づいた。
今はそれどころではない、と。
最優先すべきは緑だ。
突然、両親を亡くし、不安で堪らないだろう。
一旦、そう気づくと、心配ばかりが先走る。
とりあえず、緑を探し出すのが先決だ。
そう思ったものの、病院内の配置図を確認したハンマーは、途方に暮れた。
とにかく、病室だけでも多すぎる。
緑、お前はどこにいるんだ?
悩んでいる時間がもったいない。
ハンマーは映像を切り替え、片っ端から確かめることにした。
各病室、各外来の診察室、集中治療室、手術室……と調べたが、緑の姿は確認できなかった。
もしかしたら、とハンマーは映像をまた切り替える。
やはり、いた。
緑は霊安室にいた。
駆けつけたばかりなのだろう。
緑はストレッチャーの上で横になっている両親の遺体を、傍から見下ろしていた。
緑の表情は唖然。
それもそうだろう。
大人の自分でさえ割り切れないのだから、とハンマーも思った。
一体、これから緑はどうなるんだ? と心配しているうちに、「ん?」とハンマーは気づいた。
あれは誰だ?
ストレッチャーを間にして、後ろ姿の男がひとり、緑の前に立っている。
スーツ姿だから医師や看護師というわけではないだろう。
医療費の説明をする事務員か、それとも刑事か。
もしかすると、ただの交通事故ではなく、緑が事情を聞かれているのかもしれない。
まだ、現実を受け入れることができない緑には酷すぎる。
若干15歳なのに、不安でたまらないだろうにと、ハンマーは悪い方にばかり意識がいく。
運命は皮肉すぎる、とハンマーが思ったときだった。
いきなり、画面内のスーツの男が振り向いた。
「と、藤堂? どうしてここに……?」
ハンマーは思わず叫びそうになって、ギリギリで抑えた。
彼の名は、藤堂慎一。医療事務員でも警察官でもない。
☆TSgame-Co.の人間だ。
自分の目で観ているのに、ハンマーは信じられなかった。
同僚が死んだのだから、その娘を心配するのも当然といえばそうなのだが、奴の人間性を考えると、どうしても腑に落ちない。
ハンマーは、漠然とした不吉な予感を振り払えないでいた。
それにもうひとつ、ひっかかることがある。
藤堂慎一が加藤恵美の兄で、緑の叔父?
藤堂慎一や加藤恵美とは15年以上のつき合いになるが、ハンマーも初耳だった。
更に、現実はハンマーの不安に追い打ちをかける。
『TSgame-Co.創立20周年記念行事は二日目も続行中だから、イベント用に設置された動画用カメラはそのままになっている。
朝、加藤宅のリビングを覗いて、(勿論、緑も承諾済みである。)ハンマーは驚いた。
緑が藤堂慎一と共に島を出る……?
それに、太陽は駆けつけたのに、幼馴染み三人組の長男である大地はどうしたんだ?
こんな大事なときに……。
ハンマーが疑問に思っていると、港に向かう道路の監視カメラの映像で、やっと見つけた。
大地は建物の陰に隠れて、緑と藤堂が乗った車を見送っていた。
どうして、そんなところで……?
ハンマーの胸騒ぎは確信に近づきつつあった。
全ては緑の両親の死から始まっていたのだ。
MCハンマーは、昨日開催された『☆TSgame-Co.創立20周年記念中学生ゲーム大会の報告書を作成中である。
昨日の朝から今までの記憶を辿ると、丸一日半とは思えない疲労が襲ってくる。
それでも、報告書を書くためには思い出さない訳にはいかない。
中学生ゲーム大会中に、プレーヤーがスタジアムを飛び出すという前代未聞のアクシデントには驚かされた。
しかも、それが優勝候補ナンバーワンの羽賀太陽となれば放っておけない。
キャラクターのサンを心配する羽賀太陽はかなり辛そうだったが、大丈夫なのか?
追いかけていった加藤緑と南部大地は、太陽を探しだせたのか?
どうしても気になって仕方がないハンマーは、慌ただしく画面の映像を切り替え、幼馴染み三人組を探した。
もちろん、特別会員にはメイン画面で中学生ゲーム大会の映像を送りながら、サブ画面で太陽たちを追った。
あ、いた、とハンマーが太陽を見つけたのは、砂浜だった。
画面の中で、泣き叫びながら走る羽賀太陽と、追う加藤緑、南部大地の姿を観て、よし、と決めた。
泣いている太陽には申し訳ないが、この映像をメイン画面として特別会員に送ることにしよう、と。
どんな大きなセレモニーより、子どもたちの友情による感動物語の方が、この島の宣伝には大きな効果があると踏んだわけだ。
こんな絶好のチャンスを見逃すわけにはいかない。
そういうわけで、ハンマーの画面は幼馴染三人組を追い続けた。
そして、最後、砂浜を後にする幼馴染み三人組の姿を見送った後、調子づいたハンマーはナレーションまで入れた。
「誰もいなくなった砂浜には、三人の足跡がくっきりと残っていた。まるで、『思い出』という名のアルバムに貼られた1枚の写真のように」
幼馴染み三人組の余韻に浸ったハンマーはしみじみ思った。
「ホント、三つ子だよなぁ」
と。
リーダーシップはあるが、太陽にちょっかいを出す長男の大地、しっかり者で面倒見のいい長女の緑、少し甘えん坊だが、お人好しで憎めない、その名のとおり太陽のような末っ子。
いつまでもこのままでいてほしいと思うのは、俺だけだろうか。
ところが、最悪の事件が起こった。加藤正樹と加藤恵美の訃報だ。
加藤正樹はハンマーにとって、同年代の同僚である。
互いに忙しすぎて会うことは減ったものの、連絡は頻繁に取っているつもりだ。
なのに、死んだ?
この平和なゲームライド内で?
ありえない。
ハンマーは違和感を覚えたが、もっと大事なことに気づいた。
今はそれどころではない、と。
最優先すべきは緑だ。
突然、両親を亡くし、不安で堪らないだろう。
一旦、そう気づくと、心配ばかりが先走る。
とりあえず、緑を探し出すのが先決だ。
そう思ったものの、病院内の配置図を確認したハンマーは、途方に暮れた。
とにかく、病室だけでも多すぎる。
緑、お前はどこにいるんだ?
悩んでいる時間がもったいない。
ハンマーは映像を切り替え、片っ端から確かめることにした。
各病室、各外来の診察室、集中治療室、手術室……と調べたが、緑の姿は確認できなかった。
もしかしたら、とハンマーは映像をまた切り替える。
やはり、いた。
緑は霊安室にいた。
駆けつけたばかりなのだろう。
緑はストレッチャーの上で横になっている両親の遺体を、傍から見下ろしていた。
緑の表情は唖然。
それもそうだろう。
大人の自分でさえ割り切れないのだから、とハンマーも思った。
一体、これから緑はどうなるんだ? と心配しているうちに、「ん?」とハンマーは気づいた。
あれは誰だ?
ストレッチャーを間にして、後ろ姿の男がひとり、緑の前に立っている。
スーツ姿だから医師や看護師というわけではないだろう。
医療費の説明をする事務員か、それとも刑事か。
もしかすると、ただの交通事故ではなく、緑が事情を聞かれているのかもしれない。
まだ、現実を受け入れることができない緑には酷すぎる。
若干15歳なのに、不安でたまらないだろうにと、ハンマーは悪い方にばかり意識がいく。
運命は皮肉すぎる、とハンマーが思ったときだった。
いきなり、画面内のスーツの男が振り向いた。
「と、藤堂? どうしてここに……?」
ハンマーは思わず叫びそうになって、ギリギリで抑えた。
彼の名は、藤堂慎一。医療事務員でも警察官でもない。
☆TSgame-Co.の人間だ。
自分の目で観ているのに、ハンマーは信じられなかった。
同僚が死んだのだから、その娘を心配するのも当然といえばそうなのだが、奴の人間性を考えると、どうしても腑に落ちない。
ハンマーは、漠然とした不吉な予感を振り払えないでいた。
それにもうひとつ、ひっかかることがある。
藤堂慎一が加藤恵美の兄で、緑の叔父?
藤堂慎一や加藤恵美とは15年以上のつき合いになるが、ハンマーも初耳だった。
更に、現実はハンマーの不安に追い打ちをかける。
『TSgame-Co.創立20周年記念行事は二日目も続行中だから、イベント用に設置された動画用カメラはそのままになっている。
朝、加藤宅のリビングを覗いて、(勿論、緑も承諾済みである。)ハンマーは驚いた。
緑が藤堂慎一と共に島を出る……?
それに、太陽は駆けつけたのに、幼馴染み三人組の長男である大地はどうしたんだ?
こんな大事なときに……。
ハンマーが疑問に思っていると、港に向かう道路の監視カメラの映像で、やっと見つけた。
大地は建物の陰に隠れて、緑と藤堂が乗った車を見送っていた。
どうして、そんなところで……?
ハンマーの胸騒ぎは確信に近づきつつあった。
全ては緑の両親の死から始まっていたのだ。
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