魔力ゼロのポーション屋手伝い

書鈴 夏(ショベルカー)

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幼馴染の葛藤

「森で出会ったんだ。ポーション屋を営んでる人でさ、俺を雇ってくれるって言ってくれて。魔法を近くで見られるし、受けることにした」

 いきなり俺たちの関係性に挟まってきた見知らぬ男は、不信感しかない大人だった。

 リク──幼いころから遊んでいた親友。どこへ行くのにも何をするのにも一緒で、明日も会えるというのに門限の時間が来るたびに別れを惜しんだ。街で育った同じくらいの年頃や下の子ども相手には面倒見がよく、俺の母も父も「小さいのにしっかりしている」と誉め言葉を頻繁に口にしていたのを今でも覚えている。
 自分だって、その世話になっていた。家が近いというのもあってか、人よりもその機会はずっと多く。暇があれば体を動かし傷を作ってきた自分に対し、しょっちゅう手を焼いていたように思う。

『ルーカス、また怪我したのか?』

『これくらいすぐに治る。そうだ、あの木の上に登ろう。見晴らしがすごくよかったんだ』

『ダメ。……どうせそれでこんなかすり傷作ったんだろ、洗いに行くよ』

 これくらい大丈夫なのに。そう思いつつ促されるまま、傷口を水で洗い流す。その様子をぼんやり見ながら、リクは言葉を発する。

『魔法が早く使えたらいいのに』

『もう少しかかるんだろうな。20までには使えるだろ、あんまり考えるなよ』

 小さく頷く。
 自分は10歳頃からもう魔法が使えるようになっていた。どうも攻撃系の魔法に特化しているらしく、回復なんかはあまり効果が無かった。かなりの魔力を消費しても、せいぜいかすり傷がひとつふさがる程度。あまりにも効率が悪いため、そういう職業よりは戦うもののほうが向いているだろうと周りの大人たちは言っていた。
 リクは、まだ発現しない。20に達する前には使えるようになるとはいえ、不安も大きくなるだろう。少しでもその心配を払拭してやりたくて、声をかける。

『リクはどんな魔法が使いたいんだ』

『なんだろ。……なにに適性があっても嬉しいけど……』

 俺の顔を見ると、にっと、悪戯っぽく笑った。

『回復魔法かな。ルーカス、いつも傷作って帰ってくるから』

 自分はあの瞬間、それまでに感じたことの無い胸の高鳴りを覚えた。ただひとつわかったのは、目の前の幼馴染が自分にとってかけがえのない存在であること、それだけだった。

 そして──リクよりも先に15歳になったあの日。平均的な人間と比べ、魔力が膨大だと告げられたあの日。親友とパーティを組み、冒険者になりたいと願望が生まれた。
 この広い世界をアイツと冒険できたら、その感動は他の誰と分かち合うよりも俺の心を震わせてくれるだろうと思ったから。魔法が得意でなくとも気にしない。力を合わせて魔物を倒し、人々を助ける。俺たちならば、どのパーティよりも強くなれる。活躍できる。そう信じてやまなかった。

 だから。魔力が無いと言われたあのとき。思考が止まって、何も言えなくなってしまった。俺の夢は、絶望的だと突き付けられたようで。


 なのに、なんだ。あの男は!

 森の中、歩いていた足を止め。浮かんでくる、なんとも不真面目そうな男の顔に悔しさが込み上げて、歯噛みする。

 俺が先に、リクを誘おうと思っていたのに。誰よりも大切な幼馴染と共に、同じ未来を歩みたいと考えていたのに。

 幼い独占欲が大声をあげている。信じたくない。だけど、紛れもない現実だった。自分の質問へひとつもまともに返せないようなだらしない大人。素性の知れない、怪しい男。そんな奴が信用に値するかなんて、考えるまでもない。なのに、大切な幼馴染はそいつに拾われたのだと。到底、受けいれられるわけがない。

 なにより受け入れがたいのは──そんな大人のくせに、的を射たことを言われたから。


『最悪、キミの親友が死ぬ。その覚悟くらいはできてる?』


 そんなの冒険者になる者として当然だ、できているに決まってる。──そう言えたら、少しは格好が付いただろうか。だが、リクが死ぬ覚悟など嘘でも口にできるわけがなかった。結局、どこまでいっても自分の夢は子どもの絵空事なのだ。

 大きな樹の幹に手をついて、うなだれる。苦しい。

 魔法を使えないなんて、聞いたことがない。だからこそ、自分の身を守れないリクは俺が守ってみせる。その気持ちは本当だ。
 だけど、だけど。もし、怪我でもさせたら、死んでしまったら。想像しただけで、肝が冷える。考えていなかったわけではない。ただ──そうだ、真剣に受け止めてはいなかったのだろう。
 あの男は、こんな俺を見て笑うだろうか。それとも冷淡に覚悟の無さを詰めるのだろうか。ああ、そうだ。己の力を過大評価していた。傲慢になっていた。そう言われても、何も反論はできないだろう。自分ならばリクを守れると、根拠のない自身に満ちていたのだから。


 無意識のうちに詰めた息を吐く。腰を下ろして、横になった。見上げた視界の中では、葉が擦れてさらさらと音を立てている。


 魔力が無いと告白されたあの日に、いつもより小さく見えたその背中を追いかけなかったことがいけないのだろうか。その腕を掴んで、吐露された心の内を受け止めていれば未来は変わったのだろうか。……いいや、魔力が人よりも多い自分が隣にいたところで、きっとその傷口を抉っていたずらに傷つけていたのだろう。
 だったら、もっと前から誘っていれば望みはあったのか。……それもまた、魔力が無いと判断されたリクを余計に苦しめていたはずだ。違う。自分はあの愛おしい幼馴染を縛り付けたいわけではない。

 思考はすでに結論を出していた。自分が見ないふりを続けて、目を背けていただけで。だからこそ、認めたくなかった。あの男だからこそ、リクを絶望の淵から掬いあげることができたのだと。

 自分の夢は、きっと叶えられない。わかっている。だから、せめて。ひとりで冒険をして、この広い世界を見て。リクに話をしてやりたい。たくさんの経験と土産を持ち帰ってやりたい。
 それで、いつか覚悟ができて。リクを本当に守れるくらいに立派になったそのときは、改めて旅へと誘おう。断られても、気にしない。俺がそうしたいだけなのだから。

 なんだか無性に、幼馴染の顔が見たくなった。

「……行こう。ここでうじうじしていても、ダサいだけだ」

 あの男を認めて、幼馴染に一時の別れを告げるため。


 ……ああ、だけど。もう少し、ここで横になっていようか。どれくらい時間を要するかはわからないが──何故だか自然と滲む涙が収まるまで。
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