悪役令息の死ぬ前に

やぬい

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 目が覚めると、そこにあったのは何時も使っているものよりも小さなベッドだった。ちょうど、俺が8つくらいの時に使っていたものと同じサイズだ。周りを見渡せば、家具も見覚えのあるものばかりだった。イエローのシルクのカーテン、彫りの入った本棚2つ、レースで作ったテーブルクロスのかかったティータイム用の机……

「…は……?」

 嫌な予感がして咄嗟にベッド横の姿見を覗けば、周りの家具と同じようにあの頃のままの姿の俺がいた――



―――


 部屋に来た執事に聞けば、今日は10年前の花の月の五日……つまり、舞踏会の日らしい。俺と、あいつの出会った日。そして……婚約が持ちかけられるきっかけとなった日だ。
 正直あまり行きたくないが、王太子としてごねるわけにはいかない。仕方なくあの日と同じ衣装に着替える。濃い青の上着とそれに合わせたズボン、緑のクラバットに薄い水色のシャツ。こんなに青尽くめなのは、あいつの瞳に合わせてだろう。だって爵位的にあいつが俺の婚約者になる可能性が1番高い。それはあの時も同じだ。どれだけ俺が文句を言おうとそれは変わらない。ただ過去に戻っただけというのなら、確実にあいつが再び婚約者になるのだろう。それだけで気が重い……そう思っていたらいつの間にか侍女によって着替えとヘアメイクが終わっていたようだ。そのまま執事に連れられて部屋をあとにする。

「……」
「殿下?顔色があまり良くないですが……ご体調がよろしくないのですか?」
「いや、大丈夫だ。緊張しているだけだよ」

 そう言えば勝手に納得したようでそれ以上の追求は無かった。初めての舞踏会、しかも自分の婚約者が決まる日。緊張しても仕方ない。そう思ったのだろう。確かに、前の自分は酷く緊張していた。それでいて擦り寄ってくる奴らにショックを受けたものだ。
 今回はそんなことはないと思っていたものの、父上たちとの朝食中どこか上の空だったようで、母上にたしなめられた。

「ヴェルヘルム、あなたは王太子、いずれ王になる人間なのですよ。緊張するのもわかるけれど、気を引き締めなさい」

 あなたならできるでしょう?昔から嫌いだった言葉が俺を突き刺す。期待されているから応えなければいけない。その気持ちがいつも俺を冷静に……また、暗くさせた。今の俺は前の俺と違う。そう思って、逃げ切れると思った。

 でも

「……は…い、母上……」

 結局お前は変わらないのだと、変われないのだと言われているようだった。膝の上で手をぎゅっと握りしめる。母上はほっと息を吐いてナプキンで口元を拭ったあと父上と部屋に戻っていった。舞踏会まではあと2刻半ある。それまでは部屋で過ごすことにしよう。そうすれば、この何処か嫌な気持ちもどうにかなる……そう思い、執事とともに部屋に戻った。
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