美術教師の檻――「描き終わるまで帰さない」画家の執着

紺碧のごんぎつね

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【第3章:逃避・追跡・対面】(第11~20話)

第12話「無視と恐怖、そして再会への決意」

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火曜日、透也は学校に行った。睡眠時間は2時間。もう限界に近かった。

授業中、何度も意識が飛びそうになる。

「先生!先生!」生徒の声でハッとする。 「...ああ、すまん」

生徒たちが心配そうに透也を見ている。

「先生、大丈夫ですか?」 「...大丈夫だ」

嘘だった。全然、大丈夫じゃない。

昼休み、透也は職員室で携帯を見た。 着信、70件。メッセージ、150件。全て、柊から。

透也は一つもメッセージを開かなかった。

「無視すれば...諦めてくれるかもしれない」

そう思った。だが、甘かった。

水曜日、着信は100件を超えた。メッセージは200件。 木曜日、着信は150件。メッセージは300件以上。

無視すればするほど増えていく。透也の神経は完全に削られていた。

だが——同時に、透也は携帯を見たくてたまらなかった。メッセージ数が増えるたびに、着信が増えるたびに、心臓が跳ねた。

(柊さんが...僕を求めてる)

その事実が、透也の身体を熱くさせた。

金曜日の夜、透也は家にいた。もう外に出たくなかった。柊に会うかもしれない。後をつけられるかもしれない。

だが——その一方で、柊に会いたい衝動が透也の中で渦巻いていた。

午後7時、インターホンが鳴った。

透也の心臓が跳ねる。その反応は恐怖だけではなかった。

モニターを見る。誰も映っていない。

「...誰だ」

また鳴る。透也はインターホンに出なかった。だが、応答しないことが拷問のように感じられた。

5分後、また鳴った。また。また。何度も何度も。

透也は耳を塞いだ。「やめてくれ...」

だが、その声も本当は嘘だった。インターホンが鳴り続ける度に、透也の身体は反応していた。

午後8時。午後9時。午後10時。鳴り続けている。

透也は床にうずくまった。涙が出た。

「くそ...くそっ...」

だが、その涙は苦しさだけからではなかった。渇望。欲望。柊への求め。全てが混ざっていた。

午前0時、ようやくインターホンが止んだ。透也は安堵した。

「やっと...」

だが、携帯が震えた。メッセージ。柊から。

『今から先生の家に行きます』

透也の心臓が止まった。

「え...」

恐怖が走った。だが同時に——期待。

慌てて玄関の鍵を確認する。かかっている。チェーンも。 だが、怖い。柊が来る。家を知っている。

「どうして...」

透也は携帯を握りしめた。警察を呼ぶべきか。

だが——透也は気づいていた。警察に通報したら、柊は二度と来ない。

それは——嫌だ。

透也の中で、その感情が明らかになった。

『会えなくなる...』

その思考に、透也は気づいた。

「会えなくなる...?会いたいのか?」

自分は柊に会いたいのか?それとも、もう会えないことへの恐怖か?

1時間待った。インターホンは鳴らない。来ない。

透也はその間ずっと、玄関の前で待っていた。

透也は、ドアの前に座り込んだ。

インターホンが鳴り止んだ後も、透也はそこから動けなかった。

ドアに手を当てる。冷たい金属の感触。

その向こうに——柊がいた。つい数分前まで。

透也は目を閉じた。

(もし、開けていたら...)

柊に抱きしめられる。あの大きな腕に包まれる。男の体温。男の匂い。

想像するだけで、身体が熱くなる。

透也の手が、自然と股間に向かった。

「くそ...」

だが、止められない。

ズボンの上から触れる。既に硬くなっている。

ドアに背中を預けたまま、透也はズボンの中に手を入れた。

「ああ...」

小さく声が漏れる。

(柊さんが...ドアの向こうにいた)

(もし、会っていたら)

(きっと、抱きしめられて)

(キスされて)

透也の想像が、どんどん膨らんでいく。

柊の大きな手が、自分の身体を触る。服を脱がせる。肌に直接触れる。

「ああ...柊さん...」

その名前を呟きながら、透也は自分を扱いた。

ドアに背中を預けたまま。

もしかしたら、柊はまだ外にいるかもしれない。

そう思うと——余計に興奮する。

ドア一枚隔てて、柊がいる。その可能性。

「ああ...ああ...」

透也の手の動きが速くなる。

(見られてる...)

(柊さんに、見られてる...)

その妄想が、透也を刺激する。

「っ...!」

透也は到達した。身体がビクッと震える。

白濁が手に付着する。

荒い呼吸のまま、透也はドアに寄りかかっていた。

「何してるんだ...俺...」

自己嫌悪。

だが——満たされた感覚もある。

透也はゆっくりと立ち上がった。

手を洗いに行く。鏡に映る自分の顔——赤く、汗ばんでいる。

「柊さん...」

その名前を呟いた。

もう、逃げられない。



朝になってから、メッセージが届いた。

『住所が分かりませんでした。教えてください』

透也は安堵と恐怖を同時に感じた。

「来なくて...良かった」

だが、その言葉は完全な嘘だった。心のどこかで、透也は失望していた。柊が家に来なかったことに。

その失望が、透也に自分の本当の気持ちを教えた。

土曜日の朝、透也は目を覚ました。睡眠時間2時間。身体は重い。頭も痛い。

だが——心には明確な決意があった。

「もう一度だけ、会おう」

そして、はっきりと断ろう。これ以上関わらないと。

でも——その決意の裏には別の感情が隠れていた。もう一度、柊に会いたい。もう一度、柊に触れられたい。もう一度、あの快感を感じたい。

透也は携帯を手に取った。メッセージを書く。

『今日、伺います。話があります』

指が送信ボタンの上で震える。

「本当に...行くのか」

行ったら、また——あの視線。あの執着。あの、背徳的な快感。

「でも...」

透也は目を閉じた。

「会いたい」

その感情が全てを上回った。

送信ボタンを押す。

すぐに返信が来た。

『待ってます!』

その言葉を見た瞬間、透也の身体が反応した。

「待ってる...」

柊が、自分を待ってくれている。

透也は深呼吸した。

「今日で、終わりにする」

だが、その言葉の裏には嘘があった。本当は終わらせたくない。本当はずっと——柊と繋がっていたい。

午後2時、透也はアトリエの前に立っていた。

階段を上る。足が重い。だが、その重さは——怖さではなく、期待で重くなっていた。

ドアをノックした。すぐにドアが開いた。

柊が満面の笑みで立っていた。

「来てくれたんだね!」

その笑顔を見た瞬間、透也の身体は完全に反応してしまった。 その笑顔はまるで何もなかったかのようだった。

透也は戸惑った。

「...はい」

でも、戸惑いの下には喜びがあった。

「入って」

柊がドアを開ける。透也が中に入る。

アトリエはいつもと同じだった。絵の具の匂い。キャンバス。光が差し込む窓。 だが、雰囲気が違う。

「座って」

柊がソファを指差す。透也が座る。柊も隣に座った。

近い。透也の心臓が激しく鳴る。

「先生...」

柊が透也を見つめる。その視線——執着的な、だが優しい視線。

「僕、嬉しいです。来てくれて」

透也が顔を背ける。

「あの...話があって」 「話?」

柊が首を傾げる。

透也が勇気を出した。

「もう、モデルはできません」

その言葉を言った瞬間、柊の表情が曇った。

「どうして...」 「あなたが...怖いからです」

透也が正直に言った。柊が黙り込む。長い沈黙。

「怖い...か」

柊が呟く。

「僕は、先生を愛してるだけなのに」

その言葉に、透也の心が揺れた。

「愛...」 「そうです。愛してます」

柊が透也の手を取った。大きな手。男の手。温かい。

透也の身体が反応する。

「でも、それは...異常です」

透也が続けた。

「電話を何十回も。後をつけて。インターホンを鳴らし続けて。それは愛じゃない」

柊の目が揺れた。

「でも...先生に会いたかったから」

その声が震えている。透也の胸が少し痛んだ。

「柊さん...」 「僕は孤独だったんです」

柊が言った。

「母が出て行って。人を愛する方法が分からなくて」

その告白に、透也の心が揺れた。孤独。その言葉が透也の心に響く。

「先生に会って、初めて愛を知った」

柊の涙。透也の目にも涙が滲む。だが、その涙は——純粋な同情だけではなかった。欲望が混ざっていた。

この人に支配されたい。この人に愛されたい。その衝動が透也を揺さぶる。

でも。

透也が首を横に振った。

「それでも...受け入れられません」

柊の表情が絶望に染まった。

「そう...ですか」

透也が立ち上がった。

「帰ります」

ドアに向かう。柊が立ち上がる。

「待って」

透也が振り返る。柊が近づいてくる。

「先生...」

その距離が縮まる。透也の心臓が激しく鳴る。

柊の手が透也の頬に触れた。

「熱い」

その指先の感触に、透也の身体が脈打つ。

「やめて...」

透也が柊の手を払おうとする。だが、力が入らない。

「先生」

柊がゆっくりと顔を近づける。キスされる——

その瞬間、透也は柊を押し返した。

「ダメです!」

ドアを開ける。

「先生!」

柊の声。だが、透也は階段を駆け下りた。

帰り道、透也の心は混乱していた。キスされそうになった。あと少しで。もし、あのまま——

透也は頭を振った。

「ダメだ」

でも、心のどこかで——キスされたかった。

その感情を、透也は否定できなかった。

家に着いて、透也はベッドに倒れ込んだ。

「終わった...」

もう柊には会わない。そう決めた。

だが——その夜、透也の身体は正直だった。柊の顔が浮かぶ。未遂のキスの余韻。

透也は何度も、自分に触れた。柊のことを考えながら。
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