美術教師の檻――「描き終わるまで帰さない」画家の執着

紺碧のごんぎつね

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【第3章:逃避・追跡・対面】(第11~20話)

第11話「学校での崩壊と身体の裏切り」

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月曜日の朝、透也は鏡を見た。 目の下には濃いクマ。顔色は土気色だ。睡眠時間は、3時間しかなかった。

昨夜のことが、頭から離れない。 柊に触れられた感覚。股間を握られた感覚。イかされた屈辱。でも同時に——男に快感を与えられた快楽。自分の反応への戸惑い。

「くそ…」

透也は、タートルネックを着た。首を隠すため。痕はついていない。でも、柊に触れられた場所を隠したかった。首筋の肌が、男の手の記憶で敏感になっている。シャツが触れるだけで、あの時の感触が蘇る。

股間も、微かに疼いている。朝から。

「くそ…」と透也は舌打ちした。男なのに、こんなことで。

学校に着くと、田中先生が声をかけてきた。

「久我先生、大丈夫? 顔色がすごく悪いわよ」

透也は、作り笑いをした。

「少し…寝不足で」 「無理しないでね。今日は早めに帰った方がいいわ」 「ありがとうございます」

職員室の自分の席に着いた。携帯を見ると、着信が10件。全て、柊から。

透也の手が、微かに震える。あの低い声を思い出して。あの声で「先生」と呼ばれる感覚を思い出して。 下腹部が、ズキズキと疼く。

見たくなかった。だが、気になって仕方ない。

1時間目、美術の授業。

透也は、いつものように生徒たちに話しかけた。

「今日は、静物画の続きをやるぞ」

でも、声が上ずっている。生徒たちが、不思議そうに透也を見た。

授業の途中で、ポケットの携帯が震えた。 また。また。何度も、何度も。

生徒たちが気づいている。ヒソヒソと話している。

「先生、電話じゃないですか?」前の席の女子生徒が心配そうに言った。 「…ああ、すまない」

透也は、携帯を取り出した。 着信が20件になっていた。全て、柊から。

透也の手が震えた。その震えを見ている女子生徒の視線。その視線さえ、透也の身体を反応させる。 誰かに見られている。見守られている。その感覚が、下腹部を熱くさせる。 恐怖と、別の感情が混ざっている。

「先生…?」 「…何でもない」

透也は、携帯の電源を切った。でも、胸の奥がざわざわする。

柊は、何を考えているんだ。どうして、こんなに電話してくるんだ。昨夜、あんなことをしたのに。 でも——あの時の快感も、同時に蘇る。柊の大きな手。握られた感覚。男に支配される感覚。一度イかされた快感。

透也の股間が、また反応している。教室の中で。生徒たちの前で。

(くそ…どうしてだ…)

授業が終わった後、透也は職員室に戻った。携帯の電源を入れる。 着信履歴、30件。留守電、20件。全て、柊から。

透也は、一つだけ留守電を聞いた。

『先生、電話に出てください』

穏やかな声だった。でも、その奥に深い執着。次の留守電。

『どうして出ないんですか。心配です』

少し焦りが混じっている。その焦りの声に、透也の心臓が跳ねる。柊が、自分を心配している。自分を探している。

もう一つ。

『お願いします。出てください。僕、先生がいないと…』

懇願するような声。その声を聞くだけで、透也の身体が反応する。股間が硬くなる。男の声に。柊の声に。

透也の手が、デスクの下に下ろされる。携帯を握りしめている手が、不意に下腹部に向かいそうになる。

(何してるんだ…)

透也は、留守電を消した。

「おかしい…」

これは、もう。普通じゃない。

昼休み、透也は職員室で弁当を食べようとした。でも、喉を通らない。 携帯を見ると、メッセージが50件。

開いてしまった。

『先生、どうして出てくれないんですか』 『僕、何か悪いことしましたか』 『昨日のこと、怒ってますか』 『ごめんなさい。でも、先生が好きで…』 『お願いです。返信してください』

メッセージは、どんどん切迫していく。『先生』『先生』『先生』——透也の名前が、何度も繰り返されている。

透也の背筋が凍った。同時に、下腹部が疼く。

(くそ…何で…?)

柊の字を見つめるだけで、身体が求めている。恐怖と別の感情が混ざって、透也は自分が何を感じているのか分からなくなる。

その時、突然、男子生徒が透也に話しかけた。

「先生、大丈夫ですか?」

透也は、ハッと我に返った。デスク下で、ズボンの上から股間を隠すような位置に手を置いていたことに気づいた。

「っ…!」

顔が真っ赤になった。すぐに手を引っ込める。

「ああ…ああ、大丈夫だ。ありがとうな」

その男子生徒は、怪訝そうな表情を残して去っていった。

透也は、深く溜息をついた。

「くそ…」

5時間目の授業中、また携帯が震えた。透也は、もう電源を切った。でも、生徒たちの視線が痛い。

「先生、何かあったんですか?」悠斗が心配そうに聞いてきた。

透也は、顔を背けた。

「…何でもない」

声が上ずった。

悠斗の視線が、さらに心配そうになる。でも、透也は目を合わせることができなかった。

放課後、透也は職員室に戻った。携帯の電源を入れる。 着信、50件。メッセージ、100件。

透也の手が震えた。

「これは…おかしい」

完全に、おかしい。 ストーカーだ。

透也は、携帯を握りしめた。どうすればいいんだ。警察に相談すべきか。でも、そうしたら。柊は逮捕される。悠斗が傷つく。学校にも知られる。

透也が、柊のモデルをしていたこと。上半身裸で。触れられたこと。イかされたこと。そして——自分も快感を感じていたこと。

「それは…まずい」

透也は、携帯を机に置いた。

「自分で、何とかしないと」

でも、どうやって。

帰り道、透也はいつもと違うルートを選んだ。駅の反対側。遠回りだ。でも、柊に会いたくなかった。 いや——会いたくないと、言い張りたかった。

住宅街を歩いていると、背後に気配を感じた。

透也が振り返る。誰もいない。

「…気のせいか」

また歩き出す。でも、気配が消えない。まるで、誰かに見られているような。足音が聞こえる気がする。

透也の心臓が激しく鳴る。 だが、同時に。股間も反応している。

見守られている。隠れて見つめられている。その感覚が、背徳的で、そして興奮を呼び起こす。

(まさか…)

透也は、歩くスピードを落とした。 気配が、近づいてくる。

(来ている…柊さんが…)

身体が熱くなる。恐怖と別の感情。逃げるべきなのに、歩くスピードを落とす。追跡されていることに気づかせる。自分がどこにいるか、柊に分からせる。

「見つけてくれ」という無言のメッセージ。

でも、やはり怖い。

「くそっ…!」

透也は、突然走り出した。後ろから、足音が追いかけてくる。角を曲がる。一瞬、後ろを見る。影が見えた。人の形。

透也は悲鳴を堪える。さらに走る。人通りの多い大通りへ。ようやく、足音が消えた。

透也は、立ち止まって後ろを振り返る。誰も追ってこない。

「誰だったんだ…」

全身が汗でびっしょりだった。その汗が、下半身にも付着している。硬く反応している股間に。

家に着いて、ドアを開ける。すぐに鍵をかけた。チェーンもかける。

透也は、壁に背中を預けた。

「怖い…」

でも、その声は弱々しい。本当に怖いだけなのか、自分でも分からない。

携帯を見ると、メッセージが届いていた。柊から。

『今日も学校の近くにいました』

透也の心臓が止まりそうになった。だが、同時に、股間が脈打つ。

「あれは…柊さんだったのか」

次のメッセージ。

『先生の姿を見られて嬉しかった』 『でも、話せなくて残念です』

透也は、携帯を床に落とした。

「ストーカーだ…」

完全に、ストーカーだ。

だが、その後、透也は携帯を拾い上げた。メッセージを何度も読み返す。

『先生の姿を見られて嬉しかった』

その言葉を、何度も読む。 身体の反応は止まらない。

透也は、ベッドに倒れ込んだ。

「どうすればいいんだ…」

眠れない夜が、また始まった。

でも、眠れない原因は恐怖だけじゃない。柊が自分を見守っていたという事実。隠れて見つめていたという事実。それが、身体に快感をもたらしている。

自分の反応に、透也は戸惑った。

そして——その夜、透也はついに。 自分の身体に、触れてしまった。
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