美術教師の檻――「描き終わるまで帰さない」画家の執着

紺碧のごんぎつね

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【第5章:社会的試練と二人の選択】 (第25話~28話)

第26話「個展オープニング」

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個展初日の朝

透也は、午前6時に目を覚ました。
隣で、柊も目を覚ましていた。

「おはよう」
「おはよう」

二人は、ベッドから起き上がった。
シャワーを浴びる。
一緒に。

柊が、透也の背中を洗う。

「緊張してる?」

透也が、頷く。

「ああ」

柊が、透也を抱きしめる。

「大丈夫」
「俺が、一緒にいる」

透也が、柊を見つめる。

「ああ」

二人は、服を着た。
柊は、黒いスーツ。
透也も、黒いスーツ。

鏡の前に、並んで立つ。

「似合ってる」

柊が、微笑む。

透也も、微笑み返す。

「お前も」

二人は、手を繋いだ。
アトリエを出る。
ギャラリーへ向かう。

ギャラリーに着くと。
すでに、メディアが集まっていた。

カメラ。
マイク。
記者たち。

透也の心臓が、激しく鳴る。

「大丈夫か?」

柊が、聞く。

透也が、頷く。

「ああ」

二人は、ギャラリーの中に入った。
スタッフが、準備をしている。

照明を最終チェック。
作品の位置を確認。

「柊先生」

ギャラリーのオーナーが、近づいてきた。

「準備、整いました」

柊が、頷く。

「ありがとうございます」

オーナーが、透也を見る。

「こちらが…」
「モデルの、篠原透也です」

透也が、頭を下げる。

「よろしくお願いします」

オーナーが、微笑む。

「素晴らしい作品です」
「きっと、話題になります」

透也の心臓が、跳ねる。

「話題に…」

その言葉が、重い。

午前11時。
ギャラリーの扉が、開く。

人々が、入ってくる。
美術関係者。
メディア。
一般の来場者。
そして。
野次馬も。

透也は、柊の隣に立っていた。
入り口の近く。

人々が、二人を見る。
視線。
好奇心。
批判。
応援。
すべてが、混ざり合っている。

「あれが…」
「モデルの人?」
「教師なんでしょ」
「信じられない」

ヒソヒソ話が、聞こえる。
透也の拳が、握られる。

柊の手が、透也の手に触れた。

「大丈夫」

透也が、頷く。

「ああ」

人々が、作品を見始める。

最初の作品。
透也が、椅子に座っている絵。
服を着ている。
穏やかな表情。

「綺麗…」

女性の声。

次の作品。
透也の上半身裸の絵。
ざわめきが、起きる。

「すごい…」
「こんなに、リアルに」

だが、批判の声も。

「気持ち悪い」
「男の裸なんて」

透也の心臓が、痛む。

でも、前に進む。
柊と一緒に。

会場の奥。
一番大きな壁に。
全裸の絵が、掛けられていた。

透也の全裸の絵。
ベッドに横たわっている。
視線は、カメラ(柊)を見つめている。

美しい。
だが、官能的。

人だかりができていた。

「これは…」
「すごい」
「でも…」

様々な反応。

透也は、その作品の前に立った。
自分の裸を見つめる。

「これが…俺か」

呟いた。

柊が、隣に立つ。

「ああ」
「お前の、美しさだ」

透也の顔が、赤くなる。

「くそ…」

でも、逃げない。
堂々と、立っている。

記者が、近づいてきた。

「柊先生」
「このモデルは?」

柊が、透也を見る。

透也が、頷く。

「彼です」
「篠原透也」

記者が、透也を見る。

「篠原さんは、教師だと聞きましたが」

透也が、頷く。

「はい」
「美術教師です」

記者が、メモを取る。

「このような作品のモデルになることに」
「抵抗は?」

透也が、柊を見る。
柊も、透也を見る。

透也が、口を開く。

「ありません」
「これは、愛の表現です」

記者の目が、見開かれる。

「愛…ですか」

透也が、頷く。

「はい」
「柊さんと、僕は」

透也が、深呼吸する。

「恋人です」

その言葉が、会場に響いた。
一瞬の沈黙。
そして。
ざわめき。

「えっ…」
「本当に?」
「男同士で?」

カメラのシャッター音が、響く。
記者たちが、殺到する。

「いつから?」
「学校は、知ってるんですか?」
「生徒への影響は?」

質問が、飛び交う。
透也の心臓が、激しく鳴る。

だが、逃げない。

「半年前からです」
「学校は、知っています」
「生徒への影響は…」

透也が、言葉を選ぶ。

「愛することに」
「性別は、関係ありません」
「それを、伝えたい」

柊が、透也の手を握った。
人々の前で。
堂々と。

「僕も、透也を愛しています」

柊の言葉。
会場が、さらにざわめく。

だが、その中で。
拍手が、起きた。

一人、また一人。

「素晴らしい」
「勇気がある」

涙を流す人も、いる。

だが、同時に。

「気持ち悪い」
「子供に見せられない」

批判の声も。

透也と柊は。
手を繋いだまま。
立ち続けた。

その時。
会場の入り口から。
悠斗が、入ってきた。

制服姿。
学校を抜け出してきたのだろう。

「先生…」

悠斗の声。

透也が、悠斗を見る。

「悠斗…」

悠斗が、二人に近づく。
人々が、道を開ける。

悠斗は、透也の前に立った。

「先生…頑張ってください」

透也の目に、涙が滲む。

「悠斗…」

悠斗が、柊を見る。

「兄さん…幸せになってください」

柊も、涙を浮かべる。

「ああ」

悠斗が、微笑んだ。

「俺、応援してます」

その言葉が、透也の心を満たした。

「ありがとう」

悠斗は、会場を出て行った。
学校へ戻るのだろう。

透也は、その背中を見送った。

「いい弟だな」

呟いた。

柊が、微笑む。

「ああ」

個展は、夕方まで続いた。
人々が、入れ替わり立ち替わり。

作品を見る。
透也と柊を見る。
写真を撮る。
SNSに投稿する。

透也は、疲れていた。
だが、後悔はなかった。

夕方5時。
オープニングが、終わった。

人々が、帰っていく。
最後の一人が、出て行った。
ギャラリーに、静寂が戻る。

透也と柊だけが、残った。

「終わった…」

透也が、呟く。

柊が、透也を抱きしめた。

「お疲れ様」

透也も、柊を抱き返す。

「お前も」

二人は、長く抱き合っていた。
疲労と。
安堵と。
そして。
達成感。

「蒼一郎…」

透也が、呟く。

「ん?」

「やり遂げたな」

柊が、微笑む。

「ああ」
「お前と、一緒に」

透也が、柊の唇にキスをした。
ギャラリーの中で。
誰も見ていない。
二人だけの空間で。

「愛してる」

透也の言葉。

「俺も」

柊の言葉。

二人は、手を繋いで。
ギャラリーを出た。

外は、もう暗い。
街灯が、二人を照らす。

「帰ろう」

柊が、言う。

「ああ」

透也が、頷く。

二人は、アトリエへ向かった。
手を繋いだまま。

明日からの困難を。
予感しながら。

だが、今は。
ただ、二人で。
歩いていく。
それだけで。
十分だった。
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