照明スタッフの私が、絶対好きになってはいけない演者の中に初恋の人がいました。

桜咲ちはる

文字の大きさ
1 / 2
第一章 これは恋じゃない

Prologue

しおりを挟む
「ねぇ、若葉って3組の吉川くんのことが好きらしいよ」

 そんな噂が最初に流れたのはいつからだろう。私に聞こえないようにコソコソ話で、視線だけが向けられる違和感に居心地の悪さを感じていた。人の視線が怖くて、教室から出るのが億劫になっていったそんな時に友達が私の腕を引っ張った。

「若葉って吉川くんのこと好きなの?3組の」
「えっ……」

 誰にも言ってないはずなのに、知られてることに顔が熱くなる。慌てて首を横に振っても上手く誤魔化せなかったみたいで、友達が私の背中を撫でる。

「落ち着いてね。噂になってるから、吉川くんにも知られてると思う。てか全校生徒が知ってるかも」

 その言葉に青ざめた。恥ずかしい、迷惑かけた、学校にいたくない。色んな考えが頭をよぎる。私は教室を飛び出して、隣のクラスに向かった。

「吉川くん!」

 教室にいた吉川くんがこっちを見る。恥ずかしい、吉川くんは私のこと認識すらしていないだろうけど。

「私が吉川くんを好きだって噂、あれ嘘だから!迷惑かけてごめんなさい!」

 それだけ言って返事も聞かずに教室に戻って、鞄を持って早退した。一晩経って、私は先週告白してくれた人と付き合うことにした。なんてタイミングなんだと思うけど、一刻も早くその噂を消したかった。吉川くんと付き合いたい、とかそんなことすら考えたことなくて。ただただ恥ずかしさと気まずさだけが残った。私に彼氏が出来たことで噂は消え、吉川くんとはそれから一度も話すことなく高校を卒業した。

 忘れたくても忘れられない私の黒歴史。後にも先にもあんなにも恥ずかしい思いをしたのはその時だけだろう。友達も信じられなくなって疎遠になったけど、あれから12年。私はそれなりに普通の人生を歩んでいる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】おしどり夫婦と呼ばれる二人

通木遼平
恋愛
 アルディモア王国国王の孫娘、隣国の王女でもあるアルティナはアルディモアの騎士で公爵子息であるギディオンと結婚した。政略結婚の多いアルディモアで、二人は仲睦まじく、おしどり夫婦と呼ばれている。  が、二人の心の内はそうでもなく……。 ※他サイトでも掲載しています

婚約破棄ブームに乗ってみた結果、婚約者様が本性を現しました

ラム猫
恋愛
『最新のトレンドは、婚約破棄!  フィアンセに婚約破棄を提示して、相手の反応で本心を知ってみましょう。これにより、仲が深まったと答えたカップルは大勢います!  ※結果がどうなろうと、我々は責任を負いません』  ……という特設ページを親友から見せられたエレアノールは、なかなか距離の縮まらない婚約者が自分のことをどう思っているのかを知るためにも、この流行に乗ってみることにした。  彼が他の女性と仲良くしているところを目撃した今、彼と婚約破棄して身を引くのが正しいのかもしれないと、そう思いながら。  しかし実際に婚約破棄を提示してみると、彼は豹変して……!? ※『小説家になろう』様、『カクヨム』様にも投稿しています

雪の日に

藤谷 郁
恋愛
私には許嫁がいる。 親同士の約束で、生まれる前から決まっていた結婚相手。 大学卒業を控えた冬。 私は彼に会うため、雪の金沢へと旅立つ―― ※作品の初出は2014年(平成26年)。鉄道・駅などの描写は当時のものです。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

私と彼の恋愛攻防戦

真麻一花
恋愛
大好きな彼に告白し続けて一ヶ月。 「好きです」「だが断る」相変わらず彼は素っ気ない。 でもめげない。嫌われてはいないと思っていたから。 だから鬱陶しいと邪険にされても気にせずアタックし続けた。 彼がほんとに私の事が嫌いだったと知るまでは……。嫌われていないなんて言うのは私の思い込みでしかなかった。

あの夜、あなたがくれた大切な宝物~御曹司はどうしようもないくらい愛おしく狂おしく愛を囁く~【after story】

けいこ
恋愛
あの夜、あなたがくれた大切な宝物~御曹司はどうしようもないくらい愛おしく狂おしく愛を囁く~ のafter storyです。 よろしくお願い致しますm(_ _)m

溺愛王子の甘すぎる花嫁~悪役令嬢を追放したら、毎日が新婚初夜になりました~

紅葉山参
恋愛
侯爵令嬢リーシャは、婚約者である第一王子ビヨンド様との結婚を心から待ち望んでいた。けれど、その幸福な未来を妬む者もいた。それが、リーシャの控えめな立場を馬鹿にし、王子を我が物にしようと画策した悪役令嬢ユーリーだった。 ある夜会で、ユーリーはビヨンド様の気を引こうと、リーシャを罠にかける。しかし、あなたの王子は、そんなつまらない小細工に騙されるほど愚かではなかった。愛するリーシャを信じ、王子はユーリーを即座に糾弾し、国外追放という厳しい処分を下す。 邪魔者が消え去った後、リーシャとビヨンド様の甘美な新婚生活が始まる。彼は、人前では厳格な王子として振る舞うけれど、私と二人きりになると、とろけるような甘さでリーシャを愛し尽くしてくれるの。 「私の可愛い妻よ、きみなしの人生なんて考えられない」 そう囁くビヨンド様に、私リーシャもまた、心も身体も預けてしまう。これは、障害が取り除かれたことで、むしろ加速度的に深まる、世界一甘くて幸せな夫婦の溺愛物語。新婚の王子妃として、私は彼の、そして王国の「最愛」として、毎日を幸福に満たされて生きていきます。

愛はリンゴと同じ

turarin
恋愛
学園時代の同級生と結婚し、子供にも恵まれ幸せいっぱいの公爵夫人ナタリー。ところが、ある日夫が平民の少女をつれてきて、別邸に囲うと言う。 夫のナタリーへの愛は減らない。妾の少女メイリンへの愛が、一つ増えるだけだと言う。夫の愛は、まるでリンゴのように幾つもあって、皆に与えられるものなのだそうだ。 ナタリーのことは妻として大切にしてくれる夫。貴族の妻としては当然受け入れるべき。だが、辛くて仕方がない。ナタリーのリンゴは一つだけ。 幾つもあるなど考えられない。

処理中です...