照明スタッフの私が、絶対好きになってはいけない演者ーー初恋の人と再会してしまいました。

桜咲ちはる

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第一章 これは恋じゃない

2話 Voyst

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「よろしくお願いします」

 年明け直後に私は打ち合わせに参加した。先に入っていた先輩に大まかな内容を聞き、会議室に入る。机や椅子出しを手伝っていると、オーラのある5人の男女が入ってきた。全員が整った顔立ちをしていて、その髪色は金茶黒銀ピンクと様々だ。

 金髪で背が高く、ぱっちりとした綺麗な瞳をしてる男性が響さん。ゆるくクセのある茶髪で細身だけど筋肉が程よくある腕をしてる男性がとわさん、黒髪で小柄で細身の男性がサクさん。銀髪で前髪が長く、中性的な顔立ちの男性がMiyaさん。カールがかったピンク髪をツインテールにしてる可愛らしい女性がみゅうみゅうさんだろう。

「宮坂、入口にいる5人がメンバーだから覚えとけ」

 彼らをみていると先輩がこっちに来て、私に言う。みゅうみゅうさんが振り向いて、ふわりと笑う。か、可愛い……。

「挨拶行くぞ」
「はい」

 先輩に連れられて、5人の方に行く。芸能人並みのビジュアルで、普段顔を隠してるのがもったいないと思ってしまう。この人たちがVoystかぁ。

「みんな、こいつが今日から参加する俺の後輩」
「宮坂若葉です。よろしくお願いします」

 よろしく、と響さんが返事してくれる。挨拶を終えて、私は打ち合わせに参加した。バンドだけど、童話のような世界観でセット作りするみたいで。MVの雰囲気をそのまま再現されるのかと思うとワクワクした。

 それからはいつも通りの日々が始まる。照明機材確認して構成頭に入れて、動線チェックする。もちろん本番には敵わないけど、準備期間も私は好きだった。

「あ……」

 1週間くらいした日のケータリングを見て、私は顔を歪める。今日はカレーか。子供用のカレーではないだろうし、辛いの苦手なんだよなぁ。外に買いに行こう。

「あの、食べないんですか?」

 素通りしようとしたら声を掛けられる。ふわふわした茶髪に切長の目。とわさんだ。

「辛いの苦手なんです……、お恥ずかしい」
「あぁ、中辛ですもんね……。うちの」

 肩を竦めると、とわさんがカレー鍋を見る。

「昼飯、奢りますよ。俺らが用意したケータリングなんで」
「えっ、いえいえ。昼食くらい自分でどうにか出来るので」

 そんな、演者に奢ってもらうだなんて悪い。先輩だって同僚だって、もう当たり前みたいに私を送り出すだけなのに。

「近くにおすすめのラーメン屋があるんですよ。ラーメンは大丈夫ですか?」
「あっはい、では是非……」

 おすすめと言われて行かないわけには行かない。演者とは一定の距離を保たないと行けないのにいいのかなぁ。

「女性スタッフと出歩くなんて、お仕事柄大丈夫ですか?」
「え?何がですか?」

 一応気になって聞いてみると、とわさんが心底不思議そうな顔をする。そんな驚かれることだろうか。

「週刊誌に撮られたりとかファンの子に騒がれたりしないかなーって」
「アイドルじゃないし、顔出ししてないのにですか?」

ふふっ、ととわさんが笑う。そうだ、この人動画ではサングラスにマスクしてるんだった。

「すみません、そういう方々ばかり担当してきたんで」
「なるほど。そんな人が俺らのスタッフについてくれるなんて、すごいですね」

 仕事の話聞いてもいいですか?ととわさんが聞いてくれる。私は話せる範囲で普段の仕事内容の話をした。言葉数は少ないけど所々で相槌を打ってくれて、つい話が進む。演者と長く会話することなんてなくて、楽しかった。

「あっ、とわさっ…」

楽しくて、美味しくてすっかり満足してしまっていた。トイレに行くと席を立ったとわさんがお会計をしてて、声を掛けるとくるっと振り向く。

「はい」
「あの、お金……」

千円札を渡そうとするととわさんに手で制される。

「今日は払わせてください。次は辛くないの用意しときます」
「……すみません、ありがとうございます」

ああ、なんて優しい。たかが一スタッフに奢って、ケータリングも気にしてくれるなんて。

「とわさん、人たらしって言われません?」
「え?言われないですよ」

 くくっ、と笑うその表情に思わずときめいた。次のカレーの時は、他のおかずも用意されていて私はとわさんに駆け寄った。

「とわさんっ、」
「はい」

 とわさんが振り向く。私はケータリングを指差して、お辞儀した。

「ありがとうございますっ!」
「いえ、俺は何も」

 何もしてないわけないのに、とわさんは首を横に振る。

「いっぱい食べてください」
「ありがとうございます」

 とわさんの言葉にもう一度お礼を言って、私はケータリングを取りに行った。

「へー、とわがもう一つ用意するって言ったの君のためか」
「え?」

 急に後ろから言われて顔を向けると、響さんの顔が近い。綺麗な金髪が蛍光灯に反射して眩しい。

「カレー苦手なの?」
「えっと、すみません。辛いの全般得意じゃなくて……」

 私のためにわざわざ申し訳なくて謝る。響さんがくくっと笑った。

「いいんじゃない別に、とわが決めたことだし」

 お金かかってることだろうに、そんな認識でいいんだ……。響さんはカレーを山盛りによそって、去っていく。意外に自由なのかもしれない。
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