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第一章 これは恋じゃない
4話 答え合わせ
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リハーサルを終え、最終確認をした。小規模だけど、凝られた世界観のセットに演出だからお客さんは満足に楽しめるだろう。私もこの1ヶ月ですっかりVoystのファンになっていた。
「本当にアリーナでライブするんだね!私までわくわくしちゃうよ」
楽屋から聞こえてきた声に足を止める。みゅうみゅうさんのとは違う、のになんか聞いたことのある声。他の人の声は聞こえなくて、楽しそうに弾むその人の声だけが響く。
「スタッフさんたちにも挨拶しないと」
「恥ずかしいからやめろ」
ちょうどドアが開いて、中から人が出て来る。男性はサクさんの声かな。扉に隠れてたその人の姿が見えた瞬間、私は目を見張った。彼女が振り向いて目が合う。その人は私の顔を見て、頬に両手を当てた。
「えー、若葉ちゃんじゃん!どうしてここにいるの?」
「舞花先輩こそ」
高校の演劇部の先輩で、芸能人と言ってもおかしくないくらい美人の舞花先輩がいる。私の顔を見ると舞花先輩は私に手を伸ばして抱きしめる。相変わらず愛情表現が素直な人だな、と冷静に思う。舞花先輩と出て来たサクさんと目が合い、サクさんは嫌そうな顔をしてる。私だって信じられない。
「あ、そっか。孝作と若葉ちゃんも高校一緒だもんね、呼んでたなら教えてくれればいいのに」
「え……」
高校が一緒……?サクさんが私もスタッフだということを説明してくれる。でも私はそれどころじゃなかった。だって、ネットの情報ではサクさんととわさんって高校の同級生……。
「あ。吉川、やっぱお前宮坂のこと知ってただろ。お前と噂になってたし」
サクさんがさらっとそんなことを言う。私は顔が熱くなった。噂、で確定したようなもの。逃げ出したいのに、舞花先輩に抱きしめられてて抜け出せない。フリーズしてると、とわさんが出てきた。
「知ってたって何?」
「宮坂高校の同級生だって。お前のこと好きな奴いただ……」
デリカシーもなく繰り返すサクさんの口をとわさんが塞ぐ。私は俯いた。
「その覚え方失礼だって」
やっぱりその認識なんだ……。当時否定しにいって、速攻で告られた人と恋人になって消滅させたはずの噂。
「全然わかんなかった。同級生だったんだね」
優しい声で、吉川くんが言う。ああ……、今も優しい。そして、通りでかっこよかったわけだと納得する。私が照明係という一般的には地味な仕事に憧れたのも、軽音部のステージで演奏する吉川くんがかっこよく見えたからってわけで。私のセンサーが変わってなかったことにも少しの驚きと恥ずかしさがある。
「ははは、そうだったみたいですね……」
気づきたくなかった。そして、サクさんが苦手なことも当時から変わってない。だって、私の気持ち見透かされてそうで怖いんだもの。
「何々噂って?」
「何でもないです!」
ワクワクしながら聞いてくる舞花先輩の腕を掴んで止める。これ以上は居た堪れない。あの頃謝れなかったのに、今持ち出すなんて出来ない。
「私仕事残ってるんで、行きます!」
足早に去って照明チームと合流した。でも少しホッとした。今の私に残ってるのは噂に巻き込んでしまった罪悪感だけで、それ以上はない。このライブが終わればもう会うことはないだろう。仕事に集中すると思い出す回数は少なくて、やっぱ仕事が大事だと思った。時折思い出しては発狂しそうになりはしたけど。このまま帰れると思ってた私は忘れてた。明日が本番だということを。
「宮坂、何帰ろうとしてるんだ」
「え、あっ先輩」
お疲れ様です、と挨拶する私に先輩が呆れてる。
「宮坂、本番前の挨拶があるだろ。もうボケたか?」
「あ……。そうでした」
このまま吉川くんと会わずに帰れると思ってたから気まずい。最終リハだって、私は隠れてたから吉川くんと目が合うことはなかったのに。
「Voystはもう揃ってんぞ」
「すみません!すぐ行きます!」
私は早歩きでステージに向かう。
「遅くなってすみません!」
中に入るとみんなの視線が一気に向いた。注目浴びるの苦手なのに、失敗した。先輩も揃って、プロデューサーから順に挨拶していく。
「俺たち初のアリーナライブ、今まで以上のスタッフさんに携わってもらってその大きさを実感します。本当に感謝してもしきれないですけど、その想いは打上まで持っていきます。明日明後日、俺たち全員で盛り上がりましょう!」
響さんがマイクを使って挨拶する。皆を惹きつけるカリスマ性があって、さすがボーカルだと思った。Miyaさんみゅうみゅうさん足立くんも挨拶して、次は吉川くんの番になる。私は意識しないように吉川くんを見ると、目が合った。息が止まりそうになる。汗が白い肌に光り、ふわふわの茶髪が少しストレートになっている。数時間ぶりに間近で見る吉川くんは、相変わらず綺麗だった。
「あの頃はこんな大きな場所でライブ出来るとは思ってませんでした。最初はただ楽しかったから始めたけど、今はファンの方にもそして皆さんにも何より楽しんでいただきたいです。本番よろしくお願いします」
頭を下げる吉川くんに拍手すると、顔を上げた吉川くんが私を見て笑った。とくん、と胸が高鳴る。私は口を押さえた。治まれ、こんなの、ただの気のせいだ……。
「本当にアリーナでライブするんだね!私までわくわくしちゃうよ」
楽屋から聞こえてきた声に足を止める。みゅうみゅうさんのとは違う、のになんか聞いたことのある声。他の人の声は聞こえなくて、楽しそうに弾むその人の声だけが響く。
「スタッフさんたちにも挨拶しないと」
「恥ずかしいからやめろ」
ちょうどドアが開いて、中から人が出て来る。男性はサクさんの声かな。扉に隠れてたその人の姿が見えた瞬間、私は目を見張った。彼女が振り向いて目が合う。その人は私の顔を見て、頬に両手を当てた。
「えー、若葉ちゃんじゃん!どうしてここにいるの?」
「舞花先輩こそ」
高校の演劇部の先輩で、芸能人と言ってもおかしくないくらい美人の舞花先輩がいる。私の顔を見ると舞花先輩は私に手を伸ばして抱きしめる。相変わらず愛情表現が素直な人だな、と冷静に思う。舞花先輩と出て来たサクさんと目が合い、サクさんは嫌そうな顔をしてる。私だって信じられない。
「あ、そっか。孝作と若葉ちゃんも高校一緒だもんね、呼んでたなら教えてくれればいいのに」
「え……」
高校が一緒……?サクさんが私もスタッフだということを説明してくれる。でも私はそれどころじゃなかった。だって、ネットの情報ではサクさんととわさんって高校の同級生……。
「あ。吉川、やっぱお前宮坂のこと知ってただろ。お前と噂になってたし」
サクさんがさらっとそんなことを言う。私は顔が熱くなった。噂、で確定したようなもの。逃げ出したいのに、舞花先輩に抱きしめられてて抜け出せない。フリーズしてると、とわさんが出てきた。
「知ってたって何?」
「宮坂高校の同級生だって。お前のこと好きな奴いただ……」
デリカシーもなく繰り返すサクさんの口をとわさんが塞ぐ。私は俯いた。
「その覚え方失礼だって」
やっぱりその認識なんだ……。当時否定しにいって、速攻で告られた人と恋人になって消滅させたはずの噂。
「全然わかんなかった。同級生だったんだね」
優しい声で、吉川くんが言う。ああ……、今も優しい。そして、通りでかっこよかったわけだと納得する。私が照明係という一般的には地味な仕事に憧れたのも、軽音部のステージで演奏する吉川くんがかっこよく見えたからってわけで。私のセンサーが変わってなかったことにも少しの驚きと恥ずかしさがある。
「ははは、そうだったみたいですね……」
気づきたくなかった。そして、サクさんが苦手なことも当時から変わってない。だって、私の気持ち見透かされてそうで怖いんだもの。
「何々噂って?」
「何でもないです!」
ワクワクしながら聞いてくる舞花先輩の腕を掴んで止める。これ以上は居た堪れない。あの頃謝れなかったのに、今持ち出すなんて出来ない。
「私仕事残ってるんで、行きます!」
足早に去って照明チームと合流した。でも少しホッとした。今の私に残ってるのは噂に巻き込んでしまった罪悪感だけで、それ以上はない。このライブが終わればもう会うことはないだろう。仕事に集中すると思い出す回数は少なくて、やっぱ仕事が大事だと思った。時折思い出しては発狂しそうになりはしたけど。このまま帰れると思ってた私は忘れてた。明日が本番だということを。
「宮坂、何帰ろうとしてるんだ」
「え、あっ先輩」
お疲れ様です、と挨拶する私に先輩が呆れてる。
「宮坂、本番前の挨拶があるだろ。もうボケたか?」
「あ……。そうでした」
このまま吉川くんと会わずに帰れると思ってたから気まずい。最終リハだって、私は隠れてたから吉川くんと目が合うことはなかったのに。
「Voystはもう揃ってんぞ」
「すみません!すぐ行きます!」
私は早歩きでステージに向かう。
「遅くなってすみません!」
中に入るとみんなの視線が一気に向いた。注目浴びるの苦手なのに、失敗した。先輩も揃って、プロデューサーから順に挨拶していく。
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響さんがマイクを使って挨拶する。皆を惹きつけるカリスマ性があって、さすがボーカルだと思った。Miyaさんみゅうみゅうさん足立くんも挨拶して、次は吉川くんの番になる。私は意識しないように吉川くんを見ると、目が合った。息が止まりそうになる。汗が白い肌に光り、ふわふわの茶髪が少しストレートになっている。数時間ぶりに間近で見る吉川くんは、相変わらず綺麗だった。
「あの頃はこんな大きな場所でライブ出来るとは思ってませんでした。最初はただ楽しかったから始めたけど、今はファンの方にもそして皆さんにも何より楽しんでいただきたいです。本番よろしくお願いします」
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