照明スタッフの私が、絶対好きになってはいけない演者ーー初恋の人と再会してしまいました。

桜咲ちはる

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第一章 これは恋じゃない

10話 動揺

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 吉川くんと会ってた時間が夢だったかのように、目紛しく働き時間が過ぎていく。アリーナ公演までしたからから、オリジナル曲が1000万再生されたからかコンビニでもVoystの曲が流れてる。あの日々を夢にしたくて、忘れたくて蓋をしようとするけど勝手に吉川くんの顔が浮かんでくる。

「宮坂若葉です。ライブの照明スタッフをしています」

 大丈夫、あの頃だって気持ちに蓋を出来たから。私は街コンに参加する。彼氏が出来ちゃえば考える暇なくなるだろうし、それがいい。

「どんな人のライブ関わってるんですか?やっぱRe:veilとか?」
「はい。リュンヌ事務所には贔屓にしてもらってます」

 さすがRe:veil。トップアーティストだけあって、誰とでも話せる。仕事で得た情報は話せないけど、それでもあのライブがすごかった。あの演出が良かったと短時間でも盛り上がれる。

「俺Voystってバンドが好きで、知ってますか?」

 3人目の人に、ふと出された名前に固まる。私が答えないでいると、相手の人が謝った。

「すみません、知らないですよね。Movingで主に活動してるインディーズバンドで、この前アリーナ公演やったんですよ」
「……そうなんですね。勉強不足ですみません」

 吉川くんの名前は出されてないのに、Voystの名前だけで涙が出てくる。私は手で口を押さえた。

「すみません!知らなくても普通っていうか、責めてないです!」
「……すみません」

 私が悪いのに。でも、恋する自分が気持ち悪くて。吉川くんへの気持ちを自覚したら自分がおかしくなりそうで、怖い……。結局泣いたことで失敗に終わり、次のを申し込む気力も私はなくなってしまった。

 諦めて仕事に打ち込もう。仕事してたらきっと忘れられる。忙しくしてたら何となく半年が過ぎて、先輩から電話が来た。
 
『宮坂、Voystのライブあるんだけど』
「すみません!別の仕事入ってて!」

 先輩の誘いも勢いよく断る。お互い会っても気まずいだけだし、それでいい。

「え、今回は参加してないの?若葉ちゃん」

 舞花先輩と会った時に聞かれ、私は頷いた。ちょうど会社の仕事と重なってたし、どっちにしても参加は出来なかったんだけれども。

「じゃあ観客側で見ようよ!」
「いや、私は……」

 断ろうとすると、お願いと手を掴まれる。美人に真っ直ぐ見られるとたじろぐ。

「孝作のこと親にも友達にも言ってなくて、一緒に盛り上がりたいの!」

 本当に嬉しそうに、目を輝かせて私を見る舞花先輩。美人の顔の圧がすごくて、私は頷いてしまった。

「ありがとう、嬉しい」

 そう言って笑う舞花先輩に、この笑顔が見れるなら良かったかなんて思う。舞花先輩みたいに可愛く好きを表現出来たら、悩むことなんてなかったのかな。でもあいにく私は昔から、可愛いものは苦手なんだ。胸につっかえるもやもやを流し込むようにビールを一気飲みする。そんな風に考えてる自分も、嫌いだった。

「若葉ちゃんは可愛いよ」

 急に舞花先輩が言った言葉に固まる。声には出してなかったし、この人はエスパーなのだろうか。んなわけないけど。

「可愛くないですよ。フラれてばっかだし」
「それは相手が見る目ないんだよ」

 舞花先輩の目は節穴みたいだ。舞花先輩が隣に来て、可愛い可愛いと私を抱きしめる。どんな羞恥プレイだ……。完全に酔っ払ってる舞花先輩のスマホを拝借して、足立くんの連絡先を探す。メッセージアプリの一番上に名前を見つけ、舞花先輩が酔ったので私が連絡してることとここの住所を送った。

「んん~、若葉ちゃんも恋してほし~」
「それなりにしてると思いますよ」

 定期的に彼氏だっていたし。でも、それが本気じゃなかったってことを今痛いくらい実感してる。吉川くんを忘れられなかったら私はどうなっちゃうんだろう。ファンにはなれるけど、その距離に苦しくなりそうで。だからと言って告白して恋人になる勇気もない。あんなイケメンを、間近で感じる余裕なんて私にはない。

「舞花先輩が羨ましいです」

 好きな人に好きと伝えて愛を表現出来て、それが可愛くて。お酒を追加する気にもならなくて、つまみをちょこちょこ食べてるとガラッとドアが開いた。

「酔わせたの?」
「舞花先輩が自分から飲んだんです。弱いなんて知りませんでした。ほら、舞花先輩迎え来ましたよ」

 舞花先輩の肩を揺さぶって起こす。舞花先輩はゆっくりと目を開けて、へらっと笑った。

「孝作だ~」
「帰るぞ」

 足立くんが舞花先輩を引っ張って、伝票を持つ。

「あ、今日は私が」
「いいよ、俺が払うわ。それよりお前、今度のライブ来んの?」

 えっ。足立くんから聞かれると思ってなくて、戸惑いながら頷く。足立くんは自分から聞いたくせに興味なさそうにお会計に向かった。

「ご馳走様でした」
「ああ。ライブ絶対来いよ」

 聞いてないかと思ったけど、足立くんは釘を刺す。私たちそんなふうに言われる間柄じゃなかったと思うんだけど、ここで聞くのも違うなと思ってやめた。タクシーに乗って足立くんと舞花先輩が帰っていく。私はふぅ、と一息ついた。ライブ、どんな服着て行こう……。スカートあったかな、なんて吉川くんとはもう関係ないのに気にしてしまう。ああ、私はだいぶおかしくなってるみたいだ。

 
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