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第一章 これは恋じゃない
11話 観客として
しおりを挟む「楽しみだね~」
「はい」
舞花先輩とチケットを持って中に入る。スタッフとして以外でライブを観るのは久しぶりでわくわくする。私も新しい服を買ったりしてみたけど、女性らしさは舞花先輩には敵わない。水色のブラウスに白いチュールスカートを履いた舞花先輩は妖精みたいで綺麗だった。
舞花先輩のおかげで関係者席で見れる。しかも今回ギター側でびっくりした。この距離、吉川くんにバレちゃうかも……。なんて1人で慌てて、最後の会話を思い出して落ち込む。何であんなこと言ったんだろう私……。
「若葉ちゃん大丈夫?百面相してるけど」
「あっ、はい。大丈夫です」
どんな顔してたんだ私。心配そうに顔を覗き込む舞花先輩に返事する。動揺して私はさっき買ったペンライトの動作確認をした。やがてVoystのコールが始まる。私たちも手を叩いてVoystを呼んだ。
ーバンッ
大きな音がして会場が静かになる。オープニング映像が流れた。今回はメルヘンな雰囲気でメンバーが紹介されていく。こうして見ると、メンバーの顔は誰も見えなくて少し寂しさを覚える。上から見てた時だってメンバーの顔は隠れてたのに、裏方にいる特別感があった。
ステージセットの奥からメンバーが現れる。私は吉川くんを、とわさんを目で追いかけた。ジャンッとギターの音が響く。5人が目を合わせて、演奏を始めた。POPで可愛い音楽に目を奪われる。響さんとみゅうみゅうさんのツインボーカルで、前回のコンセプトではなかった可愛い曲も出来るのかと驚いた。
曲が次々に変わる。力強い響さんの声と、繊細な音楽に私は目頭が熱くなってくる。結局、私は高校の頃から変わらない。……何も成長できていないんだ。
何曲目かでふと、とわさんがこっちを見る。目が合って数秒、とわさんが私に気づいたのがわかった。一瞬、ほんの一瞬だけ音がズレる。隣の舞花先輩は気づいてないみたいで、きゃー!と楽しそうに叫んでる。私は口を押さえた。一瞬でも、気にしてくれたことが嬉しくて。
ああ、もうダメかもしれない。胸が張り裂けそうなくらい、私の鼓動は速くて。夢中でとわさんを見つめる。目が離せなくて、やっぱりかっこいいな……って思った。
みんなが楽器を置いて、ステージに並ぶ。Miyaさんが水の入ったカゴを持ってきて、響さんがファンに座るように言う。最初は軽く話してたけど、みんながニヤニヤしてるような気がして。何だろうと思ってたら、モニターにバンッと文字が映った。
「俺ら、この度メジャーデビューすることが決定しました!」
すごい……。キャーッと絶叫のような悲鳴が上がる。私は大きく拍手をした。とわさんが振り向いて、目が合ったような気がした。とわさんが頷く。ああ、ファンの人が思う遠くなっちゃうってこういう感情なのかもなと思った。それは、寂しい。
「今まで通り動画投稿や配信もやってくので、これからも応援よろしくお願いします」
「「「「お願いします」」」」
よかったぁ、と舞花先輩が私を抱きしめて飛び跳ねる。ずっと彼らを見てきた舞花先輩の喜びは相当なものだろう。メジャーデビューの新曲が流れ、みんなが所定の場所に戻る。響さんがマイクを握って、声を乗せた。Voystらしい、幻想的なロックで惹き込まれる。最後は始まりの曲で締める。終わるのがあっという間で、もっと観たいけど十分な満足感があった。
「ねぇ、とわくん若葉ちゃん指差してない?」
目を閉じて余韻に浸ってた私の肩を舞花先輩が揺さぶる。顔を上げると、とわさんはピックをふりふりと振って、そして私に投げた。コントロールが良すぎるとわさんのピックを、必死にキャッチする。黒いピックのデザインの上にとわさんのサインがあって、裏を見た私は胸がじんわり熱くなった。
"ありがとう"
何に対してだろうか。お礼を言われるようなこと何もしてない。
「えっ、良かったね~。私も投げてもらいたい、って頭に当たったら大変か」
隣で舞花先輩がはしゃいでる。私はピックを抱きしめ、目を瞑った。自分の気持ちに気づくのが怖くて、そんな臆病な私でも吉川くんが微笑んでくれてて。私はきっと、吉川くん以外を本気で好きになれなんだと思う。だからこそ、吉川くんと関わるのが怖い……。
いつの間にか手の上に降ってきた銀テープにそっと触れる。吉川くんは、アーティストだ。私は気を引き締めて、はけてくとわさんを見つめる。とわさんはステージの上でキラキラと眩しく輝いていた。これからメジャーデビューするアーティストと、ただのライブスタッフ。吉川くんがどう思ってくれてようとも、何かがあってはいけないんだ。
「若葉ちゃん、行こう」
舞花先輩が荷物を持って、私の腕を掴む。ここでは言えないけど、行こうっていうのは楽屋だろう。私は舞花先輩の手を離して、首を横に振った。
「私は友達でも彼女でもないので、遠慮しておきます」
「そんなこと言わないで。同級生でしょ?」
行くよ、と強引に手を引かれ舞花先輩に連れてかれる。高校の頃からこの人こうだったな、ってふと記憶が蘇った。
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