照明スタッフの私が、絶対好きになってはいけない演者ーー初恋の人と再会してしまいました。

桜咲ちはる

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第一章 これは恋じゃない

12話 仕事スイッチ

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 舞花先輩に連れられ、ステージ裏に行く。

「あれ?宮坂さん」
「なんだよお前、ライブ来てたのか」

 先輩たちが私を見つけ、軽く頭を下げる。気まずい。

「知り合いなんです、舞花先輩が」
「へー、世間って狭いな」

 そのまま捕まってしまって、舞花先輩に申し訳ないと思いつつも先輩と話す。

「あっ、サク!」
「うるせぇ、気づいてるわ」

 舞花先輩の声に振り向くと、足立くんと吉川くんがいる。吉川くんは気まずそうに頬を掻いてから、ふわりと微笑んだ。私はバッと目を逸らす。心臓がバクバクしてる。動揺させるのやめてほしい。

「ん、まぁ昼に来てくれて良かったわ。メジャーデビューすること、やっと言えるし」
「いつもと変わんないから気づかなかった。めっちゃ泣いちゃった~」

 ああ、舞花先輩は可愛い。素直な反応できるのは才能で羨ましい。視線を感じて顔を上げると吉川くんが私を見てて、私は髪を耳にかけた。

「おめでとう、ございます」
「ありがとう」

 言わなきゃいけないことは言えたから、先輩に視線を戻す。先輩は私を怪訝そうな顔で見た。

「お前、様子変だぞ」
「先輩に言われたくないです」

 吉川くんと気まずいのを気づかれなくて良かった。先輩は鈍感すぎるから、そこに今は感謝する。

「お前なぁ、」
「……先輩?」

 先輩が文句を言おうとして頭を抱える。そんなに問題児だったか私、なんて思ったけど先輩の様子がおかしい。なんか息も荒い気がして、先輩が私の方に倒れてきた。

「先輩っ重い重……」

 腰を反らし先輩の体重に潰されそうになってると、すぐに吉川くんが先輩を引っ張って、倒れそうになった私の腰に腕を入れて支えてくれる。

「ありがとう」
「いや、反応遅くなってごめん」

 謝るほど遅くなかったのに。悪いな、と呟く先輩は目を閉じていて吉川くんが先輩の額に手を当てた。

「多分熱ある」
「えっ」

 あの先輩が?!どんなに暑くても寒くても、先輩が体調を崩したのを見たことがない。吉川くんが近くのソファに寝かせ、足立くんがスタッフを呼んでくれる。

「大丈夫ですか……?」

 騒がしくなったことで、近くにいたらしいみゅうみゅうさんたちも集まってくる。

「山口さんなしで行ける?」
「む、無理です!山口さんが全部指示出してくれてたんですから!」

 スタッフ同士で会話してて、そのやりとりにMiyaさんがため息を吐く。

「夜の部は中止するしかないか」
「ダメ、だ。俺は、出来る……」

 体を起こそうとして、固まる先輩。こんな様子じゃ無理だろう。でも先輩の会社はまだ出来て2年半くらいで、指示役がいなかったら上手く回らないだろう。

「みんな楽しみにしてるのに……、今から人探すのは?」
「無理ですっ、うちの会社には指示出来る照明スタッフはいないし外部に頼むのも今からじゃ……」

 わかってる。方法は一つしかない。吉川くんもわかってると思う。先輩と吉川くんが私を見る。私だって指示役はやったことがない。不安だ。でも、

「頼む……、宮坂……。うちの会社の信用が……。何より、メジャーデビューが決まったVoystのライブを、成功させたい」
「先輩、焼肉奢りですよ」

 私に必死に手を伸ばす先輩の手を握って約束させる。先輩は「安いもんだ」と力なく笑った。周りの人たちが何の話だと疑問を浮かべてるのがわかる。私は体を起こして、周りを見渡した。

「照明チーム、宮坂入ります」
「「「うおぉぉぉぉ!!」」」

 その言葉の意味を理解した瞬間、皆がガッツポーズやハイタッチをする。私の悩みや不安は二の次だ。こんなに素晴らしいライブを前に、逃げるのはありえない。

「宮坂さん、ありがとうございます!」
「救世主だね、若葉ちゃん」

 注目を浴びるのは苦手で舞花先輩の言葉に苦笑する。私はパンッと手を叩いた。

「私今回のライブ何も知らないから、流れ教えてください」
「はっ、はい!」

 照明チームの子たちだろう。バタバタと部屋から出て行き、図面を持ってきてくれる。私はそこのテーブルを借りて、ライブの流れを確認した。指示は何度も聞いたことがあるけど、実際どう出してるか魘されてる先輩には聞けない。やるしかない。やるしかないんだ。

「大丈夫」

 コトッとホットのカップがテーブルに置かれる。顔を上げると吉川くんが微笑んだ。

「引き受けてくれてありがとう。宮坂さんなら、出来ると思う」

 ああ、その言葉だけで緊張が抜けて純粋に頑張ろうって気持ちが残る。吉川くんの言葉はまるで魔法みたいだ。

「とわくん珍しく気が効くね」

 みゅうみゅうさんが吉川くんに近づいて笑う。うるさいよ、と吉川くんがみゅうみゅうさんを押した。私だから?なんて自惚れる。ほんと、集中しなきゃいけないのに。パンッと両手で顔を叩いて気合いを入れる。

「だ、大丈夫?」
「うん、もう切り替えた」

 ここから私は照明スタッフだ。とわさんとは何も関係ない。私は流れを頭に叩き込んで、頭の中で出す指示やタイミングをシミュレーションした。

 
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