14 / 20
第一章 これは恋じゃない
13話 夢が叶った日
しおりを挟む夜の部が始まる。帰るはずだった舞花先輩も、心配だからと関係者席で今度は1人で見守っている。私はスイッチを押した。歓声と共に映像が流れる。尋常じゃないくらい手は震えていた。シミュレーションしたって、無事終えるまでは落ち着くわけがない。
「声出す準備は出来てるかー?」
響さんを先頭にVoystが出て来る。熱狂的な歓声が耳に響く。絶対失敗出来ない。
「今日も気合い入れてくぞー!俺がエース、響だ~!」
「みゅうみゅうで~す!今日も楽しんでこうね~」
響さんとみゅうみゅうさんがまず挨拶をする。客席も楽しかったけれど、やっぱり私は裏側から見る景色が大好きだった。
「とわです。今日はあなたを楽しませます」
ニコッと笑うとわさんの顔がアップで映し出される。思わずドキッとしてしまって俯くと、立ち位置に向かうとわさん……吉川くんと目が合った。一瞬だったけど、確かに私の方を見ていて胸がざわつく。集中しなきゃいけないのに、吉川くんはいつだって心をかき乱してくる。
「宮坂さん?」
「あっ、うん。大丈夫。そのまま続けて」
名前を呼ばれてハッとする。私はインカムで他の班に指示を飛ばした。始まってしまえば、責任感と慌ただしさで吉川くんのことを考える暇はなくなる。無我夢中で、私は先輩をイメージして指示を出していた。
「俺たちがー」
「「「「「Voystだー!」」」」」
銀テープが発射され、Voystが戻ってくる。何の滞りもなく無事に終わり、私は胸を撫で下ろした。何とか先輩の代わりを出来た。自分を蝕んでいた緊張感はやがて自信につながる。良い経験をさせてもらえたと、心の底から感謝した。
「お疲れ様」
声をかけられて鼓動が速くなる。いつの間にか吉川くんが隣にいて、私は恐る恐る顔を上げた。吉川くんが水筒とは別にペットボトルを持っていて私に差し出す。
「ありがとう」
「いーえ。こちらこそありがとう、無事ライブが出来た」
さっきまでは必死だったから考えなかったけど、やっぱり気まずい。私は視線を落とした。
「成功したのは、皆さんのおかげです」
「うん」
でも、吉川くんが居たから頑張れたんだと思う。吉川くんが勇気づけてくれたから……。
「ライブ、来てくれてありがとう。……楽しめた?」
「はい。圧巻のライブでした」
吉川くんじゃなかったとしても、世界観に惹き込まれて楽しんでたと思う。そのくらい、Voystには力がある。だからこそ、この感情を抱いてちゃいけない。もう吉川くんと関わってはいけないんだ。
「じゃあ私はこれで」
「うん、本当にありがとう」
頭を下げて、荷物が置いてある場所に行く。引き止められなかった……。そう思って、一瞬でも期待してた自分に嫌悪する。次からはもう観に来ない。だから、これで本当に最後だ。
「っ、」
何でこんなに胸が苦しいんだろう。何で、涙が出てくるんだろう。わかってる、自分で自分を苦しめてるの。だけど、自分の気持ちを受け入れることが出来ない。こんななら、もう誰かに二度と恋なんてしたくない……。
「あ、若葉ちゃん居た。良かった」
舞花先輩の明るい声が聞こえて、涙を拭いて立ち上がる。
「若葉ちゃん、泣いてた?」
「えーっと……、ホッとしてちょっとだけ」
否定しても痛いだけだろうと思って、苦笑しながら言うと舞花先輩が私を抱きしめる。
「ほんと頑張ったね、ありがとうね。良いライブが出来たのも若葉ちゃんのおかげだよ」
「そんな大げさな」
実際そうだ。元々ライブの完成度が高かったから、私が司令塔でもどうにかなった。舞花先輩は私の手を掴んで上下に振る。
「本当なの。若葉ちゃんは謙遜しないで素直に認めていいんだよ」
「そんなわけじゃ、別に」
心からそう思ってるだけなのに。舞花先輩の言葉にむずむずする。
「孝作たちまだ話あるみたいだから、先帰ろっか」
「はい」
舞花先輩がふんわりと笑って、前を歩く。近くのファミレスでご飯を食べる。今日は頑張ったからお腹が空いてて、パスタとピザ2枚を頼む。もちろんピザは舞花先輩とわけるけだ。
「お疲れ様だよ、本当~」
「いえいえ。舞花先輩も良かったですね、メジャーデビュー決まって」
私の言葉にうんうん、と舞花先輩は頷く。ご機嫌な舞花先輩は可愛い。さすが演劇部の主役張るだけある。
「孝作が有名になるなんて、考えてもみなかったなぁ」
「でも納得感ありますけどね。学校でも人気だったし」
Voystのメンバーとではなかったけど、吉川くんと足立くんは当時のバンドメンバーと演奏しててファンも多かったと思う。舞花先輩は驚いたのか、手を止めてまんまるな目を私に向ける。
「へぇー、そうだったんだ。孝作の部活全然観に行かなかったなぁ。行っておけばよかった」
「演劇部忙しかったですもんね」
それに、舞花先輩には彼氏が居たし。
「まぁねー。でも若葉ちゃんは観てたんだ」
「たまにだけですよ」
吉川くんが嫌でも目に入るから。だから、住む世界が違うのは今に始まったことじゃない。隣からも後ろからも聞こえてくるVoystの話題。私は大変な相手と出会ってしまったんだと、怖くなった。自分が恋する相手を選べたら、きっとこんな悩まなくて済んだのに。
「若葉ちゃんどうした?大丈夫?」
「えっ、あっはい」
いけない、舞花先輩がいるのに落ち込んでどうするの。
「さすがに仕事してきたから疲れるよね」
「いえ、ほんとに大丈夫です」
全然違うこと考えてたのが申し訳ない。けど気を遣わせてしまったみたいで、ご飯だけ食べてお開きになった。
0
あなたにおすすめの小説
『愛が切なくて』- すれ違うほど哀しくて
設楽理沙
恋愛
砂央里と斎藤、こじれてしまった糸(すれ違い)がほどけていく様子を描いています。
◆都合上、[言う、云う]混合しています。うっかりミスではありません。
ご了承ください。
斉藤准一 税理士事務所勤務35才
斎藤紀子 娘 7才
毒妻: 斉藤淳子 専業主婦 33才 金遣いが荒い
高橋砂央里 会社員 27才
山本隆行 オートバックス社員 25才
西野秀行 薬剤師 22才
岡田とま子 主婦 54才
深田睦子 見合い相手 22才
―――――――――――――――――――――――
❧イラストはAI生成画像自作
2025.3.3 再☑済み😇
あなたの片想いを聞いてしまった夜
柴田はつみ
恋愛
「『好きな人がいる』——その一言で、私の世界は音を失った。」
公爵令嬢リリアーヌの初恋は、隣家の若き公爵アレクシスだった。
政務や領地行事で顔を合わせるたび、言葉少なな彼の沈黙さえ、彼女には優しさに聞こえた。——毎日会える。それだけで十分幸せだと信じていた。
しかしある日、回廊の陰で聞いてしまう。
「好きな人がいる。……片想いなんだ」
名前は出ない。だから、リリアーヌの胸は残酷に結論を作る。自分ではないのだ、と。
うわさの行方
下沢翠花(しもざわすいか)
恋愛
まだ十歳で結婚したセシリア。
すぐに戦場へ行ってしまった夫のニールスは優しい人だった。
戦場から帰るまでは。
三年ぶりにあったニールスは、なぜかセシリアを遠ざける。
ニールスの素っ気ない態度に傷つき疲弊していくセシリアは謂れのない酷い噂に追い詰められて行く。
【完結】ルースの祈り ~笑顔も涙もすべて~
ねるねわかば
恋愛
悪路に閉ざされた貧しい辺境ルースライン領。
兄を支えたい子爵令嬢リゼは、視察に来た調査官のずさんな仕事に思わず異議を唱える。
異議を唱えた相手は、侯爵家の子息で冷静沈着な官吏ギルベルト。
最悪の出会いだった二人だが、領の問題に向き合う中で互いの誠実さを知り、次第に理解し合っていく。
やがてリゼが王都で働き始めたことを機に距離を縮める二人。しかし立ちはだかるのは身分差と政略結婚という現実。自分では彼の未来を縛れないと、リゼは想いを押し込めようとする。
そんな中、故郷の川で拾われる“名もなき石”が思わぬ縁を呼び、リゼの選択と領の未来を動かしていく――。
想いと責務の狭間で揺れる青年と、自分を後回しにしがちな少女。
すれ違いと葛藤の先で、二人は互いを選び取れるのか。
辺境令嬢の小さな勇気が恋と運命を変えていく。
※作中の仕事や災害、病、小物の知識などは全てフィクションです。史実や事実に基づいていないことをご理解ください。
※8万字前後になる予定です。
マッチ率100%の二人だが、君は彼女で私は彼だった
naomikoryo
恋愛
【♪♪♪第19回恋愛小説大賞 参加作品♪♪♪ 本編開始しました!!】【♪♪ 毎日、朝5時・昼12時・夕17時 更新予定 ♪♪ 応援、投票よろしくお願いします(^^) ♪♪】
出会いサイトで“理想の異性”を演じた二人。
マッチ率100%の会話は、マッチアプリだけで一か月続いていく。
会ったことも、声を聞いたこともないのに、心だけが先に近づいてしまった。
――でも、君は彼女で、私は彼だった。
嘘から始まったのに、気持ちだけは嘘じゃなかった。
百貨店の喧騒と休憩室の静けさの中で、すれ違いはやがて現実になる。
“会う”じゃなく、“見つける”恋の行方を、あなたも覗いてみませんか。
ある日、私は事故で死んだ───はずなのに、目が覚めたら事故の日の朝なんですけど!?
ねーさん
恋愛
アイリスは十六歳の誕生日の前の日に、姉ヴィクトリアと幼なじみジェイドと共に馬車で王宮に向かう途中、事故に遭い命を落とした───はずだったが、目覚めると何故か事故の日の朝に巻き戻っていた。
何度もその日を繰り返して、その度事故に遭って死んでしまうアイリス。
何度目の「今日」かもわからなくなった頃、目が覚めると、そこにはヴィクトリアの婚約者で第三王子ウォルターがいた。
「明日」が来たんだわ。私、十六歳になれたんだ…
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
助けた騎士団になつかれました。
藤 実花
恋愛
冥府を支配する国、アルハガウンの王女シルベーヌは、地上の大国ラシュカとの約束で王の妃になるためにやって来た。
しかし、シルベーヌを見た王は、彼女を『醜女』と呼び、結婚を保留して古い離宮へ行けと言う。
一方ある事情を抱えたシルベーヌは、鮮やかで美しい地上に残りたいと思う願いのため、異議を唱えず離宮へと旅立つが……。
☆本編完結しました。ありがとうございました!☆
番外編①~2020.03.11 終了
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる