照明スタッフの私が、絶対好きになってはいけない演者ーー初恋の人と再会してしまいました。

桜咲ちはる

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第一章 これは恋じゃない

13話 夢が叶った日

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 夜の部が始まる。帰るはずだった舞花先輩も、心配だからと関係者席で今度は1人で見守っている。私はスイッチを押した。歓声と共に映像が流れる。尋常じゃないくらい手は震えていた。シミュレーションしたって、無事終えるまでは落ち着くわけがない。

「声出す準備は出来てるかー?」

 響さんを先頭にVoystが出て来る。熱狂的な歓声が耳に響く。絶対失敗出来ない。

「今日も気合い入れてくぞー!俺がエース、響だ~!」
「みゅうみゅうで~す!今日も楽しんでこうね~」

 響さんとみゅうみゅうさんがまず挨拶をする。客席も楽しかったけれど、やっぱり私は裏側から見る景色が大好きだった。

「とわです。今日はあなたを楽しませます」

 ニコッと笑うとわさんの顔がアップで映し出される。思わずドキッとしてしまって俯くと、立ち位置に向かうとわさん……吉川くんと目が合った。一瞬だったけど、確かに私の方を見ていて胸がざわつく。集中しなきゃいけないのに、吉川くんはいつだって心をかき乱してくる。

「宮坂さん?」
「あっ、うん。大丈夫。そのまま続けて」

 名前を呼ばれてハッとする。私はインカムで他の班に指示を飛ばした。始まってしまえば、責任感と慌ただしさで吉川くんのことを考える暇はなくなる。無我夢中で、私は先輩をイメージして指示を出していた。

「俺たちがー」
「「「「「Voystだー!」」」」」

 銀テープが発射され、Voystが戻ってくる。何の滞りもなく無事に終わり、私は胸を撫で下ろした。何とか先輩の代わりを出来た。自分を蝕んでいた緊張感はやがて自信につながる。良い経験をさせてもらえたと、心の底から感謝した。

「お疲れ様」

 声をかけられて鼓動が速くなる。いつの間にか吉川くんが隣にいて、私は恐る恐る顔を上げた。吉川くんが水筒とは別にペットボトルを持っていて私に差し出す。

「ありがとう」
「いーえ。こちらこそありがとう、無事ライブが出来た」

 さっきまでは必死だったから考えなかったけど、やっぱり気まずい。私は視線を落とした。

「成功したのは、皆さんのおかげです」
「うん」

 でも、吉川くんが居たから頑張れたんだと思う。吉川くんが勇気づけてくれたから……。

「ライブ、来てくれてありがとう。……楽しめた?」
「はい。圧巻のライブでした」

 吉川くんじゃなかったとしても、世界観に惹き込まれて楽しんでたと思う。そのくらい、Voystには力がある。だからこそ、この感情を抱いてちゃいけない。もう吉川くんと関わってはいけないんだ。

「じゃあ私はこれで」
「うん、本当にありがとう」

 頭を下げて、荷物が置いてある場所に行く。引き止められなかった……。そう思って、一瞬でも期待してた自分に嫌悪する。次からはもう観に来ない。だから、これで本当に最後だ。

「っ、」

 何でこんなに胸が苦しいんだろう。何で、涙が出てくるんだろう。わかってる、自分で自分を苦しめてるの。だけど、自分の気持ちを受け入れることが出来ない。こんななら、もう誰かに二度と恋なんてしたくない……。

「あ、若葉ちゃん居た。良かった」

 舞花先輩の明るい声が聞こえて、涙を拭いて立ち上がる。

「若葉ちゃん、泣いてた?」
「えーっと……、ホッとしてちょっとだけ」

 否定しても痛いだけだろうと思って、苦笑しながら言うと舞花先輩が私を抱きしめる。

「ほんと頑張ったね、ありがとうね。良いライブが出来たのも若葉ちゃんのおかげだよ」
「そんな大げさな」

 実際そうだ。元々ライブの完成度が高かったから、私が司令塔でもどうにかなった。舞花先輩は私の手を掴んで上下に振る。

「本当なの。若葉ちゃんは謙遜しないで素直に認めていいんだよ」
「そんなわけじゃ、別に」

 心からそう思ってるだけなのに。舞花先輩の言葉にむずむずする。

「孝作たちまだ話あるみたいだから、先帰ろっか」
「はい」

 舞花先輩がふんわりと笑って、前を歩く。近くのファミレスでご飯を食べる。今日は頑張ったからお腹が空いてて、パスタとピザ2枚を頼む。もちろんピザは舞花先輩とわけるけだ。

「お疲れ様だよ、本当~」
「いえいえ。舞花先輩も良かったですね、メジャーデビュー決まって」

 私の言葉にうんうん、と舞花先輩は頷く。ご機嫌な舞花先輩は可愛い。さすが演劇部の主役張るだけある。

「孝作が有名になるなんて、考えてもみなかったなぁ」
「でも納得感ありますけどね。学校でも人気だったし」

 Voystのメンバーとではなかったけど、吉川くんと足立くんは当時のバンドメンバーと演奏しててファンも多かったと思う。舞花先輩は驚いたのか、手を止めてまんまるな目を私に向ける。

「へぇー、そうだったんだ。孝作の部活全然観に行かなかったなぁ。行っておけばよかった」
「演劇部忙しかったですもんね」

 それに、舞花先輩には彼氏が居たし。

「まぁねー。でも若葉ちゃんは観てたんだ」
「たまにだけですよ」

 吉川くんが嫌でも目に入るから。だから、住む世界が違うのは今に始まったことじゃない。隣からも後ろからも聞こえてくるVoystの話題。私は大変な相手と出会ってしまったんだと、怖くなった。自分が恋する相手を選べたら、きっとこんな悩まなくて済んだのに。

「若葉ちゃんどうした?大丈夫?」
「えっ、あっはい」

 いけない、舞花先輩がいるのに落ち込んでどうするの。

「さすがに仕事してきたから疲れるよね」
「いえ、ほんとに大丈夫です」

 全然違うこと考えてたのが申し訳ない。けど気を遣わせてしまったみたいで、ご飯だけ食べてお開きになった。
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